不妊症

中医学に基づく妊娠しやすい体作りのポイントとは

【薬剤師が解説】中医学では、人体を形成する気・血・水という3つの要素がバランスよく体内を巡ることで、臓器や各組織、ホルモンバランスが正常に働き、妊娠しやすい体作りに役立つと考えられています。妊活に中医学を活用する3つのポイントと共に、陽虚や陰虚といった体質別アドバイスをご紹介します。

住吉 忍

執筆者:住吉 忍

薬剤師 / 妊活サポートガイド

中医学で重要視する体づくり

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中医学では妊娠しやすい体質になるための体づくりを重視します


「妊娠しやすい体になるためには、何をしたらいいですか? 何を食べたらいいですか?」 不妊治療専門のクリニックの漢方外来では、患者さまから、このようなご相談を多くいただきます。

日本の生殖補助医療の技術の高さ、進歩は素晴らしく、たくさんの新しい命の誕生に繋がっていますが、それらの技術を持ってしてもなかなか妊娠につながらないことも少なくありません。いわゆる「妊娠する力」は、医学的な言葉では「妊孕性(にんようせい)」と言われるものですが、卵子を成長させ、受精、着床を経て、子宮で胎児を育て、出産するまでの準備ができていない場合、様々な方法でのアプローチを試すことになります。

妊活、不妊治療の期間が長くなったり、治療が上手く進まなくなったりすると、一つの治療法のみに頼るだけでなく、同時にご自身の体を生活習慣から見直そうと考えられる方がとても多いです。

今回は、中医学の観点から妊娠しやすい体作りに取り組む際に、意識していただきたい大切なポイントをご紹介します。
 

中医学で考える「気・血・水」のバランス

中医学では、人体を形成する気・血・水という3つの要素が、バランスよく体内を巡ることで、臓器や各組織やホルモンバランスが正常に働き、妊娠しやすい体作りに有用であると考えられています。

つまり、命が根付くには、土壌である体が充実した状態であることが大切だということです。 この土壌を作る上で、大切な3つのポイントがあります。

一つ目は、ご自身の体質を知ることです。
二つ目は、ご自身の体質を受け入れて、弱いところがあれば正しく労わることです。
三つ目は、体の持っている機能を最大限に発揮していくことです。

この3点について、以下で1点ずつ、具体的な方法を詳しく解説していきます。
 

1. 自分の体質を知る……誰もに有効な解決策はない

100人いれば100通りの体、性格があります。痩せている方、ふくよかな方、暑がりな方、寒がりな方、様々です。 そのため、必要な体作りは一人一人違います。「皆さんにこれがいい!」ということは、あまり多くありません。自分に必要な体づくりのためには、まず自分の体質を知ることが大切です。意外に思われるかもしれませんが、ご自身の体質を正確に感じ取っている方は多くありません。私が漢方相談をさせていただく中でも、とても血が足りない体質の方が、「私は、血流が悪いんです」とお話ししてくださることも、よくあります。

ご自身の体質を知るために、ぜひ、一度は東洋医学の専門家の力を借りてみてください。
 

2. 自分の体質を受け入れる……弱いところは正しく労わる

現在、キャリアを積む女性や、活躍の場を広げ、多忙に過ごす女性がとても多いと感じています。忙しい毎日の中で、ご自身のケアに、なかなか時間の割けない方もいます。生理不順や生理痛があっても、それらの体調不良が当然のようになり、放置したり、その場しのぎの鎮痛剤に頼ってしまう方も多くいます。

ご自身の体調不良を根本的に解決しない日々の積み重ねが、子宮や卵巣機能、ホルモンバランスに大きな影響をもたらします。日々、体の不調を感じている方の中には、妊活に取り組むようになって、初めて自分の体と向き合うようになる方もいます。不調を抱えたままでも、何とかして妊娠しよう!と取り組まれます。もちろん、結果スムーズに妊娠、出産ができればいいのかもしれません。でも、体が抱えている日々の不調が大きいほど、妊活が上手くいかない可能性も高くなります。

不調や体質の弱い部分があれば、頑張りすぎてしまう前に、まずは自分をケアして労わることが大切です。ご自身の不調や、体質をしっかりと労った上で、次のステップに進みます。
 

3. 本来持っている体の機能を最大限に引き出していく……養生

体内の気血水がバランスよく巡ることで、妊娠しやすい体になるという中医学の考え方をご紹介しましたが、気血水のバランスを整える生活習慣を「養生」と言います。具体的には、食生活、運動、メンタル、睡眠を含めた休養、漢方、鍼灸、などの中で、ご自身にあったものに取り組み、体をより健康な状態に引き上げていくことです。

冒頭で、「妊娠しやすい体になるためには、何をしたらいいですか? 何を食べたらいいですか?」というご質問を紹介しましたが、現在は「妊活にいい」という情報があふれていて、混乱されてしまう方も少なくありません。

