新レパートリーが発表される度、劇場ファンの胸をときめかせてきた劇団四季。その新作は、15年にトニー賞4部門に輝いたミュージカル『パリのアメリカ人』です。この特集では製作発表に稽古場取材、開幕レポートと、誕生までの軌跡を取材。随時記事を追加していきますので、どうぞご期待下さい!

(筆者Marino Matsushimaをツイッターでフォローいただけますと、記事更新時にお知らせします)

*目次
  • ミュージカル『パリのアメリカ人』とは?
  • 製作発表レポート
  • 稽古場取材レポート&演出・振付家クリストファー・ウィールドン合同インタビュー(2頁
  • 開幕レポート(開幕後掲載)
 

ミュージカル『パリのアメリカ人』とは?

Robert Fairchild and Leanne Cope Photo by Tristram Kenton

Robert Fairchild and Leanne Cope Photo by Tristram Kenton

ガーシュインの楽曲に彩られた映画『巴里のアメリカ人』(1951年)をベースに、時代を第二次世界大戦直後に設定、人物造型にも深みを与えて、2015年にブロードウェイで初演されたミュージカル。
    演出・振付は、英国ロイヤル・バレエ団など数々の舞台に振り付けてきたクリストファー・ウィールドンが担当。様々な情景が流れるように描かれるオープニングや、クライマックスの14分にわたるバレエ・シーン等、演劇的かつ洗練された振付が絶賛され、トニー賞では振付家賞を受賞しました。

音楽面では映画で使用されているナンバーのみならず、ガーシュインのレパートリーから場面に合うものを厳選し、追加。目にも耳にも楽しく、演劇的な奥行きも備えたエンタテインメントに仕上がっています。
 

キャスト候補も登場!『パリのアメリカ人』製作発表レポート(9月3日)

製作発表にて。(C)Marino Matsushima

製作発表にて。(C)Marino Matsushima

9月3日、都内ホテルで行われた製作発表。この日はオリジナル・スタッフも出席とあって、座席は取材陣で埋め尽くされています。オンタイムで始まった会見ではまず、吉田智誉樹・劇団四季社長が挨拶。

ブロードウェイで本作を観劇した際、上質で大人向けの作品だとは思いつつ、ダンスの難度があまりにも高く、四季で上演するには大チャレンジだ、しかし逆に表現力が広げられると思った、と上演検討のきっかけを語りました。
 
ミュージカル版のポイントは3点

続いてはオリジナル・プロデューサー、スチュアート・オーケン氏の挨拶。

かつてディズニー・シアトリカルの副会長として『ライオンキング』『アイーダ』『ノートルダムの鐘(ドイツ公演)』に関わった彼は、以前から四季のプロ意識と仕事ぶりを知っていたが、今回は自分がプロデュースする作品で縁ができ、嬉しく思っているのだそう。50年代のハリウッド映画を舞台化するにあたり、
  • 「時代背景を明確にする←第二次世界大戦直後に設定し、戦争で苦しんだ若者たちの愛と希望の物語とする」
  • 「音楽面の変更←ガーシュイン財団の同意を得て、映画版の曲順の変更、編曲に加え、ガーシュインのレパートリーから3曲を追加」
  • 「ダンスを前面に出す←本作にはジャズ、タップ、シアターダンス、バレエと様々なダンスが登場し、特にクライマックスのバレエは単なる映画版の複製ではない、敬意を払ったダンスにする必要がある。そこでまれにみる情熱と才能の持ち主で、きっとミュージカルとバレエ界を融合できると思われたC・ウィールドンに演出・振付を依頼した」
という3つのポイントを説明。練り上げられた舞台は14年にパリのシャトレ座で初演、翌年ブロードウェイで開幕し、16年のトニー賞ではその年の最多ノミネートを受け、4部門で受賞したという経緯が語られました。
 
