子育て

息子を性犯罪者にしないために、父親ができること

性犯罪のニュースが流れるたび、怒りを感じる人は多いと思います。どうか我が子が被害にあいませんようにと願いながら、「もし自分の息子が加害者になってしまったら……」と考えてしまうこともあると思います。加害者のゆがみと背景をひもときながら、性犯罪の予防教育について考えます。

福田 由紀子

執筆者:福田 由紀子

臨床心理士/メンタルケア・子育てガイド

「加害者」に生まれるわけではない

父と息子

お父さんは息子の憧れ。だから、父親にしかできないことがあるのです。

性犯罪のニュースが後を絶ちません。自分の子どもが被害にあってほしくないと強く願う一方で、息子を持つ親は「加害者になってほしくない」とも思います。
 
性犯罪防止のための啓発活動では、「性犯罪にあわないために」と、女性に注意を促すものが目立ちます。確かに防犯対策を行うことは大切ですが、性犯罪に限らず、すべての暴力は「加害者の問題」です。加害者がいないと起こらないからです。

筆者は被害者支援が専門ですが、かつて性犯罪加害者の更生プログラムにも関わっていました。多くの加害者と接する中で痛切に感じたのが、父親の影響の大きさです。

更生プログラムでは、成育史や事件の振り返りを通して、ゆがんだ考え方を修正し、自分自身をマネジメントする力をつけて、再犯しない自分になることを目標にしています。

プログラムは男女の指導者で進めていくのが基本です。男女の指導者が協力し合いながら進めていく姿を見せることが「育ち直し」につながるということのようです。つまり、彼らは「男女が対等に協力し合う」関係性を見て育っておらず、それが、女性観や女性との関わり方にゆがみを生じさせている可能性が考慮されているということです。

DV家庭で育った加害者が多いのは特筆すべきことかもしれません。筆者が関わったなかでは、7~8割の人が、幼少期に父親から虐待を受けたり、父親が母親を殴るのを見て育っていました。暴力の被害者が、加害者になっているのです。
 

語られやすい性犯罪の動機

プログラムの序盤で、事件の動機を尋ねると、多くの人が「性欲を抑えられなかった」とか「ストレスがたまっていた」、「合意だと思っていた」などと答えます。
 
これらの答えの中には、性暴力をなくしていくためのヒントが隠されています。ひとつずつ解説していきます。
 

ゆがみ1「性欲が強いほうが男らしい」

「性欲が抑えられなかった」というのは、性犯罪のニュースでよく目にする動機です。受講者に詳しく話を聞くと、取り調べの時に、しばしば「性欲が抑えられなかったんだろう?」という質問を受けているようでした。
 
そこに見えるのは「男性の性欲は制御が効かないものである」という、男性が持っているイメージです。また「だから仕方がない」といった、暴力の正当化も垣間見えます。
 
「英雄色を好む」ということばがあります。英雄というのはすべてにおいて精力的であるから、性欲も強い、といった意味で使われ、性欲の強さは「男らしさ」として肯定的に捉えられてきました。実際、「自分は性欲が強いんです」と自慢げに語る受講者も少なくありませんでした。
 
女性である筆者からすると、自分の性欲をコントロールできない男性も、性欲の強さをアピールする男性もカッコ悪いと思うのですが……。また、性欲に翻弄される自分というセルフイメージは、無力感に繋がるように思います。
 
たしかに、性欲は性加害のきっかけのひとつではあるでしょう。しかし、性欲の赴くまま衝動的に犯行に及んだわけではないことが、徐々に見えてきます。
 

ゆがみ2「女性の体を、ストレス発散に使っていい」

事件当時の振り返りを進めていくと、仕事や人間関係のストレスを抱えていた人が多いことがわかってきます。犯行後は「後悔」や「うしろめたさ」「捕まるのではないかという不安」といったマイナス感情の他に、「達成感」「充実感」などのプラス感情も持つようです。
 
女性を性的に支配し、征服して、男としての自尊心を取り戻したいという心の働きは「女性をストレス解消の道具に使ってもいい」という価値観がベースにあります。
 
「風俗にいく金がなかった」と言う人もいます。強姦や強制わいせつならお金がかからないというわけです。それならマスターベーションすればいいのでは、と思うのですが、「女性のからだを使うことに価値がある」と彼らは考えていたようでした。
 

ゆがみ3「いやよいやよも好きのうち」

多くの被害者は抵抗できません。恐怖のあまりフリーズしてしまったり、殺されることを恐れ、従順さを装ってその場を切り抜けようとするからです。しかし彼らは「抵抗されなければ合意」だと身勝手に考えます。被害者が抵抗をあきらめると「自分を受け入れてくれたと思った」と話す人も少なくありませんでした。
 
彼らはそのような価値観をどこで学ぶのでしょう?
 
多くは、ポルノです。AV(アダルト動画)は、男性が気持ちよくなるように作られたファンタジーなので、女性が見ると「ありえない」と思う描写が多々あるのですが、日本の多くの男の子たちは、性教育を受ける前に、AVで性行為を学んでしまいます。
 
男性に都合よく演出されたAVから、「少々強引でも、性行為に持ち込めば大丈夫」とか「最後は気持ちよくなる」とか「嫌がっているのは本心じゃない」などの間違った知識を得て、自分でやってみようとするのです。
 

父親だから、できることがある

もちろん、性犯罪を起こすのは加害者自身の問題で、親のせいではありません。でも、男の子が性加害につながる価値観を持たないように育てられる、あるいは、成長過程で生じたゆがみを修正できる最も身近な存在は、父親なのではないでしょうか。
 
父親は息子にとって、男としての生き方のモデルであり、憧れの対象でもあるでしょう。だからこそ息子は、父親の価値観を受け継ぎ、態度をまねようとします。

妻や子どもを対等な人間として扱わず、暴力で支配する父親のもとで育つと「暴力で屈服させるのが男らしさ」だと学んでしまいます。しかし、父親が母親を尊重し、大切にしている姿を見て育った男の子は、女性を道具のようには扱いません。
 
それは、社会の在り方としてもいえることです。
 

性犯罪の予防教育とは

性犯罪が報道されると、「女性に隙があった」とか「二人で飲みに行った女性も悪い」などと、被害者がバッシングされるという奇妙なことが起こります。被害者の落ち度を探し、性暴力を正当化するのは、性犯罪者と同じ発想です。

「女は男に従うべき」という男性優位の価値観は、今も社会に根強く残っていて、性犯罪を下支えしています。そのような考えを社会からなくしていき、男性も女性もお互いに尊重し合う社会にしていくことが大切です。

また、暴力被害を受けた子どもたちが適切にケアされること。暴力の加害者が正当に処罰されること。年齢に応じた性教育が子どもたちに与えられること。そういった取り組みも、性犯罪加害者を生み出さないための「予防教育」になるでしょう。

性犯罪において、多くの場合、女性は被害者側で、弱者です。そのため、男尊女卑の考えが強い(加害リスクの高い)男性には、女性がどれだけ訴えても響きにくい面があります。

ですから、男性が、加害者と同じ性を生きている男性として、「性犯罪を許さない」、「女性を軽く扱う男は、自信なさげでカッコ悪い」と表明していくことが、この社会から性犯罪をなくしていくための近道だと感じているのですが、いかがでしょうか?

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※乳幼児の発育には個人差があります。記事内容は全ての乳幼児への有効性を保証するものではありません。気になる徴候が見られる場合は、自己判断せず、必ず医療機関に相談してください。

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