『ロミオとジュリエット』

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

2018年11月18日(日) 、月組トップ娘役・愛希れいかさんが、『エリザベート ―愛と死の輪舞―』の千秋楽(東京宝塚劇場)に宝塚歌劇団を退団します。
また同時に、月組組長も務めた娘役の憧花ゆりのさんも退団します。
 
愛希れいかさんは、2007年、宝塚音楽学校に入学しました。同期生に、元宙組トップ娘役・実咲凜音さん、元星組トップ娘役・妃海風さんらがいる95期生です。愛称は「ちゃぴ」。
初舞台は2009年、宙組『薔薇に降る雨』『Amour それは…』で、当時、愛希さんは男役でした。
 

愛希れいか 主な舞台歴

2009年 宙組『薔薇に降る雨』『Amour それは…』で初舞台
 
月組男役時代
2010年『THE SCARLET PIMPERNEL』ルイ・シャルル    
 
月組娘役時代
2011年『アルジェの男』新人公演・サビーヌ(本役・蒼乃夕妃)*新人公演初ヒロイン
2011年『アリスの恋人』アリス *バウホール公演初ヒロイン
2012年『エドワード8世-王冠を賭けた恋-』新公・ウォリス・シンプソン(本役・蒼乃夕妃)*新公ヒロイン
 
月組トップ娘役時代(トップスター・龍真咲)
2012年『ロミオとジュリエット』ジュリエット
2012年『愛するには短すぎる』バーバラ・オブライエン
2013年『ベルサイユのばら―オスカルとアンドレ編―』ロザリー
2013年『ME AND MY GIRL』サリー・スミス
2013年『ルパン―ARSÈNE LUPIN―』カーラ・ド・レルヌ
2013年『JIN―仁―』橘咲/結命
2014年『風と共に去りぬ』メラニー・ハミルトン
2014年『明日への指針―センチュリー号の航海日誌―』レイラ
2014年『PUCK』ハーミア
2015年『1789―バスティーユの恋人たち―』マリー・アントワネット
2015年『Wonder of Love』 
2015年『舞音―MANON―』マノン 
2016年『激情―ホセとカルメン―』(主演・球城りょう)カルメン
2016年『NOBUNAGA―下天の夢―』帰蝶
 
月組トップ娘役時代(トップスター・球城りょう)
2016年『アーサー王伝説』グウィネビア
2017年『グランドホテル』エリザヴェッタ・グルーシンスカヤ
2017年『長崎しぐれ坂』おしま
2017年『All for One~ダルタニアンと太陽王~』ルイ14世
2017年『鳳凰伝―カラフとトゥーランドット―』トゥーランドット
2018年『カンパニー―努力、情熱、そして仲間たち―』高崎美波
2018年『愛聖女―Sainte♡d’Amour―』ジャンヌ・ダルク
2018年『エリザベート―愛と死の輪舞―』エリザベート
 

新人時代

2010年、『THE SCARLET PIMPERNEL』の王太子ルイ・シャルル役に大抜擢されます。主役スカーレツト・ピンパーネル(霧矢大夢)と二人だけの場面やソロもある大役を、わずか研2ながら、堂々と演じました。
 
翌年、愛希さんは娘役に転向します。娘役として初めての公演、『アルジェの男』の新人公演で初ヒロイン。次の『エドワード8世』でもヒロインを務めます。
バウホール公演初ヒロインは『アリスの恋人』のアリス役。レースのドレスに縦ロールの髪。少女漫画から抜け出たような可愛らしいアリスでした。
 
 

龍真咲さんの相手役に

 
『CRYSTAL TAKARAZUKA-イメージの結晶-』

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

2012年、月組トップスター・龍真咲さんの相手役として、トップ娘役に就任します。お披露目公演は『ロミオとジュリエット』。一年前まで男役だったとは信じられない美しい歌声に、大輪の花のような華やかさ。スケールの大きいトップ娘役の誕生でした。
 
『ベルサイユのばら』では、革命家・ベルナールの妻、ロザリー。トップ娘役としては少ない出番でしたが、オスカルを慕う気持ちを丁寧に表現。 
『ルパン―ARSÈNE LUPIN―』では、国際的陰謀に巻き込まれていく中、アルセーヌ・ルパンへの想いを募らせていく、聡明な令嬢カーラを好演しました。
 
2014年、宝塚歌劇団は100周年を迎えます。
創立を記念する作品『明日への指針』では、人妻のレイラをしっとりと演じました。
22年ぶりの再演となった話題作、『PUCK』では、妖精パックに恋されるハーミア。あどけない少女時代から品のある大人の女性を演じ分け、奥行きの深い演技力を見せました。 
 
『ベルサイユのばら』とは違う角度からマリー・アントワネットを表現したのが『1789―バスティーユの恋人たち―』。恋も遊興も楽しむ女性の顔、フランス王妃としての風格を、のびのびと演じました。どんなに大きな衣装も着こなせる華やぎ、洗練された美しさや存在感は格別。新たな愛希れいかの魅力を感じました。
 
「マノン・レスコー」の舞台をベトナムに置き換えた『舞音―MANON―』では、身分違いの恋に燃える魅惑的な女性、マノンを。黒髪、アオザイ姿、ラブシーンと、とにかく美しい。しなやかさの中にある強さを表現しました。
 