「人生の何もかもが美しい」と伝えるミュージカル
演出・振り付けのクリストファー・ウィールドン氏 (C)Marino Matsushima

演出・振り付けのクリストファー・ウィールドン氏 (C)Marino Matsushima


そのウィールドン氏は、「14年に本作の依頼を受け、とても驚きつつもわくわくしました。演出と振付を任せてくれたことに感謝しています。それまでダンスを通してストーリーを語ることには慣れていたが、台本のある作品に挑むのは新たなチャレンジで、リスクもありましたが、皆さんの協力もあってやり抜くことができました」と謝辞を述べた後、オーケン氏、脚本家のクレイグ・ルーカス氏とともにどうやって往年の映画を現代に届けるかを考え、第二次世界大戦直後という時代設定に行き着いたと説明。

「主人公のジェリーとアダムは兵役についていた人間で、その(悲惨な)体験と折り合いをつけようとしている。またリズはユダヤ人で、戦争中はアンリ一家に匿われていた。アンリは両親の希望に反してアーティストになる夢を持っている。マイロはアメリカ人の裕福な女性で、パリでの自身の立ち位置を模索中。そんな(各人の)背景があることで、ストーリーやダンス表現を通して、愛や人生、何もかもが素晴らしい、“’s wonderful”だ。例え戦争の悲惨さを体験しても、人生は謳歌できると伝えたかった」と語りました。
 
また装置デザインについては「写実に当時のパリを再現するのでは大失敗になるだろう、荒廃した精神を立て直してくれるような、浮遊感のある、様々な色がちりばめられたパリを創り上げようと、以前、一緒に仕事をしたボブ・クロウリーに依頼。

果たして独自のレンズを通した魅力あるパリ(のセットを)創り上げてくれ、パリの街並み自体も踊り始める舞台にすることができた」と振り返り、今回の日本公演については「(オーディションで訪れた際、施設を見て)劇団四季はアーティストが最良の仕事をするための環境を備えていると思った。こういう場所は世界で一つなのではないか。オーディションでは四季の俳優たちのレベルの高さを感じ、演出補のドンティー・キーンともども稽古をとても楽しみにしています」と期待を滲ませました。
 
ガーシュインの思い出を子孫が語る

そして今回は、四季とは『クレイジー・フォー・ユー』(やはりガーシュインの楽曲で構成されたミュージカル)以来の縁ということで、アイラ&リオノール・ガーシュイン信託より、マイケル・ストランスキー氏が挨拶。

アイラ・ガーシュインの甥だという彼は、信託のこれまでの成果として『ワン・アンド・オンリー』『クレイジー・フォー・ユー』『ポーギー・アンド・ベス』『ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット』そして本作を挙げた後、2歳違いの兄弟であるジョージ&アイラ・ガーシュインの一生を語り、アイラとの思い出として、彼にお気に入りの曲を聞くと眼鏡を鼻に押し付け「自分の子どもの中で誰が一番かと聞くようなものだよ。君は子供の中でどの子が一番のお気に入りかい?」と言われたこと、ジョージ&アイラが遺した音楽を誇りに思い、今回の日本上演の成功を祈っていると語りました。
 
ここで質疑応答。時間が押していたようで一問だけで終わりましたが、「舞台化にあたって最も難しかったのは?」との問いに対して、ウィールドン氏が「チャレンジであり最も興味深かったのが、演技したことのないバレエダンサーと、ダンス経験のない役者の共演で、両者が互いから学んでいたと思う。好奇心旺盛な俳優に対して、ダンサーは指示を待ち、動きながらキャラクターを見つけていくというやり方で、最終的にはとてもよくまとまっていったと思う」と回答。
 
