亀山早苗の恋愛コラム

家庭の事情で昇進を断るなんて「意外と意識低い系なんだ」と噂されて

女性たちが声を上げ、男女のみならず、あらゆる状況にある人々が「個人として尊重される」システムと雰囲気ができあがっていくのを目指すのは重要なことだ。​​​だが「この流れについていけない」として生きづらさを抱えてしまう人が出てきている。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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「意識低い」と言われるのが怖い

意識低い系

このところ、毎日のように「女性差別けしからん」報道が流れてくる。もちろん女性たちが声を上げ、男女のみならず、あらゆる状況にある人々が「個人として尊重される」システムと雰囲気ができあがっていくのを目指すのは重要なことだ。

だが「この流れについていけない」として生きづらさを抱えてしまう人が出てきている。

 

友人との会話についていけない

2017年、ハリウッドの大物プロデューサーのセクハラ行為が告発されたことに端を発した「#Me Too」運動。日本では今ひとつ盛り上がりに欠けたといわれているが、それでもこれ以降、セクハラ告発や女性差別に反対する声は大きくなっている。

「もちろん私もひとりの女性として賛同しますが、学生時代の友人と会うと、『もっと自分でもできる活動をしたらどうなの?』と言われるんです。彼女たちの会話は、職場でのセクハラ、男性の悪口ばかり。正直言って、ネガティブな言葉ばかりをばらまかれている感じで、私はついていけないんですよね」

マリさん(32歳)は、ため息をついた。彼女自身も、大学を卒業して入社した今の会社で上司からセクハラまがいの言葉をぶつけられ、たったひとりで役員に直訴したことがある。その後、先輩や同僚女性たちにも働きかけた結果、社内にはセクハラに関するコンプライアンスが、徐々にではあるができあがりつつあると実感しているという。

「今の上司とはとてもうまくやっています。上司が『お、髪を切ったな。似合うよ』と言ってくれることもあって、これは下手するとセクハラになるのかもしれないけど、私と上司との関係においてはOKなんですよ。そう考えると、本当にむずかしいじゃないですか、セクハラって。言葉だけ取り上げて糾弾するのはちょっと違うような気がしているんだけど、友人たちは、女性が一致団結して盛り上がろうと言う。なんとなく、『活動のための活動』みたいな気がして、私はちょっと距離を置きたい。でもそう言うと『あなたは自分たちに続く後輩女性たちのことを考えていない』と言われちゃう。なんだかつらいんですよね」

必ずしも一致団結しなくてもいいのではないか、さまざまな人がさまざまなスタンスで、この問題に取り組んでいくことが大事なのではないかとマリさんは考えている。

 

職場で女性たちから「意識低い」と言われて

企業において女性の役員率が低いといわれている。だが、役職につきたくても事情が許さないという場合もある。

「仕事は重要だけど、私は現在、子どもをふたり育てながら親の介護も抱えています。内々に打診があったのですが、どう考えても今は無理。他の女性にお願いしたいと言うしかありませんでした。悔しいけど、しかたがありません」

メイコさん(44歳)はそう言った。社内では女性初の~といえばメイコさんとみんなが認識するほど、仕事で能力を発揮してきた。35歳で3歳年下の男性と結婚、6歳と4歳の子がいる。キャリアを積んでから結婚しようと思っていたわけではなく、結婚しなくてもいいと思っているところに彼が現れたのだという。

「彼となら、楽しくて穏やかな家庭が作れるかもしれない。そう思って結婚したんですが、子どもはあきらめていたんです。でもたまたま授かったら、子どものいる家庭も楽しそうだな、と」

夫は家事の多くを担ってくれる。大らかな夫はメイコさんにとっても子どもたちにとっても救いなのだという。

「出産後も出張していましたからね、私。そこはもう夫がよくできた人なので(笑)」

ただ、3年前に夫の父親とメイコさんの父親が、立て続けに亡くなった。それぞれの母親はひとり暮らしとなり、夫の母は最近、心身ともに弱ってきているという。

「もういっそ、義母も母もひきとってみんなで暮らそうという話も出ています。ただ、私の母は、知らない土地で暮らすのは嫌だって。夫は自分の母親を施設には入れたくないとも思っているようです。そんなときに役員にならないかという話があって……。子どもは今年から小学校だし、今引き受けたら何もかも崩壊する。そう思ったんですよね。3年後なら方向性が見えているはずなんですが。間が悪すぎました」

その話は社内で噂となり、家庭の事情を知らない周囲の女性たちから、「メイコさんが引き受けなかったのは、私たち女性のチャンスの喪失」「家庭の事情のせいにするなんて、意外と意識低い系だったのね」という声が耳に入ってきた。

「いちばん悔しいのは私なんですけどね。夫は『どうなるかわからないけど受けたほうがいい』と言ってくれたんです。でもねえ、子どもたちにしわ寄せがいったら、たぶん私は後悔してもしきれなくなってしまう。保育園は夜まで預かってもらえるけど、小学校に入るとそうもいかない。家庭内のもろもろが、きちんとおさまるところにおさまらないと、いくら昇進といっても素直に喜べない」

ひとりの人間にはキャパがある。彼女はまだ若い。上司には「次のチャンスには断るなよ」と言ってもらえた。だが周りの女性たちの冷たい視線は今もおさまっていないようだ。

「すべての人にわかってもらうのは無理ですよね。弱音をさらけ出せば同情してもらえるわけでもないし。いつか、あのときはそうだったのね、とみんなに言ってもらえるよう、仕事はきっちりしながら、まずは親と子どもたちのことを考えることにしました」

『意識低い』は、ある種の女性たちを苦しめる言葉でもある。人を分断させるような空気を作ってはいけないと思うと、メイコさんは強調した。
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