*最終ページに観劇レポートを掲載!*

未曽有の海難事故を通して、究極の状況における人間の真の姿を描くミュージカル『タイタニック』。日本でも何度か上演され、2015年に登場して絶賛を浴びたトム・サザーランド演出版が、一部に新キャストを迎え、待望の再演を果たします。
『タイタニック』

『タイタニック』

この特集では、重厚な群像ドラマを構成する様々なキャラクターの中から数名をインタビュー、順次追加掲載。乗客(一等、二等、三等)、乗組員それぞれの立場からのコメントを通して、作品が持つ重層的な魅力に迫ります!

《目次》 【ミュージカル『タイタニック』とは?】
モーリー・イェストン(『ファントム』)が作詞作曲、ピーター・ストーンが脚本を担当したミュージカル。1912年、英国サウサンプトンからニューヨークへ、処女航海に出た豪華客船「タイタニック」が氷山に衝突し、浸水のため沈没。救命ボート数が足りず、1500人以上の人々が亡くなった事件を通して、人間の愛や尊厳、弱さや科学万能主義への警鐘を、ドラマティックな音楽とともに描き、97年のトニー賞では作品賞はじめ5部門を受賞しました。
 

藤岡正明さん(機関士フレッド・バレット役)インタビュー

藤岡正明undefined82年東京生まれ。01年に歌手としてシングル・デビュー。05年『レ・ミゼラブル』マリウス役でミュージカル・デビューし、以後『ミス・サイゴン』『グランドホテル』『ビリー・エリオット』『ジャージー・ボーイズ』等で活躍。7月22日にライブ「藤岡正明ミュージカル・コンサートM’s Musical Museum Vol.4」を開催予定。(C)Marino Matsushima

藤岡正明 82年東京生まれ。01年に歌手としてシングル・デビュー。05年『レ・ミゼラブル』マリウス役でミュージカル・デビューし、以後『ミス・サイゴン』『グランドホテル』『ビリー・エリオット』『ジャージー・ボーイズ』等で活躍。7月22日にライブ「藤岡正明ミュージカル・コンサートM’s Musical Museum Vol.4」を開催予定。(C)Marino Matsushima

インタビューのトップバッターは、船の機関士バレット役の藤岡正明さん。15年の公演でも同役を演じ、人間味溢れる演技で本作のある種、象徴的な役割を果たしました。刻々と船が沈みゆくなかで、バレットがとっさに下した決断の理由とは? 
 

“犠牲者たちへの“強い想い”をもって、誠実にバレットを生きたい”

――藤岡さんにとって『タイタニック』はどんな作品でしょうか?

「一言では言い表せないですね。役者をやっていると、たくさん作品に関わらせていただいているうち、振り返って正直“あれはいつやった作品だっけ?”ということもあるのですが、『タイタニック』は痛烈に印象が残っています。作品もキャストも素晴らしかったし、みんな仲もよくて。すべてをまとめていた(演出家の)トム(・サザーランド)の力が大きいのかなと思います。悲劇ではあるけどロマンティックなもの、美しいものがちりばめられた演出でしたし、皆が同じ方向を向いて、大きなエネルギーを共有できました。若手から大御所の方まで、気を遣わないで一つになれたけど、そういう作品、珍しいんですよ」

――“ロマンティックなもの”というのは、愛であったり、人間の尊厳というようなことでしょうか?
『タイタニック』2015年公演より。撮影:宮川舞子

『タイタニック』2015年公演より。撮影:宮川舞子

「まさにその通りですね。どの舞台でも、台本には書かれていない演出があると思いますが、『タイタニック』は特に、この台本でそういう演出をするとは!という部分がありました。例えば、僕が演じるボイラーマン(機関士)のバレットと、(上口耕平さん演じる)ブライドという通信士のシーンがありまして、バレットは港で待っている恋人に、電報を打ちたい。けれど当時、電報はとても高くて、金額を聞きに行ったら、とても一ボイラーマンが出せるような額ではなかったんです。そんなに高いなら無理だわと言うと、ブライドは“君の恋を応援させてくれよ”と、結局無料でやってくれるんですね。

このシーンでトムが、この通信室はバレットが見たことないような機械がたくさんある部屋なんだ、部屋をよく見てほしい、というんです。僕ははじめ、そんな部屋に来たら固まってるだけじゃないかと思っていたけど、そうじゃなく、二人の間にはかわいらしいやりとりがあって、それが結果的にロマンティックに、詩的に映る。トムにはそれがわかっていたんですね」

――バレットには“バレットの歌”というソロナンバーがあり、もとは炭鉱夫をしていたということが語られますね。

「そうなんです、ステップアップしたかった彼は“これからは船(の時代だ)”と思って、炭鉱夫を辞めてボイラーマンになった。でも、ここでも結局何も変わりはしないんだと悟るナンバーです」

――登場人物の中でもかなり長いモノローグ的なナンバーで、作者はこの人物をある種、作品の“芯”に据えているのかなという気がします。

「淡々と語るようなナンバーなので長く感じられるけど、時間的にはそれほどではないんですよね。でも確かに『タイタニック』という作品は、船が沈んでゆくドラマを主軸としつつ、バレットのナンバーが象徴する“階級による格差”も大きな要素となっています。船には一等から三等まであって、三等客のほとんどはアイルランド系などの移民。安い給料で畑を耕していた小作人が、(新天地のアメリカに)夢を持って渡ろうとしていて、船に乗れるだけ運がいい人たちです。そしてバレットがいるボイラー室は、三等のさらに下。そこで朝から晩まで石炭をくべるのが仕事です。

炭鉱の世界から、夢をつかもうとして新たな世界にやってきたけど、ダメだった。大きな劣等感と挫折があったとは思いますが、それでもバレットというのはどこかに希望を持っていたと思います。だからこそ、最後に人助けをして死んでゆく。トムも、僕に“君はいい人だから、ネガティブな人をやらせたくない”と言ってくれるんですよね。たぶん、恋人という心の支えがあることで、希望を持ち続けたんでしょう。だから、この恋人は劇中、登場しないけど、僕が彼女をどのくらい思い浮かべて、愛情を届けられるかが大事なのかなと思っています」

――その最期ですが、バレットは一度は救命ボートを漕ぐ係に指名されかかるも、ジムという三等客にその役目を譲って船に残ります。なぜあの瞬間、そういう決断をしたのでしょうか?

「なぜでしょうね。このジム・ファレルを、自分と重ね合わせたんじゃないかな。ジムは船で出会った女の子と恋に落ちていて、彼女はお腹の中に、ジムとの子ではないけれど赤ちゃんがいる。それを知ったバレットは、もしかしたら自分の恋人は違う人を見つけられるかもしれないけれど、ジムが死んだらこの女の子と子供は路頭に迷ってしまう、ということを考えたのかもしれません。それに、(考える)時間がない中で、冷静でいられなかったと思いますし……。

これは僕自身の体験談なのですが、今年の頭に娘が高熱を出して、車に乗せて病院に向かっていたら、一台の車が雪で(スリップして)横になってしまっていたんです。周りの車はみんなよけていて、僕もあと5分で病院が閉まるというタイミングだったけど、その車をよけた瞬間に、“いや、ここだよな”と思った。そして娘に“ごめんね、待っててね”といって助けに行ったんです。結果的に病院には遅刻して入れなかったけれど、別の病院が見つかって診ていただけたので、まあ良かったかなと。最悪のシナリオは“助けもしない、間に合いもしない”だったけれど、それは避けられたんですよね。

そういう行動が出来たのは『タイタニック』という作品の影響があったからかもしれないし、僕の中にもともと、少なからずバレットの部分があったのかもしれない。そう信じたい、と思いました」

――今回は待望の再演です。
機関士バレット(藤岡正明)

機関士バレット(藤岡正明)

「ゼロから、またバレットと向き合いたいと思っています。前回、セット(舞台美術)がとても秀逸だったのですが、今回トムはそれを変えると言っているんですよ。彼は変えたくないところは絶対に変えない人なのに、それを変えるというのだから、何か彼の中で(プランが)あるのでしょうね。そんな中で、僕自身は彼とのやり取りの中でバレットと向き合う。“もう一度やり直す”みたいにはしたくないので、まだ舗装されていないところを作っていけたらと思いますね。

『タイタニック』の沈没は本当にあった事実。その実際のご遺族が僕らの舞台を御覧になるかわからないけれど、上演することにはそれだけで大きな責任があって、軽はずみにやってはいけない、と僕は思っています。ただきれいだったり、ただ悲しいものに仕上がってしまったら失礼だし、僕自身、そういう舞台をたまに観ると“嫌だな”と思ってしまいます。

トムの演出では、カーテンコールの時に、映画のエンドロールのように、タイタニック号で実際に亡くなった方々の名前が映し出されるのですが、そこには(このミュージカルと)同じ名前が出てくるんですよね。一列になってそれを見ている僕らの中には、強い哀悼の念、強い思いがないといけない。それがトムの(演出の)誠実さだし、『タイタニック』の強みでもある。僕らはそれを精いっぱいやるのみです」

――藤岡さんのこれまでについても、少しうかがわせてください。まず、藤岡さんはオーディション番組でデビューされたのですよね。もともとは歌手を目指していたのでしょうか?