会場をロマンティックに染め上げたナンバー披露
酒井大さん、石橋杏実さんによる「An American In Paris」(C)Marino Matsushima

酒井大さん、石橋杏実さんによる「An American In Paris」(C)Marino Matsushima


そしてお待ちかね、プロモーションビデオ(ロンドン公演の映像)上映に続き、出演候補キャストによるナンバー披露です。

1曲目はジェリーとリズのダンス「An American In Paris」。2幕、自分のバレエに自身の持てないリズが、マイロから「愛する人を思い浮かべながら踊ってみて」とアドバイスされ、ジェリーが描いた自分の似顔絵を握ってから舞台に立つと、いつの間にか相手役がジェリーに代わっている。リズの想像の中で、二人は夢のようなパ・ド・ドゥを踊るというシーンです。
酒井大さん、石橋杏実さんによる「An American In Paris」(C)Marino Matsushima

酒井大さん、石橋杏実さんによる「An American In Paris」(C)Marino Matsushima


壇上に上がったジェリー役、酒井大さんとリズ役の石橋杏実さんは、リフトを多用してリズの高揚感を強調したパ・ド・ドゥを滑らかに表現。たちまち場内がロマンティックな空気で満たされます。
「Shall we dance?」を歌う岡村美南さん(C)Marino Matsushima

「Shall we dance?」を歌う岡村美南さん(C)Marino Matsushima


続いてはジェリー、アダム、アンリ、マイロによる歌唱「’S Wonderful~Shall We Dance?」。

前半は、同じ女性(リズ)に恋するジェリー、アダム、アンリが、そうとは気づかずに彼女への愛を歌い、後半はマイロが“パーティーがある”と嘘をついて家に呼び出したジェリーを誘惑するナンバーで、男性たちを演じる松島勇気さん、斎藤洋一郎さん、小林唯さんがそれぞれの恋心を力強く歌い上げ、マイロ役の岡村美南さんも大人の女性の魅力たっぷりに歌声を聴かせます。
 
作品への思い入れを語った松島勇気さん

パフォーマンスの後はジェリー役候補(酒井大さん、松島勇気さん)、リズ役候補(石橋杏実さん、近藤合歓さん)、アダム役候補(斎藤洋一郎さん)、アンリ役候補(小林唯さん)、マイロ役候補(岡村美南さん)の計7名が登壇し、代表して松島勇気さんが挨拶。
作品への思い入れを語る松島勇気さん。(C)Marino Matsushima

作品への思い入れを語る松島勇気さん。(C)Marino Matsushima

「僕はブロードウェイで本作を拝見しましたが、その頃の僕と言いますと、少し悩んでいた時期で、その頃にこの作品と出会ったことで僕の演劇人生はがらりと変わりました。救ってくれた恩を感じる作品です。この作品は美しいダンス、素晴らしいガーシュインの音楽、そしてなんといっても、戦後のパリで夢を追い続け、懸命に、あきらめずに前に進もうとする若者たちの姿に心打たれ、魅了されました。

俳優としてこのような素晴らしい作品の開幕に携わることができ、心から光栄に思っています。初日に向けてキャスト・スタッフ一同、誠心誠意稽古に励み、一人でも多くのお客様に演劇人として作品の感動をお届けできるよう、全身全霊でつとめて行きたいと思っています。来年1月の開幕まで、ぜひ楽しみにしていてください」と、作品への強い思いが語られた後、登壇者全員が集合。写真撮影の後、おひらきとなりました。
 

キャラクター&気になる日本版の出演候補者解説

ここではメインキャラクターと製作発表でアナウンスされた出演候補者について、筆者のコメントも交えつつご紹介します。
出演候補の皆さん。左から岡村美南さん、近藤合歓さん、松島勇気さん、酒井大さん、石橋杏実さん、小林唯さん、斎藤洋一郎さん(C)Marino Matsushima