龍真咲さんのサヨナラ公演『NOBUNAGA―下天の夢―』では、信長の正室、帰蝶。武芸に長けた女性という設定が、元男役の愛希さんにしっくりとはまります。誠実で凜とした帰蝶を情緒豊かに演じ、龍真咲さんの卒業を見送りました。
 

球城りょうの相手役に

『カルーセル輪舞曲』

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

2016年、一期上の球城りょうさんの相手役となります。
新トップコンビの本公演お披露目『グランドホテル』では、引退を考えている往年のプリマ・バレリーナ、グルーシンスカヤを熱演しました。首、デコルテ、背中、指先から足の先まで、完璧なまでプリマをとらえ、白いチュチュやレオタードで見せる得意のバレエは、清らかで美しいこと! 愛希さんに対し、本場の演出・振付のトミー・チューン氏が「ブロードウェーに立てる。すばらしい」と絶賛したほどの出来栄えでした。
 
アレクサンドル・デュマ原作の「三銃士」を基に描いた『All for One~ダルタニアンと太陽王~』では、男として育てられたルイ14世役。男装のルイ14世も、女性の姿に戻ったルイーズもどちらも可愛い。コメディーセンスも最高で、感度のいい演技で、舞台を明るくしました。これもまた、愛希れいかさんにしかできない役でした。
 
再びバレリーナ役を演じたのが、現代劇の『カンパニー―努力、情熱、そして仲間たち―』。アルバイトをしながらバレリーナを目指す高崎美波を、爽やかに好演。あらためてバレエの技術の高さを痛感しました。
 
そして最後の役は、宝塚の代表作『エリザベート-愛と死の輪舞-』のエリザベート。自由を愛する純粋な少女が、国や立場や時代の波に揉まれ苦しみ、それでもブレずに生きようとした孤高のプリンセスの一生を、圧倒的な存在感と実力で見事に演じました。凜とした姿は美しく神々しく、輝かしい有終の美を飾りました。
 
 

愛希れいかの魅力

『愛聖女―Sainte♡d’Amour―』

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

キュートで可愛らしい役から、高齢の女性まで。これだけ幅広い役柄を演じられるトップ娘役がかつていただろうか…そんな風に思います。男役のトップスターが中心の宝塚で、愛希れいかさんがトップ娘役だったから生まれた企画もあったことでしょう。愛希れいかさんにしかできない役もあったでしょう。
 
一つ挙げるとするなら、『グランドホテル』のエリザヴェッタ・グルーシンスカヤでしょうか。往年のプリマの気品とプライド、引退間近の哀愁や憂鬱、感情の波との葛藤。若い男爵(球城りょう)に恋をしたとたん、溢れ出る女の喜びや自信。火照るように次々と変わる感情は、グルーシンスカヤという女性の生涯を浮かび上がらせ、描かれていない年月さえ感じる広がりを見せてくれました。
 
また抜群のダンス力から、ダンサーとしての活躍も素晴らしい愛希れいかさん。一場面を任され、大勢を引き連れセンターで踊れる数少ない娘役です。
真紅のバタ・デ・コーラで踊った『激情』の情熱的なカルメン。『GOLDEN JAZZ』の野性的なアフリカン。『カルーセル輪舞曲』『BADDY-悪党は月からやって来る-』などの妖艶なダルマ姿。バレリーナ役で見せたすべて。
そして、龍真咲さんとはエレガントに、球城りょうさんとはダイナミックに、デュエットダンスを楽しませてくれました。
 
男役から娘役に転向し、6年もの長きにわたりトップ娘役であり続け、娘役では異例のバウホール主演や写真集発売と、多くの伝説も残しました。
確かな実力と豊かな感性。それらを演出できる芸術的ともいえる身体をもって、見事に表現した数々の魅惑的な役。そのどれもが瑞々しいものでした。
 

憧花ゆりの

憧花ゆりのさんは、2000年、花組公演『源氏物語 あさきゆめみし』『ザ・ビューティーズ!で初舞を踏みました。
憧花さんがまだまだ下級生の頃、大勢の中で踊っていたその姿に「なんてセンスのいいダンスをする人なのだろう……」と引きつけられたのを覚えています。そして気づけば、作品を膨らます舞台人になっていました。
芝居、歌、ダンスと三拍子揃った実力派。ヒロインを務めるいわゆる路線の人ではありませんが、脇役でもない。唯一無二の存在でした。
 
『HAMLET!!』のローゼンクランツ、『ME AND MY GIRL』のマリア、『ルパン―ARSÈNE LUPIN―』のフラディ、『PUCK』のタイテーニア、そして最後の役『エリザベート』のゾフィー。台詞ひとつひとつに重みがあり、刺激的で知性的。どれも“にんまり”としてしまうほどの快感と感動を得るものでした。おそらく多くの座付き脚本兼演出家が「憧花ゆりのにやらせたい……」と役を書いたことでしょう。
組長として組をまとめ、下級生の手本となり、舞台人として作品の質を上げた憧花ゆりのさん。退団は、非常に残念です。
 
そして愛希れいかさん。
しなやかさと強さ、可愛いとカッコイイを比例させた、清く可愛く逞しい月のお姫様。
輝かしい功績を数多く残しましたが、やはり一番心に残るのは、こぼれるような可憐な笑顔でしょうか。
愛希れいか――ステキな表現者でした。
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