芸術の秋、いかがお過ごしでしょうか。今月は待望の舞台開幕に加え、ミュージカルが特集される二つの映像イベントをご紹介。観劇レポートなど、取材記事を少しずつ更新していきますのでお見逃しなく!
 
(筆者Marino Matsushimaをツイッターでフォローしていただけますと、記事更新時にお知らせします)
 
10月の注目!ミュージカル
『るろうに剣心』←観劇レポートUP!
『深夜食堂』←壮一帆さん・愛加あゆさんトークショー&観劇レポートをUP!(2頁
 
10月の注目!映像イベント
「アジア8K映像演劇祭」←現地取材レポートをUP!(3頁
「東京国際映画祭」(3頁)
 
別途特集のミュージカル
『生きる』←新納慎也さん&小西遼生さん、ジェイソン・ハウランドさんインタビュー、稽古場レポートをUP!
『ノートルダムの鐘』←佐久間仁さん・清水大星さん・光田健一さんインタビュー名古屋公演観劇レポートをUP!
『スリル・ミー』←成河さんインタビューをUP!
『レ・ミゼラブル』←佐藤隆紀さんインタビューを掲載予定
 

“早霧剣心”が奇跡の復活『るろうに剣心』

10月11日~11月7日=新橋演舞場、11月15~24日=大阪松竹座 公式HP
 
『るろうに剣心』の見どころ
『るろうに剣心』

『るろうに剣心』

幕末から明治へと、大きな時代のうねりに翻弄されながらも真摯に生きる人々を描き、シリーズ累計発行部数6000万部という驚異的な人気を誇るコミック『るろうに剣心』。2016年に宝塚歌劇団によって上演され、好評を博した舞台が、今回は男女キャストによって上演されます。
 
主人公・緋村剣心を演じるのは、宝塚版でも同役を演じた早霧せいなさん。涼やかな存在感と美しい剣さばき、絶妙なコメディ・センスが高く評価された早霧剣心が、男女混合キャストの中でどう輝くか、注目されます。
『るろうに剣心』

『るろうに剣心』

共演陣には、今回、舞台版のために新たに登場する加納惣三郎役に松岡充さん。ほか、上白石萌歌さん、廣瀬友祐さん、三浦涼介さん、上山竜治さん、植原卓也さん、愛原実花さん、松岡広大さんら多彩な顔触れが勢ぞろい。新橋演舞場と大阪松竹座という“和の殿堂”でどんな幕末エンタテインメントが誕生するか、目が離せません。
 

『るろうに剣心』観劇レポート:歌舞伎の手法も取り入れた、絶妙のエンタテインメント舞台

浪漫活劇『るろうに剣心』

浪漫活劇『るろうに剣心』

明治11年・東京。神谷活心流の師範代・神谷薫は流浪人(るろうに)の剣心という男と知り合い、道場に招く。屈託ない青年と見えた彼には、かつて幕末の京都で“人斬り抜刀斎”と呼ばれ、恐れられた過去があった。今は“不殺(ころさず)の誓い”をたて、弱者のために剣をふるう彼に薫はいつしか惹かれてゆくが、二人は運命に引き寄せられるように謎の実業家と関わることに。実業家の正体とは、そしてそのもくろみとは……?
浪漫活劇『るろうに剣心』

浪漫活劇『るろうに剣心』

長編の原作漫画のうち《東京編》をベースとした今回の舞台には、いずれ劣らぬ強烈な個性のキャラクターが多数登場。ある陰謀を巡って複雑に絡みあってゆく彼らを、大劇場公演ならではの豪華キャストが体現します。

彼ら一人一人にしどころがあり、キャッチ―なナンバーを織り交ぜながら時にしっとり、時にエキサイティングに展開する構成も巧みですが、今回は新橋演舞場、大阪松竹座での公演ということもあり、六法風の花道引っ込みや宙乗り風の登場、すっぽんの活用など、歌舞伎の手法が取り入れられているのも楽しい趣向。脚本・演出の小池修一郎さんの面目躍如と言えましょう。
浪漫活劇『るろうに剣心』

浪漫活劇『るろうに剣心』

しかし今回の舞台の第一のポイントと言えば、やはり主人公の剣心を宝塚版から引き続き、早霧せいなさんが演じている点。加納惣三郎役の松岡充さん、斎藤一役の廣瀬友祐さん、四乃森蒼紫役の三浦涼介さんら、華々しい面々が変革と混沌の時代に生きる者たちを男くさく演じる中で、ほどよくユーモラスで力みがなく、いっぽうで立ち回りの美しい“早霧剣心”はひときわ清々しく、絶対的な正義の人として際立ち、“男が演じる男役”たちと並んでも全く違和感がありません。
浪漫活劇『るろうに剣心』

浪漫活劇『るろうに剣心』

加納役の松岡充さんは歌唱、所作に独自の美学を覗かせ、原作には登場しないこの役柄を加納としての“筋”を通して表現。“驚異の再現性”で斎藤一を演じる廣瀬友祐さんは、新選組から体制側へと立場を変えた彼のニヒルさ、こだわりを力強く描いています。
浪漫活劇『るろうに剣心』

浪漫活劇『るろうに剣心』

四乃森役の三浦涼介さんは登場の度に場内の空気を変え、御庭番衆を率いて歌う“最強という名の華を添えて”では、孤高のオーラの中に秘めた情熱がさく裂。“死の商人”こと武田観柳役の上山竜治さんは、混沌の時代に高揚し、金に憑りつかれた商人をエキセントリックに体現。『ミス・サイゴン』の“アメリカン・ドリーム”を彷彿とさせるソロ・ナンバー“これがガトリング砲”での狂気を帯びた歌唱は強烈なインパクトを残します。
浪漫活劇『るろうに剣心』