「そうですね、もともとは曲を作りたかったのが、ひょんなことからオーディションを受けることになったんです。そして歌手としてデビュー後、18歳の時に『レ・ミゼラブル』のオーディションを受けませんかとお声をかけていただいたらしいのですが、当時の僕は音楽以外やる気はないというスタンスだったので、僕の耳に入りさえしませんでした。21歳くらいでまたお声がけをいただいて、ちょうどその頃、趣味で小説を書いていたこともあって、登場人物がどう考えてどう行動するかということに興味があって受けてみました。

が、“二度とやるものか”と思いましたね(笑)。それまで自分で曲を作って歌ってきて、“こういう風に歌いなさい”と言われたことがなかったので、オーディションで“この曲はこういうシーンでこういうふうに歌われます”と説明されたり、“もっとこういうふうに”と言われるうち“余計なお世話だ!”と思ってしまって(笑)。マネジャーに“絶対嫌だ”と言ったのですが、逆に“オーディションの様子を見ていてびっくりしたよ。これは何かのきっかけになると思うから、(一次に)受かったら絶対行って”と引っ張って行かれまして。その繰り返しで、気が付いたら合格していたんです」

――やってみたらミュージカルにはまってしまった?

「少しずつ“面白いのかな”と思うようになりました。それが“なんて面白いんだろう”に変わったのが、『ブラッドブラザーズ』の時。その前の作品『この森で、天使はバスを降りた』で初めて台詞がたくさんある役をやって、ダメダメだったんですね。いろいろアドバイスをいただいたけれど、皆さん言うことが違っていて“(芝居って)なんて難しいんだろう”となってしまって。それが『ブラッドブラザーズ』でグレン・ウォルフォードという演出家に出会ったら、彼女がマンツーマンでやってくれて、芝居ってなんて面白いんだろうと思えて。それからですね、芝居にもっと真剣に、自分から能動的に入り込んでいこうと思ったのは」

――筆者の中では特に、『ビューティフル・ゲーム』(2014)での、北アイルランド紛争に巻き込まれてゆく人懐っこい少年役が印象に残っています。

「『ビューティフル・ゲーム』は高校生の部活の話でもあるので、熱かったですね。皆で暑苦しく、踊りもぜいぜい言いながらやってました(笑)。役としては確かにあのジンジャーのような役はやったことがなかったけど、腑に落ちましたね。ワイルドな(『タイタニック』の)バレットと真逆のキャラクターでした。でも役者って、一つのカラーだけでなく、真っ白であったり、透明であればそこに色を入れていける。そうありたいなとは思います。実際のところ、いただくのは労働者役ばかりで、貴族役を演じることはないですが(笑)。プライベートでソファーに腰かけてシャンパンを飲んでいるというより、でれっともたれて缶ビールというイメージがあるのかもしれません(笑)」

――地に足をつけた人間を体現できる、ということではないでしょうか。最後に、表現者としてどんなビジョンをお持ちですか?

「役者として、歌手としてそれぞれにありますが、まず歌手としては、自分自身の音楽性があるし、あまり曲げられないところがありますね。シンプルに言えば、“シング・ライク・トーキング”。いろいろ表現しても、最終的には歌詞を伝えたいと思います。歌詞が聞こえ、そしてリズムに乗れる歌でありたい。“(僕って)かっこいいでしょ”という方向には走りたくないし、垂れ流されるくらいなら売れなくていい、とさえ思います。

いっぽう、俳優としては“嘘をつきたくない”と思う。例えば、芝居ではよく“テンポ感が大事”と言われていて、ある程度スピード感がないと、観ている側はダレてしまう。でもスピード感を出すことと何かの感情を端折るのは別で、次の脳みそに行きつくためには、点と点をきちんと結ばないといけません。

例えば、僕が飲んでいるペットボトルの水を、仲間から“ちょっと飲ませて”と言われた時、こちらが神経質な人間であれば、“え?そんなこと言われると思わなかった、でも嫌だというのも空気悪いしな……”という葛藤があるわけで、その感情を端折って“はいどうぞ”とすぐ渡してしまったら、ぬるっとした芝居になってしまう。台本を読み解く中で、そこに書かれていないことを端折らず、ビビッドに反応して芝居に組み込んでいくことが大事だし、それによって芝居は面白くなる。そういう部分もきちんとやれる俳優でありたい、と僕は思います」

*次頁で相葉裕樹さんインタビューをお送りします!

相葉裕樹さん(二等船室客・チャールズ役)インタビュー

 
相葉裕樹 87年千葉県出身。2004年映画でデビュー。『PIPPIN』『SEMINAR -セミナー-』『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』『スカーレット・ピンパーネル』『レ・ミゼラブル』『HEADS UP!』『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』などで活躍。近年は海外ドラマ『S.W.A.T.』等、声優の仕事にも取組み、演技の幅を広げている。(C)Marino Matsushima

相葉裕樹 87年千葉県出身。2004年映画でデビュー。『PIPPIN』『SEMINAR -セミナー-』『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』『スカーレット・ピンパーネル』『レ・ミゼラブル』『HEADS UP!』『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』などで活躍。近年は海外ドラマ『S.W.A.T.』等、声優の仕事にも取組み、演技の幅を広げている。(C)Marino Matsushima


インタビュー第二弾は相葉裕樹さん。貴族令嬢キャロラインと駆け落ちして新天地アメリカに向かう二等客・チャールズ・クラーク役で、今回が初参加となります。駆け落ちするほど情熱的な役柄ですが、危機的状況に陥ってからのチャールズのリアクションには、相葉さんもびっくりだとか。現時点でどのようなキャラクターととらえているでしょうか。
 

本当の意味で”紳士”だったチャールズを、自分らしく演じたい

――前回公演の印象は?

「まずは重厚な音楽だなぁというのが第一印象で、主人公一人の物語というのではなく、群像劇で、登場人物一人一人の思いがフィーチャーされている。それぞれの人間ドラマが、タイタニック号に乗り合わせたことで沈んでいくというのがなんとも儚く、哀しくて。何をもって生きていくのかと考えさせられる、深い作品だなと思いました」

――モーリー・イェストンさんの音楽は重厚ですが、キャッチ―なフレーズが繰り返されるというより、どんどん流れていくというか、歌う方にとっては難しい楽曲のようにも聞こえます。

「僕も難しいと思いました。ものすごくキャッチ―というわけではなく、複雑なメロディに、ハーモニーが組み合わさっていて、すっと歌えるような楽曲ではないのですが、だからこそ耳を傾けたくなる。お客様にとっては作品に集中できる音楽なのかなと思いますね」

――男女を問わず、共感できるキャラクターはありましたか?

