亀山早苗の恋愛コラム

セクハラパワハラ当たり前?すべての決定権は「男」にあるという圧力

静岡新聞・静岡放送のオーナー社長が、アナウンサー女性との不適切な関係を指摘されて辞任。地方のオーナー社長の一部には、セクハラもパワハラも、何のことかさっぱりわかっていない人がけっこういるのかもしれない。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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セクハラパワハラ当たり前? 地方のオーナー社長の認識に戸惑う

セクハラ泣き寝入り

静岡新聞・静岡放送のオーナー社長が、女性アナウンサーとの不適切な関係を指摘されて辞任した。だが、完全撤退ではなく、静岡新聞の代表取締役顧問、静岡放送の非常勤取締役に就くという。これからも影響力を及ぼしていくのかもしれない。

「地方のオーナー社長の一部には、セクハラもパワハラも、何のことかさっぱりわかっていない人がけっこういると思います」

そう話してくれた女性がいる。

 

Uターンしてみたら

2年前、東京で子育てをすることに不安を覚え、一家で彼女の生まれ育った地元に戻ったミナミさん(40歳)。現在、10歳、7歳、5歳の子がいる。

「東京で生まれ育った同い年の夫は反対したんですが、私は東京では子どもが子どもらしくいられないと感じていました。ママ友との軋轢もつらかったし。夫にダメ元で転勤願いを出してみてと頼んだんです。そうしたら私の地元での勤務が叶うとわかったので、夫も渋々ながら賛成に転じてくれました」

実家の近くに家を借りた。家賃も安いし、食材も安い。広い庭では子どもたちが遊べるし、家庭菜園もできる。子どもたちは早速、保護犬を飼って大喜び。最初は越してきてよかったと思ったものだ。

「私も仕事を探して、近くでパートを始めました。子どもたちは両親がめんどうを見てくれるのでなんとかなりますし」

ところがパート先の環境に驚かされることが続く。

「建設関係の会社で、社長と奥さん、従業員が20人くらい。奥さんが専務で、経理を始め女性の事務員が4名ほどいました。ところがこの社長がねえ、正直言ってエロじじいでした(笑)。ダジャレや下ネタくらいなら我慢できますが、仕事を始めたその日に通りすがりにお尻を触られたんですよ。最初は間違いかと思ったんですが、何かと言うとタッチしてくる。それも奥さんのいないところで」

ミナミさんの歓迎会があったのだが、お開きになると、お酒を飲まない社員が8人乗りのバンを運転して数人を自宅に送り届けてくれた。助手席にいるのは社長だ。なぜか回り道をして他の従業員をどんどん降ろし、ミナミさんが最後になった。すると社長は後部座席のミナミさんの隣に座り込んだ。

「オレは一目できみが気に入ったんだ。だから雇うことにした。これからどこかに行かないかって。はあって感じですよね。私は夫も子どももいるので、そんな要望には応じられません。仕事をするために雇っていただいたので、それ以外は困りますとはっきり言いました。すると社長、『まあ、おいおいね』と意味不明な発言をしました」

 

思わず拒否して

それからもセクハラは続いた。毎朝、お茶をいれるのはミナミさんの役目で、本当は今どき、そんなこともしたくなかったのだがやむを得ずおこなっていた。

「お茶を出すと、社長が私の手に自分の手を重ねてくる。それが気持ち悪くて1週間目に、『触らないでください』と声を上げてしまいました。すると経理の女性があとからこっそり『あなたも大人なんだから、もう少しうまく対応しなさいよ』って。いや、あなたたちがそういう態度だから社長がつけあがるんでしょと思いました。若い男性従業員から、『今までも女性が入るたびセクハラがおこなわれていた。それでうつ状態になった女性社員もいた』と聞かされました」

ただ、女性が少ないのと、最古参の経理の女性が我慢しろと迫るため、結局、いつも泣き寝入りになってしまうのだとか。それを聞いてミナミさんの正義感が燃えた。

「地元に戻ってきてわかったんですが、やはりまだまだ男尊女卑的な空気が強いんですよね。うちだって母は父を立てて我慢しながら暮らしてる。それが当たり前だとみんなが思っている。私が夫にあれこれ頼んだり意見を言ったりしているのを聞いて、母がうろたえていましたからね。『ダンナさんにそんなこと言っていいの?』って。かつての旧友たちも、なんだかんだ言いながら、すぐ『ダンナに相談しないと決められない』と言い出す。すべての決定権が“男”“夫”にあるんですよ。東京だって似たようなものかもしれないけど、少なくとも私は個人的にはそういう圧力は感じなかったので、Uターンしてみて、改めて息苦しい世間の風を浴びている気がしました」

その社長だって、一応は地元の名士なのだ。だが実際にはパワハラやセクハラをまったく理解していなかった。だから社内で自身の地位を振りかざしてやりたい放題になる。止める人もいない。

結局、3か月あまりで彼女はその会社を辞めた。証拠を集めて労働基準監督署に報告はしたが、訴えるところまではいかなかった。彼女としてはあの職場が他の人にとって働きやすい場所になってくれればいいと思っただけだ。

「その後は少し遠いけど、チェーン店のカフェで働いています。マニュアルがしっかりしている分、仕事はしやすいですね。ただ、こちらではときどきお客さんからセクハラまがいの言葉をかけられることもありますが」

女性にとっては、どこで働いてもこういうことはあり得るのだろうとミナミさんは考えている。だが1年、パートで働いてリーダーとなった今、若いバイトの女性には、何かあったらすぐ報告するよう伝えている。

「小さなことでも泣き寝入りはしない。そうやって徐々に変えていくしかないのかもしれません。女性と男性を分断するわけではなく、セクハラをする人とそれを許さない人として。男性だってセクハラ許すまじと一緒にがんばってくれる人はたくさんいますから」

個人を個人として尊重する。言葉にすると簡単なことが、なかなか通用しないのが今の社会の現状なのだろう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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