浪漫活劇『るろうに剣心』

剣心の仲間となる怪力の喧嘩屋・相楽左之助役の植原卓也さんは、豪快さと身体能力を生かしたキレのある動きが魅力的。名乗りをあげるくだりでは、歌舞伎の見得をギャグではなく、きちんと咀嚼して行っているのが流石です。“剣心の影”として、彼が抜刀斎と呼ばれていた頃を演じる松岡広大さんは、スピーディーかつダイナミックな立ち回りで躍動。一つの役の過去と現在を二人の、それも今回は男女の俳優が演じる妙を際立たせます。また瓦版売りと実業家宅に出入りするフランス人・セバスチャン役の遠山裕介さんが歌、居ずまいともに抜群の安定感。
浪漫活劇『るろうに剣心』

浪漫活劇『るろうに剣心』

女性陣では上白石萌歌さんが薫役の善良さ、まっすぐな魂を体現し、高荷恵役の愛原実花さんは長い黒髪がよく似合うのみならず、医師の家の令嬢としての知性とその境遇ゆえの憂いを的確に表現。また神谷活心流に入門する少年・弥彦役の(トリプルキャストのうちこの日の出演)大河原爽介くんが明瞭な口跡で間合いも良く、将来、弥彦が一門にとって中心的な存在になってゆく予感さえ抱かせます。さらに山形有朋役の宮川浩さん、その妻役・月影瞳さんら実力派がしっかりと舞台を引き締め、隙はありません。
 
休憩を含めて3時間程度の上演時間ながら、目の前で次々起こる事態にハラハラドキドキするうち、あっという間に幕切れとなる本作。爽やかな余韻が残ることで三世代鑑賞にもふさわしく、今年を代表するエンタテインメント舞台の一つであると言えましょう。
 
*次頁で『深夜食堂』をご紹介します!
 

“ほっこりできるミュージカル”の決定版⁈『深夜食堂』

10月26日~11月11日=シアターサンモール
 
『深夜食堂』の見どころ
『深夜食堂』

『深夜食堂』

2006年に誕生、翌年から漫画誌で連載されている人気漫画『深夜食堂』。新宿と思しき街の小さな料理屋で展開する人情ドラマは日本のみならず世界にもファンを生み出し、15年には韓国、17年には中国でドラマ化されるほどの人気に。

ドラマに先駆けて12年に韓国で生まれたミュージカル版が、荻田浩一さん(『王家の紋章』)の演出、高橋亜子さん(『ビリー・エリオット』)の訳詞・日本語台本で初上陸します。
 
日本版ドラマでは小林薫さんが演じたマスター役には筧利夫さん。ほか壮一帆さん、愛加あゆさん、田村良太さんら華やかな顔触れが、意表をついた(⁈)役柄で登場。新たな一面を見せつつ、観る者を時に笑わせ、時にほろりとさせてくれそう。

観劇後はきっと小料理屋に立ち寄りたくなるミュージカルです。(公式HPには本作とのタイアップメニューを設定している飲食店MAPも掲載)
 

観劇レポート:格別の“臨場感”の中で、観客の心に灯をともす人情ミュージカル

『深夜食堂』

『深夜食堂』

ピアノの音色に重なるように始まる、男のモノローグ。大鍋の中の豚汁をかき回しながら、マスターの彼(筧利夫さん)は看板のないその店が夜の12時に始まり、“深夜食堂”と呼ばれていること、そして決まっているメニューは豚汁定食だけで、あとは頼まれればだいたいなんでも作っていることを話す。つぶやきは歌に変わり、舞台には常連たちが一人、二人と増えていき……。
『深夜食堂』

『深夜食堂』

ピアノ、ギター、チェロ、パーカッションという4人編成バンドによる、時にしっとり、時に躍動感ある音色に彩られながら、新宿の劇場で演じられる新宿の食堂の物語は、奇をてらわない荻田浩一さんの演出のもと、この店を訪れる様々な人々の人生をスケッチしていきます。
『深夜食堂』

『深夜食堂』

惚れっぽいストリッパーのマリリン(エリアンナさん)に、彼女の大ファンである忠(藤重政孝さん)、ヤクザの剣崎竜(小林タカ鹿さん)とその舎弟ゲン(碓井将大さん)、ゲイバーのママ、小寿々(田村良太)や“お茶漬けシスターズ”と呼ばれるOL3人組(壮一帆さん、谷口ゆうなさん、愛加あゆさん)、ストリートミュージシャンのみゆき(AMIさん)などなど……。
 
それぞれ、何かしらのコンプレックスや事情を抱えながらも決定的に不幸というわけではない、どこか親しみを抱かせるキャラクターが次々登場するこの舞台、日本の歌謡曲風からミュージカル調までヴァリエーション豊かな音楽(キム・ヘソンさん)も魅力的ですが、何より生き生きとしたキャラクターたちが見どころです。
 