「“共感”という観点では観ていなかったです。それより、みんなが主役で、それぞれにナンバーがあり、場を任される瞬間があるというのが印象的で、見ごたえを感じました。あと、本作では俳優が本役以外にも、いろいろな役を演じるという趣向が面白いですよね(注・乗客を演じる俳優がある場面では船のスタッフを演じるといった演出)」

――チャールズ役はいかがでしょう?
『タイタニック』チャールズ役(相葉裕樹)

『タイタニック』チャールズ役(相葉裕樹)

「前作の『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』でも夫婦役を演じて、今回、夫婦役が二度目なんです。30代に入って、そういう役も演じる年齢になってきたなと感じますね。(現実的には)結婚経験がないので背伸びする感覚があるし、今回はそれに“駆け落ち”という要素も加わります。恋に燃えるというところに関しては、わからないわけではないけど、いろんなものを捨ててまで愛する女性と新しい人生を生きる覚悟というのは、尋常ではない。そんな大きな夢を持ってタイタニック号に乗り込む彼は、最終的に儚く散ってゆくわけですが、最後はとても紳士的で、度量のある人物で、かっこいいと思いました」

――タイタニックが氷山に衝突し、沈むかもしれないとなってからは、人間の本性というか、醜い部分を見せる人物もいますが、チャールズは正反対ですね。

「かなり紳士的ですよね。悪あがきをしないというか、潔いです。それまでは階級の違いから嫌味を言ったりとか、繊細な部分があるようにも見えるのですが、船が沈むとなってからは、男の矜持を見せていて、かっこいいんですよ。台詞で“気付けの一杯いかがか”と言うようなことを言うんですが、そんなお洒落なこと、なかなか言えません」

――もし自分だったら?

「いやもう、大変ですよ。いくらボートが足りないとなっても、(最後まで)なんとかしようとするんじゃないかな」

――彼は2等客室の乗客ですが、もともと2等の層の人物なのでしょうか。ひょっとして、3等の(労働者階級の)人間だったけれど、貴族令嬢のキャロラインとの間をとって2等に乗っているとか?

「それは僕も思いました。彼女は本来は1等に乗る人で、お金持ちなわけですよね。ものすごい格差だけど、一緒に自由の国へ駆け落ちをしたくなるほどの恋だったんでしょうね。演じるには、ものすごくパワーの必要な役だと思います。それもただ押せばいいというものではない。歌にしても、ただ歌い上げるのではなく、彼の本質的な部分をどうやって表現するか。難しいなと感じています」

――トム・サザーランドさんの演出は今回が初めてですよね。

「はい。初めてお会いした時、否定をしないというか、優しい方だなという印象を受けました。まだ一度しかお会いしていないのでわからない部分もあるけれど、こちらの気持ちを汲み取ってくれる方なのかなと感じています。ご一緒するのが楽しみです」

――どんな舞台になるといいなと思っていらっしゃいますか?

「 “再演”に初参加させていただく形になるので、まずはご迷惑がかからないよう、しっかりやりたいと思っています。“再演”というのは、前回公演が素晴らしい成果で、待望してくださるお客様がたくさんいらっしゃることで成立すると思うのですが、その期待を裏切らないようにしつつも、今回は僕以外にも新キャストが何人かいますし、前回の舞台を追いすぎるのではなく、自分のチャールズを作れたら。新たな『タイタニック』の中で、皆さんとご一緒しつつ、新鮮な気持ちでいろいろとトライしていけたらと思っています」

*『タイタニック』以外の最近の演目についての相葉さんへのインタビューはこちら

*次頁で鈴木壮麻さんインタビューをお届けします!

鈴木壮麻さん(スミス船長役)インタビュー

『タイタニック』特集、今回はスミス船長役・鈴木壮麻さんへのインタビューをお届けします。前回公演ではタイタニック号のオーナー、イスメイを演じた鈴木さん。トム・サザーランドの演出に大いに感銘を受けたそうですが、今回はスミス船長役。新たな役柄に、どう臨んでいらっしゃるでしょうか。
 
鈴木壮麻 東京都出身。82年、劇団四季入団。『オペラ座の怪人』『美女と野獣』等に出演し98年退団。その後も主にミュージカルを中心に出演。第23回読売演劇大賞優秀男優賞を『ミュージカル サンセット大通り』『End of the RAINBOW』 で受賞した。今年はストレートプレイ『WATER by the SPOONFUL』、NHK青春アドベンチャー『暁のハルモニア』に出演する等幅広く活動している。2001年『フランケンシュタイン』再演への出演を予定。(C)Marino Matsushima

鈴木壮麻 東京都出身。82年、劇団四季入団。『オペラ座の怪人』『美女と野獣』等に出演し98年退団。その後も主にミュージカルを中心に出演。第23回読売演劇大賞優秀男優賞を『ミュージカル サンセット大通り』『End of the RAINBOW』 で受賞した。今年はストレートプレイ『WATER by the SPOONFUL』、NHK青春アドベンチャー『暁のハルモニア』に出演する等幅広く活動している。2001年『フランケンシュタイン』再演への出演を予定。(C)Marino Matsushima

決して“清廉潔白”ではない、船長の人間くささを出していけたら

――まずは前回公演の思い出からうかがえますでしょうか?
 
「(演出家の)トム(・サザーランドさん)と出会えたということが、素晴らしい体験でした。演出の“機微”というか“醍醐味”というものを体感することができたと思っています。具体的な想念にもとづいた裏付けのある演出を目の当たりにして、言葉を失うほど感動しましたね。その後、彼が日本で演出した『グランドホテル』『パジャマゲーム』も、トムの美学があますことなく作品の細部にいたるまで詰め込まれていて、すごい人だな、だからこそ『タイタニック』もああいうふうに作り上げたのだと感じました。
 
例えば、それまで僕は、舞台上で他の人物と喋るとき、相手が横にいたとしても体を客席に向けながら喋るということを、様式美として経験してきました。でも前回の『タイタニック』の稽古で、同じことを加藤和樹(さん演じる設計士アンドリュース)と光枝(明彦)さん(演じるスミス船長)とイスメイが互いに訴え合う場面でやったら、トムが“そこはちゃんと向き合って、対峙してほしい”と言ったんです。“それだとお客さんからは横しか見えませんが”と言うと、“(怒りを)ちゃんとぶつけあって、中心でぶつかりあいのパワーが生じるようにやってみよう”とおっしゃり、やってみたら、角度をちょっと変えるだけなのに、“目から鱗”な体験でした。
 
以来、なんでこれをやってこなかったんだろうという自戒を込めつつ、相手としっかり対峙するということを演技の中で取り入れるようになりましたね。そうやってエネルギーを相手にしっかり発することで、また自分にフィードバックされるということの面白さを感じています。そういう状況になる度、トムに“有難う”と思ったりしています」
 
――音楽的な魅力についてはいかがでしょうか。
 
「グランドミュージカルらしく、凄い音楽だなと思います。特に幕開きの20分ぐらいのナンバー、あれはまるで映画のように、様々な人物が緻密に紹介されていって、醍醐味ですね。歌う側としてはけっこう大変です。なにせテンションをずっとキープして、入れ替わり立ち代わりいろいろなことが起きながらコーラスの厚みを増していって、出航していくまでの楽曲です。僕はまだ“飛鳥2”を観たことしかないけれど、タイタニックはそれくらいボリューミーな船なので、このナンバーぐらいの楽曲でないとその巨大さというのが音に転換できないんだろうなと思いますね。“海は広いな大きいな”ぐらいの小節数ではとても足りない。いかにもタイタニックの出航までの曲らしいと感じました」
 
”人間の業”を感じたイスメイ役

――イスメイという役はいかがでしたか?
 
「はたから見たら“お前ほんとに傲慢だぞ”ということが、彼の中ではとても正義なことであって、そういう意味では一生懸命生きていたんだろう、誰もが陥りやすいところなんだろうな、と思いながら演じていました。後に裁判にかけられるほど、取り返しのつかないことのきっかけを作った男ではあるので、そこのところでは自責の念にかられる一方で、理想を追い求めるということにおいてはある種すごい情熱を持っていたというところが、共感できる部分ではありました。そこの熱量がなく、優柔不断な生き方だったら、たぶんあのようなことにはならなかったと思います。
 
最後の最後、彼は船が沈む直前に“僕はただの乗客だから”と言い残したそうです。とても悲しい気持ちになりますね。ただ、もしもあのような状況に置かれた時、自分はどうするだろう。もしかしたら誰かの頭を踏みつけてでも生き残ろうとして、水の無い方にあがいて昇って行こうとしている自分がいるかもしれないし、なんともそこは人間の業というか、自分には判断がつかないんじゃないかと思います。そこをふみとどまって、潔い方に身を振れる、女性と子供たちに救命ボートの席を譲って自分は船に残れる人って、いったいどういう精神構造の人なんだろう、とも思います」
 
――今回はスミス船長役ですね。
『タイタニック』スミス船長(鈴木壮麻)

