劇場の涼しさが有難い季節がやってきました。劇場によってはブランケットの用意の無いところもありますので、羽織ものをお忘れなく。今月も少しずつ注目作の取材記事をUPしていきますので、どうぞお楽しみに!

(筆者Marino Matsushimaをツイッターでフォローしていただけますと、記事更新時にお知らせします。)

《7月開幕の注目!ミュージカル》
『エビータ』←アントン・レイティンさんインタビューをUP!(本頁)
『キス・ミー・ケイト』←観劇レポートをUP!(本頁)
グーテンバーグ!』←鯨井康介さん、板垣恭一さん(演出)インタビュー&観劇レポートをUP!
ピーターパン』←莉奈さんインタビュー&観劇レポートをUP

《別途、特集記事掲載のミュージカル》
アニー』←藤本隆宏さん、青柳塁斗さんインタビュー、観劇レポートをUP!
『宝塚BOYS』←良知真次さんインタビューをUP予定
タイタニック』←藤岡正明さんはじめ出演者インタビューをUP!
 

エビータ

7月4日~29日=東急シアターオーブ

【見どころ】
『エビータ』

『エビータ』

恵まれない環境に生まれながらアルゼンチン大統領夫人に上り詰め、33歳の若さで亡くなったエヴァ・ペロン。その波乱の生涯をシニカルに描き、1978年にウェストエンド、79年にブロードウェイで開幕した名作が、待望の“初”来日。歯切れのいいティム・ライスの歌詞、「アルゼンチンよ泣かないで」に代表される、クラシックとラテン、ポップスを自在にミックスさせたアンドリュー・ロイド・ウェバーの音楽が、ハロルド・プリンスによるオリジナル演出で蘇ります。

エヴァ役を演じるエマ・キングストン(ウェストエンドの『レ・ミゼラブル』でエポニーヌ役)ら、実力派キャストがひしめく今回は、水先案内人的なキャラクター、チェを、人気俳優のラミン・カリムルー(『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャン役等)が日本限定で演じるのも話題。劇団四季版(演出・浅利慶太さん)との比較も、楽しみにしている方が多いことでしょう。

【マガルディ役、『エビータ』レジデント・ディレクター
アントン・レイティンさんインタビュー】

1970年代のオリジナル演出が、
2018年という新たな時代のためにみごとに
“モダン化”された、と自負しています
Anton Luitingh(アントン・レイティン)南アフリカ出身。『キャッツ』マンカストラップ、『美女と野獣』ビースト、『レント』ロジャー、『ジーザス・クライスト=スーパースター』ピラト、『シカゴ』ビリー・フリン、『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』ファラオなどを演じ、演出家としても活躍。「ミュージカル・シアター・ワークショップ」共同創設・経営者でもある。(C)Marino Matsushima

Anton Luitingh(アントン・レイティン)南アフリカ出身。『キャッツ』マンカストラップ、『美女と野獣』ビースト、『レント』ロジャー、『ジーザス・クライスト=スーパースター』ピラト、『シカゴ』ビリー・フリン、『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』ファラオなどを演じ、演出家としても活躍。「ミュージカル・シアター・ワークショップ」共同創設・経営者でもある。(C)Marino Matsushima

――初日を拝見しましたが、とてもエネルギッシュな舞台ですね。

「(楽しんでもらえて)良かったです。感じてもらえたエネルギーは、今回、かなり(平均年齢が)若いカンパニーなのと、メインキャストは5名、そのうち主役級は3人でその他のアンサンブルが軍人や上流階級、民衆といろんな役を終始演じ分けている、その多忙さが醸し出しているものでもあると思います。ミュージカルの中には一回、出番があると次の出番まで30分間楽屋で待っているような演目もあるけれど、本作はそういうものじゃない。(皆が)出ずっぱりであることで一体感や、ライブパフォーマンスの良さも生まれていると思いますよ。劇場(シアターオーブ)もいいですし」

――この劇場、お気に入りですか?
『エビータ』撮影:渡部孝弘

『エビータ』撮影:渡部孝弘

「ええ、とても。美しいし、濃紺の劇場というのがいいですね。(故郷の)南アフリカでは、『ライオンキング』をやっている劇場のように内側が木の壁で、アース・カラーに統一されているところもあるけれど、ここはシンプルな作りで演目のカラーがその都度、反映される。また(最後列までの)奥行きがあるのに親密さが感じられる点もいいですね」

――今回は「オリジナル・プロダクション」とのことですが、70年代のウェストエンドやブロードウェイの公演とどの程度同じと考えてよろしいでしょうか?

「当時のビデオと見比べてみれば、ステージング、衣裳などは同じだと言えるでしょう。相違点を挙げるなら、例えば“You must Love me”というナンバーはご存知のように映画版(マドンナ主演)のために書かれた曲なので、オリジナル版にはありませんでした。

 

またロイド=ウェバーが編曲をアップデートしているので、オーケストレーションにはより厚みがあり、よりアルゼンチン音楽風でもある。(使う)楽器も一部変わっているし、“Buenos Aires”のダンスブレイクが長くなったりもしていますね。そして技術の進歩により、照明も映像も“完璧”化している。

同じプロダクションではあるけれど、2018年という新たな時代のためのモダン・バージョンになったと言えるでしょう。古めかしい感じは全くないですね。もう一つ、今どきの俳優は3拍子揃った人ばかりで、“歌えて、芝居ができて、踊れる”。曲調が変わっても、声楽の発声とロックの発声を使い分けて歌うことが出来るんですよ」

――今回、拝見していて、意図を教えていただきたい箇所が二つほどありました。一つは“You must love me”のシーンなのですが、エヴァが歌い終わるあたりでペロンが上手から登場しますが、二人は目を合わせません。これはなぜでしょうか?