”変化球キャスティング”の妙
『深夜食堂』

『深夜食堂』

筧利夫さん演じる、寡黙でどことなくミステリアスだが器の大きさが滲むようなマスターに、エリアンナさん扮するおおらかなストリッパー、碓井将大さんが演じる、多分にわざと悪ぶってみせるヤクザの舎弟など、登場する一人一人が可愛げたっぷり。夜な夜な12時過ぎに新宿の路地裏に出没するOL役に壮一帆さん、愛加あゆさんという清潔感溢れる元・宝塚トップスターコンビを、20数年ゲイバーを経営してきたママ役にまろやかな歌声が魅力の若手俳優・田村良太さんを配した“変化球”のキャスティングも効果的です。
 
前述した以外にも多くのお客が登場するため、一人何役もかけもちし、芸達者なところを見せるキャストも。中でも小林タカ鹿さん演じる影のあるヤクザと、爽やかなマリリンの新恋人キミくんの落差にはびっくり。壮一帆さん演じるアイドル歌手のコケティッシュなかわいらしさ、愛加あゆさん演じる忠の母の“枯れた味”、碓井将大さん演じるサラリーマンが、とある悩みを克服しようとするシーンでの思いっきりの良さも印象的です。

”きっとお腹が空く”展開に⁈

後半のとあるシーンでははじめに醤油、続いてとある食品の香りが場内に漂い、劇中登場した料理を大いに補足説明。たとえ満腹状態で来場した方も食欲を刺激されずにはいられないでしょう。人情芝居でぽっと心に灯をともした後は、ふらりと劇場界隈の飲食店へ……という方が続出しそうな、ミュージカル版『深夜食堂』です。

 

壮一帆さん、愛加あゆさんトークショー・レポート

(右)壮一帆 元・宝塚歌劇団雪組トップスター。14年に退団後は『エドウィン・ドルードの謎』『アダムス・ファミリー』等の舞台、TVドラマなど幅広く活躍。(左)愛加あゆ 元・宝塚歌劇団雪組トップ娘役。14年に退団後は『王家の紋章』『ブロードウェイと銃弾』等の舞台で活躍している。

(右)壮一帆 元・宝塚歌劇団雪組トップスター。14年に退団後は『エドウィン・ドルードの謎』『アダムス・ファミリー』等の舞台、TVドラマなど幅広く活躍。(左)愛加あゆ 元・宝塚歌劇団雪組トップ娘役。14年に退団後は『王家の紋章』『ブロードウェイと銃弾』等の舞台で活躍している。

本作の日本初演を記念して、9月末に行われた壮一帆さん、愛加あゆさんのトークショー。いったいどんな作品に仕上がりそうなのか、そしてお二人が谷口ゆうなさんとのトリオで演じる“お茶漬けシスターズ”とは?! 食堂という作品の舞台にちなんで食べ物トークなども差し挟みつつ、興味深いエピソードが続々登場。お二人の人柄そのままに、和やかで笑いが絶えなかったひとときをレポートします!(司会は筆者・松島がつとめました)
 
「宝塚時代とはまた違う感覚の共演を楽しんでいます」
 
――お二人は元宝塚歌劇団雪組のトップスターコンビですが、最近は女優として共演されています。お互い、どんな感覚でしょうか?
 
壮一帆さん(以下、壮)「女優としての共演はこの前、姉妹役で出演した『マリーゴールド』という作品が初めてでした。そのときは確かにその立ち位置で混乱することもありました。が、今回は2回目なので、お互い女優としてのスタンスをもってお稽古に臨んでいます。今はまったく違和感はないですね」
 
愛加あゆ(以下、愛)「前回ご一緒させていただいたときは、宝塚の時とは全然違う関係性で稽古場にいさせていただくということにはじめは緊張していました。今回も(壮さんには)助けていただくことばかりですが、頑張ってやっています」
 
――今回はほぼ同年齢のお役なのですね。
 
壮「そうなんです。劇中、年齢を自称しているところがあって、ま、アラフォーです(笑)」
 
――原作については、以前からご存じでしたか?
 
壮「私はこの作品が決まってからドラマ版と映画を全部観まして、今は稽古場で漫画を読んでいます」
 
愛「私もドラマ版と映画版を観て、漫画のいいところを抽出して映像化しているなと感じました」
 
「原作のしっとり感が楽曲にみごとに反映されています」
気取らず、機知に富んだ壮さんと、そんな壮さんへの自然な憧憬がうかがえる愛加さん。お二人のトークは息もぴったり。

気取らず、機知に富んだ壮さんと愛加さんのトークは、息もぴったり。

――『深夜食堂』というと、私などはドラマ版の寡黙な小林薫さんのイメージが強かったので、ミュージカル化と聞いて非常に驚きました。
 
壮「私も驚きました。うん?どの瞬間で歌うんだろう、と(笑)。でも、実際に取りかかってみると、『深夜食堂』の持っている本来の奥深さ、しっとり感が楽曲にとてもよく反映されているし、韓国で作られたのに、日本の歌謡曲のニュアンスも盛り込まれていて、私たちが聞いてもすごく馴染みやすいんです。そっと寄り添ってくれそうな優しい感じの曲ばかりで、見終わったときにきっと口ずさんでいただけるんじゃないかな」
 
愛「そうしていただけたら嬉しいですね」
 
壮「面白い曲もありますよ。ひたすら“たらこ”とか“サンマ”を連呼したり(笑)」
 
愛「ぜったい覚えられます(笑)」
 
――本作は新宿界隈にあるとある食堂で、マスターと常連客たちが繰り広げる人情劇ですが、そのなかでお二人が演じるのは?
 