『タイタニック』スミス船長(鈴木壮麻)


「とても情熱家で野心家で、プライドもある人物です。たたきあげの人物で、14歳ぐらいから海の上の世界に入り込んで、がんがんのしあがってきた。徐々に信頼を得て行って、権力と結びつくことで大きく幅を広げて行き、ホワイトスターライン社のすべての船に乗るまでになりました。世界一安全な船長を自負するいっぽう、小さな事故は見過ごしており、清廉潔白な人というわけではありません。そんな彼の人間くささも出せたらいいなと思います」
 
――そんな彼にとって最後の航海で、とんでもない事態が発生し、先ほどおっしゃっていたイスメイ、アンドリュースとの言い合いのナンバーが展開します。
 
「きっかけを作ったのはイスメイではあるけれど、実際行動に起こしたのは船長であって、いくらオーナーが指示を出したからと言って、それを阻止することはできた。それだのにしなかった。悪い人間だとは思いませんが、清純ではないし、品行方正でもないと思っています」
 
――(悪いのは)誰だ誰だ、と罵り合っているのは、自分も悪いと承知の上で、ということでしょうか。
 
「そうですね。今でもよく、あんなことしなければこんなにならなかったという大きな事故が起きるじゃないですか。タイタニックが作られたときは“大丈夫、安全だし沈まない”ということで救命ボートは20艘しか括り付けられなかったけれど、この事故が起こってから取り決めが変わったそうで、(時代が)大きく変わる前の十字架だったのかなと思わざるをえないです 。それでも、いろいろな事件が繰り返される。人間って学習していないんだということを思ったりもしますし、人間の業の凄いところなのかなという気もします」
 
お客様のイマジネーションの湖のための、”いい一滴”でありたい

――この物語をミュージカルとして提示する意義はどんなところにあると思われますか?
 
「お客様はもう結末をご存じなわけで、希望をもって乗り込んだ人々が大きな恐ろしいことに直面したときにどういうふうに身を処すかを御覧になって何を得るかは、お客様の選択肢に委ねられていると思います。ですから“ここを観てください”ということでは全然ないのですが、やる側としては、人間には様々な心の側面があり、それも含めて人間なのだということでしかないと思っています。
 
きれいごとでは済まされないと思うんですよ。あの別れの部分がとか、沈んでいく船の上でずっと我慢しながら楽団が演奏を続けていた、そこを観て下さいと言うとらえかたも変な話ですし、『タイタニック』を構成する群像の心の襞を観て何を思いますか、というところでしょうか。それ以上に踏み込むと越権行為のような気がするんです。
 
最近よく思うんですが、演じる側よりもお客様の方が圧倒的に知能指数が高い、と凄く思います。こちらが一を提示したとき、十ぐらい受け取ってくださるお客さんがとても多い。(作品に対して)前のめりになってくださるお客様は本当にいろんなことを受け取ってくださって、その方たちの想像力は僕たちのそれを遥かに超えていると思います。その想像力の湖に何か一滴を垂らすと波紋が広がっていく、その一滴であれたらいいなと思いますね。いい一滴でありたい。そのために演出家がいて演者がいるのかな。
 
今回も、前回と同じことをなぞるのではなく、クリエイティブに作っていってくれるトムと一緒に仕事できることがとても楽しみですし、新しいメンバーとああだこうだいろいろ悩み、言い合いながら、このメンバーならではのものができたらいいですね。そうすることによって(事故の被害者たちへの)更なる追悼の気持ちを持てるのだろうとも思うのです」

*次頁で渡辺大輔さんインタビューをお届けします!
 

渡辺大輔さん(三等船室客・ジム役)インタビュー

インタビューシリーズ第四弾は、渡辺大輔さん。同じ三等客の女性ケイト・マクゴーワンと恋に落ちる、ジム・ファレル役を演じます。ケイトとの恋を含め、思いがけない人生を歩むジムですが、それは偶然? いえ、ジムの真摯な生き方ゆえに起こったことではないか、と渡辺さんは想像します。役作りの面白さを感じさせてくれる渡辺さんのお話をお届けします。
 
渡辺大輔 82年神奈川県生まれ。06年『ウルトラマンメビウス』で俳優デビュー、07年『ミュージカル テニスの王子様』でミュージカルデビュー。『ちぬの誓い』『南太平洋』『1789 バスティーユの恋人たち』『ロミオ&ジュリエット』『京の螢火』など数多くの舞台で活躍している。2018年12月~『オン・ユア・フィート!』、2019年2月~『ロミオ&ジュリエット』出演予定。(C)Marino Matsushima

渡辺大輔 82年神奈川県生まれ。06年『ウルトラマンメビウス』で俳優デビュー、07年『ミュージカル テニスの王子様』でミュージカルデビュー。『ちぬの誓い』『南太平洋』『1789 バスティーユの恋人たち』『ロミオ&ジュリエット』『京の螢火』など数多くの舞台で活躍している。2018年12月~『オン・ユア・フィート!』、2019年2月~『ロミオ&ジュリエット』出演予定。(C)Marino Matsushima
 

一瞬、一瞬の感情を大切に、僕なりのジムを作りたい

 ――渡辺さんは今回が初参加ですね。
 
「前回公演はスケジュールの都合で残念ながら観られませんでした。ついこの前まで(『1789』で)一緒だった(加藤)和樹(さん)からは、“とにかくトム(・サザーランドさん)の演出が面白くて、楽しい現場だ”と聞いています。前回どうだったのかを気にされる方もいらっしゃると思いますが、僕としては、自分は自分。下手な先入観を持ちたくないこともあり、資料映像も拝見していません。僕なりのジム・ファレルを作れればと思っています」
 
――海外の演出家とのお仕事は初めてですか?
 
「『ブラッド・ブラザース』(グレン・ウォルフォード演出)で経験しています。もともと海外にも興味があって、ミュージカルが題材の映画などもよく観ていたので、海外の演出家さんだとこういう感じなんだなというのが新鮮でした。もちろん人にもよるとは思いますが、かっちり決めないところが好きでした。トムさんがどういう演出をされるかはまだわかりませんが、まずは自由にやってみようと思っています。彼自身が相当のタイタニック・マニアだと聞いているので、(物語の背景の)深い部分もうかがってみたいですね」
 
合唱するナンバーが多い『タイタニック』の音楽
 
――作品に対してはどんな印象をお持ちですか?
 
「まず音楽がとても素晴らしいと思いました。さきほども歌唱指導の方と、この作品はコーラスが多いという話になったんですよ。ミュージカルにはソロ・ナンバーが連続する作品も多いけれど、『タイタニック』の場合、合唱する部分が多くて、それだけ群像劇としての面が大切にされているんだと思います」
 
――ミュージカルにおける合唱というと、合わせつつも、同時にそれぞれの役柄もしっかり表現する、といった感じでしょうか?
 
「もちろんです。それぞれの役、思いを表現することが求められると思います。本作のキャラクターはそれぞれに異なる背景、夢を持っていて、例えば、タイタニックはイギリスの船ですが、僕の演じるジムはアイルランド人で、アメリカで警官になるという夢を持っています。こうした“役柄”に、自分が今、持っているもの(持ち味)をプラスアルファした歌にしていけたら。皆さんと作っていくなかで、どんな化学反応が起こるか、凄く楽しみです」
 
――渡辺さんが演じるジム・ファレルは、新天地アメリカでの新たな人生を夢見てタイタニックに乗り込む元・漁師。出番が多いほうではないにも関わらず、清新な印象を与えるお役ですね。
『タイタニック』ジム・ファレル役(渡辺大輔)

『タイタニック』ジム・ファレル役(渡辺大輔)


「三等客という、過度に裕福ではない人物だからこそ、観ている方に近い、リアルな存在なのかな。本作は豪華客船の物語なのでいろいろな(階層の)人物が出てきますが、危機に遭ったら人間はみな平等、ということを持って演じてみたらどうなるだろう、などとも考えています」
 