出演候補の皆さん。左から岡村美南さん、近藤合歓さん、松島勇気さん、酒井大さん、石橋杏実さん、小林唯さん、斎藤洋一郎さん(C)Marino Matsushima

■ジェリー
第二次世界大戦中、ヨーロッパで戦ったアメリカ人の元・兵士。終戦後、アーティストになるという夢をかなえるためパリにとどまることを決意、ある日ミステリアスな女性に一目ぼれします。彼の天性の陽気さ、楽観主義は溌溂とした振付に象徴されており、演技力、歌唱力はもちろん、かなりの体力、ダンステクニックを要する役どころ。

キャスト候補の酒井大さんは劇団外からの参加で、幼少のころからバレエを始め、数多くのバレエ作品に出演。17年9月の公開オーディション(約400名が参加)で選ばれ、製作発表では柔らかさと鋭さを兼ね備えたダンスで会場を魅了しました。

もう一人の候補・松島勇気さんもバレエ出身で、劇団四季のみならずミュージカル界を代表するダンサーの一人。そのダンス力は『キャッツ』『アンデルセン』『ウェストサイド物語』『コンタクト』等の演目でいかんなく発揮されています。

『クレイジー・フォー・ユー』で既にガーシュイン作品は経験しており、ガーシュイン音楽の魅力を熟知した上での華麗なダンス、そして役柄同様・天性の明るさで作品を明るく照らし出してくれることでしょう。(過去のインタビュー記事はこちら
 
■リズ
ユダヤ人で、戦中はアンリ一家に匿われ生き延びてきたダンサー。彼らに深く感謝し、その恩に報いるためにもアンリと結婚しなくてはならないと思っており、ジェリーと出会ってそれまで押し殺してきた感情に気づき、揺れ動くという役どころ。優れたダンス力とともに内面の表現力を求められるキャラクターでしょう。

候補となった石橋杏実さんは3歳でバレエを始め、英国に留学。現地でダンス公演に出演、15年に劇団四季に入団しました。同じく候補の近藤合歓(ねむ)さんは小学生でバレエをはじめ、ベルリン国立バレエ学校で研鑽を積み、16年に研究所入所。フレッシュな二人がどのように陰のある女性の内面を表現するかが注目されます。
 
■アダム
第二次大戦中に負傷し、体が不自由になったユダヤ系のアメリカ人。作曲を学ぶためパリに滞在中、美しいバレリーナに心惹かれ、インスピレーションを得ます。舞台は彼が、友人のジェリーがパリにやってきた日を回想するシーンから始まり、語り部的な役割も果たす人物。

ロンドン公演ではこのアダム役の役者がペーソスを漂わせ、実に味わい深い演技を見せていました。

ダンスを得意とし、『アラジン』では心優しきオマール役、『ソング&ダンス』内でのアンデルセンのソロも印象的だった斎藤洋一郎さんは、この役をどう演じるでしょうか。
 
■アンリ
フランス人資産家一家の息子で、匿ってきたリズを心から愛する人物。彼女と結婚したいと思っていたが、リズの本心を知り、戸惑う。いっぽうで彼にはナイトクラブのパフォーマーになるという夢があり、ひた隠しにしていたがある日、両親に知られてしまい……と、恋愛とアイデンティティの両面で悩みを抱えます。

アダム役と並んで、ロンドン版ではこのアンリの心の揺れ動きが重要な見せ場となっており、筆者は、本作の成功は特にこの二人にかかっているという印象を持ちました。

『サウンド・オブ・ミュージック』でみずみずしいロルフを演じ、『アラジン』タイトルロールや『キャッツ』スキンブルシャンクス等で活躍してきた小林唯さんのアンリ役に期待しましょう。
 
■マイロ
パリに住むアメリカ人女性で、父親の莫大な遺産を受け継ぎ、芸術支援活動に傾倒。知的で美しいが自分に自信を持てず、財力で他人の心を支配しようとしてしまう。ジェリーとの出会いから“愛はお金では買えない”ことを学び、本当の自分へと変わってゆくキャラクターです。