愛「私たちと谷口ゆうなさんの三人組について、台本に書いてあるのは“いきおくれの三人組”(笑)」
 
壮「劇中、名前は出てこないのですが、あゆっちはいつも明太子茶漬けを食べていて、私は梅茶漬け、谷口ゆうなちゃんは鮭茶漬け。なので、明太子、梅、鮭と覚えていただければ大丈夫です(笑)。で、三人とも理想の男性を待っていて、店ではいつもお茶漬けを食べながら、現実の男性に不満を言っている。演出の荻田さんからは最初に、居酒屋で周りを省みず騒いでる女たちのイメージで、と言われました(笑)」
 
演じるキャラクターは地に近い?ほど遠い?
 
――恋愛観はそれぞれですか?
 
壮「それぞれですね。私は三人の中で一番ファンタジックで……って、どうしてそこで笑いが起きるんですか!(笑)。少女漫画やドラマにでてくるかっこいい男性が、梅にとっての理想なんです」
 
愛「壮さんが、きゅんってされるんです(笑)。で、鮭は自分を受け入れてくれる男性を待っていて、私が演じる明太子は……」
 
壮「現実的に見えて、理想が高い(笑)」
 
愛「条件がたくさんあるんですよ(笑)」
 
――共感できますか?
 
愛「う~ん、どうでしょうか」
 
壮「でもあゆっちは末っ子らしく、物事を冷静に見ているところがあるよね。私は一人っ子だから妄想癖(?)がある。そういったところに女優スパイスを盛り込んで、役作りをしていくと思います」
 
――荻田さんの演出はいかがですか?
 
壮「私は一年ぶりなんですが、ディスカッションというか、心情の流れをみんなで共有してから振付にしても歌唱にしても始めてくださるので、とても分かりやすい。
 
“宝塚あるある”の一つに、細かく(演出を)つけていただいてから動き始めるということがあるんですが、外の世界では自分はこう動きたいというものがはっきりしている方も、まずはお好きに動いて下さいという演出家さんもいらっしゃいます。そんななかで丁寧につけてくださる、その上でこちらの意見も聞いてくださる荻田さんのやり方は、私にはとても有り難いですね」
 
本役以来にも意外なキャラクターを演じる……かも⁈
後輩思いの壮さんがさりげなく愛加さんを気遣い、愛加さんもしっかりと受け止めて先輩愛を語る様に、場内はほっこり。

後輩思いの壮さんがさりげなく愛加さんを気遣い、愛加さんもそれをしっかりと受け止めて先輩愛を語る様に、場内はほっこり。

――いろいろなキャラクターが登場しますが、お二人のお気に入りは?
 
愛「私は小寿々ちゃんです」
 
壮「私も。私は今でも、一つの作品の中で自分が(宝塚の)男役だったらどの役をやりたいかなと考えてしまって、『マリーゴールド』の時も今回もそうなのですが、その視点で言っても小寿々ちゃんですね。彼女は新宿で20数年やってきているゲイのママ。いつも甘い卵焼きを食べているキャラクターなのだけど、本作の一番のヒロインですね。恋に落ちた瞬間とかとてもかわいくて、わかる。ドラマ版では年配の方が演じていらしたけど、今回は田村良太君という『レ・ミゼラブル』でマリウスをやっていた方が、美声で歌っていらっしゃいます。
 
もちろん、ほかの皆さんも本当に役にはまっていらっしゃって、マスター役の筧さんは本読みの時からぴったりでした。気さくにみんなに声をかけてくださって、既に筧さんを中心にみんなまとまりつつ、個性を出している感じです」
 
――筧さんは実際お料理上手なのでしょうか?
 
壮「そこがまだわからないんですけど(笑)、でも昨日、稽古を見ていたら、冒頭でマスターが豚汁を作るところで、ずーっとかき回していらっしゃって。それを見て、もしかしてあんまりお料理されない方なのかな?とも思いました(笑)」
 
愛「見てますねぇ(笑)」
 
――やくざ役も登場するのですよね。
 
愛「小林タカ鹿さんが演じていらっしゃるんですが、今回、私たち含め何人かはいくつかの役を兼ねている中で、小林さんは6役くらい担当されていて、声のトーンにしても喋り方にしても、稽古で全部変えていらっしゃるんです。すごい役者さんだなと思いました」
 
――兼ねるといえば、台本上、ストリップのシーンがあって、ストリッパーが数人いらっしゃるようですが、ひょっとしてお二人もその中に⁈
 
壮「それは観てのお楽しみです。女優として歩き始めた私たちが、ストリッパーをやるのかどうか。ま、楽しみにお待ちください。その他にも、私たちは今回、新しい挑戦になる役をやっていますよ」
 
愛「(これまでの引き出しに)ない役なので、どうしようって……」
 
壮「……と思ってるのが手に取るようにわかるので、彼女がどうアプローチしていくのか、同じ女優として楽しみです」
 
――お二人は本当に仲がいいですね。
 
壮「はい、仲いいですよ」
 
365日、毎日でも食べたいものは?
 
――居酒屋が舞台ということでうかがいますが、お二人は食べ物について何かこだわりはありますか?
 