無我夢中の中で起こる出来事。その時の感情を大切にしたい
 
――船が沈むことが不可避となり、ジムの運命は限りなく絶望的に映りますが、終盤に思いがけない展開を見せます。
 
「ジムは目の前で起こることに対して真摯に、素直に行動する人間だと思います。もし自己中心的な人間だったら、真っ先に救命ボートに乗り込んでいたと思うんです。映画版の『タイタニック』でも、こっそり乗って、他の人たちから顔を隠していたような男性がいたじゃないですか。けれどもジムは無我夢中で女性や子どもを助けることに徹していたので、最後の展開には彼自身、果たしてこれで良かったのかと悩んだかもしれません。

命の危機に直面したとき、瞬時に何が正解で何が不正解かなんてわからない。今回、その描写が(演出として)あるかどうかはまだわかりませんが、例え台詞には無かったとしても、その時の感情を大事にしたいですね。タイタニック号の事故はつい最近まで訴訟が続いていたそうで、今だ風化していないし、させてはいけない事件です。(乗船客や乗員の)ご遺族、子孫、関係者の方々の思いも様々にある。そんな題材の舞台を演じるにあたって、皆さんの記憶に残る作品になるよう、人間ドラマとしての部分で人間味を出して行きたいと思っています」
 
――ジムはケイト・マクゴーワンという、同じく三等客のアイルランド女性と恋に落ちる人物でもありますが、出会ってすぐ、という感じではないようですね。
 
「はじめは彼女に対して、“どうしてそういう生き方なんだ?”と受け入れられない部分もあります。ただ、徐々に言葉を交わさずとも通じ合うものが増えてきて、いつの間にか彼女を目で追うようになる。でもいざ目の前にしたら、どう話しかけようかと不器用さが滲み出たり。そういう恋に落ちていく過程の、御覧になる方の口元がつい緩んでしまうような、もしくはキュンキュンするような初々しさを(ケイト役の小南満佑子さんと)二人で出していけるといいですね。

ジムならこう動くのではないかという演技の参考に、最近はアイルランド人に関する本を読み始めているんですよ。物事に対するリアクションって、国民性によっても違ったりするじゃないですか。煮詰まった時にはそういう資料がヒントになるので、アイルランドの男性はどんな感じなんだろう、と思いながら読んでいます」
 
プライドをとっぱらい、全てを楽しさに変える
 
――お話をうかがっていると、役作りというものに対して研究熱心でいらっしゃるし、何より楽しんでいらっしゃるように感じますが、昔からですか?
 
「以前はどちらかというと、一人で追及し、悩むタイプでした。でもいろいろな方にご指導いただくうち、もっと人に頼っていいということを学びました。昔は周囲に頼ることを、心のどこかでカッコ悪いと思っていたけれど、最近はそういうプライドはどんどんとっぱらっています。その結果なのかはわかりませんが、どんなことも楽しさに変えられるようになりました。仕事もプライベートも楽しく充実していることが一番だと思っていますし、まだまだ先だとは思いますが、 死ぬ時に“最高の人生だった、後悔はない!”と思える日々を過ごしたいんです。
 
今回の『タイタニック』も、キャストが変わるというだけで、すでに前回とは絶対違うものが生まれると思いますが、トムさんを中心に、ご一緒する皆さんとたくさんコミュニケーションをとって、新たな『タイタニック』を創り上げていきたいです。ジムをはじめ、キャラクターそれぞれの物語を通して、さまざまなことをお客様に感じていただけると嬉しいですね。群像劇ですので、一度の観劇では見きれない舞台に仕上がるような気がしています」

*次頁で安寿ミラさんインタビューをお届けします!

 安寿ミラさん(一等船室客・アイダ役)インタビュー


インタビュー第五弾でお迎えするのは、一等船室客のアイダ・ストラウス役、安寿ミラさん。実業家・政治家の夫人として40年間、夫に従ってきた彼女が、初めて逆らって発する一言とは? 人間の魂の強さ、美しさを体現するような役柄にどう取り組んでいらっしゃるか、たっぷり語っていただきました。
 
安寿ミラ 長崎県出身。元・宝塚歌劇団花組トップスター。95年に退団後は『グランドホテル』等のミュージカル、『グリークス』等のストレートプレイなど幅広く活躍。振付家としても活動している。

安寿ミラ 長崎県出身。元宝塚歌劇団花組トップスター。95年に退団後は『グランドホテル』等のミュージカル、『グリークス』等のストレートプレイなど幅広く活躍。振付家としても活動している。(C)Marino Matsushima

”ああいう夫婦になりたい”と思っていただけたら嬉しいです

――初演について、どんな思い出がおありでしょうか。
 
「まずはトム(・サザーランドさん)が、今とは全然違う人格でした(笑)。彼にとっては日本での初仕事で、周りは日本人ばかり。心細かっただろうし、私たちも初対面ということで、お互い硬かったと思います。そんな中で、タイタニックについてリサーチしてきたことを、トムが場面ごとにたくさん話してくれて、彼の真面目さも伝わってきたし、エピソードもどれも興味深かったんです。いつしか皆が同じ方向を向いてタイタニックの世界に入り込んでいけました。
 
今のトムは、“3年前のあなたはどこに行ったの?”というほど打ち解けましたね。前回は一言も話さなかった日本語で、歌を歌っているほどです(笑)」
 
タイタニックへの乗船は”たまたま”だった
『タイタニック』アイダ役・安寿ミラ

『タイタニック』アイダ役・安寿ミラ


――安寿さんが演じるアイダは、今も実在するアメリカの高級デパート、メイシーズのオーナー夫人。どのような状況で、どんな心境でタイタニックに乗船したのでしょうか?
 
「彼女はドイツ出身で、実業家であり政界にも進出したストラウスさんに40年間連れ添った女性。口答えもせず献身的に夫を支えた人でした。(ヨーロッパでの病気療養から)アメリカに帰国するにあたり、乗ろうとしていた船が動かなくて、たまたま乗ったのがタイタニックだったんです。
 
ところが船が氷山に衝突し、救命ボートには女性と子供しか乗れない、ということになり、夫に“ボートに乗りなさい”と言われたアイダは、夫に初めて逆らいます。最愛の人に最後までついていく、という強さを持った女性なのだと思います」
 
”この人とだったら最後の苦しみも乗り越えられる”

――夫からすれば愛する人には助かってほしいという思いがあると思いますが、それを受け入れるより、ともに死ぬことを選ぶのですね。
 
「きっとそれまで互いにいろいろなところで支え合ってきて、ここで離れて別々に死ぬより、一緒に死にたかったんだろうと思います。船の沈没までには時間がかかるので、亡くなるまでには物凄く苦しい時間がある。でも、この人と一緒だったらきっとその苦しみも乗り越えられると思ったんじゃないか、とトムは言うんですね。それほどの(強い)夫婦愛です。
 
トムには、ボートに乗る、乗らないで言い合うシーンは“喧嘩”でいい、と言われています。40年間、いろいろあったとしてもそこまで衝突するというのは初めてだったのではないでしょうか。でも、アイダとしてはそこで勇気を振り絞るというより、本能で逆らったのではないかと思います。“何を言ってるの、あなた”と。彼女が最後に言った“あなたがいらっしゃるところに私も参ります”という台詞は、生存者が実際に聞いていた言葉です。凄い人だし、到底まねできない、と思いますね。できますか? 私なら“はい、あなたの分も生きます”と乗り込んでしまうような気がします(笑)」
『タイタニック』前回公演より。撮影:宮川舞子

『タイタニック』前回公演より。撮影:宮川舞子


――それまでの人生に対する満足感もあったでしょうか。
 
「会社を息子たちに譲って引退というときに乗船したので、ひととおり生きたという実感はあったかもしれません。これが若い夫婦ならまた違う感覚だと思います。ジム・ファレルとケイト・マッゴーワンは全く違う台詞を交わしていて、それを私たちは真横で、“若いのね”という感じで聞いているんです」
 
――ストラウス夫妻、ジムやケイトのみならず、本作では様々な人間模様が描かれます。この作品世界に生きる中で、どんなことを感じますか?
 
