三浦涼介 1987年東京都出身。映画『おぎゃあ』で俳優デビュー。『仮面ライダーオーズ/000』で人気を博す。映像のみならず、近年は『ヴェローナの二紳士』『ショーシャンクの空に』『手紙』『1789~バスチーユの恋人たち~』『るろうに剣心』等の舞台で活躍している。(C)Marino Matsushima

三浦涼介 1987年東京都出身。映画『おぎゃあ』で俳優デビュー。『仮面ライダーオーズ/000』で人気を博す。映像のみならず、近年は『ヴェローナの二紳士』『ショーシャンクの空に』『手紙』『1789~バスチーユの恋人たち~』『るろうに剣心』等の舞台で活躍している。(C)Marino Matsushima

最終頁に『ロミオ&ジュリエット』観劇レポートを掲載しました*

東野圭吾の小説を舞台化した『手紙』で、殺人犯の弟という重い十字架を背負った青年の葛藤を力強く演じ、注目を集めたのが2016年。以降もミュージカル『黒執事~Noah’s Ark Circus』『1789』『るろうに剣心』等で骨太の芝居を見せ、着実にミュージカル界で存在感をあらわしているのが、三浦涼介さんです。
 
もともとは映像、音楽ジャンルでの活躍で知られ、特に『仮面ライダーオーズ/000』で人気を博した三浦さんですが、近年、ミュージカルに続けて挑んでいらっしゃる背景には、どんなきっかけがあり、その魅力をどうとらえているでしょうか。
 
ベンヴォーリオ役で出演する最新作『ロミオ&ジュリエット』の話題を中心に、三浦さんの今・過去・未来をたっぷりとうかがいます!
 

“自分の中にないキャラクター”への挑戦

『ロミオ&ジュリエット』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

――『ロミオ&ジュリエット』は過去にご覧になっていましたか?
 
「前回公演を観ました。僕のイメージしていた“ロミジュリ”より、いい意味でとてもわかりやすく見やすく、キャッチーな作品になっていました。原作の『ロミオとジュリエット』はシェイクスピア作品の中でもテーマや登場人物の立場がわかりやすいとは思うけれど、僕自身あまり、稽古場で理解しきれないような複雑なものは好きでないので、このミュージカルは作品を観て、お客さんがなんの迷いもなく素敵だなと感じられる、今の時代らしい作品だなという気がしました」
 
――出演はどのように決まったのでしょうか?
 
「演出の小池(修一郎)先生と初めてお会いしたのが『1789』だったのですが、その顔合わせの頃に“ロックとか、歌うの?”と聞かれたんですね。“なんでも歌いますけれど、逆に僕はミュージカルの歌い方を知らないので、こういう歌い方しかできません”と言ったら“今度『ロミオ&ジュリエット』をやるんだけど出ませんか?”と言っていただいたんです」
 
――その時点からベンヴォーリオ役だったのですか?
 
「そうですね」
 
――ご自身的に意外だったりしませんでしたか?
 
「実は舞台を観た時にはベンヴォーリオがどういう立ち位置にいるか、意識して観ていませんでした。今回、稽古場に入って先生から“りょん(注・三浦さんの愛称)自身はマーキューシオ(のタイプ)だと思うけど、ベンヴォーリオがんばって”と言われて、そうなのか、僕はベンヴォーリオ的ではないんだな、と思ったのですが、“~~ぽい”というのは自分で決めるものではないですよね。自分の中に無いキャラクターなら、どう演じていけるかな、すごく勉強になるだろうなと逆に楽しみになりました」
『ロミオ&ジュリエット』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』製作発表にて。ロミオ役、ベンヴォーリオ役、マキューシオ役が「世界の王」を熱唱 (C)Marino Matsushima

――演じる、演じないは別にして、本作の中で一番ご自身に近いと思われるキャラクターは?
 
「ロミオですね」
 
――ロミオでしたか! それは理想を追い求める部分で?
 
「(彼は)すごく素直なタイプだと思うんです。周りにああだこうだと言われても自分で決断を下したり、人を好きになることにもまっすぐ。そういう純粋さは自分も持っていたいなと思っているので、僕は好きですね」
 
――現時点で、ベンヴォーリオという人物をどうとらえていますか?
 
