在宅ワーク

少額訴訟で債権を全額回収できる?上手な未払い回収法

この記事は、在宅ワーカーといわれる個人事業主や、顧問弁護士を持たない中小企業が、支払い期日を過ぎても売上の未払い(債権)を回収できないとき、また未然に防ぎたいときに、役に立てていただければと考えて書いています。すぐに行動できるよう段階ごとに説明していますのでご活用ください。

宮田 志保

執筆者:宮田 志保

テレワーク・在宅ワークガイド

少額訴訟を申立てるまでにできる対応策とは

支払い日を過ぎているのに、得意先から現金が振り込まれない……。仕事の規模にかかわらず、お金についてのトラブルは避けたいものです。法的な手続きも含めて、いろいろな手段や方法がありますが、早々から結論を書くと「日頃から備える」ことが一番の良策です。まずは、少額訴訟にいたるまでに、日々業務を行う上でのポイントをご紹介します。

<日頃からの備え>
  • 業務履行契約書など、書面で契約を行う
  • 新規の得意先へは必ず訪問し、担当者とは別に上司とも名刺交換を行う
  • 得意先の取引銀行を把握する
  • 発注書や契約書を発行しない会社であれば、メールを必ず残しておく
  • 得意先の状況(社長が入院した、外注費を値下げしてくる)に敏感になる
  • 一度未払いになったら、すぐに得意先の担当へ状況を確認する
  • 誠意のない対応があらわれたら取引を中止する勇気を持つ
 

少額訴訟はカンタンじゃない!辛労と余計な負担、大切な時間が削られる覚悟を

個人事業主や中小企業の場合、原告となる当事者が仕事を兼ねていることが多く、裁判のみに集中できる方は少ないと思います。未払いを回収(以降は、債権回収)することは余計な精神的な苦痛を伴います。いつ振り込まれるかイライラしながら仕事をしなければならず、合わせて法的な手続きもややこしく、様々な書類を準備する必要があります。

最終的に少額訴訟で和解したとしても、相手が約束を守ってくれないこともあります。さらに強制的に債権回収を執行したとしても、先方の銀行口座に残金がなければ回収できません。訴訟となれば、さらに裁判費用がかかり長期化します。もちろん、相手が倒産する可能性もあります。
 
とはいえ、支払わないのは先方の責任でありこちらは悪くはありません。このようなトラブルを抱えてしまった方へ、以下に債権を回収するまでの様々な方法をまとめました。
 
<図表>少額訴訟ほか債権の回収手段

<図表>少額訴訟ほか債権の回収手段

 

請求書には消滅時効がある!2年以内に権利の行使を

通常は、互いに確認しあった金額で請求書を送れば、相手は約束した期日に支払いを行います。実はこの請求書、時効があることをご存じでしょうか。民法第173条によると、次にあげる債権は2年間行使しないときは消滅するとあります。
 
  1. 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
  2. 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
  3. 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
 
「きっと忘れているんだろう」と気楽に待っていると、あっという間に2年がたち、時効となって債権は回収不可能となります。悪質な場合は、それを狙っているケースもありますので注意が必要です。

時効による消滅を防ぐためにも、決められた支払い日が守られてなかった時は、まず1ページの<図表>の第一段階にある「内容証明郵便」を送りましょう。これで6ヶ月間のみ時効が中断されます。その後の手段は、相手の出方次第です。遅延謝罪の言葉のみ信じるのではなく、いつまでに、いくら支払ってくれるのか、またそのお金の出所についても相手に確認し、音声、書面などに残しておきましょう。冷静に客観的に判断することが必要です。
 

少額訴訟の申立てに必要な訴状や費用、証拠の提出

裁判所のホームページによると少額訴訟とは「民事訴訟のうち、60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争解決を図る手続」とあります。申立ては同じ簡易裁判所において1年に10回までとなっています。
 