「乗客にしても乗員にしても、それぞれにドラマがある。単に船が沈んだだけではなく、たくさんの夢が一度に散っていった。これだけのドラマが一緒になっていて、しかも実際にあった悲劇。なんという題材だろう、と感じます。個人的には、なかでも自分の身を投げうって乗客を助けようとする乗員たちに尊敬の念を抱きますね。仕事を全うした方たちだと思います」

”創っては壊し”の稽古で、作品の感動が劇的に増幅

――現在、お稽古も佳境に入ってきたと思いますが。
 
「早い時期に1幕、2幕とも粗く出来上がって、今はそれを壊している段階です。出はけ(登場する場所、舞台からはける場所)も変わってきたし、小道具なども変わったり……。これは初演にはなかったことで、トムとしてはまず一通りの形を見ようと思って通してみて、そこから細部を追及しているんだと思います。確かに改変していくごとにすごくよくなっていて、感動が増してきています」
 
――改変というのは、トムから“ここはこうしてみたら?”とアイディアが出て、皆さんが対応されるという感じでしょうか。
 
「というより、具体的に“そこではなく、ここに来てください”と指示されて、はじめは私たちはゲームの駒のように、“はーい”と動くという感じなのだけど、動きにしても演技にしても、細かい変更が重なってゆくなかで、だんだん芝居が変わってゆくのが感じられる。はっとする瞬間がたくさんありますね」
 
キャスト変更で前回とは全く異なるカラーも

――今回はキャストも一部変わっていますね。
 
「一番変化を感じるのは、船長とイスメイです。前回船長を演じた光枝(明彦)さんは誰もが認めるおおらかさがありましたが、今回の(鈴木)壮麻さん演じる船長はものすごく冷静沈着で、多くを語らずとも“私がやる”という気概がみなぎっていらっしゃいます。イスメイは前回、壮麻さんが憎らしさの中にも淡々としたところがあったけれど、今回の(石川)禅さんのイスメイは見るからに憎らしくて(笑)、ここまで変わるんだと。
 
キャロラインとチャールズのカップルも、前回は円熟味のある二人だったけど、今回は相葉(裕樹)君と(菊池)美香(さん)だからぐっと若くなって、雰囲気が全然違います」
 
――そんな中で、アイダさんについては今回、どんな変化があるでしょうか。
 
「いまだにいろいろ探っています。前回は全部をチェストボイスで歌っていたのですが、今回はもう少しやわらかい声を使ってみようと思います。トムは、歌唱法がどうということよりここ(胸を抑えて)が大事な人だから、そこにはこだわっていないんですよ。
 
芝居の部分では、さきほどもお話した通り、救命ボートのシーンが今回、“喧嘩”のような言い合いになっています。前回は私の台詞をきっかけにお客様が涙してくださっていたと聞きましたが、今回はどうなるでしょうか。
 
また、最後の二人のデュエットは今回、トムから“死を選んだ二人にとっては結婚式のようなものだからハッピーに”と言われていて、だから指輪を交換したりする。その幸せそうな様子が涙を誘うというようにやりたい、ということなのですが、昨日の稽古では“ハッピーでいいんだけど、やっぱり怖さであったり、泣きも入れてほしい”と言われて、難しいなぁと感じています。自分が考えられる精いっぱいのところで、役を膨らませていけたらと思っています」
 
実はこんな役も演じています

――本作では多くのキャストが複数の役を演じるのも特色ですが、安寿さんは……。
 
「はい、三等客役もやります。ここでは、(小野田)龍之介(さん)と(上口)耕平(さん)と私とで勝手に三兄妹という設定にしていて(笑)、一番発散できる自由なシーンです。冒頭の裁判シーンにも一般の人として出てきます。
 
キャストの中には6役やる人もいて、稽古場では衣裳をつけないので、お互い、今どの役を演じているのか、わからなくなることも。“今、誰?エッチス?”など、確認しながらやっています。みな、(演じ分けを)楽しみながらやっていますよ」
 
――どんな舞台になりそうでしょうか。
『タイタニック』前回公演より。撮影:宮川舞子

『タイタニック』前回公演より。撮影:宮川舞子

「前回より劇場のキャパシティが広くなって、前回は階段しか動かなかったけど今回は船全体が前に出てくるようになっています。その分スタッフさんが大変だと思いますが、スケール感が段違いですし、根底に流れてるものは一緒だけど、ビジュアル的にはかなり変わるのではないかと思います」
 
――ご自身のキャリアの中で、今回のアイダ役をどういうものにしたいと思っていらっしゃいますか?
 
「自分より年上の役は、アイダが初めてです。実在の人物で資料も残っているし、アメリカの各地に銅像が立ってるアイダさんを演じることができ、とても有難いですね。尊敬の気持ちを忘れずに演じたいです。そして“ああいう夫婦になりたい”と皆さんに思っていただけるといいなと思っています」

*次頁で加藤和樹さんインタビューをお届けします!
 

設計士アンドリュース役・加藤和樹さんインタビュー

 
インタビュー・シリーズの最後を飾るのは、設計士アンドリュース役の加藤和樹さん。初演では初の主演ということでプレッシャーもひとしおだったと思われますが、3年を経てお会いした加藤さんは、ぐっと座長としての頼もしさが増し、いっそうの熱さをもって本作について、そして稽古の様子について語ってくれました。出航直前の『タイタニック』カンパニーを代表する言葉の数々、ぜひじっくりとお読みください!
加藤和樹 愛知県出身。05年『ミュージカル テニスの王子様』で脚光を浴び、翌年CDデビュー。『1789』『フランケンシュタイン』『マタ・ハリ』などのミュージカル、『罠』『ハムレット』などのストレートプレイをはじめ、舞台・映像・音楽と幅広く活躍している。

加藤和樹 愛知県出身。05年『ミュージカル テニスの王子様』で脚光を浴び、翌年CDデビュー。『1789』『フランケンシュタイン』『マタ・ハリ』などのミュージカル、『罠』『ハムレット』などのストレートプレイをはじめ、舞台・映像・音楽と幅広く活躍している。

 

生き方を学ばせてくれた作品に
再び参加する喜び

 
――15年の『タイタニック』は大きな話題を呼び、連日大盛況でした。加藤さんにとっても思い出深い公演ではないでしょうか。
 
「刺激的でしたね。僕にとっては海外の演出家との初の仕事で、『タイタニック』をやる心づもりとして、(ジェームズ・キャメロン監督の)映画版を改めて見返してから稽古に臨みました。
 
描かれていることとしては、映画版ではジャックとローズに焦点が当たっている以外は、(映画版とミュージカル版は)それほど違わないのですが、稽古が始まってみると、トムの『タイタニック』は特定の人物ではなく、乗客・船員たち一人一人に焦点を当て、群像劇として新たに作り直しているものなのだとわかりました。彼のタイタニック号に対する思いの強さや、その表現の仕方というのは、今まで経験したことのないもので新鮮でした」
 
――何が違ったのでしょうか?
 
「極端に言えば、アンサンブルがいない。みんなが主役のような存在なんです。また、タイタニックは人の手によって作られたものなので、セットもすべて人の手で動かすというのがトムのプランで、キャストが自分たちでセットを動かしたり、無駄なものをそぎ落とし、よりシンプルな芝居になっていきました。
 
楽曲が十分に表現しているのでということもあるけれど、なるべく役者に大げさな表現をさせない。よりリアルな演技を追求するなかで、お客さんに背中を見せることもアリなのだと言われ、見せ方の違いをすごく感じました。これでいいのかなと思いながら稽古していた印象がすごくあります」
 
――この特集のトップバッター、藤岡正明さんは、本作が生き方に影響を及ぼしている気がするとおっしゃっていましたが、加藤さんはいかがですか?
『タイタニック』前回公演より。(C)宮川舞子

『タイタニック』前回公演より。(C)宮川舞子


「ありますね。トム曰く、タイタニックの沈没は誰かのせいで起こった事故ではなく、偶然が重なって起こった事故。そう思うと、自分自身、改めて思うところがあります。
 
今の世の中、当たり前のことが当たり前でなくなってきていて、自分には起こらないだろうということも、起こりえますよね。例えば天災が増えて、自分は絶対大丈夫と思っていても大丈夫ではなくなってきている。そんななかで自分は何をすべきなのか、ということを(本作に)教えられた気がします。自分はどう生きていきたいか、いくべきなのか。あるいは逃げ場がない状況下で、自分は何を、どう生きた証を残していくのか。どうやって自分の人生の最期を迎えるのかというのを学んだ気がします」
 
再演に取り組むにあたっての心構え
 
――今回の再演までの間に、何か準備されていたことはありますか?
 