「稽古が始まってから、自分のなかでどんどん複雑になってきています。舞台を観た時、実は冒頭から出ているのに最後まで印象が薄かったのがベンヴォーリオで、なぜだろうとずっと思っていたんです。
 
彼はロミオとマキューシオの間でどっちつかずというか、こちらが盛り上がっていたらこちらについて、あちらが気の毒な状況になればあちらに寄る。けれど自分一人になったら何をやったらいいかわからない。それでいて、そういう優柔不断さを見られるのは嫌で、自分の中に(核になるものが)何もないということがばれないように言葉を発したり行動しているのかもしれない……。まだ自分でも答えはわかっていないし、本番に入ってもわかるものなのか。すごく難しい役回りだと思っています」
 

人生で一瞬、光が当たった時の台詞

製作発表では楽曲披露も。(C)Marino Matsushima

製作発表では楽曲披露も。(C)Marino Matsushima

――対立していた若者たちの抗争が遂に血塗られたものになると、大人たちが彼らを糾弾、それに対してベンヴォーリオは“これは大人たちが始めたことであって、僕らは犠牲者だ”と反論しますよね。作品の芯ともいえるメッセージを発するベンヴォーリオは、とても状況がよく見えている人物に映ります。
 
「(ベンヴォーリオは)いいとこどりですよね(笑)。でも、そう言っているからといって、この人物がずっとそういうことを考えていたのかというと、そうでもないんじゃないかと僕は思います。たまたまそこにいたことで彼が言ったことにスポットが当たったというか。そういうことって、人生でもあるじゃないですか。誰もが生きているなかで一瞬、必要とされる瞬間がある、光が当たる。だからこそ生きてて幸せだと思ったり、死ぬときに生きてきて良かったなと思う。目立たないしものを言わないベンヴォーリオが、ふたんどれだけものを考えて来たのか、その瞬間に生まれてきた思いを言っただけなのか。でも、そこを考えるよりも、周囲の人たちとどれくらい関われるかということを、稽古で追求できたらいいなと思います。
 
僕は性格的にあまり前に行ったり光を浴びることはしたくなくて、陰に隠れちゃうタイプなんですが、この役のためにちょっと普段から人と接したり、相手がどう思っているのかを考えたり聞き出したり、そうすることでベンヴォーリオという人物が僕の中で出来上がっていけばと思っています。先日、日本初演から(死のダンサー役で)出演している大貫勇輔さんが、この作品では唯一、ベンヴォーリオ役だけが全員違っていて、あの人のベンヴォーリオ、この人のベンヴォーリオといろんな形があったとおっしゃっていました。正解は無いと思うので、僕も自分なりのベンヴォーリオが生まれたらいいなと思っています」
 
――ベンヴォーリオは後半、ヒートアップした仲間たちを抑えようと声をかける場面もありますよね。お兄ちゃん気質でもあるのでしょうか?
 
「実際はベンヴォーリオは一番年下なんですよね。そんな彼が声をかけるのはなぜか。どこかで自分の欲というものがなく生きている人だからこそ、今はやめておいたほうがいいとか、今は行く時だというのが見極められるのかもしれないですね。最初はすごくイケイケの人物に見えるけれど、実はそちらの方が本質なのかもしれない。もしかしたらものすごく優しい人で、そのためにどっちつかずに映ることがあるのかも、という気がします」
 
――二人の親友を最終的にはどちらも失ってしまう点では、とても悲劇的な役どころででもありますが、彼はこの後、どうやって生きていくのでしょう。
 
「実際は(そこで立ち止まることなく)普通に生きていくのかもしれないですね。そういう人物だからこそ生き残った、という気が現時点ではしています。はじめはこういう意見すらなくて、ただただ“難しいな、よくわからないな”という見え方だったけれど、ものすごいスピードで稽古が進んでいく中で、(演出家の先生から)徐々に肉付けの方向性をもらったり、必死に取り組んでいくなかで、見えてくるものがありました」
 
――今回は『1789』で共演された方も多い稽古場ですが、どんな空気感でしょうか?
 