「演出家の解釈によるものです。この頃、二人は別の人生を歩んでいます。エヴァはガンを患っており、舞台装置からもわかるように、二人は寝室を別にしており、しばらく肉体関係もない状態です。彼女は“それでも私を愛して”と彼に対して怒っているが、かつてのようなホットな関係は二人の間にはなくなっている。
『エビータ』撮影:渡部孝弘

『エビータ』撮影:渡部孝弘

またもう一つ、違うレベルでもこの曲は意味を持っていて、このタイトルはペロンだけではなく国に対しても向けられている。“私の中にはもうパワーも美貌もほとんど残っていないとしても、私を愛して”と言っているのです。以前、このシーンでエヴァがペロンの腕に抱かれ、横たわってこの曲を歌っているプロダクションを観たことがありますが、創作上の(演出家の)選択の違いということでしょうね。

この作品で、ロイド・ウェバーとティム・ライス、そして(オリジナル演出家の)ハル・プリンスは、観客が彼女をどう見るか……好きになるか嫌いになるか……を、観客に委ねました。プリンスとしては、ロマンティックな物語を見せるというより、二人の人物(ペロンとエヴァ)がいかに一つの国を動かしていったかを見せ、“これ(独裁)は健康的なことか?”と問いたかったのでしょう。人々はカメラの前での二人は知っていても、家の中では何を喋ってどんなことを企んでいたかは知らなかった。そんなエヴァも、病気で倒れて権力を失い、人々のスピリチュアル・リーダーになろうとする。ダイアナ妃のような存在にね。“神様なぜ(こんなことをするの)ですか、夢をかなえるために、もう少しだけ時間をください”と願うが、彼女はペロンの心はもちろん、民衆の心も、美しい容姿も失ってゆく。悲しいことです。
『エビータ』撮影:渡部孝弘

『エビータ』撮影:渡部孝弘

このドラマを、現代の観客はどう見るでしょう。彼女は野心家で、望んだものは何が何でも手に入れようとする人です。チャリティの名のもとに(上流階級から)金を取り上げては、(貧民に)バラまいたが、その一部を自分の懐にも入れていた。“聖女なのか、悪人なのか”という論議になるのです。判断が観る人に委ねられた、とてもうまく出来た物語ですが、これはロイド=ウェバーとティム・ライスが『ジーザス・クライスト=スーパースター』でもやっていたことなんですよね。『ジーザス~』では、物語がユダの視点で語られ、彼がイエスを裏切らなければならなかったことを“感じる”ことが出来る。その立場にならなければわからないことが“体感”できるという点で、『ジーザス~』もとてもいい作品です」

――もう一つ気になったのがラストシーンです。チェは最後の台詞を喋りながらペロンと間近に顔を見合わせ、ぷいと目を逸らせ、去る。まるでペロンを責めているように見えたのですが。

「まさしくその通りです。それまでずっと、チェとペロンは顔を合わせることがないのですが、最後の最後で面と向かい、チェは“あんたはなんてことをしてくれたんだ”とばかりに迫る。思えばペロンは権力の最高潮にあるときは、エヴァに操られる存在だった。『ジーザス・クライスト=スーパースター』で、イエスを処刑などしたくなかったかもしれないのに、人々からのプレッシャーでそうせずにはいられなかったピラトのようにね。エヴァから、そして民衆からのプレッシャーがあったとはいえ、国をとんでもない方向に向かわせ、エヴァが病に倒れてからは彼女を見捨ててしまった。

“あんたとエヴァがこの国をダメにしたんだ”と迫るチェは、観客(の代表)でもあり、物語の中の民衆の一人でもある。非常に面白い存在です」

――アントンさんは今回、レジデント・ディレクターでもありますが、一人の演出家として、このプロダクションのどの部分を気に入っていますか?
『エビータ』撮影:渡部孝弘

『エビータ』撮影:渡部孝弘

「今回、僕はレジデント・ディレクターとして、アメリカから(南アフリカに)やってきた人々(ハロルド・プリンスの弟子・ダニエル・カトナーら)から、ステージ上の人々の動きから照明まで、このショーのすべてを教わりました。オリジナル演出家のビジョンがよくわかり、改めていかにプリンスが“天才”であったか、再認識しましたね。

そんななかで僕が気に入っているのが、一つには椅子取りゲームのシーン。政治家たちの権力争いを、子供の遊びである椅子取りゲームで描き、一人一人脱落する様子を通して、この政治家たちはガキだ、と表現する。とても効果的でスマートだと思います。もう一つは、アンサンブルが15人しかいない中で、観客を民衆に見立て、映像も巻き込んで劇場全体が一体化し、(ペロンを支持する)何十万もの群衆を表現してみせるテクニック。シャンデリアがあるわけでも、猫が天上に上る装置があるわけでもないミニマリスティックでシンプルな舞台装置だが、客席との一体感によって観客を物語に引き込む、この70年代的な力技がなんとも好きですね」

――いっぽうでアントンさんはエヴァを郷里から(首都の)ブエノスアイレスに連れてゆく歌手・マガルディを演じています。どう楽しんでいらっしゃいますか?
Anton Luitingh as Magaldi - Evita International Tour - Photograph by Christiaan Kotze.

