住まいのプロが提案「イエコト」

「最期まで自宅」を可能にする住まい

元気なうちに考えておきたい終の住処。最期まで元気に自宅で暮らすための住まいづくりや間取りを考えてみましょう。

大久保 恭子

執筆者:大久保 恭子

これからの家族と住まいガイド

最期まで自宅で暮らすために

75歳を過ぎると環境の変化に慣れるのが大変ですでの、60代のうちリフォームやものの整理をやっておくころが大事です。

最期まで自宅で暮したいと願う人は多いと思います。でも、自宅で死ぬのはわずか10パーセントという現実。願うだけでは難しいのです。本当にそうしたいなら、それ相応の準備が必要です。

そこで、「最期まで元気で自宅」で暮らすための備えとしての、住まいと住み方についてお伝えします。


2階は使わず、生活は1階に集約

生きることは家事をすることです。家事ができなくなれば自宅での暮らしは成り立ちません。そこで、一番にしたいことは、家事がしやすい間取りにすることです。

老いの進行にともない家事は、片づけ、掃除、洗濯、料理の順にできなくなっていきます。緊急度が高いのは、片付きやすい住まいです。一戸建てに住んでいる人は、生活の場を1階へまとめてしまう(マンションはもともと2階がない)ことをお勧めします。

広すぎると、あちこちにものを置いてしまい、片づかなくなります。掃除の手も回らなくなり、家が倉庫化していきます。これを防止するために、思い切って生活空間を縮小するのです。足腰が衰えて、2階への上り降りが不自由になる前に実践しましょう。


1階はワンルーム化する

1階をワンルーム化してはいかがでしょうか。部屋全体が見渡せるので、物が散らかっていたり、ほこりがたまっていることに、気づきやすくなります。

生活動線も単純でスムーズになるので、物の出し入れや掃除機かけ、床拭きがしやすくなります。浴室掃除や床拭きなどのちょっと重めの掃除は、中強度の運動に匹敵し、体力維持に効果的です。

また、居間の一部に台所が位置することになるので、閉塞感なく料理も楽しんでできるようになります。


収納スペースはあえて縮小する

ものを収納する場所が多ければ多いほど、ものはどんどん増えていきます。一方で、年々片づけ力はどんどん低下していくことを見越して、収納スペースは思い切って縮小しましょう。一度置いたらほとんどの場合二度と取り出さない、床下や小屋裏、階段下の収納はこの際封印してしまいましょう。

そしてよく使うものや大事なものは、足腰が弱っても出し入れしやすい腰から胸の高さまでの収納場所に置きます。できれば何が置かれているのかが一目で分かるように、扉なしのほうが望ましいでしょう。

併せて、広めのゴミ置き場を設けることもお勧めします。分別ゴミの仕訳やゴミ出しをスムーズにおこなうためには、一定の広さのゴミ置き場が必要です。台所の一部に、一戸建てなら勝手口の近くにスペースを確保することで、ゴミ出しがスムーズになります。

そうしておいてもいずれ、ゴミ捨ては徐々にできなくなります。手が思うように上がらない、重いものが持てないことからゴミ袋や粗大ゴミの持ち運びができなくなるからです。

余談ですが自治体によっては、家の前にゴミ袋を出しておけば持っていってくれるゴミ回収サービスや家まで取りに来てくれる粗大ごみ回収サービスがあります。いずれ必要になることを見越して、知っておくと便利です。


食事、排泄、入浴の生命維持動線をスムーズに

いずれ老化は進み、最晩年は生きるために最低限必要な食事、排泄、入浴が1日の生活のすべてとなる日が訪れます。それを見越して、ダイニング・キッチン、洗面、トイレ、浴室の水回りの位置を隣接させ、使い勝手を良くしておくことが大事です。

加えて寝室とトイレは隣接しているのが望ましいでしょう。夜数回トイレに起きることがあるので、動線が短くスムーズなほうが用を足しやすいのです。


一番いいところを自分の居場所にする

日当たり、風通しが良くて、一番居心地の良い場所を、自分の居場所と決めましょう。75歳以降になると、外出の頻度が落ちて室内にいる時間が増してきます。気分良く暮らせるか否かは心身に大きく影響します。80代後半にもなれば、通院以外は家にとじこもりがちになるため、なおさらです。

座り心地の良い椅子とテーブル置きましょう。良く使う身の回りの大切な物、たとえば、お茶のセット、メガネ、財布、スマホ、預金通帳などを収納する棚も、手を伸ばせば届くところに配置します。探しものに時間がかかり疲れてしまうことから避けられます。また、棚には思い出の写真や趣味の物を飾り、居心地良くすることも大事です。


住まいを外に向けて開く

そしてこの居場所は外を歩くご近所さんから見えることが望ましいのです。なぜなら、いつもの場所に居ないことで、第三者が異変を察知することができるからです。伴侶がなくなり一人暮らしになったときに安心です。

加えて、気軽にご近所さんが訪ねてきて、お茶でも飲みながら世間話ができるスペースも欲しいところです。必ずしも家の中である必要はありません。リビングルームの外側、雨に濡れない軒下に椅子とテーブルを置くといった対処の仕方もあります。

現代の住まいはプライバシーを重視するため、閉鎖的な造りが一般的ですが、最期まで自宅を貫くなら、敢えて住まいを外へ開き、ご近所とのつながりを保ったほうが良いでしょう。

マンションは、ドアひとつで外界とは隔絶された暮らしが、気安い反面、老いてからは孤立の原因となってしまいます。生活の張りを保つために、お茶や昼食など意図的に人を自宅に招き入れる工夫が求められます。

生活の張りは人付き合いで生まれます。張りがなければ、家事や運動をする意欲を失い、生活が破たんし、老化が格段に進んでしまいます。そうなれば自宅で暮らすことは難しくなってしまいます。


安心安全な設備にきりかえる

目、耳などの感覚器や筋力の衰えに備えて、設備の見直しもお勧めします。火事や火傷防止のために、炎の出るガスからIHクッキングヒーターへ変えてはいかがでしょうか。

転倒防止のために、間接照明ではなく、全体照明+部分照明としてもう一段明るくします。加えて、夜にトイレへ行く動線にそってフットライトを設置すると安心です。消し忘れを防ぐために、照明スイッチは一箇所に集約する。などの工夫もできればやっておきたいところです。

耳は高音域から低下が始まります。インターホンは低音域に切り替えることも大事です。ヒートショック防止のために、浴室には床暖房などを設け、室内との温度差をなくすことも大事です。

バリアフリー化ですが、元気なうちからの段差解消は、足の上げ下ろしをしなくなり、筋力低下を助長するもとになります。よって、手すりは別として、ぎりぎりの段階まではお勧めしません。


住まいを変えるのは60代が望ましい

75歳を過ぎると、新しい間取りや設備の使い方に慣れずに混乱が生じ、使わずじまいになることが多々あります。うまく住みこなすためには、ちょっと早めの60代のうちに、リフォームやものの整理をやっておくことが大事です。

これまでの住まいと暮らし方をいったんリセットする。そのうえで、老いの進行を見越して、暮らしのインフラを整える。これこそが、最期まで元気に自宅で暮らすための「老い活」といえるでしょう。

最期まで自宅で暮らすための間取り例(大久保恭子プロデュース)

最期まで自宅で暮らすための間取り例(大久保恭子プロデュース)


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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