壮「基本、美味しいものを一人でなく、みんなで食べるのが好きですね。あとは、365日でも食べられるほど、栗ご飯が好きです! 今年も既に、実家から冷凍パックで送ってもらっています。父が軍手をはめて剥いた栗を、母が栗ご飯にして小分けにしてくれて。毎日ウキウキしながら食べています」
 
愛「ご両親の愛がこもっていますね。私はこういうとき、これまでカレーの話ばかりしていましたが(笑)、最近担々麺にはまっているんです」
 
壮「宝塚の食堂に担々麺、あったよね」
 
愛「お勧めのお店があるので、今度トライしてみてください」
 
壮「じゃあ今度お茶漬けシスターズで行こうか」
 
――PVでも実際にご飯を召し上がっていますよね。
 
愛「ロケ地になった居酒屋さんが、その場で作ってくださったんですよ」
 
壮「お茶漬け美味しかったなぁ」
 
宝塚時代には想像も出来なかったシーンに挑戦中
 
――PVでは本編の抜粋?と思われるようなシーンも登場しますね。
 
壮「私たちが喧嘩してる場面ですね。私が“明太子”の元カレとできてしまって、それによって二人がものすごい喧嘩をするという、(宝塚でコンビを組んでいた)昔なら考えられないことが(笑)。最初、台本を読んであゆっちは“喧嘩を⁈”と震えてたよね(笑)」
 
愛「ほんとですよ!」
 
壮「『マリーゴールド』でも姉妹喧嘩のシーンがあったけれど、それとも180度違う暴言を吐いていて、声がつぶれるんじゃないかというくらいすごく頑張っていて。(元・娘役としては元・男役の自分に対して)無意識のうちに遠慮したりということがあるのは仕方ないと思うけれど、それを今回、あゆっちが自分自身の力でどう乗り越えていくのか、私個人としても楽しみなところだし、ファンの方も楽しみにされてるんじゃないかと思います。
 
それにね、『マリーゴールド』のとき、(宝塚)現役時代の私たちを知ってる方たちが観に来てくださって、お手紙の中で“愛加さんが女優としてすごく変わられた”と言う意見が多かったんですよ。相手役として私も嬉しいなと思いつつ、だったら私ももっとがんばらなきゃ、と思えました」
 
――今、愛加さんには無意識の遠慮があるかもと壮さんがおっしゃいましたが、愛加さんとしては、いつもベースにあるのは壮さんに対する憧憬や尊敬といったことでしょうか。
 
愛「宝塚の時は(組の)みんなが壮さんに向かってひとつに走ってきたけれど、『マリーゴールド』の時にもそういう空気があって、みんなが壮さんのことを大好きになっていました。宝塚では、上級生が下級生に教えるということがあったけれど、(退団すると)そういう文化がない稽古場も多いんですね。
 
でも壮さんは一人一人を見て、よかったところを言ってくださったり、悩んでいるときに手をさしのべてくださったりして、人としても舞台人としても先輩としても、尊敬することばかりなんです。今回も改めて、壮さんとご一緒させていただけるのは自分が舞台を続けていくに当たり、本当にありがたい環境だなと感じています」
 
壮「語ったねぇ(笑)」
 
“こういう居酒屋、アリだよね”と思っていただける舞台に
トークショー後はサイン会も開催。ファンたちとの和やかな交流の場となりました。

トークショー後はサイン会も開催。ファンたちとの和やかな交流の場となりました。

――お二人の素敵な関係性が垣間見えて、こちらも心温まります。さて、稽古は今、どんな状況でしょうか。
 
壮「立ち稽古に入ったところですが、今、私が思っているのは、本作は韓国でミュージカル化されたので、おそらくどういうところで音楽に入っていくかといったテンションの持っていき方が、日本的な感覚と違うところがあるかもしれない。そのあたり、私たちがやっていくなかで心情的にノッキングを起こさないよう、滑らかにしていく作業が必要になっていくのかなと思いますね」
 
愛「本当にその通りだと思ってます」
 
壮「でも作品本来の良さをねじまげないように、荻田さんの指示のもと、創っていく事が出来ればと思いますし、何より最大の魅力は、登場人物たちのエピソードであったり、そこにでてくる食べ物の数々。ウィンナーであったり、ミディアムレアに焼いたたらこだったり、いろいろな食べ物が出てきますので、いつも以上に(観ていて)お腹が空くと思います(笑)。そういうささやかなものにいとおしさを感じられるのが、本作の最大の魅力かもしれません」
 
愛「物語設定同様、新宿の劇場で上演するので、見終わったあとに似たような店に入るのも面白いんじゃないかな。壮さんも稽古場で“こういう居酒屋、ありだよね”とおっしゃりながら見ていますよね。お客様もご覧になってほっこりしていただけたら嬉しいです」
 
――では最後に、皆さんにメッセージをお願いします。
 
壮「いろいろ聞いていただくうちに、皆さんのご期待も高まってきていると思いますが、さらにその上をいくものを目指して、出演者一同、一丸となって頑張りたいと思います。大切な方と観に来るもよし、一人でいらして大切な人を思い出して連絡をとるもよし。そんなきっかけのひとつになればいいなと思っていますので、ぜひ皆さん、楽しみにお待ちください」
 
愛「ミュージカル『深夜食堂』が、皆さんの人生にとって少しでも明るく、心に灯りがともるような作品になればと思っています。何度でも見に来ていただけたら嬉しいです!」
  
*次頁で「アジア8K映像演劇祭」「東京国際映画祭」をご紹介します!
 

