亀山早苗の恋愛コラム

「何色がいい?」と聞きながら赤いランドセルをじっと見て…過干渉な母に育てられた私の子育て

一般的に親は「子どもには思った通りの人生を歩んでほしい」と願っているもの。ところが、自分は親から抑圧を受けて育ったから、子どもには自分がされて嫌だったことはしないと決めていたのにいつしか子を抑えつけていたと気づいた女性がいる。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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子どもの意志を尊重したいのに……

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一般的に親は「子どもには思った通りの人生を歩んでほしい」と願っているもの。ところが実際に親がしていることは、その願いに反するような言動であることが多い。「よかれと思って」言ったりしたりすることが子どもの自主性を損ねるのだ。

自分は親から抑圧を受けて育ったから、子どもには自分がされて嫌だったことはしないと決めていたのにいつしか子を抑えつけていたと気づいた女性がいる。

 

過干渉で育った

アイコさん(41歳)は、母からの過干渉に「潰されるようにして」大きくなった。大学時代、ついにキレて母親を突き飛ばしたことがある。それでも母からの干渉はやまなかった。

「何かといえば、もうお母さんはいらないのね、というのが母の口癖。小学校のときから勉強の進み具合、どんな友だちとどういう話をしたのかを事細かに尋ねてくる。小学校高学年になると適当に答えていましたが、それでもしつこく聞いてくるんです。あの子とつきあってはダメと言われたことも何度もあります。私のしたいことなんて何一つできなかった」

そんな思いがあったから、親になるのは怖かった。30歳で結婚したときも、同い年の夫に「子どもをもつのが怖い」と訴えたこともある。

「夫は鷹揚な両親に育てられた人なんです。私の気持ちはわかってくれない。うちの母は他人がいるととても“自由で楽しい母親”に変身する。夫に対しても、『この子は自由に育ったからわがままでしょう』なんて平然と言うわけです。私ははらわたが煮えくり返る思いで聞いていますね。だから夫には母の正体がわかってない。『いいお母さんじゃないか』とよく言っていました」

怖かったけれど自分の子をもちたい気持ちもあったので、アイコさんは自然に任せることにした。結婚して半年で妊娠が判明。31歳のときに長女が、2年後に次女が生まれた。

「子どもとべったりになるのが嫌だったので仕事は続けました。とにかく母とは正反対のことをしよう、自分が嫌だと思ったことはしないようにしよう、裏表なく接しようと決めました」

 

無言の圧力をかけていた

子どもがひとりで着替えられるようになると、出かける前に「何を着たい?」と聞く。小さくても意志はあるはずだ。平日はどうしても急かしてしまうが、休日はゆっくりと娘たちの話を聞いた。

ところが長女の入学に際してランドセルの色を決めるとき、彼女は「何色がいい?」と聞きながら、赤いランドセルをじっと見ていた。長女は「赤」と小さな声で言った。

「そのとき夫が言ったんです。『きみは前からランドセルは赤だよねって言ってたよね。しかも今、赤いランドセルをじっと見てた。娘はそういう母親の気持ちを忖度しているんだと思う』と。ハッとしました。確かに私は女の子だから赤がいいと決めつけていた。それを娘は読んでいたんですね。夫に本当に何色がほしいのかと聞いてもらったら、水色がほしかったそうです」

アイコさんは反省した。実は自分の思い込みを娘に押しつけていたのだ、と。だがそれからも彼女は気づかないうちに娘の意志を削り取るようなことを多々していたようだ。

「下の子は闊達なんですが、長女がとてもおっとりしているんです。それではこの時代、生き抜いていけない。すべてよかれと思ってしたことです。私が母からされて嫌だったことはしていません」

たとえば学校から読書感想文を書けと言われたとする。長女は大好きな漫画のことを書きたがる。漫画も禁止はされていない。だがアイコさんは、子どもの年齢にふさわしい「教訓的な物語」を買ってきてしまう。そして娘に言うのだ。

「漫画とこの本、どちらがいいかあなたが決めなさいね」

物語のほうを押しつけるわけではない。最後は娘に選択させている。彼女はそう言うが、母親の言い方で娘は察するのだ。漫画はダメなんだ、と。そして親の顔色をうかがうようになっていく。

「今、10歳の娘は夫に言わせれば、常に私の顔色を見ている、と。でも正しい道へ導くのは親の務めですよね。私、母と同じことはしていないはずなのに、結局、娘を型にはめようとしていると夫は言う。どうしたらいいのか、わからなくなっているんです」

たとえば本のことで言えば、「親が選択肢を示す必要はない」というのが夫の考え。だがアイコさんは漫画を選ぶと「かっこ悪い」と思っている。だから他の本を薦めるのだ。もっと自由にさせてやれと夫は言うが、どこまでも自由にさせたら子どもは怠惰になったり我が強くなったりすると彼女は考えている。

「どうしてそういう考えになるのかわからないと夫は言っています。よほどのことがない限り、締めつけるなと。心配なんですよ、私。努力しない子にはさせたくない、いつか母親の愛情をわかってくれるはずだと信じている。それが娘にはよけいなお世話だと夫は言う」

一方で、自分の母親への恨み辛みもいまだに抱えているアイコさんは、常に「母とは違うはず」と確認を怠らない。

結局、自らが母への否定的な気持ちと、子どもを枠にはめないと心配な気持ち、両方を抱えたまま矛盾しながら子育てをしているのだろう。それは彼女にとってもつらいことなのではないだろうか。

「私は娘を私立中学に入れたかったんですが、これも夫の反対でやめました。娘に『地元の中学でいいの?』と聞いたら、私をそうっと見上げるんですよ。『本当の気持ちを言って』と言ったら、地元へ行きたい、と。地元でいいのという聞き方ではなく、『どちらを選んでもいいんだよ』というスタンスのほうがいいと夫からアドバイスされました。それはなるほどと思った。これでいいの、と聞いたら娘は私の気持ちを忖度しちゃいますもんね。最近、少しずつそういうことがわかってきたところです」

些細な言葉や表情で、子どもの意志をつぶす可能性もなきにしもあらずなのだ。自分自身も成長しなければいけないですね、とアイコさんは苦笑した。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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