候補の岡村美南さんは『ノートルダムの鐘』で信念のために殺されるエスメラルダを毅然と演じ、『クレイジー・フォー・ユー』ポリー、『ウェストサイド物語』アニタ、『キャッツ』ジェリーローラム=グリドルボーンなどで活躍してきた実力派。内面的成長を遂げるキャラクターを魅力的に演じてくれることでしょう。(過去のインタビュー記事はこちら
 
製作発表では、今回発表された以外にも複数の候補が選ばれており、稽古に参加する予定であること、出演タイミングについては稽古の状況、劇団が同時に展開している他作品のキャスティング状況等を総合的に判断して決定されることがアナウンスされました。

上記の7名以外にどんな方々が本作の準備中なのかを含め、楽しみは尽きません。今後も折に触れ、舞台が立ち上がってゆく過程をレポートしてゆく予定です。
Original London Company Photo by Johan Persson

Original London Company Photo by Johan Persson


*公演情報*『パリのアメリカ人』2019年1月20日~3月8日=東急シアターオーブ、3月19日~8月11日=KAAT神奈川芸術劇場<ホール> 公式サイト

*次頁で12月の稽古場レポートをお送りします!

流麗さと躍動感に包まれた『パリのアメリカ人』稽古場取材レポート(12月22日)

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「パラダイスへの階段」小林唯(中央)(C)Marino Matsushima

12月22日、あざみ野。アップを終えた出演者たちが集まる廊下には、『ウエストサイド物語』や『JCS』稽古取材時の緊迫感、『アラジン』の時の高揚感とは一味異なる、柔らかな空気が漂います。稽古場に入り着席すると、取材会がスタート。
 
タイプの異なる3つのナンバーを披露
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。斎藤洋一郎(アダム)(C)Marino Matsushima

本作の演出家・振付家クリストファー・ウィールドンの挨拶に引き続いてまず披露されたのは、物語序盤のナンバー「I Got Rhythm(アイ・ガット・リズム)」。劇団四季のレパートリーの一つ『クレイジー・フォー・ユー』でもお馴染みの楽曲ですが、本作では第二次世界大戦後、パリに残ることを決意した元・米軍兵士のジェリーとアダム、そしてフランス人アンリの、カフェでの出会いを描くシーンで歌われます。
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。酒井大(ジェリー)(C)Marino Matsushima

パフォーマー志望のアンリが、作曲家志望のアダムに書いてもらった曲を歌ってみるがどうもノリが悪い。歌いなおしているうち、みるみるうちに心浮き立つようなナンバーとなり、通りかかった往来の人々も加わって大ナンバーに。

一人ひとり緻密につけられた振付によって台詞と歌、ダンスが一体化し、流れるような運びが何とも小粋なシーンです。劇団四季に初登場のジェリー役、酒井大さんの自然な台詞まわしには頼もしさも。
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「アイ・ガット・リズム」(C)Marino Matsushima

続くナンバー「I’ll Build A Stairway To Paradise パラダイスへの階段」は、ナイトクラブでのアンリのパフォーマンスのナンバー。緊張感からか、はじめは失敗ばかりの彼がピアノを弾くアダムに「集中しろ!」と激励され、徐々に自信を持って歌い踊るまでに至る過程を、アンリ役の小林唯さんが滑らかな動きと歌とで見せていきます。

後半では女性ダンサーたちが『クレイジー・フォー・ユー』でもお馴染みのふわふわの羽を持って登場、かなり華やかなシーンに仕上がりそうです。
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。バレエ「パリのアメリカ人」より。酒井大、石橋杏実(C)Marino Matsushima

そして最後に披露されたのがビッグ・ナンバー「An American In Paris(パリのアメリカ人)」の後半。基本的にはリズとジェリーのパ・ド・ドゥなのですが、リズのパートナーがナンバー終わりに別の人物になっているのがポイントで、このナンバー披露の前に報道陣の前に立ったウィールドンは「なぜパートナーが変わるのか。それはぜひ本番で確認してください」と悪戯っぽくコメント。

