人間関係

発達障害の夫と会話が噛み合わない…「カサンドラ症候群」に苦しむ妻

「どうも会話が噛み合わない」「愛してるよどころか、ねぎらいの言葉もない」。そんな夫たち、もしかしたらASD(自閉症スペクトラム障害)なのかもしれません。対する妻は、自分がおかしいのだろうかと病んでしまうケースもあるようです。

執筆者:藤嶋 ひじり

夫との会話がうまくいかない原因はASDだった……

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大人の発達障害について、昨今、よく耳にするようになってきましたよね。心療内科受診のハードルが下がり診断をする方が増えていること、診断名をオープンにする人が増えていることで、発達障害の人が増えているように感じるだけなのかもしれませんが、実際に筆者の周囲にもたくさんいらっしゃいます。

では、「カサンドラ症候群」という言葉を聞いたことはありますか? 「LITALICO就労ナビ」によれば以下の通り。
 

カサンドラ症候群とは、家族やパートナーなど生活の身近にいる人がアスペルガー症候群(現在の診断名は自閉症スペクトラム障害、以下ASD)であることが原因で、情緒的な相互関係を築くことが難しく、心的ストレスから不安障害や抑うつ状態、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの心身症状が起きている状態を指す言葉です。

世界的に広く用いられている精神疾患の診断基準『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)には記載がなく、正式な疾患名ではありません。


ASDも発達障害のひとつです。ASDの夫を持つと、どんなふうに大変なのでしょうか。カサンドラ症候群だった芙美さん(46歳・仮名)は今年、離婚に踏み切ったばかり。40歳で月経が止まってしまうなど、大きなストレスを抱えてきた芙美さんに、詳しくお話を伺ってみました。
 

「情」が通い合わないことの虚しさ辛さ

芙美さんは、すらりとした長身のモデル体型で同性が憧れるタイプの美人。夫に悩む妻という雰囲気はありません。まずは結婚のエピソードから伺いました。

芙美さん 「最初の出会いは、とあるバーの客同士でした。顔は知ってるけど話したことはない間柄。お互いに恋人がいて別れた者同士がくっつけられたような感じです。当時、私は会社員で彼はフリーターだったので、彼との結婚は考えていなかったのですが、彼の祖母が亡くなり家業を継ぐことになったころ、ちょうど私は親から結婚を急かされていたので、流れで結婚したような感じです。交際期間半年ほどのスピード結婚でした」。

ーーいつから違和感を感じたのでしょうか?

芙美さん 「結婚当初からですね。両親と敷地内二世帯住宅のような状況でしたが、驚くほど会話がない家族で、彼に対して口うるさくなにか言うのは私だけでした。私は4姉妹で、彼は長男で妹が1人と家族構成も違うので、生育環境の違いだろうと思っていました。 今思うと二次障害によるものだと思いますが、夫は家に引きこもりがちで、昼間は家業の合間に趣味のクラシックギターばかり。夜はゲームに没頭。とにかく会話が続かない、建設的な話し合いができないのです。

当時は、私も求めすぎてたんだと思います。 話し合えばわかり合えると思っていたのですが、不思議なぐらいに話が通じない上に、彼のほうから優しい言葉がけなどもない。子どもを授かってから、夫婦だけで一緒に出かけたことも一度もありません。そういう発想もないようです。

仕事を継いだとはいえ、家業ですので義父母も関わっています。夫は仕事もせずに一日中ギターとゲームしかしない日々もありました。それでも義父母から給料は支払われるので経済的に困ることはありませんでしたが。

コミュニケーションができない辛さというのは、なかなか人には理解してもらいにくいようで、友達に話しても『どこの夫もそんなもの。妻が手のひらで転がしておけばいいのに』などと言われて。どんどん自分がおかしいのかもしれないと思い悩み始めました。

いろいろと調べているうちに、夫のASD傾向に気づき、心療内科でASDかどうか診察を受けてもらったのです。でも、本人は結果を聞いても『だからなに?』と他人事のような感じ。義母には責められましたね。

そんな関係なのに夫は夜になると求めてくるので、まったく理解できませんでした。拒否すると夫が不機嫌になり、ケンカになる。でも話そうとしても噛み合わない。この繰り返しでした。夫は、せめて身体だけでもと思ったようですが、そもそも私は満足感を得られていない上に、日常的に愛されている実感がないのに身体だけ求められても、まったくその気になれなくて」。
 

夫婦としては別れて「新しい家族のカタチ」を模索

『情』というものが通い合っている感覚を得られない虚しさや辛さのなかで「よくやってきたなと思う」と振り返る芙美さんですが、やはり夫婦生活を継続するのは難しかったようです。

ーー別れようと思うようになった経緯は?

芙美さん「独身時代から、私はデザインや縫製の仕事をしてきました。結婚後、家で仕事をしていましたが、一日中一緒にいたら煮詰まると思い、子どもたちが大きくなってきたので会社勤めを始めました。 そうすると家事の負担がすべて私に。お願いしないと自発的に家事をしようとしない。私がきちんとしたい長女気質なので、疲れてしまって。驚いたのは発熱して寝込んでいるときにまで「ご飯、まだ?」と言われたこと。ねぎらいとか、心配とか、そういう感情を感じられませんでした。頭では原因はASDだとわかっていても、心のほうが疲れてしまって……。

それでも、この一年は、会社を退職し家業の店の暖簾を作ったり、オリジナルバッグを作ったり、少しでも家業が盛り上がるようにと自分なりにできることをがんばってサポートしてみたつもりでしたが、夫からはねぎらいの言葉もなく「好きなことをやってる」ような目で見られていて。まるで他人事のような感じなんです。最後の期待が裏切られたような感じがして、はっきり目が覚めました。残りの人生、この人といっしょにいるのはしんどいなと。

いろいろ迷いましたが、昨年、離婚に向けて進もうと決意。今年の正月に、追い打ちをかけるような事件があったのを機に、離婚の意思を伝えて近所に家を借りて別居。子どものために家事をしに通う生活を始めました。夫は離婚を渋っていましたが、家族で話しているときに、小学6年生の末っ子が冷静に「離婚したらいいと思う」と伝えたことで、あきらめたようにサインしてくれました。

彼には子どもたちとの関係性を見直してもらって、これから新しい家族のカタチを模索していきたいと思っています。 お互い未熟だったけど縁あって出会って2人の娘が産まれたことには感謝しています。 ただこれからの人生、笑って楽しんで暮らしたい。隣にいる人は、お互い違う人がいいんじゃないかな、と思いました。

ASDを含めて発達障害の人への偏見はありません。だからこそなんとかやっていこうと努力してきました。別の方法があったのかもしれないし、間違っていたこともあるかもしれないけれど、やり切ったという思いがあるので、悔いはありません。これからの生活、どうなっていくのか想像がつかないけれどワクワクしています」。

芙美さんは、新しい道を歩み始めました。友達にも笑顔が増えたねと言われるのだそうです。縁あって出会った夫婦。努力して歩み寄ろうとしても、そこに光が見出せないこともあります。そのとき、どうするのか。自分で決めたことにきっと間違いなどないのではないでしょうか。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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