ロック・ポップス

マツコの知らない世界で再注目!SHOW-YA、チャットモンチー…令和に語るガールズバンドの魅力

「ガールズバンド」に今、再び注目が集まっています。「ガールズ」は一つの音楽的ジャンルとして確立し、「ガールズバンド」だからこそできる表現があります。長年ガールズバンドの取材を行っている筆者が「ガールズバンドの魅力」をご紹介します。

鈴木 亮介

執筆者:鈴木 亮介

ロック・ポップスガイド

テレビ番組での特集をきっかけに「ガールズバンド」に再び注目が集まっています。「ボーイズバンドとは言わないのになぜガールズバンドと言うのか?」という声もありますが、令和の今、「ガールズ」は一つの音楽的ジャンルとして確立し、「ガールズバンド」だからこそできる表現があるのです。音楽雑誌の副編集長を歴任し、長年ガールズバンドの取材を行っている筆者が「ガールズバンドの魅力」をご紹介します。
赤い公園

赤い公園

 

かつて「女性なのに」と言われた時代も

日本のガールズロックの草創期にはガールズ、少年ナイフといった、ラモーンズに傾倒するパンクバンドが主流で、その後80年代のバンドブームにSHOW-YAとプリンセス プリンセスの2トップがシーンを牽引。「イカ天」(※1)人気も相まって、GO-BANG'S、PINK SAPPHIREといったガールズバンドも人気を集めました。

その後2000年代に入るとWhiteberry、ZONEといったアイドル的要素を兼ね備えた「バンドル」が国民的人気を博し、再び女性ミュージシャンの中でも「バンド」という形態に注目が集まるようになります。
 
SHOW-YA「LOOK AT ME!」

「男性顔負けのハードなロック」「女性なのにギターがうまい」といった、ピアノや管弦楽では起こり得ない評論がガールズバンドにはついて回りました。こうした風潮に真っ向挑み、女性ロッカーの道を開いた寺田恵子率いるSHOW-YAの功績は計り知れないものがあります。SHOW-YAは女性ミュージシャンだけのロックフェス「NAONのYAON」を主催し、さまざまなミュージシャンの活躍の場を守り、創り続けています。
 

チャットモンチーの「変身」で時流が変わった

アイドル的な注目を集める時流には乗りつつも、確かな演奏技術、秀逸な楽曲で人気を集めるバンドも増えていきます。その筆頭格として挙げられるのが、2005年デビューのチャットモンチーと、2008年デビューのSCANDALです。
ガールズバンドを進化させたチャットモンチーの「変身」

チャットモンチー、左から橋本絵莉子(Guitar & Vocal)、福岡晃子(Bass)。

特にガールズバンドを進化させた要因といえるのが、チャットモンチーの果たした「変身」です。3ピースロックバンドとしてデビューし「ハナノユメ」「シャングリラ」など数多くのヒット曲をリリースしたチャットモンチーは、2011年にドラムの高橋久美子が脱退。

普通は新メンバーを迎えたりサポートドラムを入れたりして活動を続けるバンドが多い中、チャットモンチーは残ったメンバー2人だけでツアーを回り、曲によって福岡晃子(Bass)と橋本絵莉子(Guitar & Vocal)が交互にドラムを叩いたり、右手でドラムスティックを握りながら左手でシンセサイザーの鍵盤を演奏するなどの実験的なステージでファンを驚かせました。
 
チャットモンチー「風吹けば恋」
 

2010年代後半に育まれた「多様性」

チャットモンチーやSCANDALに憧れてバンドを始めるという女子中高生も増えていきます。アニメ「けいおん」ブームも相まって、ガールズバンド人口自体が2010年代には急増しました。当時は、部活動の部員数1位がサッカー部から軽音楽部に代わるといった高校や、3学年合わせて100名以上の部員が集結するといった高校もあるほどでしたが、その半数以上を占めていたのが女子部員だったのです。

その後、Silent Siren(現SLILENT SIREN)が2015年にガールズバンド史上結成から最短での日本武道館公演を果たし、同年にSCANDALがワールドツアーを敢行するなど、メジャーシーンで国民的人気を誇るガールズバンドも増えていきます。
国民的人気を誇るSCANDAL。