「『1789』の時は再演ということで出来上がっている空気感の中に新しく入るということと、一日3曲くらい振り付けを入れられて、皆さん知ってるけど僕だけ知らない状況で、そこに輪をかけるように小池先生や歌唱指導の先生からのダメ出しがあり、稽古場と東京公演の記憶が無いくらい精神的にもしんどかったです(笑)。その意味では今回、無駄な緊張は無いですね。“はじめまして”の状況だと自分を知ってもらうところからのスタートなので、芝居を始める以前に先輩方に対してとか、いろいろ気を遣うけれど、今回はよく知っている人たちとご一緒なので、そこはあまり気をつかわず、自分のペースでやらせてもらえています」
 

不器用な生き方

『ロミオ&ジュリエット』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

――小池さんは三浦さんにとって、どんな演出家でしょうか?
 
「僕の不器用さをわかってくれている人かなと思います。みなさん、僕のことを器用だとおっしゃるけれど、僕は全く持って器用ではなくて、本当に自分でもいやになっちゃうほど不器用です。それを知ってくださる方が一人でもいるのは、すごく楽ですね。先生と出会うまでは誰もわかってくれないから自分で落として、そこからはい上がっていく作業だったのが、“お前はこうだから”という感じで教えてくださることで、そこから始められる。すごく厳しいけど、ずっと見ていて下さっている。優しい方だと思います」
 
――今、ご自身を“不器用”とおっしゃいましたが、観ている側としては意外に聞こえます。それは技術的な意味ではないですよね。
 
「人生ってもうちょっとスムーズに進めるものだよ、とよく言われるのですが、それが僕にはわからないんです。わざわざ遠回りしてしまう。僕としてはこれが遠回りだとは思わないという気の張り方で、ずっと生きてきたというか……。もうちょっと素直になればいいのに、人がかんたんにジャンプできるところができない。どうして皆がするからって自分もジャンプしなくちゃいけないの?と、飛ぶ意味を考えてしまう。1+1が2、といってもそれがなぜかを理解できないと2と言えない。そういう、うまく生きてこられなかったところという意味です」
 
――具体的には、例えばステージングで、“次はこう動きます”と言われたときに、役として腑に落ちないとそう動けない、とか?
 
「そうですね。でも仕事上そうも言っていられないことも多いし、やらずしてノーとは言いたくないのでやってはみるけど、その結果無理なものは二度とやらない、というふうに生きていました。
 
それが変わってきたのは、やはり小池先生との出会いからですね。以前は舞台を次から次へとやっている人はすごいなと思っても、僕は切り替えられない人間なので、舞台は年に1本と決めていました。でも、小池先生はそんな僕に“続けなさい”と言ってくれた。作品と作品の合間の時間がもったいないから、とにかく3年間ぐらい立て続けにやってみて、それから(舞台という仕事が自分に合っているか)判断しなさい、と。それで今、続けてミュージカルをやらせていただく中で、稽古場でどういうものが求められているのかを理解したり、動いてみて持ち帰ってその理由を考えるとか、そのスピードがちょっと速くなってきた気がします。わからないからやらない、ではなく、わかるまでやってみる、というのが最近の稽古の進め方だし、僕の生き方もそうなってきています」
 
――フレンチ・ロックが主体のミュージカルですが、楽曲はいかがですか?
 
「かっこいいです。この前、他の作品で共演した方に“ロミジュリのあの曲、いいよね”と言われて、一度しか観ていない人の耳にも残るんだなと思いました。ただ、自分で歌うとなると、わかりづらかったり、とりづらい音も多くて。なんでこんなメロディ?と歌稽古でわけがわからなくなった時に歌唱指導の先生に言ったら“その気持ちになれば絶対(音を)とれる”といわれたんです。実際、本読みの時にその気持ちに入っていったら、スムーズに行けた感触があって、わかり易くないメロディにわざわざしているのはこの“気持ち”があるからなんだと、すごく面白く感じました」
 
――今回の『ロミオ&ジュリエット』がどんな舞台になるといいなと思われますか?
 