「『タイタニック』に向けて何かをしたということはないのですが、この3年半ぐらいの間に自分自身も経験を重ねている分、まっさらな気持ちで臨もうと思っていました。個人的なことですが、最近、再演ものが続いていて、再演ものをやるには一度“忘れる”ということがすごく大事だと気が付きました。前回の記憶をベースにしてしまうと、“これでいい”という意識になりがちです。トムも言っていたけど、新たに作るという意識でやらないと前作は越えられないし新たな発見もないだろうと、そこはすごく意識していました」
 
――豪華客船に乗ってみたりといったことはされませんでしたか?
 
「しませんでしたが、乗ってはみたいですよ。実際にデッキの作りがどうなっているのか。そこから見える景色はどんなものか。経験することでより(『タイタニックの』)彼らが見ていた景色が見えるんじゃないかと思いますね」
 
――今回、(前回から)大きく変わった部分はあるでしょうか。
 
「具体的なことで言うと、セットがちょっと変わりました。それに対応する動きなどは一から作っています。でも、全体的な見た目としてはそれほど変わっていないんじゃないかな。劇場が変わるので大きくはなるけれど、やること自体を大きくするわけではないので。大きく見せようと(演技)してしまうと伝わるものが減ってしまうので、やることは変わりません。
 
あと、今回、キャストが半分くらい(前回公演から)代わっているので、新しい方々に合わせて演出が変わった部分もあります。僕が演じるアンドリュースで言えば、船長とイスメイ役が代わったので、すごく細かいところで、彼らに対するアプローチが変わっています。特に(鈴木壮麻さんから石川禅さんにバトンタッチした)イスメイが全く違うキャラクターで、面白いですね。イスメイの表情、攻め方、攻められ方が変わってきています」
 
なぜアンドリュースが群像劇の中心に据えられているのか
 
――本作は群像劇ですが、その中でもアンドリュースは中心に据えられています。なぜだと思われますか?
 
「というと?」
 
――筆者が感じたのが、登場人物がそれぞれにタイタニック乗船に際して夢を持っているなかで、アンドリュースはそれを表に出さない。そんなスタンスの違いによるものなのかも、という気がしたのですが。
 
「そうですね、アンドリュースは設計士で、いわばこの船の生みの親。みんなにとって出発は夢の始まりだけど、彼からすれば船は処女航海が終わった時に初めて完成したといえるわけで、まだ夢は始まっていないともいえます。
 
劇中の台詞にもあるけれど、実は船には問題点もあって、完璧主義者の一面を持つアンドリュースとしてはそれが許せないし、若干の不安もある。出発してからも気にかかっているので、ほかの皆とはちょっと空気の違いがあるんですよね。
 
イスメイなんかは“祝おうじゃないか”と言ってくるけれど、彼としてはまだ旅は始まったばかりだし、むしろ到着してから祝杯をあげるべきじゃないかと思っている。だから出航の日は複雑なんですよ。晴れやかな日だし、これは最高の船だと歌いもするけれど、完璧かどうかは、まだわからない。沈まないとも断言できないわけです」
 
より繊細に、揺れ動く内面を見せていきたい
 
――今回の稽古で、アンドリューについて新たに見えてきたものはありますか?
『タイタニック』前回公演より。(C)宮川舞子

『タイタニック』前回公演より。(C)宮川舞子


「彼の繊細な部分ですね。例えばイスメイに、船は作ったのはおまえなんだからこういうことはわかるだろうと尋ねられて、もちろんわかるし、説明したいのはやまやまだけど、まだわからないところがあるし、どういう問題があるか、出港してみないとわからないという不安な心境で対応している。彼の中に起こってる感情の浮き沈みを、より繊細に見せていければと思っています」
 
――ご自身の中で、特にテーマにしている箇所はありますか?
 
「2幕のいさかいのシーンと、“Andrew’s Vision”ですね。いさかいのシーンは、先ほどもお話しした通り、実際には事故は誰のせいというわけではないけれど、人間は誰かになすりつけたくなるんですよね。そのあと、アンドリュースは一人で振り返って、隔壁の高さを高くしておけばと自分を責めたりもするのですが。
 
それまで和気あいあいとしていた人たちが、事故をきっかけに汚い部分を見せる。“タイタニック”という、いわば一つの町のような空間にはいろいろな人間がいて、ストラウス夫妻たちが人間の美しさを描くいっぽうで、あんなに冷静だったアンドリュースがあんな姿を見せてしまう。人間って醜いし愚かな生き物だけど、そんな中にも美しい部分もあって素晴らしい、とすごく感じます。そういう部分も担えたらと思いますね。それがアンドリュースが見た最後の景色だと思うので」
 
――もし自分がアンドリュースだったら……と想像することはありますか?
 
「うーん、難しいですね。自分がもし設計士だったら同じような行動をとったとは思います。やっぱり(設計に)問題があったわけだし、それはもう悔やんでもしょうがないことではある。でも彼のように“ここをこうすればよかった”とじっくり(設計図に改めて)向き合えるかというと、そこまでは行けないかもしれません。自分の命が大事だし、船が沈む運命にあることは誰よりも早くわかっている。そういう状況下の中でパニックを起こさず冷静でいられるか。もちろんアンドリュースも冷静ではないけれど、もっとパニックになってしまうような気がしますね」
 
――稽古は今、どんなご様子ですか?
 
「一通り全体像が見えてきて、そこで浮き上がった問題点をみんなで解消しているところです。これからまだまだ変わっていくと思います」
 
志を同じくする皆で、高みを目指しています
 
――どんなカンパニーでしょうか?
 
「非常に楽しいです。先輩方がひっぱって下さるし、トムもほかの国でも上演を重ねてもまだやり足りない作品だと意欲を持って演出しています。やっぱりカンパニーによって違うものが出来上がるのは当たり前のことで、この日本で再演をやる意味を彼はちゃんとわかっているし、海外でやったものをそのままやるんじゃなくて、僕らに合わせて作っているところにすごく共感できます。今回は初参加の方もいらっしゃるので、共通認識をもっともっと増やしていってバランスのいい作品というか、もっともっとブラッシュアップしていければと思っています」
 
――トムさんとは相性の良さを感じますか?
 
「考え方は似ていると思うし、自分にないものをたくさんもっていると感じます。(一方通行ではなく)すごくみんなに聞いてくるんですよ、“どう思うか”って。通し稽古をして俳優が“疲れた”というと、“そうなんだよね、疲れるんだよこの作品は。疲れないほうがおかしい”と答える(笑)。役者の気持ちもわかるし、作品はこうあるべきというビジョンも持っている。みんなトムを好きになっていきますね。作品に対してすごく思いを持っているし、誰よりも“観客である”というか、見ていて楽しそうですよ。その彼の空気感が、このカンパニーの雰囲気の良さにもつながっていると思います」
 
――今回の再演、手ごたえを感じていらっしゃいますか?
 
「正直、まだわからないです(笑)。早替えの段取りだったり、細かい課題をクリアしていった先にどうなるか、初日が開くまでは何とも言えません。でも確実に、初演より良くなるだろうなという確信はあります。今回、続投しているメンバーは、新たな感情を加えることができるし、新しく入った人たちは新鮮な気持ちで作品に入っていく、それが相乗効果になって互いに高め合っていると思います。一つ一つクリアしながら、みんなで高みを目指していければ。今のところ、すごくいいペースで来ているので、まだまだよくなるだろうなという感覚はあります」
 
“生き残る側”にも興味があります
 
――加藤さんは近年、今回のアンドリュースのように、劇中で命を落とすドラマチックな役を多く手掛けていらっしゃいますが、ご自身としてはどう受け止めていますか?
 
「結果的に死ぬ役が多いんですよね……(微笑)。でも、やりがいはすごくあります。彼らは自分が死ぬなんて最初からわかっていないけれど、その運命に向かって、生きた証を舞台上でどう残すかということを考えます。ポジティブなシーンがあればあるほど、その後の展開がドラマチックになっていくので、冒頭からきちんと積み上げていけたら、と思っています。
 
でも『タイタニック』に関しては、生き残る方もつらいですよね。(多くの人が死ぬのを目の当たりにしながら生き残るので)大きなものを背負いながら、何かを感じながらずっと生きていかなければならない。死んでしまう側はそこで終わりだけど、残された人々はその先も人生を歩んでいかなければならない。そういう意味では、そちらの(生き残る)側も演じてみたいですね。どう生きるか。そしてどう、最期の時を迎えるか。芝居を通してずっと考えてきています」

*公演情報*タイタニック』2018年10月1~13日=日本青年館ホール、10月17~22日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

*次頁で2018年『タイタニック』観劇レポートを掲載します!
 