訴状提出手続については、管轄の簡易裁判所の相談窓口にて、訴状の書き方や証拠の提出準備などの助言がされます。ただ、その前に証拠となる書類などを準備しておかねばなりません。売上債権の回収であれば、以下のような事前準備が必要です。
  • 相手方との契約書・未払い分の発注書・請求書・見積書など
  • 案件にかかわるメール(発注や納品、支払いが記されたもの)
  • 証拠となる通話の録音音声
  • 法人登記事項全部証明書(履歴事項証明書)(法人の場合)原告及び被告双方とも3か月以内に発行されたものが必要です。法務局もしくは、法務局出張所にて取得します。(手数料は1通につき480円~600円)
  • 印鑑(法人の場合は代表者印)
  • 手数料(収入印紙)及び郵便切手 請求する金額により手数料(1000円~6000円)は変わります。訴状の送付などに使用される予納郵券代は郵便切手で支払います。いずれも裁判所内で購入可能です。
この準備書類をみて分かるように、少額訴訟の手続きを行うことは、慣れている方でない限り、たやすいものではありません。また、いくら訴状を書いても、発注を請け納品したことが分かる証拠書類がなければ、相手に「知らない」と言われても反論することはできません。これを防ぐためにも、先に書いた「日頃からの備え」が重要なのです。
 
<参照リンク>
裁判所 少額訴訟
 

「和解」をしても回収できないときは強制執行できるが

少額訴訟

一つのテーブルに書記官、裁判官、原告、被告が座り開催。傍聴も可能です


いざ少額訴訟となり、和解(ここでの和解とは法的な意味。民事上の争いごとについて、双方の紛争当事者が互いに譲歩しあって争いごとをやめることに合意すること)となっても、被告が期日までに支払わなければ解決はしません。裁判所が作成した「和解調書」の記載通りに支払いが行われなかった場合は、強制執行を行うことができます。
 
ただ、これは少額訴訟の手続きよりはるかに難しい。なぜかというと、まず差し押さえを行う被告の銀行支店名を自分で調べないといけません。これは、銀行に電話をしても個人情報なので教えてくれません。不明の場合は、先方の会社の住所などから推察し、探偵のように調査しなければならないのです。また、差し押さえる時期についても、銀行口座にお金が入っている時期を狙う必要があります。差し押さえ日から逆算し、手続を行わなければいけません。そしてもちろん、手続きには手数料がかかります。
 
個人的な見解ですが、このような状態になった場合(もちろん支払いが滞った時点でも構いませんが)には、早々に弁護士に相談することをおすすめします。知り合いに弁護士がいないと悩む方は、ひまわり中小企業センターが行っている「ひまわりほっとダイヤル」を利用しましょう。こちらは、中小企業の経営者、個人事業主であれば、電話もしくはネットのフォームにて相談を受付し、内容に応じた弁護士を無料で紹介してくれます。初回面談料は30分無料(一部の都道府県を除く)。ぜひ活用してみましょう。
「ひまわりほっとダイヤル」全国共通電話番号 0570-001-240
 

まとめ 少額訴訟は二度と体験したくない

私自身も信頼していた得意先から支払いが滞り、少額訴訟を起こした経験があります。それまでは「少額訴訟は手続も簡単だから、訴訟を起こせば支払いは回収できる」と、簡単に考えていましたが、実際は「二度と体験したくない」経験になりました。
 
少額訴訟裁判の当日、被告はやってきませんでした。当日にFAXが書記官宛に送られ、全面的にこちらの要求をのむとのこと。ただし支払いは分割にして欲しいと要望が書いてありました。裁判官と相談し、訴訟は「和解」となりました。しかし、他の外注にも支払いが滞っていたのか、「和解」したにもかかわらず、約束した分割一度目の期日に振込はありませんでした。催促の電話をすると、「無いものは払えない」と開きなおるかと思えば、あるときは泣いて謝罪、あるときは「しつこい、金の亡者か」と怒鳴ることも……。

こちらも心が折れそうになり「ひまわりほっとダイヤル」に相談。紹介いただいた弁護士に相談したところ「どんなに心が折れても回収を諦めないぞ!という姿勢を相手にみせること。基本的だけど一番大事」という助言をいただきました。まずは、諦めないという姿勢をみせるために、メール、電話で相手の会社に連絡し、支払いがないと困ることを代表取締役だけでなく、取締役、経理の方に丁寧に説明。最後は「和解」した締切条件を最大限に延ばし、ようやく全額回収しました。

経験から反省することは、支払いが滞った時点で、もっと早く手を打てば良かったということ。「来月は支払ってくれるだろう、きっと忘れているのかも」という甘い憶測、そしてなんだか言い辛いという気持ちが、自分の首を絞めることになりました。
 
起こってしまった事は仕方ありませんが、予兆を感じた時点で、それ以上に拡がらないよう防ぐ。知識と知恵、時としては第六感的な感覚も大切にしながら、円滑に仕事の舵取りをしていきたいですね。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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