Anton Luitingh as Magaldi - Evita International Tour - Photograph by Christiaan Kotze.

「マガルディは本作で(純粋に)楽しめる唯一の役だと思っています。初めてこの作品に触れたとき、本作はロックオペラで、出演者たちにはリアルな芝居が求められるけれど、マガルディだけは遊び(誇張)が許されると思いました。お客さんはシリアスにとらえる必要がなく、彼をみて(しょうもない人物だと)笑うこともできる。僕はパントマイム(注・英国などでクリスマス・シーズンに数多く上演される、童話などの音楽劇)・スタイルで演じようと思いました。

まあ、タバコを吸いまくって多くの女性たちと付き合っているのだから、個人的には近づきたくないタイプの人間だけどね(笑)」

――アントンさんは南アフリカをベースに活躍されていますが、現地のミュージカルの状況を少しお教えください。

「2001年を境に、南アフリカのミュージカル事情は大きく変わりました。それまで、ミュージカルは国内の人々によって演じられていましたが、国境を越えていくことはありませんでした。それが、かつて『キャッツ』の英国初演時、出資者だったことでキャメロン・マッキントッシュやアンドリュー・ロイド=ウェバーに近しい存在だったピーター・トーリエンというプロデューサーが、2001年に『キャッツ』を南アフリカのキャストで上演し、そのまま4年間、レバノン、韓国、台湾と海外ツアーを成功させたことで、一つのビジネスモデルが出来たのです。

南アフリカ人は真面目で、大志もある。そして為替の面でも競争力がある、ということで、以来各国のプロデューサーと組んで、国内でしばらく上演し、その後海外ツアーに出る、というパターンが生まれました。そのおかげで、南アフリカ公演だけなら予算的に厳しい大型作品、例えば『オペラ座の怪人』のような豪華なショーも上演しやすくなっています。また僕を含め、役者たちも各国の人々と仕事をする中で腕を磨き、3拍子の揃った、そして適応の早い役者に育ってきました。僕の履歴書を観て、“こんなにたくさんの(重要な)役を演じて来たのか”と驚く方もいらっしゃいますが、それは『キャッツ』以降の南アフリカ・ミュージカルの充実があってこそなんです」

 

キス・ミー・ケイト

7月3日~8日=東京芸術劇場プレイハウス、以降8月8日まで各地で上演

【見どころ】
『キス・ミー・ケイト』

『キス・ミー・ケイト』

シェイクスピアの喜劇『じゃじゃ馬ならし』を上演しようとする一座の、恋(とお金)を巡る大騒動。コール・ポーターの小粋な楽曲に彩られた1948年初演のブロードウェイ・ミュージカルが、昨年に続き、ミュージカル振興を目的とした映画演劇文化協会「ハローミュージカル!プロジェクト」事業として、全国を巡演します。座長役の松平健さん、その元妻役の一路真輝さんをはじめとする豪華キャストの公演を、手ごろな料金設定(東京公演の場合、S席7000円)で観られるのが第一の魅力。

笑いに歌・ダンスもたっぷり(演出・振付 上島雪夫さん)の“王道ミュージカル”は、初心者にも最適です。ふだんは劇場に縁遠い友人・ご家族を誘ってみるのもいいかもしれません。

【観劇レポート】
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

ボルチモアのとある劇場。バックステージと思しき空間に俳優とスタッフが集まり始める。「またショーが始まる…」と期待に満ちたナンバーが歌われるなか、役が割り振られ、稽古が始まる。一本の芝居が立ち上がってゆくさまが鮮やかに描かれるオープニングを経て、場面は1年前に離婚した座長フレッドと主演女優リリーのやりとりへ。
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

お互いに主張が強く、犬猿の仲となっている二人だが、デュエットを歌ううちに昔の感情を思い出し、まんざらでもない様子。と思いきや、フレッドが若い女優に贈った花束が手違いでリリーに届けられたことで、リリーは激怒、勢い劇中劇であるミュージカル版『じゃじゃ馬ならし』で暴走してしまう。舞台はどうなってしまうのか、そしてフレッドとリリーの仲は?
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

俳優たちの恋の騒動と劇中劇をオーバーラップさせた1948年初演の本作には、しばしば指摘されているように女性蔑視的な描写もありますが、それ以上に魅力的なのがコール・ポーターによる名曲の数々。1幕ではリリー、2幕ではフレッドが歌うロマンティックな“So In Love”、バックステージで俳優たちが歌うスタイリッシュな“Too Darn Hot”など、時代を超えて”スタンダード化”されているナンバーがずらりと続き、観客の耳を楽しませます。
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

またこの楽曲にインスパイアされた上島雪夫さんの振付は次々と新たな構図を生み出し、抜群のチームワークでそれを踊りこなす俳優たちによって、胸のすくようなダンスナンバーに昇華。特にフレッドの付き人ポール役の加賀谷一肇さんが驚異的な身のこなしでリードする“Too Darn Hot”は、例えこの数分間のためだけでも観に行く価値のあるシーンです。
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

もちろんメインキャストの方々もそれぞれに魅力炸裂、フレッド役の松平健さんは揺るぎない存在感で舞台を牽引、対するリリー役の一路真輝さんは劇中劇の“じゃじゃ馬”カタリーナをかなりのハイテンションで演じて作品に無邪気な笑いを提供し、リリー役としてはフレッドと新たな恋人ハリソンとの間で揺れる女心を絶妙に表現。ビルという恋人がいながらフレッドはじめ多方面とよろしく付き合っている若い女優ロイス役の水夏希さんは、くるくると気分が変わるが悪気はない女性を明るく、チャーミングに演じ、その恋人で騒動の発端となる借金をしてしまう俳優・ビル役の大山真志さんは、持ち前のスケール感でダメ男をおおらかに体現。
 