話題の舞台が迫力の映像で楽しめる「アジア8K映像演劇祭」

10月20~21日=坊ちゃん劇場
 
「アジア8K映像演劇祭」の見どころ
アジア8K映像演劇祭

アジア8K映像演劇祭

芸術と観光の融合を図り、平成17年の開場以来、オリジナル・ミュージカルを意欲的にロングランしてきた愛媛県東温市の「坊ちゃん劇場」。現在は羽原大介さん作・岸田敏志さん作曲『よろこびのうた』を上演中のこの劇場で、アジア各国の話題の舞台を選りすぐり、日本が誇る超高精細8Kカメラで撮影した映像を上映するという、世界初のイベントが開催されます。
韓国ミュージカル『笑う男』

韓国ミュージカル『笑う男』

記念すべき第一回の今回は、同劇場の『よろこびのうた』はもちろん、海宝直人さん主演『ポストマン』(2017年)、来年には日本版も上演される話題の韓国ミュージカル『笑う男』(2018年)、ドストエフスキーの長編小説を100分の法廷劇ミュージカルに仕上げた韓国発『カラマーゾフの兄弟』(2018年)など、ミュージカル・ファンにとっては見逃せない作品ばかり。
韓国ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』

韓国ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』

入場無料、要予約(劇場 電話:089-955-1174)とのことですので、温泉旅行も兼ねてぜひ出かけてみてはいかがでしょうか。(公式HP上では締切日が設定されていますが、予約はまだ受付中とのこと)
 

アジア8K映像演劇祭レポート

『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』会場となった愛媛県東温市の坊っちゃん劇場(C)Marino Matsushima

8Kとは“劇場最後列から視力4.0で観るような体験”
 
10月20~21日、超高精細8Kカメラで収録されたアジア各国の舞台映像が、愛媛県東温市の坊っちゃん劇場に集結。

8K撮影の舞台映像とは、単に”きれいな画質”で収録される舞台というレベルではなく、アップなどはなく“全編が引きでの画面”で収録されても隅々までクリアに見えるのが第一の特徴。スクリーンが大きければまるでそこで俳優たちが実際に演じているような臨場感で観ることができ、小さい画面でも、例えば個人のタブレットなどで視聴する際、注目した箇所を拡大してもクリアに観られるのが第一の特徴です。

今回はこの8Kの特色を生かし、各舞台をすべて引きの状態で(全景を)撮影し、400インチという巨大スクリーンで上映。世界初の試みとして注目を集めましたが、その前日には松山市の全日空ホテルにて、記者会見とシンポジウムが開催されました。
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』記者会見

まず記者会見では、加藤章・東温市長からの挨拶に続き、坊っちゃん劇場を運営する(株)ジョイ・アート代表の越智陽一さんが概要を説明。8Kの舞台映像を観ると客席の最後列から視力4.0で観るような感覚になれること、今回は“アジア”だが、2020年には“世界”8K映像演劇祭の初開催を目標としていることが語られました。

また今回上映される『よろこびのうた』演出家の錦織一清さん、『カラマーゾフの兄弟』出演の若手俳優イ・フィジョンさん、『歌ザイ(ニンベンに子)戯』(台湾オペラ)のプロデューサー、主演の唐美雲(タン・メイユン)さん、韓国エンタテインメント・ナビゲーターの田代親世さんが、期待の言葉を贈ります。
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』記者会見に出席した台湾の唐美雲さん。

演劇の“新たな観方”が生まれる予感
 
引き続き同会場で行われたシンポジウムでは、8Kを使った番組を手掛けるNHKエンタープライズの関山幹人エグゼクティブプロデューサー、道後温泉旅館組合副理事長の河内広志さんが加わり、『カラマーゾフの兄弟』からはイ・フィジョンさんに代わり、プロデューサーのキム・スジンさんが登壇。
シンポジウムに出席した『カラマーゾフの兄弟』プロデューサー、キム・スジンさん

シンポジウムに出席した『カラマーゾフの兄弟』プロデューサー、キム・スジンさん

まずは加藤市長より、今回のイベントのルーツには“アートヴィレッジとうおん構想”という、文化による町おこしがあり、そこに8Kという新たな要素が加わったという経緯が語られ、“(文化に力を入れるだけでなく)自然に恵まれ、心も体も元気になれる東温市にぜひ足を運んで”との呼びかけが。
 
続いて錦織一清さんから、東京生まれの自分は『よろこびのうた』がきっかけで母方の祖父が愛媛出身であることを知り、今では第二の故郷のように感じていること、また従来の舞台映像はディレクターの目線で収録されるため、少年隊の舞台で自分が一生懸命踊っていても映像ではヒガシのアップになっていたりと悔しい思いをしたこともある。しかし(高精細ゆえに)引きの画面が可能な8Kなら、今後は別な形で演劇が残っていくし、舞台を観たことのない人も8K映像をきっかけに実物を観ようと思えるかもしれない、8Kは演劇の敷居を下げてくれるのではないか。微力ながら自分も尽力したいと情熱的に語られました。
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』記者会見では台湾『歌ザイ戯』抜粋の上映も。

越智社長からは、そもそも映像演劇祭を思いついたのは、愛媛で映画を観たことがある人は多いが、舞台となると圧倒的に少ない。その違いは、ハリウッド映画は愛媛に来てくれるということ。かつて相撲やプロ野球もテレビ中継をきっかけとして全国的な人気を得たのだから、臨場感溢れる8K映像でブロードウェイなどのミュージカルを観てもらう場があれば、舞台に対する関心も広まるのでは、という思いだったというお話が。
 