「舞台をやり始めて、舞台って映像と違って、その時に観てもらえないとそれで終わってしまうのが残念に思えるんですよ。僕らも頑張って発信することで、もっと日本で、舞台を観ることが普通になる、自分よりずっと若い人から年配の方まで幅広くご覧いただける、そんなきっかけになる作品になるといいなと思いますね。誰かのファンだけが来るのではなく、街のあちこちにロミジュリを観たい人がいる、というふうになったらいいなと思います。それだけの(魅力のある)ミュージカルだと思います」
 

マイケルに憧れて

三浦涼介 1987年東京都出身。映画『おぎゃあ』で俳優デビュー。『仮面ライダーオーズ/000』で人気を博す。映像のみならず、近年は『ヴェローナの二紳士』『ショーシャンクの空に』『手紙』『1789~バスチーユの恋人たち~』『るろうに剣心』等の舞台で活躍している。(C)Marino Matsushima

三浦涼介さん (C)Marino Matsushima

――プロフィールについても少しうかがいたいのですが、さきほど、人前に出るのは苦手なタイプとおっしゃっていたのにも関わらず、芸能界に入ったのは?
 
「両親がもともと芸能の仕事をやっていて、子供のころからステージを観ることがすごく多かったので、(演技に対する)違和感はありませんでした。ただ、ステージに上がって花束を渡すとかコメントを言わされたりするうち、今なら子供が一生懸命そういうことをしていたら微笑ましく思えるとわかるけど、当時の僕は笑われているように感じて、傷ついてしまったんですね。それで親の後ろに隠れるということを覚えて、中学ぐらいまではほとんど人前に立てませんでした。
 
でも、表現すること自体には興味があって、マイケル・ジャクソンやホイットニー・ヒューストンのパフォーマンス映像を観てかっこいいな、歌ったり踊ったりするのは楽しそうだなと思ってオーディションを受けました。稽古場では鏡しか見ないので、人目も気にならず、楽しかったですね。それがきっかけで、気づいたらいろいろなところに出させていただくようになりました」
 
――映像や音楽で活躍されていた三浦さんですが、近年は舞台、特にミュージカルでの活躍が顕著です。ご自身の中で、ミュージカルはどんな存在でしょうか?
 
「今はそのお仕事がなければ僕自身芸能界で生きていけないものになってるので、(純粋に)有難いと思っています。僕は自由がほしい、好きなことを自分なりに表現したいと思って芸能界に入ったけれど、実際はやっぱり自由というより、こうしなきゃいけないというプレッシャーの多い世界です。指導してくれる方もその方なりのご指導なので、それが合わなければ嫌いになってしまう可能性もあります、明日にでも。華やかだし、きらきらしているけど、その裏でやらなくてはいけない作業はたくさんあるわけで、そこでしんどい思いもするからこそ華やかに立っていられる。そう思うと本当にすごい仕事だと思いますね」
 
――そんな中で続けていらっしゃるということは、これまではいい出会いの連続だったのですね。
 
「本当にそう思いますね。それといい先輩たちに囲まれてやれるということが一番です。いろいろな方がいるし、皆さんも一生懸命、自分も一生懸命という中で、(何かが合わなければ)壊れてしまうということもあると思う。だからそこを見極めて、無理はしない。自分に合うことを見つけてやっていく、ということが大事だと思っています」
 

今はミュージカルが、僕の表現

『1789』写真提供:東宝演劇部

『1789』写真提供:東宝演劇部

――『1789』で帝劇に進出され、今回の『ロミオ&ジュリエット』があり、この後は『エリザベート』にルドルフ役で出演。ミュージカルの“王道”を歩まれています。
 
「原作のある作品が続くことで、難しさを感じています。作品を好きな人たちには、それぞれにイメージがあるじゃないですか。そこにどう近づいていくか、は大切だけど、ただそこにはめられているのでは意味がない。観に来てくれた人が何を感じてくれるか。僕がこの役を本気で考えてやったものがこういう表現になった、というものを評価していただく。そこにいく作業はミュージカルに限らず、どのお仕事でもとことんやっていきたいです。
 
今はミュージカルをやっているけど、来年はどうなるか分からない。例えばもし絵を描くことにはまったら、納得がいくまで描くかもしれない。でも今はミュージカルが僕の表現です。このところ本当に王道のミュージカルが続いていて、自分自身びっくりしていますが、自分がやらせていただくことでいい作品になるのか。僕自身、いい舞台になったなと思えるよう、努力していきたいと思ってます」
 
――このインタビューでは最後に皆さんに今後のビジョンをうかがっていますが、これまでは皆さん、ミュージカル俳優という前提がありました。けれども三浦さんの場合は、そういうわけではないのですね。
 