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

借金のとりたてに来たギャングの二人組役・太川陽介さん、杉山英司(スギちゃん)さんも、役柄を心得た人懐こい演技で場を沸かせ、リリーの新たな恋人ハリソン役の川崎真世さんは副大統領、そしていずれ大統領の座を狙う野心家の陸軍将軍を威厳たっぷりに。そしてリリーの付き人、ハッティー役のちあきしんさんも、幕開けのナンバーはじめ要所要所で、安定感たっぷりの歌声を披露、舞台をびしっと引き締めています。
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

カーテンコールではメインキャラクターたちが持ち歌を歌いながら登場。ここでもポーターの名曲の数々をおさらいでき、“耳福”体験とともに帰途につける舞台となっています。

*次ページで『グーテンバーグ!』をご紹介します!
 

グーテンバーグ!

7月18~29日=新宿村LIVE

【見どころ】
『グーテンバーグ!』

『グーテンバーグ!』

2006年にオフ・ブロードウェイで上演、出資者たちの前で新作ミュージカルのプレゼンをするという設定で、二人の役者がいくつもの役を演じ分けるというユニークなミュージカルが、昨年の日本初演に引き続いて再演。前回、その芸達者ぶり、おふざけぶり(?!)が絶賛された福井晶一さん・原田優一さんコンビに加えて、今回は鯨井康介さん・上口耕平さんのニュー・チームも参戦します。

日本のミュージカル・ファンもうなずける“ミュージカルあるある”はもとより、出演者のプロフィールも反映させた小ネタもちりばめられ、くすくす笑い(時に爆笑)が絶えない本作。演出の板垣恭一さん情報によると、同じ台本を使いながらも2バージョンは全く違った仕上がりになりそうとのことで、ぜひ双方とも楽しみたい舞台です。

【ダグ役・鯨井康介さんインタビュー】
“体感型アトラクションのような感覚で、気楽に劇場に遊びに来てください”
鯨井康介undefined87年埼玉県生まれ。05~06年に『ミュージカルundefinedテニスの王子様』に出演、以後『ROCK MUSICAL BLEACH』『bare』『ピーターパン』『Before After』『弱虫ペダル』等の舞台、テレビアニメ、TVドラマ、映画など幅広く活躍している。(C)Marino Matsushima

鯨井康介 87年埼玉県生まれ。05~06年に『ミュージカル テニスの王子様』に出演、以後『ROCK MUSICAL BLEACH』『bare』『ピーターパン』『Before After』『弱虫ペダル』等の舞台、テレビアニメ、TVドラマ、映画など幅広く活躍している。(C)Marino Matsushima

――初演の『グーテンバーグ!』は御覧になっていますか?

「今回、オファーをいただいてから映像で拝見しました。第一印象としては、二人でたくさんの役を演じるので、やる側としては大変だけど、二人の役者が力をフル活用して、何人も出てくる芝居を作り上げるという、本当に面白い作品だと思いました。バッカーズ・オーディションといって、作品を書いた二人が出資者にプレゼンをしているという設定なので、お客様と目線を合わせながらダイレクトに言葉を伝える瞬間が多い。お客様にとっては、演じる二人にも興味が沸く作品だとも感じます」

――ミュージカル愛に満ち満ちた作品ですが、鯨井さんご自身はミュージカルへの思い入れは?

「観るのも好きですし、自分も何本かやらせていただいていますが、ミュージカルが活動の中心ではないからこそ、憧れもリスペクトもあります。音楽って偉大ですよね。普通の演劇では時間がかかることも、音楽なら短い時間で伝えることができる。ミュージカルという手法の凄さだと思います」

――ミュージカル“あるある”もちりばめられていますが、“なるほど”と思ったことなどありますか?
『グーテンバーグ!』2017年公演より。写真提供:conSept

『グーテンバーグ!』2017年公演より。写真提供:conSept

「ありますね。例えば『ビスケット』という曲が出てきて、お客様が(心理的に)休憩できるように作られた“チャームソング”であることが解説されるのですが、僕も今までミュージカルを観ていて“この曲、要るの?”と思うことがあったけれど、それはこういうことだったんだな、と。それ以外にもミュージカルをどういうふうに作っているかが丁寧に描かれていて、ミュージカル入門編としても楽しんでいただけると思います」

――初演では、演じる福井晶一さん、原田優一さんのキャリアに即した台詞もありましたが、今回は……。

「演出の板垣(恭一)さんが各チームに合う台本を書いてくださって、僕は“ダグ・サイモン・鯨井”という役なので、僕のこれまでの経歴も面白く取り入れていただいています。僕のこれまでをご存知の方に笑っていただける要素もきっとあると思います」

――いろいろなキャラクターを演じ分けますが、演じていて楽しいのは?
『グーテンバーグ!』2017年公演より。写真提供:conSept

『グーテンバーグ!』2017年公演より。写真提供:conSept

「酔っ払いですね(笑)。(ストーリーに直接絡まないので)コミカルにカリカチュアしながら、何も考えず演じられると思います。僕は普段、お酒を飲まないので、お手本としては志村けんさん(の酔っ払い演技)かな。あとプライベートでは、僕の周りに酔っぱらいはいっぱい転がっています(笑)」

――逆に大変なお役は?