国民的人気を誇るSCANDAL。

ライブハウスシーンでも、ガールズバンド同士の対バンも増えていき、そうするとあたかも「テレビの出演者が衣装の色かぶりを気にする」のと同じように、さまざまなジャンル、趣向を凝らしたバンドが増えていきます。まさに「多様性の時代」です。
 

逆境は人を強くする~Gacharic Spinに見る「多様性」~

その中でも群を抜いて圧倒的な個性を見せつけているガールズバンドとして、Gacharic Spinを取り上げたいと思います。Gacharic Spin、通称ガチャピンはF チョッパー KOGA(Bass)と高校の同級生であるはな(Vocal, Guitar & Drums)を中心に2009年に結成。圧倒的な演奏技術とフェス沸騰必至のアップテンポナンバーを数多くそろえ、年間100本ペースでのライブを行うなど一貫してステージに立ち続ける屈指のライブバンドです。
Gacharic Spin「MindSet」

TOMO-ZO(Guitar)、オレオレオナ(Keyboard)の加入を経て2014年10月にメジャーデビューし、フジテレビ系アニメ『ドラゴンボール改』のエンディングテーマを担当するなど華々しい活躍の一方、ツアー前にボーカルが脱退するなどさまざまな「逆境」を乗り越えてきたバンドともいえます。

Gacharic Spinも数々の「変身」を遂げてきましたが、ファンを最も驚かせたのは、2019年に新メンバーとしてyuri(Drums)が加入し、結成以来ドラムを叩き続けてきたはながボーカル&ギターに転向するというもの。また、同じく2019年には当時17歳の現役女子高生、アンジェリーナ1/3がマイクパフォーマーとして加入。年齢もキャリアも多様な6人のメンバーによるステージは圧巻です。
Gacharic Spin

結成10年を超えて進化を続けるGacharic Spin

 

ハードロック、パンクなどジャンルも多岐に

この他にもさまざまなジャンルにおいてガールズバンドが活躍しています。SHOW-YAが築いたHR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)分野では、メイド服と重低音のギャップでヨーロッパなど世界規模でハードロックファンを魅了するBAND-MAIDや、「地獄のゆるふわバンド」を標榜しLOUDNESSやHAMMERFALLとの共演歴もあるNEMOPHILA、華美な衣装とゴリゴリのサウンドのコントラストで「嬢メタル」と呼ばれるAldious、ジャーマンメタル・北欧メタルに傾倒し幾度となくワールドツアーを敢行しているBRIDEARなどが活躍しています。
BAND-MAID

世界規模で活躍するBAND-MAID

チャットモンチーのデビュー当初の形態でもあり根強いファンが多い3ピースのロックバンドとしては、SHISHAMO、Hump Back、リーガルリリー、the peggiesなどメジャーデビューを果たしたバンドだけでも枚挙に暇がありません。

またガールズバンドだからこそ表現できる詩世界にも注目したいところです。Su凸ko D凹koi(すっとこどっこい)は「ブス」「#おじさんのいる生活σ(^_^;)」「元カノ地獄」など、赤裸々で衝動的な歌詞が、ある人を笑わせ、またある人を救い、男女を問わず共感を集めています。

the peggiesは、「『暗さ』と『明るさ』はそれぞれ独立しているものではなくて 常に根底で繋がっていて誰しもがその二つを持ち、その二つの間にあるグラデーションの中で生きている」といった、人の心の繊細さや複雑さを巧みに表した北澤ゆうほ(Vocal &Guitar)の生み出す言葉、発するメッセージが多くの共感と示唆をもたらし、支持を集めています。
the peggies

the peggies

 

儚さと強靭さがガールズバンドの魅力

かつてガールズバンドは「その多くが短命で終わる」と評されていました。理由として「方向性の違い」などメンバー間で意見対立が生じた際の関係修復が男性に比べて女性の方が難しいということが挙げられますが、これは「男性」「女性」とカテゴライズして語れない内容であるように筆者は考えます。