それを受ける形で、NHKエンタープライズの関山氏から、8Kとは圧倒的臨場感をもって映像を楽しむために研究されたもので、もはやテレビという発想は忘れたほうがいい。目の前いっぱいに画面が広がる臨場感と、画素(の点)が見えないため、人間の脳では映像と本物の区別がつかなくなる、その2点を満たす技術で、パブリックビューイングのような大画面鑑賞と個人観賞の双方で広がっていくと思っている。主役だけでなく、脇役の方にも注目していただけるという意味で、新たな演劇の見方も生まれだろう。“生の舞台”とも、通常の舞台映像とも違う“第三の芸術”と言えるのではないか、と説明。
 
観光プロモーションにおける期待も
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』記者会見では韓国『カラマーゾフの兄弟』抜粋も上映されました。

では今回どんな作品が上映されるのかということで、田代さんが韓国ミュージカル『笑う男』『カラマーゾフの兄弟』を紹介。また、海外作品は言葉の壁があるが今回のように字幕付きの8K映像を観ることで、これまで海外ミュージカルを観たことがなかった人が実物を観てみたくなったり、逆に日本の素晴らしい作品を海外に見せることもできるのでは、と指摘されました。
 
ここで錦織さんから“(舞台の作り手としては)作品を8Kで撮影させてよと言われるようになったら名誉なこと。それを見越して(凝った)舞台セットを作るといったことも面白いのでは。坊っちゃん劇場を13年間、“作品第一主義”でやってきた越智社長がこの企画をスタートしているので、(映像をどう扱うかについては)大丈夫(信頼できる)と思っています“と補足コメントが入りました。
 
また道後温泉組合の河内さんは、以前から行政と組んで地域のプロモーションに努める中で、現地ではアートに力を入れてきたが、8Kはその映像保存に活用できそうだし、道後温泉には夕食後の過ごし方が見つからないと指摘されてきた中で、隣の東温市で年間250回も公演をしている坊っちゃん劇場の存在を知り、ぜひ連携していきたいと発言。様々な角度から8Kという最先端技術を使ったこの映像演劇祭の可能性が語られ、刺激的な空気感の中でお開きとなりました。
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』前夜祭レセプションにて。韓国『カラマーゾフの兄弟』と台湾『歌ざい戯』のスタッフ、キャストが壇上で挨拶。(C)Marino Matsushima

シンポジウム後には関係者が一堂に会してのレセプションが開かれましたが、壇上に立った方々の熱いスピーチからは、人口34000人ほどの東温市で、公営ではなく民営の劇場が成し遂げようとしている世界初の試みに対する期待と興奮が滲み、13年間、公演を続けてきた坊っちゃん劇場が、確実に地域にミュージカル文化を根付かせ始めていることがうかがえます。
 
映像演劇祭では“まるで引っ越し公演を観ているよう”な臨場感を体験
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』期間中は東温市のゆるキャラ、いのとんも出勤(⁈)。場を和ませていました。(C)Marino Matsushima

翌日、映像演劇祭が開幕し、まずは坊っちゃん劇場の演目『よろこびのうた』(実際のカンパニーはこの時期、徳島で公演中のため不在)を鑑賞。400インチという大スクリーンに映し出された情景はかなり実寸に近く、遠近感もたっぷり。NHKエンタープライズの関山さんが言われた通り、映像特有のドットが見えないため、次第に目の前にあるものが映像なのか実際の人間なのか、判然としない感覚になっていきます。収録時にたまたま俳優が噛んだ台詞にも、思わずはらはら。若干、カメラの光量の調節の具合か、暗く感じられる箇所もありましたが、実際の舞台を観る際と同様の体力消耗と感動を実感できたのが何よりの驚きでした。(作品内容については後日掲載の「11月の注目!ミュージカル」で、作曲・岸田敏志さんへのインタビューとともに掲載します)。
 
もう一本、話題の韓国ミュージカル『笑う男』に至っては、絢爛豪華なセットに観ているこちらが飲み込まれるような感覚に。『レ・ミゼラブル』『ノートルダム・ド・パリ』のヴィクトル・ユゴー原作らしく、人間の業と希望をワイルドホーンの力強い音楽で描き、演出のロバート・ヨハンソンの、(最近、日本でも手掛けた)『マリー・アントワネット』同様、直球の政治的メッセージがずしりとお腹に響きます。
 
ある悲しい事情で“笑う男”と呼ばれる主人公が後半、アイデンティティを取り戻して歌うナンバーの、ワイルドホーン史上最強⁈というほどのパワフルなメロディ、そして新人俳優パク・ガンヒョンの声の驚異的な伸びにも引き込まれますが、人間のモラルはどこへいったのか、社会はこのままでいいのかというメッセージを一身に背負い、激しい感情の変化を見せる主人公は見るからに難役。来年の日本版では浦井健治さんがキャスティングされていますが、シェイクスピア劇等、様々な演目を経験し演技力を培って来ている彼に託されているものの大きさが感じられます。
 
いっぽうで彼の養父役は、韓国版では嘆きの多い“老け役”ですが、山口祐一郎さんはまた異なるスケール感をもって演じてくれるのではないか。さらにはじめは曲者的な色合いを帯びて登場するが、ストーリーの進展とともに本作の一縷の望みを象徴するような存在になってゆく女公爵役を、朝夏まなとさんはどう演じるだろうと、時に想像を巡らせつつ、迫力の鑑賞体験を楽しみました。
 
合間の時間には、坊っちゃん劇場の越智代表、そして翌日上映の韓国創作ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』のキム・スジンプロデューサー、俳優のイ・フィジョンさんにも取材。
 