「(グーテンバーグを愛する)ヘルベチカという女性の役を、上口さんと代わる代わる演じるのですが、女性のハートを演じるだけでなく、女性の歌もやる、という二つ負荷がかかるイメージで、僕にとっては挑戦ですね。上口さんとは(どういう女性として演じるか)今、探っている段階で、板垣さんからは“(見え方が)バラバラになっても面白いかもね”と言われていますが、二人とも“この子、かわいいね”という共通認識は持っています」

――ではその上口さん、どんな“相方”ですか?
上口耕平さん

上口耕平さん

「すごく不思議な方なんですよ。常識人だし優しいけれど、どこかミステリアス。踏み込めない瞬間もあって、人間としての深さを感じます。でも話の方向性は合うので、楽しく打ち合わせしていけるんだろうなと予想しています。掛け合いも楽しいですよ」

――上口さんはミュージカル出演が多い方ですが、鯨井さんはどんなカラーを出して行こうと?

「まだ稽古序盤なので探っているところですが、僕はミュージカルの空気と違うところにいる人間なので、例えば会話のテンポなどは一味違うものが出せるかもしれません。自分が楽しいと思うことをやっていけば、おのずと自分の色が出てくるのではないかと思います。ミュージカルなので、歌もしっかり歌いたいですし、ふだん応援してくださっている方々にも、いつもの姿と違うものをお見せしたいですね」

――お客さんたちに、どう楽しんでほしいですか?

「(本作は)セットも無く、衣裳・小道具も最小限という中で、“僕たち、こんな舞台を作ったんです”とプレゼンしていきますので、気楽に、オーディションに参加したような感覚で見ていただけたらと思います。僕らは皆さんを巻き込んでいこうと頑張りますので、体感型アトラクションのような感覚でいらしてください!」

――プロフィールについても少しうかがわせてください。鯨井さんはお母様が日本舞踊のお師匠さんなんですね。

「(プロの舞踊家ではなく)師範として教えています。僕も幼いころから教えてもらって、中学ぐらいまではそちらの方面に興味がありましたが、演劇に出会って、こちらが面白くなってしまいました。今はたまに、実家に戻った時にちょっとさらう程度ですね。着物は自分で着れますし、舞台に立つということは母を通して教えてもらえたとは思いますが、日本舞踊の様式美が今の演劇人生に何か影響を与えている、ということはないと思います」

――小劇場出演を経て、声優デビュー、そして『ミュージカル テニスの王子様』でミュージカルにと、次々にフィールドを広げて来られました。

「いろいろとご縁をいただく中で、やらせてもらえる限りは頑張っています。本当に人に恵まれていると思いますね」

――オフ・ブロードウェイミュージカル『bare』には日本初演、再演とも主演されました。

「演出の原田優一さんとは、まず(音楽劇『滝廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』で)共演者として出会って、この作品で演出家として出会ったのですが、彼の人間的な力を改めて感じました。気遣いの人だし、人に対して優しいからこういう作品が出来るというのが伝わってくる。この人に報いたいという気持ちで、取り組んでいきましたね。改めて人間・原田優一が好きになれたという意味で大事な作品だったし、同性愛という複雑なテーマはあったけれど、高校の話で同世代と話し合って作り上げることのできた、いい時間でした」

――ミュージカルでは歌が大きな要素ですが、どのようにトレーニングしてこられたのですか?

「出演が決まってから始めたのですが、教えてくださる方々が“歌って楽しい”と思わせてくださるので、それに恩返ししようと頑張っています」

――どんな表現者を目指していますか?

「僕が舞台を観ているとき、全力で楽しくやっている人が一番強く見えるんですよ。楽しくやれるというのは、迷いがない状態ということ。僕も、舞台上で一番楽しめる人になって、その姿をお客様に楽しんでいただけるようになりたいです。舞台上で自分らしくいられる、そういう表現者になれたら。そのためには努力しなくちゃいけないのはわかっているので、舞台で楽になるために今、稽古で努力しているところです」

【演出・板垣恭一さんインタビュー】
“敢えて役者たちを挑発し、演劇の無限の可能性を
引き出そうとしています”
『グーテンバーグ!』2017年公演より。写真提供:conSept

『グーテンバーグ!』2017年公演より。写真提供:conSept

――今回、2組のキャストで上演するのにはどんな狙いがあるのでしょうか?

「前回は、福井晶一さん、原田優一さんという、日ごろ日比谷界隈の劇場で真ん中に立ってるような方々が、新大久保の謎の空間でお芝居をやっているというギャップが面白いと思いながら(舞台を)作りましたが、今回またやりましょうということになって、やるならキャストを増やそうよ、バリエーションも楽しもうよという意味で、上口耕平君、鯨井康介君という(若手の)組み合わせが決まりました。チームごとの違いを面白がっていただきたいし、出来ればそれぞれのファンがクロスオーバーするといいなという意図もあります」

――稽古はまだ序盤とのことですが、今のところ手ごたえは?