かなりリフトの多いナンバーですが、ジェリー役、酒井大さんのスムーズな動作には9月の製作発表時に比べてさらに磨きがかかり、石橋杏実さんも端正な動きの中にリズの恋心を覗かせ、ロマンチックな一場に。
 

演出・振付クリストファー・ウィールドン囲み取材会

3曲の披露の後、隣の稽古場にてウィールドンの合同インタビューがスタート。45分間、質問が途切れるまで丁寧なQ&Aが続きました。以下、各社からの質問とそれに対するウィールドンの回答の全てをご紹介しましょう。
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

クリストファー・ウィールドン 英国生まれ。ロイヤル・バレエ・スクールで学び、英国ロイヤル・バレエ、ニューヨーク・シティ・バレエでダンサーとして活躍後、振付家に。『パリのアメリカ人』で2016年トニー賞振付賞を受賞。世界各地のバレエ団、映画等で振付を行い、2020年には再びブロードウェイで新作ミュージカルの演出・振付を行う予定。(C)Marino Matsushima

ブロードウェイの華やかさにバレエが加わった、魅力的な舞台です
 
――本作の演出・振り付けのポイントを教えてください。
 
「映画版『巴里のアメリカ人』の精神性はリスペクトしつつも、全く同じレプリカは作らない、ということを重視しました。ガーシュインや(映画版に主演した)ジーン・ケリー、(映画版の監督)ヴィンセント・ミネリが現代に生きていたら、どんな作品を作るだろうと考えたのです。

作品に歴史的な意味での真実味を与え、当時パリがどういう場所だったかを描こうと考えました。映画版ではパリはすべてがハッピーで美しい、太陽と花々の都だったけれど、現代ならどういう場所として描けるのか、と。
 
ロマンティックなスピリット、新たな友情をはぐくむ喜びと対比させるためにも、時代的な暗さが必要だろうと考えました。オープニングのバレエにみられるような、幕開けのパリの暗さと、開放されたことによる喜びを描こうと。

終戦によって混乱はすぐ消えたわけではなく、ナチスは深くいろいろなところに爪痕を残しました。戦時中に生まれた愛や不安はずっと市民の心の中に残っていたのです」
 
俳優とダンサーがインスピレーションを与え合う現場
 
――あなたはバレエを中心に創作をされていますが、ミュージカルとどのように作り分けていますか?
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「アイ・ガット・リズム」(C)Marino Matsushima

「(違いではなく)両者の共通項からお話しましょう。私はバレエにおいても“物語ること”を重視し、自分をストーリーテラーだと思っています。ミュージカルには“台詞”があり、それはとても贅沢なことですね。

初めて演出するにあたっては、それまでステップ、身体表現によって物語を伝えることに慣れていたので、言葉で物語を伝えるとはどういうことかを習得していきました。
 
面白かったのは役者とダンサー、それぞれの取り組み方の違いです。ダンサーは振付家の言うとおりに取り組むことに慣れているが、俳優は質問が多く、ディスカッションを好む。それは興味深いことでしたし、両者がインスピレーションを与え合っている姿に感銘を受けました。

俳優はダンサーたちの(素直な)立ち居振る舞いに注目し、ダンサーたちは役者たちがしゃべること、動くことに関して全て動機や意味を考えているということに気づく。両者が融合していくことに感動しましたね」
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

合同インタビューで語るクリストファー・ウィールドン。(C)Marino Matsushima

――振付でどうキャラクターを表現しましたか?
 