また、2000年代にはアイドル的に売り出すバンドも多く、「ビジュアルの若さ」「鮮度」を消費する文化が作られていたことは否めません。またそうした売り出し方の代償として、アーティスト自身のプライベートを犠牲にするといった課題も指摘されます。

加えて、音楽業界も多分に漏れず男性優位の社会であることから、アーティスト活動と並行して、あるいは終了後のセカンドキャリアとしての道が険しいという現実もあります(※2、※3)。

こうした状況を少しでも改善しようと、日本の音楽業界に貢献した女性を称える「Women in Music Lifetime Legend Award」が2019年に創立されるなど、少しずつ女性の活躍の場を増やす動きが出てきています。筆者の周辺でも音楽を仕事として、あるいはライフパートナーとして、長く続けるミュージシャンも近年では増えています。

2009年に結成し「幸せカップルファッキンシット」「アンチ大人」などの楽曲で知られる日本マドンナは、2013年の解散の後、不定期なライブ出演などを経て2018年頃より活動を再開。「社会の奴隷」「地獄の日々から一瞬離脱!」など社会人を経ての日々の憂いや怒りを歌い共感を呼んでいます。

いつまでも同じではない、今しか見られない瞬間の輝き、といった「儚い一面」と、しなやかにしたたかに継続していく「強靭な一面」が同居するのが、ガールズバンドの特長といえます。
 
日本マドンナ「VS自分」
 

出産を経て復帰も

また、女性ならではのライフイベントとして「出産」を公表するミュージシャンもいます。チャットモンチーの橋本絵莉子は2013年に長男を出産し、翌年にステージ復帰しました。YouTube動画やソロライブ、TAMAとのエンドース契約などドラマーとして数々の実績があるNEMOPHILAのむらたたむも、2020年に長女を出産し、同年に活動再開。

Gacharic Spinのドラマーで、女優・瀧本美織がボーカルを務めるLAGOONのメンバーでもあったyuriも2021年に長女を出産。記事執筆時点で産休中ですがバンドは脱退せず復帰予定です。

こうした結婚、出産を経て職場復帰する女性ミュージシャンが増えることで、音楽業界に限らず仕事と育児の両立を目指すビジネスパーソンにとっての希望となり、またその実現が果たせる環境整備が進むことが期待されます。
 

本稿を津野米咲さんに捧げます

日本のガールズバンドを語る上でやはり外せないのが、2010年に結成し、2021年にその活動に幕を下ろした4ピースバンド・赤い公園です。高校の軽音楽部で結成し、立川を中心に活動。ウルフルズやナンバーガールを発掘したプロデューサー・加茂啓太郎の目に留まり、2012年にメジャーデビュー。「今までに見たことのないバンド」と、多くの音楽ファンを魅了しました。

赤い公園の存在を唯一無二のものにした最大の要因はやはりトラックメイカー・津野米咲(Guitar)の存在です。音楽一家に生まれ育ち、チャイコフスキーから小田和正、モーニング娘。まで多種多様なジャンルに造詣が深く、実験的でありながら的を外さない絶対的な楽曲制作能力を早くから開花すると、デビュー後はSMAP、YUKI、鈴木愛理らへの楽曲提供も行いました。

津野米咲は2020年に急逝。惜しまれつつ赤い公園は翌2021年の中野サンプラザ公演をもって解散しました。「ガールズバンド」という括りに多彩さをもたらし、何より「ガールズ」という枠を超えて多くの人々の日常を彩る秀逸な楽曲を生み出した赤い公園の功績は、後世まで語り継がれることでしょう。
 
赤い公園「凛々爛々」

参考
※1:80年代後半から90年代にかけて大流行したオーディション番組『三宅裕司のいかすバンド天国』

※2:音楽業界のジェンダーギャップ、女性の裏方は皆無
( https://rollingstonejapan.com/articles/detail/27982 )

※3:メジャーレーベル上層部における男女格差と、見えてきた解消の兆し
( https://rollingstonejapan.com/articles/detail/30678 )

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