「2バージョンを全然別の作品にしようと思っています。いろんなキャラが出てくるけど、例えば福井さんがグーテンバーグを演じる時には、“マッチョでナルシストで、人種差別はしないけど自分の彼女にはものすごくパワハラをやっている人物”という大枠を伝えて、“その先は考えてください”とお願いしています。キャラクターの役割を果たしてくれればどういうふうにやってもいい、というふうにしているので、(前回、原田優一さんが強烈なキャラクターを作り上げた)修道士役も、上口君がやると“そんなキャラになるんだ!”と全然違っていて、おもしろいですよ。今回、初めてご一緒する鯨井君も、いろんなことを考えながら取り組む人で、すごくいい印象です。あとは基本的にはコメディなので、やってる人も楽しんでもらえたら。大人が真剣に頭を使って、体に汗して“ふざける”演目です」

――2バージョンとも観るのがお勧め、ですね。

「日本文化の特徴なのでしょうか、“未熟なものを好む傾向”があると思ってまして。演劇では最近、若い出演者が、ただ台詞を発しているだけで、台詞のキャッチボールすらできてないけど、外見がきれいだからとりあえずちやほやされていたりする。でもその人の賞味期間はものすごく短い、という現象があって、僕はそういう舞台に出ている子たちに“君はなんで舞台に出てるの?そのままじゃ(表現者として)遠くにはいけないよ”と言いたくなります。そういう舞台では、俳優は“取り換え可能なパーツ”みたいなもので、自分が役者だったらものすごく嫌ですよ。だから今回、僕は役者たちを敢えて挑発していて、同じテキストを使いながらも(2バージョンで)全然違う芝居に仕上げるつもりです。お客様に楽しんでいただきながら、演劇が本来持つ無限の可能性を感じていただける機会になれば、日本の演劇界のためにもなるのかな、と思っています」

【観劇レポート】

『グーテンバーグ!』写真提供:conSept

『グーテンバーグ!』写真提供:conSept

 

新作ミュージカルの出資者を募るため、実際に作品を演じて見せる“バッカーズ・オーディション”。印刷機の発明家の物語『グーテンバーグ』もそんな設定で、作者を自称するダグ&バドの俳優コンビが、時折“素”のトークを織り交ぜつつ演じてゆく……。

『グーテンバーグ!』写真提供:conSept

『グーテンバーグ!』写真提供:conSept

 

2組のキャストでの上演となる今回、演出の板垣恭一さんは“全く違う2バージョン”を意図したそうで、なるほどベテランのテクニックが楽しく炸裂する福井晶一さん(ダグ)・原田優一さん(バド)コンビに比べ、鯨井康介さん(ダグ)・上口耕平さん(バド)組には若手お笑いコンビのような荒々しいまでの勢いがあり、エネルギッシュに観客の注目を集め続けます。キャラクター造形についても、例えば原田さんが“器のちっちゃい悪党”として強烈な印象を残す「修道士」役に比べて、上口さん演じる「修道士」はヒップホップ・テイストのシャープな悪党。福井さんが“いい奴”に演じた「見習い修道士」に対して、鯨井さんの同役は癖のある子分、といったていで、かなりの違いが。

『グーテンバーグ!』写真提供:conSept

『グーテンバーグ!』写真提供:conSept

 

この日の終演後に行われた板垣さん・上口さん・鯨井さんによるアフタートークでは、稽古序盤、二人が互いに突っ込みを入れる形になっていたのを、板垣さんが“今回、上口さんは“ボケをやったらどうですか”と提案した、といったエピソードが語られましたが、確かに上口さんがダンスの振り的なものを含め、様々な“小ネタ”を振りまく度に鯨井さんが間髪入れず突っ込みを入れ、リードしてゆく流れは目覚ましく、二人が劇世界と“素”を滑らかに往来する様は感嘆に値します。相当、稽古を積み重ねたであろうことは想像に難くありませんが、それ以前に本質的に波長の合う二人だったらしく、“お兄さんチーム”にひけをとらない、魅力的なコンビが誕生したと言えるでしょう。

『グーテンバーグ!』写真提供:conSept

『グーテンバーグ!』写真提供:conSept

 

もちろん、場内を笑いの渦に巻き込んでゆくことに終始せず、終盤には“『グーテンバーグ』がハッピーエンドでない理由”を通して(真の)作者たちの骨太のメッセージもしっかりと伝え、ちょっぴり“文明”について考えさせる瞬間も。だからこそ、その後に用意された“サプライズ演出”はいっそう幸福感を盛り上げ、誰もが笑顔で席を立ち、劇場を後に出来る舞台に仕上がっています。

*次ページで『ピーターパン』をご紹介しています!
 
 

ピーターパン

7月21日~8月1日=東京国際フォーラムホールC、8月12日=梅田芸術劇場メインホール

【見どころ】
『ピーターパン』

『ピーターパン』

世界中で愛されているジェームズ・バリの原作小説を1954年にミュージカル化、日本でも81年から上演されている“夏の風物詩”ミュージカルが、今年も登場。昨年“ピーター”デビューした吉柳咲良さん、演出の藤田俊太郎さんが、今年も続投します。

観客を“絵本の世界”に誘う藤田演出の中で、いっそうの輝きを放つ吉柳さんに対して、今回はフック船長・ダーリング氏の2役でISSAさんが登場。『ロッキーホラー・ショー』での怪演も記憶に新しいISSAさんが、本作ではどんなカラーを見せるでしょうか。他にも新キャストのウェンディ役=河西智美さん、タイガー・リリー役=莉奈さん、前回好評を博した続投キャスト、ダーリング夫人役=入絵加奈子さん、ライザ役=久保田磨希さんら、強力キャストが集結。時代を超えてフレッシュであり続ける演目の“最新版”に期待が寄せられます。

