新著は、輿水氏らしさにあふれている

 
輿水精一著『大人が愉しむウイスキー入門』

輿水精一著『大人が愉しむウイスキー入門』


サントリー名誉チーフブレンダー輿水精一氏の新著『大人が愉しむウイスキー入門』(ちくま新書・筑摩書房刊/¥800税別)を紹介しよう。つい先日、1月10日に刊行されたものだ。
すでにいくつかの著書があり、わたしはすべてを読んでいるが、これまでのなかで輿水氏らしさがうまく出ている最も好感がもてる作品である。

輿水氏にはじめてお会いしたのは1997年4月だったような気がする。山崎蒸溜所のブレンダー室だった。山崎の仕込水について語っていただいたのだが、輿水氏の口が重く、かなり苦労した記憶がある。
チーフブレンダーになられ、2003年に『シングルモルト山崎12年』がISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)で金賞を受賞してから後、ジャパニーズウイスキーが世界的な注目を集めるようになった。チーフブレンダーとしての重責を務めながら、日本はもとより海外へ出向く機会が多くなると、少しずつ口も滑らかになっていく。
日本のウイスキー業界のスター的存在となり、無口なままではやっていられなくなったのであろう。
忙しいなか、わたしのために時間を割いていただいたことが何度かある。わたしは口が悪い。飲み手目線で本音をズバッと吐いてしまう。気分を害されたことも多かったであろう。ただ、そんなときでもゆったりとした独特のリズムで、あくまで温和に答えてくださる。憎らしいほど優しい人なのである。女性に、もてるだろうな、とも思う。
 

香味の高みを目指すブレンダーのスピリッツ

この新書には、ウイスキーとは、その魅力、日本人とウイスキー、ブレンダー室でのこと、そしてブレンダーとしての哲学などが柔らかいタッチで綴られている。わたしの知っている「輿水さん」がちゃんと表出していて、親近感がもてる。
とくに第5章『ブレンダー室の楽屋話』、第6章『私のものづくり哲学』が興味深い。輿水氏の愛読書からは、熱いこころ、ロマンあふれる人間性を知る。最後のほうに書かれた、“まかない料理に終始しない”には大きく頷いてしまった。
山崎蒸溜所のブレンダー室を訪ね、ブレンダーの方々の仕事ぶりを見つめていると、苦行だな、とわたしは感じる。ブレンダーがセミナーで話す姿に、開発者、研究者としての格好よさを感じる人もいるだろう。しかしながら日常業務は肉体的にも精神的にも辛い仕事である。
そんな日々のなか、何をみつめ、何を吸収しながら仕事に邁進していくのか。香味の高みを目指して研鑽を積みつづけるスピリッツをわたしはこの書で教えていただいた。
決して難しい内容ではない。ウイスキー入門書とあるように、気楽に読める。ただし、奥は深い。スマホをいじるのをしばし止めて、読んでいただきたい。きっとウイスキーが、もっと愛おしくなる。
 

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