2018年 ミュージカル『タイタニック』観劇レポート

“確かに生きた”キャラクター達を通して、人間を深く洞察する群像劇
『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

『タイタニック』2018年 左からアンドリュース(加藤和樹)、イスメイ(石川禅)、スミス船長(鈴木壮麻)撮影:花井智子

*”ネタバレ”を含みますので、未見の方はご注意下さい。

場内に入ると、既に舞台中央には設計士のアンドリュース(加藤和樹さん)がデスクワークにいそしんでいる。開演前の場内アナウンスも、一等船室係エッチス(戸井勝海さん)が役名を自称しながら担当。足を踏み入れた瞬間から、観客もまさに豪華客船タイタニック号に乗船したかのような感覚に包まれます。
 
そこに現れる一人の男(石川禅さん)。アンドリュースと船長たちが設計図を手に、晴れやかな表情を浮かべる様を見て、しみじみと歌いだすこの人物こそは、この船のオーナー、イスメイです。タイタニック沈没事故の裁判に臨むにあたり、彼が回顧する“あの日、あの時のドラマ”という設定のもと(演出・トム・サザーランド)、本編はスタート。
 
乗客、乗員それぞれのドラマが丁寧に展開
『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

『タイタニック』2018年 チャールズ(相葉裕樹)、キャロライン(菊地美香)撮影:花井智子

船底で働く機関士、バレット(藤岡正明さん)を筆頭に、船には二等航海士のライトーラー(小野田龍之介さん)や14歳のベルボーイ(百名ヒロキさん)、アメリカ人のバンドマスター、ハートリー(木内健人さん)らスタッフ、そして乗客たちが次々と乗り込んでいく。
『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

『タイタニック』2018年 ストラウス(佐山陽規)、アイダ(安寿ミラ)撮影:花井智子

貧しい故郷アイルランドを後にし、新天地アメリカでの新たな生活を夢見る3人のケイトたち(小南満佑子さん、屋比久知奈さん、豊原江理佳さん)やジム(渡辺大輔さん)、本来は一等客だが八百屋の息子チャールズ(相葉裕樹さん)と駆け落ちし、二等客として乗船するキャロライン(菊地美香さん)、創業した有名デパートを息子に譲り、悠々自適な生活を送ろうとしているストラウス夫妻(佐山陽規さん、安寿ミラさん)……。
『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

『タイタニック』2018年 ジム(渡辺大輔)、ケイト・マクゴーワン(小南満佑子)撮影:花井智子

それぞれにバックグラウンドがあり、夢を持つ人々が現れては乗り込んでゆくさまが、20分以上の大ナンバーで描かれ、壮観です(一人数役を演じる俳優たちの早変わりも見事)。この後に起きる悲劇を知っていても、場内に満ちる圧倒的な高揚感に酔いしれずにはいられません。
 
モーリー・イェストンの流麗な音楽に彩られつつ、1幕ではこうして出航したタイタニック号の船上でのドラマをじっくり、丁寧に描写。乗員サイドでの、“最速”記録を作ろうとプレッシャーをかけるイスメイとスミス船長(鈴木壮麻さん)の攻防や、恋人にプロポーズの電報を出したいバレットと通信士ブライド(上口耕平さん)の交流なども描かれ、船内各所における出来事に視線が注がれます。1幕終盤、踊る乗客たちをよそに、船首では見張り係のフリート(吉田広大さん)が夜の冷気に包まれながら「No Moon」を歌う。どこか憂いをおびた曲調、じりじりと迫りくる“その時”……。
 
前半とは対照的なスピード感の中で展開する2幕
『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

『タイタニック』2018年 マードック(津田英佑)、フリート(吉田広大)、ライトーラー(小野田龍之介)撮影:花井智子

そして巨大な氷山が彼の目に見えた瞬間から、ドラマは一転、めまぐるしく展開。一等航海士マードック(津田英佑さん)は舵を切って氷山を避けようとするが、非情にも船は6か所にわたって破損してしまう。アンドリュースはイスメイたちに対して、船が2時間以内に沈没すると宣言。54艘必要だった救命ボートは見栄えのため、20艘しか配置されていなかった。船長は女性と子供たちをボートに案内するよう、指示を出す……。
 
情報が錯綜する中で、慌ただしく船上のあちこちで行われる夫婦・親子の最後の抱擁。ボートの漕ぎ手を巡って男たちの運命が一瞬で入れ変わり、ある者は男性でありながらこっそりとボートに乗り込む。前半とはあまりにも対照的なスピード感の中で必死に生きる人々の姿はリアルこの上なく、観ている側も呼吸を忘れてしまいそうなほど、引き込まれます。しかし船は無情にも、アンドリュースが完璧さを欠いたと自らの設計を悔やむ中で大きく傾き……。
 
リアルに、思いを込めて役を生きるキャスト
『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

『タイタニック』2018年 イスメイ(石川禅)撮影:花井智子

その後の様子はボートに乗り込んだ人々の“証言”として次々語られ、舞台上には再び船の出航を待ち、期待を胸に歌う人々の姿が回想として現れる。その中でイスメイが立ち尽くすというのが、今回の幕切れです。このキーパーソン、イスメイ役の石川禅さんが、強欲さから焦燥、混乱、忸怩たる思いまで揺れ動く内面を鮮やかに描写。決して単なる“悪役”として突き放せない人間臭さを見せ、イスメイが死ぬまで背負い続けていかなければならないものの大きさを痛感させます。
 
“動”のイスメイとは対照的に冷静沈着にことにあたりつつ、痛恨の極みを船長、イスメイとの諍いやラストのナンバーにぶつけるのが、設計士のアンドリュース。演じる加藤和樹さんは初演からの年月で積み重ねた経験が活き、一流の設計士としての理知的なたたずまいに説得力が。また前述のナンバーではいっそうの迫力とともに場面をリードし、作品の“芯”として確かな存在感を放ちます。
『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

『タイタニック』2018年 ブライド(上口耕平)、バレット(藤岡正明)撮影:花井智子

ほかのキャストもそれぞれに持ち味を発揮していますが、今回、特筆したいのがブライド役、上口さんとエッチス役の戸井さん、そしてアリス&エドガー・ビーンを演じる霧矢さん、栗原英雄さんです。上口さん演じるブライドには今で言う”おたく”のようなストイックな空気感があり、通信室にこもり、小さな不満を抱えながらも仕事に邁進。そんな彼がバレットに自分同様の不器用さを見出してか、親切な申し出をし、心通わせる姿に微笑まずにはいられません。またその一徹さが、のちに絶望的な状況の中でも、無心に信号を打ち続ける姿へと繋がってゆきます。
『タイタニック』撮影:花井智子

『タイタニック』撮影:花井智子

エッチス役の戸井さんは、一等船室客係としての流れるような物腰にいっそうの磨きがかかり、淡々とした空気感もまさに“本物”。そんな彼がエドガー・ビーンとの“男同志の会話”など、ちょっとした場面で覗かせる素顔が興味深く映ります。
『タイタニック』撮影:花井智子

『タイタニック』撮影:花井智子

いっぽう霧矢さんと栗原さんはかたや上昇志向が強く、かたや堅実とタイプが異なり、日常的には小さな衝突を繰り返しながらも、深い愛情で結ばれた夫婦を体現。特に妻を穏やかな笑顔で送り出し、最後に彼女を片腕に抱くようなしぐさを見せる姿からは、一見地味に見えて“本当にいい男”というのはこういう人なのではないか、と気づかされる方も多いことでしょう。
『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

『タイタニック』2018年 撮影:花井智子

終幕、そしてカーテンコールには実際の事故で亡くなった人々のリストが背後にあらわれ、場内は厳粛な空気に。自らの能力、創造物を過信したゆえの人間たちの悲劇を通して、私たちは何が学べるか。同時に、極限の状況に追い込まれたとき、自分はどんな姿を見せるのか。それぞれに確かに生きたキャラクターたちを通して、観る者も今一度生き方を見つめなおしたくなる群像劇です。
 
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