「それは(初めから設定するというより)発見していくものだと思います。バレエを見慣れない方にも届きやすい伝え方をしたいと思いました。作りながら、この部分を言葉を使わずに伝えるにはどうしたらいいかと考えるわけなので、決まったテクニックがあるわけではありません。

ちょっと頭を動かしたり腕を伸ばすだけで表現できることもあれば、長いコンビネーションでないと伝えられない物語や思いというものもある。動きだけでは伝えきれないものもあるので、ミュージカルにおいては、伝えるべき情報の半分までも台詞で伝えられるのは助かりますね」
 
――(具体的には)ジェリーやリズのキャラクターをどのように振りで表現したのでしょうか。
 
「それは物語のどの地点か、にもよります。序盤、リズに関しては純粋さ、美しさを表現しようとクリーンな動きを意識しました。

ジェリーに関してはもっと地に足のついた、どっしりした動き。なるべくその人物がどういう人か、何を思っているか表現したいと思っていますが、ジェリーの場合はGIですので、骨盤を使う重い動き、リズは洗練された動きを意識しました」
 
様々なダンススタイルを探る醍醐味
 
――バレエとタップの融合はいかがでしたか?
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「パラダイスへの階段」(C)Marino Matsushima

「本作が魅力的に感じられた要因が、様々なダンススタイルを探る可能性を秘めていると思えたことでした。先ほど披露した3つ目のナンバーは一番バレエらしいのですが、抽象性が高く、オペラハウスで上演するような古典的バレエとは全く異なります。またオープニングのバレエでは、人物紹介・状況を説明するということを大事にしました。
 
そして本日、2曲目に披露した『パラダイスへの階段』は、ブロードウェイ・ファンタジーと言うべきナンバー。僕自身あまりタップに関してボキャブラリーがあるわけではないので、演出補のドンティー・キーンにここはおおいに助けていただきました。

しかしタップの中にもなるべくバレエ的なラインが出てくるよう意識し、ラジオシティ・ミュージックホールで上演されるような洗練されたタップナンバーに仕上げています」
 
――ガーシュインという作曲家について。
 
「私が6~7歳の頃、両親が初めて連れて行ってくれたコンサートがガーシュインの音楽のコンサートで、その時から僕はガーシュイン音楽にほれ込んでいます。

またニューヨーク・シティ・バレエで踊っていた頃は、バランシン振付のガーシュインの曲『Who Cares?』を踊るのが好きでしたし、そこで僕は一度『パリのアメリカ人』を振り付けたことがあったのですが、満足することがありませんでした。

今回ミュージカルで再びこの作品にアプローチでき、自分としては成功できたかなと思っています」
 
――劇団四季との仕事について。
 
「素晴らしい場所だと思っています。ブロードウェイにだってこんな施設はありません。大きく美しいスタジオ、素晴らしいスタッフ。舞台への集中度。新国立劇場で『不思議の国のアリス』を振り付けた時も思いましたが、日本の人々は舞台への献身度が素晴らしい。他のどこにもない場所ですね」
 
日本版にあたっての微調整
 
――ブロードウェイ版から時間が経っていますが、日本版にあたってブラッシュアップする部分は?
 
「アメリカ、英国でのツアー版でブラッシュアップはできていると思いますが、日本での一番のチャレンジは翻訳。日本語という美しくも複雑な言語で上演するにあたり、どうアメリカニズムを取り入れていくか。これは興味深いプロセスとして初日まで続くことだと思っています。

微調整をするという意味では、パフォーマーの個性、声域によって微調整したり、俳優の体型に合わせて振付を再考することもあるかと思います。英米でほとんどのブラッシュアップを済ませていることで、日本では最も完成した形の舞台をお見せできると思います」
 
個人的に愛着があるキャラクターは……
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。「パラダイスへの階段」小林唯(アンリ)、斎藤洋一郎(アダム)(C)Marino Matsushima

――本作においては主人公カップルだけでなく、アンリやアダムが作品の成功を左右するほど重要に思えますが、ご自身の中で特に愛着あるキャラクターは?(質問・松島まり乃)
 
