200年近く閉じられた扉を開いた「シップスミス」

 
シップスミス

シップスミス

前回記事で“クラフトとは何か”、私感を述べた。ウイスキーを中心に語ったが、今回はクラフトジンについて語ってみたい。
一昨年、2017年から「ジャパニーズクラフトジン[ROKU]」について何度か記事(2ページ目関連記事参照)にしてきた。世界的なクラフトジンブームのなかで、日本の四季の恵みが香る[ROKU]は海外でとても高い評価を得て、人気となってきている。
さて、現在のクラフトジンブームの先駆けとなった「シップスミス」というプレミアムジンがある。
2009年にロンドンで蒸溜を開始した。ベルギービールを世界に広めたビール評論家として、そして後にウイスキー評論家として名声を得たマイケル・ジャクソン氏(2007年逝去)のオフィスを改造して立ち上げたマイクロディスティラリーである。
これはマイクロディスティラリーに改造できそうな物件を探していて、偶然にも気に入った建物が、マイケルの元オフィスだったらしい。「シップスミス」にはマイケルのスピリッツが宿っているかもしれない。
さらに特筆すべきは(詳細は後述するが)、ロンドンでおよそ200年近い時を経ての新規ジンの誕生だった。

「シップスミス」は19世紀の古典的ともいえるドライジンのレシピ、製法の復活を目指したものだ。古い文献からレシピを徹底的に探り出してつくりに落とし込み、核となる10種のボタニカルの配合には伝統の香味への強い想いが込められている。
つまり果敢にも、あえて批評家たちが厳しい目でみつめる王道を歩むことを選んだのである。称賛されるべき挑戦だ。ロンドンドライジンの最高峰の香味、理想を追求しているといえよう。
正統派の道を歩みながらも、将来、よりしなやかな洗練が加えられるか、あるいはよりコクや複雑味が加わるか、さらにはよりエッジの効いた鋭い香味になるか、期待感もある。

 

ロンドンとジャパニーズの異なる香味個性

[ROKU]

[ROKU]

ウイスキーファンの目から語るとすれば、ロンドン発クラフトドライジン「シップスミス」の現在の姿は質実剛健なシングルモルトにたとえられるであろう。
一方、日本を代表するジン、「ジャパニーズクラフトジン[ROKU]」(記事『六[ROKU]ジャパニーズクラフトジンの魅力』参照)は華やかで品格あるブレンデッドウイスキーにたとえられる。ベーシックなドライジンの香味に、日本の豊かな自然風土が育んだボタニカル6種のスピリッツがブレンドされ、ドライながら和のしなやかさが調和している。まさにジャパニーズクラフトジンである。世界が認める日本の最高峰ブレンデッドウイスキー「響」(記事『ブレンデッドウイスキーの魅力・私感1』参照)の麗しさに通じるのではなかろうか。
同じクラフトジンであっても、香味追求のコンセプトは大きく異なるが、どちらも明確な思想を持つ、クラフトマンシップにあふれたドライジンである。

シップスミス蒸溜所の免許取得は蒸溜開始前年の2008年のこと。1820年から200年近い年月、ロンドン市内で新規蒸溜所建設はおこなわれていなかったので、このマイクロディスティラリーの復活は画期的であり、大ニュースでもあった。
19世紀になりしばらくすると、産業革命によるビジネスの変革や都市化に拍車がかかり、ロンドン市内での新しい蒸溜所建設は難しくなった。急激な人口増加と土地問題、酒税やアルコール規制などいろいろな要因が重なっていく。ついには蒸溜所の維持や設備増強、改築なども困難な状況となったのである。
現在ロンドンドライジンと名乗りながら、ロンドン市内で蒸溜している世界的ビッグブランドは「ビーフィーター」のみとなっているのは、こうした経緯があったからなのだ。(ボトル撮影・児玉晴希/シップスミスの2製品を紹介する次ページへつづく