【タイガー・リリー役
莉奈さんインタビュー】

大人の目線、子供の目線、両方を持っている
藤田俊太郎さん版『ピーターパン』の中で、
“かっこいい”タイガー・リリーを目指しています
莉奈undefined北海道出身。モデルを経て2011年、『ロミオ&ジュリエット』ジュリエット役で女優デビュー。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『ザ・ビューティフル・ゲーム』『パレード』『ペール・ギュント』などの舞台で活躍。18年11月から舞台「命売ります」(演出ノゾエ征爾)に出演予定。(C)Marino Matsushima

莉奈 北海道出身。モデルを経て2011年、『ロミオ&ジュリエット』ジュリエット役で女優デビュー。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『ザ・ビューティフル・ゲーム』『パレード』『ペール・ギュント』などの舞台で活躍。18年11月から舞台「命売ります」(演出ノゾエ征爾)に出演予定。(C)Marino Matsushima

――莉奈さんは子供の頃からタイガー・リリーに憧れていたそうですね。

「きっかけはディズニーのアニメ版でした。小さいころは父に酋長役になってもらって、よく一緒にインディアンごっこをしていましたね。かっこいい女の子が好きで、“群れない”リリーが素敵に見えたのだと思います。その後、上京してミュージカル版があることを知り、拝見したらそこでもタイガー・リリーがかっこよくて。ある舞台で共演した池田有希子さんという、憧れの女優さんが過去にこの役をなさっていたこともあって、密かに憧れていました。

でも海外では体操の選手が演じている例もあるほど、タイガー・リリーは体を使う役なので、自分には無縁だろうと思い込んでいて、今回、キャスティングしていただけて驚きました。以前はリリーと自分に共通する部分は一つもないと思っていたけど、私の中にも強く、たくましく生きたいという願望があって、そういう部分は似ているかなと思えますね」

――『ピーターパン』という作品の中で、タイガー・リリーはどんな存在なのでしょうか。
『ピーターパン』2018製作発表にて。タイガー・リリーの衣裳は今回、リニューアルされ、莉奈さんはネイティブ・アメリカン調のパターン(タイツのサイドにも施されている)をとても気に入っているそう。(C)Marino Matsushima

『ピーターパン』2018製作発表にて。演出の藤田さんからは「(演出は2回目ですが)役者が変われば演出も変わります。今回はセットを減らし、ISSAさんが踊れるスペースも作りました。飛び出す絵本のように飛び出す舞台になると思います」と説明。タイガー・リリーの衣裳は今回、リニューアルされ、莉奈さんはネイティブ・アメリカン調のパターン(タイツのサイドにも施されている)をとても気に入っているそう。(C)Marino Matsushima

「ピーターとウェンディ、タイガー・リリーという関係性の中で、ウェンディは大人になれるけどリリーはずっと子供のまま。ウェンディはネバーランドを通り過ぎてゆく人であり、リリーはずっとそこで戦い抜く人というように、ウェンディの存在を際立たせる存在ですね。

それと(演出の)藤田(俊太郎)さんから聞いてはっとしたのが、“本作のインディアンたちは、奪われた土地を奪い返したい人たちである”ということ。ネバーランドにはまず“インディアンたち”と“迷子たち”の対立構造があって、だからこそ後半の仲直りのシーンが活きてくる。インディアンの存在って大きいんだなと気づかされました」

――ネバーランドでは“海賊”と“そのほかの人々”が対立している、と思いがちですが、はじめは様々な勢力がひしめいているのですね。

「インディアンと海賊、そして迷子たちが互いに対立していて、海賊とピーターの構図は分かりやすいのですが、インディアンは“恐れられている”存在で、彼らの音楽が聞こえてきただけで皆、隠れたりするという状態です」

――稽古の手ごたえはいかがですか?

「これほど疑問なく、自分で裏付けをする必要のない作品も珍しくて、自然とリリーに共感できるようになってきました。藤田さんからは“莉奈さんもタイガー・リリーも、いい意味で“はみ出し者”の部分があるから、そのままやって下さい“とおっしゃっていただきましたが、リリーは孤高の存在で、一緒にいる他のインディアンの男たちは求婚者なのだそうです。その中にすっと“居て”下さい、と。

藤田さんは以前、『ザ・ビューティフル・ゲーム』でもご一緒したのですが、役者の気持ちを尊重して毎日のようにディスカッションしてくださるけれど、ご自身のビジョンははっきりしていて、それをわかりやすく伝えようとしてくださる演出家です。今回も(演出のインスピレーションとなっている)飛び出す絵本をたくさん稽古場に持ってきたり、ピーターパンの銅像があるロンドンのケンジントン公園の写真を貼ったりと、私たちとイメージを共有しようとしてくださっていて、とてもやりやすいです。

でも動きの部分はやっぱり大変で、タイガー・リリーはアクションもあるので、初めて槍を使ったりしながら、人生でこんなに動いたことない!というくらい動いています(笑)。これまでに傷んだことのない筋肉が痛んだりしていますね。食べて体力つけようかと思ったのですが、食べ過ぎると体が重くなって動かなくなるので、今は栄養剤を試しています。ダンスの部分は、ジャズダンス的な要素に加えて野生的というか、民族舞踊的であったりコンテンポラリー・ダンス的であったり。そんな中でもぴんと足を伸ばす瞬間があって、面白いです」

