ネクストクラシックな料理の世界へ「テロワール・カワバタ」

フランス料理語るとき、しばしば伝統と革新という言葉が使われる。伝統をわかりやすく語るときにはリヨンのブションで楽しめるパテアンクルートやタルタル、クネルなどその地の郷土料理がしばしば登場する。革新を語るときには現代風、ガストロノミーといったワードとともに見た目にも美しい、創造性あふれるヘルシーな料理が現れる。それらの料理はともにクラシカルな技法をベースに現代風に表現したものから、全く新しいフランス料理観を表すものまで実に幅が広い。
フレンチ

フランスで研鑽を積んでいた時代の写真が今の料理につながっているという。

今回ご紹介するテロワール・カワバタの料理はそのどちらでもない新しい世界を表現している。一言で表現すると「ネクスト・クラシック」。ソース主体の伝統的フランス料理を今の時代の古典的フランス料理として、それも比較的カジュアルに楽しむことができる貴重なレストランだ。

伝統料理にみる新しい味わい

例えば、長年のスパシャリテであるスモークサーモンにひとつの特徴を見ることができる。まず、誰でも食したことはあろうその料理がメニューにあること自体が今の時代に珍しい。しかし、その料理は実に奥が深い。様々なハーブと共にマリネしたアラスカサーモンを長い時間をかけて低温で燻される。色合い、香り、食感、後味。味覚を感じる一つひとつの丁寧なプロセス。これぞ巧みに業か。想像する味わいをはるかに飛び越える料理に舌が踊り、味覚は覚醒する。シャンパーニュと共にいただく時にはさらに味わいが広がり、単にサーモンを燻した料理ということをしばし忘れさせてくれるに違いない。
フレンチ

柔らかな色あいにほのかなスモーク加減が心地よく、ぜひシャンパーニュと合わせたい。

これぞ巧みの業か。想像する味わいを突き抜けた料理に舌が踊り、味覚は覚醒する。

ロワール産のホワイトアスパラの料理も秀逸だ。特にムースリーヌソースは永く記憶に残ることになるもの。バターソースには桜えびが練り込まれ、さらにソテーされた桜えびが海の香を添えて降りかかる。この料理をいただきに通い詰めるソワニエが多いのも頷ける。塩加減が優しいので重厚さはさほど感じないのだが、ソースの旨味につられてバゲットの食べ過ぎには注意したい。
フレンチ

桜えびの風味とホワイトアスパラの味わいが溶け込む至福のひと皿。

テロワール・カワバタの料理にはワインは必須だ。素材やソースに合わせたワインはソムリエールの宮沢里果氏のセレクション。その軽やかな笑顔に惹かれるファンは多いと聞く。「スモークサーモンにはどんなワインを?」と聞くと「お昼でしたらソーヴィニオンブランを、ディナーでしたらしっかりとしたシャルドネを。照明やシチュエーションでワインを選びたいですね。」そして「樽の香りが効いたシャルドネの場合は燻製がさらに引き立ってほんのりとした塩加減と寄り添うんですよ。」
フレンチ

これぞフランス料理の広さと深さを感じる料理か。

メインは桜鯛のパイ包み焼き。白ワインとバター、エシャロット、わずかにトマトを添えたブールブランソースでまとめられる。素材の桜鯛が白身やムースに形を変えてパイで優しく包まれた一皿だ。ナイフを入れるとサクッと乾いた音と共に中からはクリーミーさを携えた海の香が立ち上る。メインディッシュのクライマックスは香りもしっかり味わいたい。

シニアソムリエの資格をもつ料理人

シェフの川端清生氏はフランスはアヌシーのマルク・ヴェイラやブルゴーニュのジョルジュ・ブランなどで腕を磨き、帰国後はエクシブ・山中湖や東京ディズニーシーホテル・ミラコスタの料理長などを経て2014年に満を持して独立。その間、2003年にはフランス料理のW杯とも言えるボキューズ・ドール日本代表として歴史に名を刻んでいるのも見逃すことはできない。
フレンチ

チームワークのとれたフタッフはみなさん個性的で楽しい方々だ。

さらにユニークなのは日本ソムリエ協会認定のシニア・ソムリエの資格を持ち、利酒師まで併せ持つ専門家でもある。「いえいえ、成り行きで取っちゃったもので」と謙遜するが、それはテロワールカワバタのワインリストやグラスワインのセレクションにしっかりと表現されている。

記念日などのときはムニュ・デギュスタシオン(3日前まで予約/8500円)をお願いしたい。前菜2品、魚料理、肉料理、デザートと続く季節の素材を使った記憶に残る料理が運ばれるだろう。ワインもグラスで合わせてもらうのも楽しいかも知れない。カジュアルなランチは3900円から。休日のランチは5500円から。これからの季節、聖橋や神田川、ニコライ堂など御茶ノ水の立体的な風景を眺めながらのシャンパーニュブランチはオススメだ。

レストランの窓からはJR中央線・総武線と地上に一瞬現れる丸の内線が交差するシーンは鉄道ファンには有名な撮影ポイントだそうだ。著名な写真家も桜の時期には撮影のために訪れるという。

帰りがけに入店したばかりの若いスタッフにお会いした。泉 海依氏と相澤秀哉氏は今年調理師学校を卒業し、川端シェフに師事することになったと聞いた。世界基準で仕事ができる環境にいることはきっといい経験になるだろう。目線がとても澄んでいるところに将来性を見た気がしてこの場を使ってエールを贈りたい。
デザート

爽やかなグレープフルーツのジュレが心地良い食後感を彩る。

テロワールカワバタが描くのはクラシックの次を見据えた、これぞフレンチという世界だ。自信に溢れた川端シェフの料理に多方面に進化するフランス料理の真髄を見ることができる。

フランス料理と向き合う真摯なレストランとして押さえておきたい一軒だ。

<DATA>
テロワール・カワバタ
住所:東京都千代田区外神田2-1-3東進ビル新館1F
予約電話:03-3526-2775
営業時間/料金
ランチ:11:30~15:30(14:00ラストオーダー)
ムニュ・デジュネ・レジェ(平日限定)3,900円
ムニュ・デジュネ 5,000円 
デギュスタシオンコース(要予約2日前)8,500円
いずれも税別
ディナ:17:30~22:30(21:00ラストオーダー)
ムニュ・ディネ 5,500円
ムニュ・デギュスタシオン 8,500円(要予約2日前)
定休日:月曜日、第一火曜日ほか
地図
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。