目指すのは“演劇界のカンヌ映画祭”
『アジア8K映像演劇祭』

坊っちゃん劇場代表の越智良一さん(C)Marino Matsushima

越智さんに改めて今回の映像演劇祭開催の背景についてうかがったところ、最初のきっかけとしては、2012年の『誓いのコイン』ロシア公演が予想を遥かに超えた大好評(全公演が満席、カーテンコールは総立ち)で、これを映像化しておけばさらに多くの人に観ていただけるのにと思い、以降の公演は映像収録に力を入れてきたが、どうしてもカメラワークが入るため、作品の演出家から“この撮り方では私がお客さんに観てほしいものが入っていない、これは私の作品ではない”と言われることがあった。けれども8Kなら画面全部を入れることができると聞き、これだと思ったとのこと。
 
今回のラインナップについては、まず世界最高の演劇国と言われるロシアの作品を呼びたかったが、現地に2000以上ある劇場のほとんどが国立で交渉に時間がかかる。だがロシアのトップスターでモスクワに自分の劇場、劇団を持っている人がいると聞き、交渉をしたら「自分の作品を日本で観てもらえるなら嬉しい」と快諾された。

次に韓国の『カラマーゾフの兄弟』については劇場主と数年前に会った時には映像化に乗り気でなかったが、今年になって『カラマーゾフ~』が閉幕と決まり、その後も多くの人に観ていただけるならとOKが出た。『笑う男』も最初は難しそうだったが来年、日本版が上演されることもあって承諾され、台湾作品については台湾を代表する芸術ということで紹介され、100人以上出演する舞台は引っ越し公演が難しいが、こういう形で日本で観ていただけるならと快諾を得た。『よろこびのうた』と並ぶ日本のミュージカル『ポストマン』については制作会社と以前からお付き合いがあり、実現したのだそうです。
 
今後については日本でも人気のある韓国ミュージカルを一つの柱にしつつ、2020年の“世界”8K映像演劇祭に向け、英米の作品も取り入れていきたい。この作品を通して地元の人々、日本全国、海外のミュージカル・ファンに様々な作品を楽しんでいただき、舞台振興とともに地域の活性化にも役立ちたい。将来的には見本市も同時開催し、バイヤーも来場するようなフェスティバルを思い描いているそうです。「例えば東京国際映画祭のような?」と尋ねると、「(世界を代表する映画祭である)カンヌ映画祭ですね」と越智さん。
 
時間をかけて練り上げた『カラマーゾフの兄弟』
『アジア8K映像演劇祭』

『アジア8K映像演劇祭』のために来日した『カラマーゾフの兄弟』キャストの一人、イ・フィジョンさん。ミュージカル版『バンジージャンプする』等に出演している。(C)Marino Matsushima

今年4月までソウルで上演されたオリジナル・ミュージカル『カラマーゾフの兄弟』は、ドストエフスキーの長編小説を男性5人で演じるミステリー・タッチの作品で、緊密な空気感の舞台。小さいころから母親と観劇を楽しみ、大学では舞台制作を学んだというプロデューサー、キム・スジンさんはこれまではストレート・プレイを手掛け、ミュージカルは本作が初めてだったそうですが、自分としては両者には境界は感じておらず、人間の善悪や宗教などシリアスなテーマを扱う本作を舞台化するにあたり、この形式がふさわしいと思った。脚本家や作曲家、演出家と2年をかけ、ショーケース(試演会)を行いながら丁寧に作り上げたのだそう。

彼女がその歌声とルックスにほれ込んでショーケースからキャスティングしたというイ・フィジョンさんは、もともとは映画俳優志望だったが歌が好きで、芸術大学在学中にミュージカルのオーディションを受けてみて以来、ミュージカルに出演するようになった。初めて本作の台本を読んだときは難しいと感じられたが、役どころが気に入っている。いつか日本でも演じる機会があったら嬉しい、とのことでした。
 
8K映像演劇には確かに強烈なインパクトがあり、芸術的な面でも、アーカイブ的な面においても今後、舞台芸術の上演形態に革命を起こすことになるかもしれません。しかし8K映像演劇祭の目標はあくまで“大勢の人を巻き込むこと”だという越智さん。地元の人々、海外まで舞台を観に行くのは無理でも国内だったら観に行ってみたいという他県のミュージカル・ファンを軸として、内外からの道後温泉観光客、日本に招聘する作品を探すプロモーター(バイヤー)など、どこまで客層を広げてゆけるか。未知数の部分も多いだけに無限の可能性を秘めた演劇祭からは、今後も目が離せません。
 

今年はアジアの音楽映画特集が登場「東京国際映画祭」

10月25日~11月3日=六本木をはじめ都内各地で開催
 
「東京国際映画祭」の見どころ
『めくるめく愛の詩』(C)Amin Mohamad

『めくるめく愛の詩』(C)Amin Mohamad

例年、東京の秋を彩ってきた東京国際映画祭。31回目の今年は、CROSS CUT ASIA特集で「ラララ東南アジア」と題し、フィリピン・ラップからタイ歌謡まで、音で旅する東南アジア映画が一挙上映されます。

1970年代からの20年にわたる愛をミュージカル風に追った『めくるめく愛の詩』(インドネシア)など、西洋とはまた違う音世界が楽しめそうな作品ばかり。特に4時間におよぶフィリピンのアカペラ歌唱劇『悪魔の季節』は浄瑠璃のような雰囲気もあり、独特の世界観に引き込まれるかもしれません。 公式HP
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