ストレスマネジメント/セルフケア(個人のためのストレス基礎知識)

羽生結弦選手の強いメンタルの秘訣!感情コントロール3ステップ

羽生結弦選手の強いメンタルの秘訣とは?平昌冬季五輪のフィギュアスケート男子で金メダルに輝いた羽生選手も実践していた、感情コントロールの3ステップ。感情のメカニズムを解説した上で、羽生選手のエピソードと上手に感情をコントロールするための3つのステップをご紹介します。

蝦名 玲子

執筆者:蝦名 玲子

ストレスマネジメントガイド

羽生結弦選手のメンタルの強さは「感情コントロール」をコーチング

強靭なメンタルを発揮した羽生結弦選手(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

強靭なメンタルを発揮した羽生結弦選手(写真:長田洋平/アフロスポーツ)


平昌冬季五輪のフィギュアスケート男子で金メダルに輝いた羽生結弦選手。

直前の2017年11月に負った右足関節外側靱帯損傷が完治しておらず、「痛み止めを飲まなければジャンプを跳べない状況」というなかの、あの素晴らしい偉業に、感動の嵐が巻き起こりました。

今回の怪我だけでなく、羽生選手と言えば、東日本大震災、中国杯の衝突事故、全日本選手権後の尿膜管遺残症による開腹手術をはじめ、公私にわたる様々な逆境を経験し、しかもすべての経験を成長に変えています。

なぜ、羽生選手は、そんなにメンタルが強いのでしょうか?

TV番組のなかで、同じような質問をされたときに、羽生選手は自身のことを、弱いところもある人間だからこそ
「つらいときは、それを認める」(※1)
「怖いけど、それを払拭しようとは思わない」(※2)
と述べられています。

実は、逆境に負けない “強い心” というのは、「強いところも弱いところもある人間としての、しなやかな強さ」であり、そうした心を育むうえで重要なポイントの一つが、「つらい」「怖い」というネガティブな感情ともうまくつきあえることにあります。

そこで、ここでは、感情のメカニズムを解説したうえで、羽生選手のエピソードとともに「感情との上手なつきあい方」として、3つのステップをご紹介します。
   

自分の「ネガティブな感情」は否定するより客観的に把握する

まず質問です。

あなたは、恐怖や不安、つらさや緊張等、あまり感じたくない嫌な感情が生じたとき、「自分が恐怖なんて感じるわけがない」というように、その感情を否定したり、無視したり、あるいは、払拭しようとしてはいませんか?

実は、こうした対応は、良いとはいえません。

なぜなら、嫌な感情を抑えようとすればするほど、ますます大きくなってしまうばかりか、健康が損なわれるリスクも高まるからです(※3)。

そもそも感情というのは、体内の主な器官だけでなく、免疫系の防衛機能や、身体の状態を整えるために体内を循環している多くの化学物質の作用に影響を与え、またそうした機能や化学物質の作用の影響を受けているものです。

たとえば、恐怖を感じると、心臓がドキドキしますよね?

これは、私たち人間が自然界で生き残っていくなかで、命の危険(=恐怖)を感じたときに、逃げたり、戦ったりするために起こるようになった反応です。

逃走/闘争行動には、心臓をより速く鼓動させて筋肉に血液を送り込み、すぐに筋肉を動かす必要があるため、恐怖を感じると、心臓がドキドキするのです。

このように身体がすぐに対応できるように、感情を生じさせているのに、その感情を否定したり無視したりすると、「対応しないと危険だと知らせているのに、メッセージが届いていないようだ。きちんと届けなければ!」と、感情はどんどん大きくなります。

だから「自分が恐怖なんて感じるわけがない」と思おうとすればするほど、逆にますます恐怖が大きくなり、恐怖にのまれてしまう、ということが起こるのです。

加えて、嫌な感情が出ているときは、脳内の神経伝達物質やホルモンの作用に関わる特定の器官や部位、細胞による生理活性物質の過剰分泌や過少分泌が起こりやすくなる。つまり、脳が誤作動を起こし、「大変なことが起きそうだ」と仮想的に、事態を実際よりも深刻にとらえてしまいやすくなります。

このため、現代社会のほとんどの場面(つまり、実際に逃走/闘争行動をとらない場面)においては、感情を鎮めて、客観的に現状を把握することが重要なのです。
 

羽生結弦選手のメンタルの向き合い方3段階は演技後に表れていた

恐怖や緊張の感情をコントロールするためには?

恐怖や緊張の感情をコントロールするためには?


では、嫌な感情が生じたとき、どのようにその感情とつきあえばいいのでしょうか?

ポイントは、以下の3つのステップを踏むこと(※4)。
 
  • ステップ1.感情に気づき、受け止める
  • ステップ2.感情が生じた原因を把握し、認める
  • ステップ3.言葉で表現する(話しても、書いてもOK!)

では、今から羽生選手のエピソードを交えながら、解説しましょう。

2015年、世界最高得点322.40点を記録したNHK杯の2週間後に、スペインで開催されたグランプリファイナルに出場したとき、本番直前に、緊張感が高まってしまった羽生選手。

そのとき羽生選手はまず、
「ああ、僕は緊張しているな」
と気づき、その緊張している感情を受け止めました。

そのうえで
「五輪のときは『金メダルが欲しい』と思って緊張しているのに、その自分がどうしても心の中で見えなくて、五輪の魔物にのまれた」

「でも今年のNHK杯では『ノーミスにしたい、総合300点を超えたい』と思っている自分が見えたから、自分を受け入れることができた」

「今は『NHK杯を超えたい』と思っている自分を、認めて受け入れよう」と述べたといいます(※5)。

つまり、羽生選手は
  • ステップ1.「緊張しているな」と気づき、その感情を受け止める
  • ステップ2.「『NHK杯を超えたい』と思っているから、緊張しているんだ。緊張しても仕方ない」とその緊張の原因を把握し、認める
  • ステップ3.「今は『NHK杯を超えたい』と思っている自分を、認めて受け入れよう」と言葉で表現する
というプロセスを経たのです。

こうしたプロセスを踏むと、「メッセージはきちんと届いた。任務終了!」となるため、感情が次第に鎮まるのです。

(うまく感情をコントロールできたおかげで、この日、羽生選手は330.43点という記録を出し自らが出した世界最高得点を再更新、21歳にして男子初のグランプリファイナル3連覇という快挙を成し遂げ、「レジェンド」になったのです!)

感情は、身体からの大切なメッセージです。

どんなに感じたくない感情であっても、感情が湧いたら、まずきちんと気づき、受け止めてあげてくださいね。


【引用文献】
※1 毎日放送.『情熱大陸』, 2016年
※2 テレビ朝日.『報道ステーション』, 2015年
※3 蝦名玲子.『困難を乗り越える力~はじめてのSOC~』.PHP新書, 2012年
※4 蝦名玲子.『ストレス対処力SOCの専門家が教える “折れない心” をつくる3つの方法』.大和出版, 2012年
※5 野口美惠.『羽生結弦 王者のメソッド』.文春文庫, 2017年

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