「僕の代わりはいくらでもいる、と意識するからこそ、頑張れるのかなと思っています。そういう感じで、ずっとやり続けると思いますね」
 
――今この時を精いっぱい生きる。その結果として未来がある。ということは、未来は真っ白なキャンバス、でしょうか。
 
「そう思います」
 
*****
芝居に歌、動きとどれをとってもさらりとこなす三浦さんはクールなイメージを持たれることが多いかもしれませんが、お話すればするほど、人生に対する真摯なスタンスがうかがえ、これが彼のうわべだけではない、気骨溢れる演技の源になっているのだと感じられます。そんな彼が今後、ミュージカルという世界でどんな存在感を示してゆくのか。まずは『ロミオ&ジュリエット』での、三浦さんならではの新たなベンヴォーリオ像を楽しみにすることとしましょう。
 
公演情報*『ロミオ&ジュリエット』2月23日~3月10日=東京国際フォーラムホールC、3月22~24日=刈谷市総合文化センター、3月30日~4月14日=梅田芸術劇場メインホール
 
公式HP
 
*次頁に『ロミオ&ジュリエット』観劇レポートを掲載しています!

『ロミオ&ジュリエット』観劇レポート:スケール感豊かに描かれる究極の悲恋、そしてささやかな希望

『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ロミオ(大野拓朗)、ジュリエット(木下晴香)(C)Marino Matsushima

紗幕の前に現れる、黒装束の男。戦争のイメージが映し出される前で彼は踊り、紗幕の向こうの世界へと観客をいざなう。そこではストリートとモードをブレンドした衣裳に身を包み、二派に分かれた若者たちが激しくいがみ合っていた……。
 
本国フランスでは多分にコンサート(プラス、ダンスパフォーマンス)寄りの演目として、音楽性とヴィジュアルを重視して上演されてきた『ロミオ&ジュリエット』。日本では2010年の宝塚初演、2011年の日本オリジナルバージョン初演以来、小池修一郎さん演出のもと、より演劇的な膨らみを持たせた舞台として上演されてきました。振付・衣裳・美術等を一新した17年の新演出版を経て、一部キャストが続投となった今回は、各キャラクターの輪郭が際立ち、さらに躍動感溢れた舞台となっています。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ロミオ(古川雄大)、ベンヴォーリオ(三浦涼介)、マーキューシオ(平間壮一) (C)Marino Matsushima

中でも今回、とりわけ大きな存在感を放っているのが、大貫勇輔さん(大阪公演ではダブルキャストとして宮尾俊太郎さんも)演じる“死のダンサー”。シェイクスピアの原作戯曲には登場しないこの役柄はヴェローナの街(=人間世界)に憑りつき、人間たちを死へと手招きする中で、ロミオという恰好の標的を見つけます。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 死のダンサー(大貫勇輔)(C)Marino Matsushima

11年のオリジナル版初演から出演し続ける大貫さんは、黒いコートとソフト帽という露出度の低いいでたちで登場、滑らかな動きの中に時折、剃刀のような切れ味の振りを織り交ぜ、人間には制御不能の“死”の不気味さを体現。若者たちを次々に死へ追いやり、勝ち誇るように十字架の上に乗ってみせますが、人々が悲嘆の中で憎しみを乗り越え、手を取り合い始めると、予想外の事態に身悶えし、遂に力尽きる。一切の感情表現を排した中で、年月をかけて練り上げられてきた“死”の表現は今回、一つの完成形を見たと言っていいでしょう。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ロミオ(古川雄大) (C)Marino Matsushima

主人公のロミオを演じるのは、古川雄大さんと大野拓朗さん。甘く、イノセントな“王道”二枚目の大野ロミオに対して、古川ロミオは終始“死”を意識し、恋に生きながらも破滅へと向かってしまう、若者特有ともいえる矛盾を抱えた人物像が魅力的です。ソロナンバー“僕は怖い”では背後に現れた“死”と一体になって動くくだりでそのダンス力を生かし、時に官能的な空気を漂わせつつロミオの危うさを体現。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ジュリエット(葵わかな)(C)Marino Matsushima