他の誰かに効果があった妊活ではなく、一人一人の体質にあった養生を取り入れることで、気血水の巡りがよくなり、臓腑や各組織、ホルモンバランスが正常に働きやすくなります。

現在、妊娠を希望される方の多くにとって、卵子の老化が妊娠のハードルになっています。これから妊活をしていく方にとっては、焦りに繋がってしまうこともありますが、今日が一番若くて、日々、卵子の老化が進むというのが現実です。その中で、いかに、元気な卵子を育てていくかを考えた時に、以下にご紹介させていただく体質にあった漢方や養生は、一つの手段になります。

身体を酷使して消耗する妊活ではなく、ご自身の体を心地よいと感じる状態に導いて、気血水を巡らせ、臓器や各組織、ホルモンバランスを正常に働かせることが、 中医学で考える妊娠しやすい体作りになります。

ここまでが3つのポイントになります。

「でも、具体的にどのように身体を労わり、ケアすればいいのか分からないんです……」という声も多くいただきますので、最後に、妊活に取り組むにあたってケアしたい2つの体質を挙げて、具体的な取り組みのポイントをご紹介したいと思います。
 

代謝が悪く冷えやすい陽虚体質の方におすすめの妊活ケア

陽虚体質は、熱を生み出す力がなく、代謝が悪く、冷えやすい状態のことです。この体質の方は、生まれ持って、生殖能力を司っている腎の機能が弱い傾向があります。卵の成長が遅れがちで、周期も長めになりがちです。

この体質の方は、冷えてしまった時は、体を温めることで、労わることになります。

冷房から身を守ることも大切です。ただ、ずっと暖房器具の前で縮こまっていても、熱を生み出していくことはできません。芯から温まる運動をして、筋肉を増やし、熱を生み出せる体になることで、本来持っている力を引き出せるようになります。

運動としては、スクワットなどがオススメです。食事の面でも、冷たいものを避け、冷やす食材、例えば、夏野菜、フルーツ、瓜科のものなどを避けることが大切です。胃腸が弱くなければ、消化の良い朝食をしっかり食べることもお勧めです。
 

熱がこもりやすい陰虚体質の方におすすめの妊活ケア

陰虚体質は、体に潤いが不足し、活動した体の火照り冷ますことができずに、体に熱がこもっている状態のことです。実は、この体質の方のご相談が10年前と比べて、ぐっと増えました。

以前は、子宝相談の場合には、先ほどの陽虚体質の方が圧倒的に多かったのですが、今は、陰虚体質の方もとても多いです。これは、現在の生活習慣が大きく関わっていると思います。そして、この陰は卵胞の発育に重要なものだと中医学では考えます。

陰は、分かりやすく言うと潤いなのですが、人は赤ちゃんの時にはみずみずしく、年を重ねるにつれて陰を失っていきます。ただ、陰を養える時間があって、それは夜です。夜しっかり眠ることで陰を養っていけるのですが、夜更かししがちで、またスマホやパソコンを見すぎることも、陰の消耗に繋がります。加齢と夜更かし、パソコン、スマホの使いすぎなどの生活習慣が陰を不足させる原因になりますので、これらを避けることで、労わることになります。

また、この体質の方は、ホットヨガや岩盤浴は不向きです。こまめに汗をかき、補給するのはいいのですが、身体を消耗してしまうほどの発汗は陰を消耗します。疲労感が残らないかを確認してください。そして、より体の機能を発揮させるためには、食養生も重要です。スパイシーな香辛料は控えめにして、保水作用のあるものを取り入れましょう。ブドウやナシ、トマト、レンコン、キュウリ、お肉は豚肉がよいでしょう。

このように、陽虚、陰虚体質の方は、それぞれ必要な養生が全く異なってきます。方法によっては、体質にマイナスになる取り組みもありますので、まずは、ご自身の体質を知っていただくことが体作りのスタートです。

専門家に相談するのもおすすめですが、体調不良を放置せずに、ご自身の体が心地よいと感じることにご自身で積極的に取り組んでみてください。心地よい体の状態で、赤ちゃんを育んでいただければと思います。

■参考文献
『不妊症治療における漢方の作用機序 (特集 不妊症と漢方)』
著者:安井 敏之
出典:漢方と最新治療 21(2)


『不妊症に対する中医学 挙児希望を主訴とした女性に対する中医学的治療の効果の検証 3年間の初診患者の解析から(会議録)』
著者:別府 正志(東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター)
出典: 日本中医学会雑誌 (2185-8713)3巻3-4号 Page15(2013.10)

『【今、なぜ漢方か?】 不妊治療における漢方療法』
著者:沖 利通(鹿児島大学 医学部保健学科母性小児看護学講座), 中條 有紀子, 徳留 明夫, 山口 孝二郎, 森永 明倫, 網谷 真理恵, 園田 拓郎, 乾 明夫
出典: 産婦人科の実際 (0558-4728)65巻7号 Page793-798(2016.07)



 
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