――どんな公演になりそうでしょう?
製作発表ではピーターパン役・吉柳咲良さんによる歌唱披露も。(C)Marino Matsushima

製作発表ではピーターパン役・吉柳咲良さんによる歌唱披露も。(C)Marino Matsushima

「これほど子供がたくさん観に来る演目もなかなかないと思いますが、藤田さん演出の『ピーターパン』は、大人と子供、どちらにも向けて作られているような気がします。完全にどちらか向け、ということではなくて、均等に二つの視点が同時進行しているように感じるんですね。御覧になった方からどんな感想・ご意見が出てくるか、とても楽しみです。そんな中で、私は憧れていたタイガー・リリーを“子供たちのヒーロー”として演じたいので、最近は日常生活でも弱音を吐かないようになってきました(笑)。彼らに憧れてもらえるような、かっこいいリリー像を作りたいですね」

――ご自身についても少しうかがいますが、最近、LAに行かれたそうですね。

「私は子供の頃からハリウッドに憧れていて、今も“いつか自分も”と思っています。その夢のために、現地の演技学校に行ったり、ダンスレッスンを受けたりしながら、あちらのショービズのシステムや俳優の生活を、取材かというくらい、いろいろな方にリサーチしました。あちらでは、みなさんとにかく自分で行動するという印象で、自分で宣材写真を撮ったりビデオを作って、それを持ち歩いていらっしゃいましたね」

――どんな映画をやってみたいですか?

「人間ドラマはもちろんですが、私は壮大な世界への憧れがあって、『ハリー・ポッター』的な、別の世界に行ける作品をやっていたいです。そういう意味ではそこに踏み込んだだけで別世界に行けるミュージカルも大好きな世界。ですので、ミュージカル映画にも挑戦してみたいですね」

――『ラ・ラ・ランド』のような?

「憧れています!! これからも舞台に映像にと、幅広く活動していきたいです」


【観劇レポート】

『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

客席通路に現れたキャストが、観客に向けて絵本の読み聞かせをしながら始まった、昨年の『ピーターパン』。藤田俊太郎さんにとって二度目の演出となった今回は、召使の扮装をした女性が「私の名前はライザです、これから『ピーターパン』の世界を一緒に旅しましょう」と自己紹介、幕に映し出された大きな本を開くという趣向でスタート。その後も彼女は舞台下手、もしくは上手に佇み、時にうっとり、また時にははらはらドキドキのていで舞台を眺め、観客と物語世界との間に介在し続けます。“お姉さんと一緒に本の世界を眺める”という前提がより明確になったことで、会場の半数近くを占める子供たちもするりと物語世界へ。飼い犬と(どうやら犬嫌いらしい)ダーリング氏の攻防や、颯爽と現れたピーターが石鹸で影を自分につけようと格闘する様など、コミカルな場面では“もれなく”場内が子供たちの笑い声に包まれます。
『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

ダーリング家の子どもたちがピーターに誘われ、“楽しいことを考えて”空を飛べるようになるまでを描く1幕、ネヴァーランドに到着した彼らが迷子・インディアン・海賊たちの対立に巻き込まれてゆく2幕、そして海賊に囚われた子供たちが間一髪でピーターに助け出され、迷子たちとともに懐かしい我が家へ帰還する3幕。流麗かつ和やかなナンバーに彩られた舞台はテンポよく進行、たっぷり子供たちを楽しませますが、幕に映し出されたビッグベンの時計の針がぐるぐると廻り、再び幕が開くと、そこは前場と同じ寝室のように見えて、何かが違う。そして見慣れぬ婦人の姿が……。“時間の残酷さ”と、ピーターという存在に対する原作者の視点が浮かび上がり、それまで”子供の付き添い“感覚で観ていた大人たちが一瞬にして胸締め付けられる、切ないエピローグとなっています。
『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

藤田さん同様、今回が二度目となるピーター役の吉柳咲良さんは“少年っぷり”に磨きがかかり、ISSAさんは威厳がありそうでいていささか頼りないダーリング氏役と、ピーターとはまた違った意味で“大人になれない”フック船長役のギャップを鮮やかに表現。ウェンディ役・河西智美さんの、見知らぬ世界への旅に目を輝かせる少女時代と後年の、落ち着きと憂いを含んだ“大人ウェンディ”との演じ分けも印象を残します。
『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

タイガー・リリー役の莉奈さんは太く、しっかりとした発声で勇猛果敢なリリーを体現、ライザ役の久保田磨希さんも決して台詞が多いわけではない役どころながら、舞台上の出来事に繊細に反応、舞台と客席との懸け橋であると同時に観客の代表として、親近感を与える存在に。そして序盤と終盤の登場時、抜群の安定感を見せるのが、ダーリング夫人役の入絵加奈子さん。家族に対する言葉の一つ一つに愛が溢れ、終盤、迷子5人を“家族にして”と無理難題を言われた彼女が“何とかなりますよ”と夫を説得する様には大いに説得力が。今回、ダーリング夫人役が恒例の“或る役”を兼ねていないのは残念ですが、本作において大きなテーマである“お母さん”の、一つの”理想像“を示していると言っていいでしょう。
『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

『ピーターパン』撮影・渡部孝弘

本編でもキャストが客席通路に降り、歌いながらハイタッチなどで観客と触れ合う場面もありますが、公演中、ロビーにはインディアン気分になれるフェイスペインティングコーナーや衣裳・小道具をつけて記念写真を撮れるコーナー、迷路など、子供が楽しめる仕掛けがたっぷり。“時間がなくて遊べなかった”ということのないよう、早めに(開場は30分前)に来場することをお勧めします。

 





 
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