「子供の中で一番のお気に入りを選ぶようなもので、難しいですね(笑)。誰も関係者が聞いていないという前提で言うなら(笑)、(作曲家志望の)アダムが好きです。

脚本家のクレイグ・ルーカスがこの役を本当に素晴らしく描いていますし、“若きガーシュイン”を投影したような部分があるんです。またアダム自身が作品の中で描こうとしている“光と闇”に親しみを感じます。この作品のテーマでもあるし、僕自身の芸術性にも近いのでアダムに親近感を感じますね。
 
と同時に、いつかラジオシティ・ミュージックホールでタップダンスをしてみたいと妄想したりもするので(笑)、アンリにも憧れるところがあります」
 
手・腕を多用した特徴的な振付の意図
『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。(C)Marino Matsushima

『パリのアメリカ人』稽古場取材会にて。バレエ「パリのアメリカ人」(C)Marino Matsushima

――振付の中でしばしば手や腕で特徴的な形を作っていらっしゃいますが、その意図は?(質問・松島まり乃)
 
「腕で様々な角度を作るということを考えています。当時主流であった(セルジュ・)リファールの振付や、(19世紀末~20世紀前半に活躍した抽象画家)モンドリアンの作品を想起させるという意図によるものです。
 
興味深いことに、リファールはナチス占領下時代にパリのオペラ座で振付をしており、ナチスがバレエ団に寄付をしていたという背景がありました。そのことでフランス人は後に、リファールに対して、(占領下も)バレエという芸術を生きながらえさせてくれたと感謝すべきなのか、ナチスとの交流があったことで追放するべきかと相反する感情があったようです」
 
――新国立劇場でも振付をされていますが、日本の観客についてどんな印象がありますか? また、本作は日本でどう受け止められると思いますか?
 
「日本の観客はバレエを非常に愛してくれていると感じます。ダンサーとしても愛情を感じましたし、世界一のバレエファンは日本にいると感じましたね。

アメリカでは観客は声を出してくれますが、日本では礼儀正しい、静かな方が多いため上演中は喜んでいただけているかわからないけれど、演目が終わると感謝の言葉であったり、あたたかな反応をいただける。上演中は集中して観てくれているということなのではないでしょうか。
 
本作はガーシュイン音楽を使っていますが、日本ではガーシュインが人気と聞いているし、劇団四季の『クレイジー・フォー・ユー』も人気演目だそうですね。今回はアメリカの華やかなミュージカルらしさとバレエが組み合わさっていますので、勝算はあります(笑顔)」
 
出演者全員に“三拍子”を求めています
 
――あなたの振付は複雑で難しいと言われます。本作で最も難しいのは?
 
「僕自身よく思うのが、“難しく思われなければOK”ということです。それが僕の指標ですね。ダンサーをストレス責めにはしたくないが、楽もさせたくありません。多くのものをダンサーに求めたい。
 
本作でお客様が最も素晴らしく思ってくれるのはジェリーやリズ役だと思います。要求されるものが歌と芝居だけでなく、かなり高度なダンス・コンビネーション、それも古典バレエのテクニックです。

もっとも全員に、アメリカで言う“triple threat(三拍子)”を求めています。ダンス、歌、芝居のすべてができなくてはいけません。本作は逃げ道のない作品です」
 
――映画版についてどんな部分をリスペクトし、舞台に取り入れていますか?
 
「私自身、本作のファンでした。主演のジーン・ケリーとレスリー・キャロンは本当に偉大だと思います。若いころ自分もダンサーだったので、お芝居の部分は飛ばしてダンスシーンを何度も繰り返し観ました。

ジェリーの振付をするにあたり、ジーン・ケリーの身体性を取り入れた振りがあります。ただ映画から振りを完全に取り入れることも、映画版の振りを完全に無視することもなく、原作映画からさらに新しいものを育てたと感じていただけたらと思います。

映画を舞台で再現しようとする試みは僕もいくつか見てきましたが、偉大なジーンやレスリーを再現するというようなことは、やはり無理があると思うのです」
 
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。