3人のジュリエット、葵わかなさんと木下晴香さん、生田絵梨花さんのうち、今回が二度目の出演となる木下さんは、まだ20歳とは思えないほどの安定感。初役の葵さんは、自分の出生の秘密を母親から聞かされる瞬間の衝撃の表現が鮮烈で、ここで愛のない結婚に対する彼女の嫌悪感が強く刻み付けられ、後のロミオとの恋への傾倒を説得力あるものに見せています。(生田さんジュリエットは未見)。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ベンヴォーリオ(三浦涼介)、マーキューシオ(平間壮一) (C)Marino Matsushima

ロミオの親友、マーキューシオを演じるのは平間壮一さん、黒羽麻璃央さん。どちらもクレイジーで何をしでかすか分からない空気を纏いながらも、ふとした瞬間に黒羽さんには少年のあどけなさ、平間さんには人恋しさがのぞき、環境次第では全く違う青春時代を送れたであろう若者の哀しさが滲みます。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ベンヴォーリオ(木村達成)、マーキューシオ(黒羽麻璃央)(C)Marino Matsushima

同じくロミオの親友ベンヴォーリオ役、木村達成さんの等身大で溌溂とした青年像も印象的ですが、今回、新たな視点を与えてくれるのが、三浦涼介さんのベンヴォーリオ。キャピュレットとの緊張関係の中にあってもロミオやマーキューシオと無邪気にじゃれ合い、ふざける三浦ベンヴォーリオは、取り返しのつかない悲劇を境に大きく変貌、精神的成長を遂げてゆきます。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ベンヴォーリオ(三浦涼介) (C)Marino Matsushima

ジュリエットの死を知った彼のナンバー“どうやって伝えよう”は、通常は衝撃と戸惑いのただなかで歌われますが、三浦さんのあたたかくも芯のある歌声は、苦しみながらもそこから一歩踏み出してゆく決意、いわば“青春との決別”に至る過程を表現。また終盤に“敵”の一人一人に真摯に頭を下げ、和解を求めるその姿は、ロール・モデル的役割を担うようにも映ります。争いの果てに、生き残った者たちはどう生きるべきか。利己主義が世界に蔓延する今、ベンヴォーリオが体現する人間のあるべき姿は、ひょっとすると今回の公演の隠しテーマであるのかもしれません。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ティボルト(渡辺大輔)(C)Marino Matsushima

キャピュレットの急先鋒ティボルトを演じるのは、前回に引き続き渡辺大輔さん、廣瀬友祐さん。二人とも叔母でありながら愛人でもあるキャピュレット夫人との絡みで強烈な色気を漂わせますが、渡辺ティボルトは従妹への愛を独白するナンバー“ティボルト”で純情をのぞかせ、廣瀬ティボルトは”本当の俺じゃない“で大人たちに憎しみを植え付けられて育ったわが身を激しく呪う。満たされない思いが積もるなかで“憎しみ”が募っていったことにいたたましさを感じずにはいられないでしょう。
『ロミオ&ジュリエット』2019年 (C)Marino Matsushima

『ロミオ&ジュリエット』2019年 ティボルト(廣瀬友祐)、キャピュレット夫人(春野寿美礼) (C)Marino Matsushima

若者たちを取り巻く大人たちを『レ・ミゼラブル』『エリザベート』等の大作ミュージカル主演経験者たちが演じているのも、今回の公演の強みの一つ。特に真実の愛に出会った娘ジュリエットに対して、嫉妬に近い感情から愛のない結婚を強いたり、平和を口にしながらも、ひとたび身内が傷つけられれば声高に復讐を叫ぶなど、人間の心に蠢く醜さを洗練された物腰で描き出すキャピュレット夫人役・春野寿美礼さんが出色。使用人としての分をわきまえながらも精いっぱいの愛をジュリエットに注ぎ、その幸福を一心に祈るシルビア・グラブさんの乳母、冒頭のナンバーを一節歌いだしただけで作品にスケール感をもたらす石井一孝さんの大公、終盤の嘆きで人間の無力さを存分に印象付ける岸祐二さんのロレンス神父も流石の存在感です。

若手俳優の登竜門とも呼ばれる本作。華やかに幕を開けた今回も、彼らの演技は日を追って成熟、あるいは変容してゆくことでしょう。出来れば日を置いて再度、そしてまたと複数回観る価値のありそうな舞台です。
 

 
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