不妊症

妊活中のロキソニンやイブの影響・夫が注意すべき薬も

【薬剤師が解説】妊娠中のみならず、妊活中・不妊治療中にもできれば避けていただきたい薬があります。生理痛や頭痛時に服用するロキソニンやイブ、胃腸薬や抗うつ薬として使われるドグマチール、花粉症で頻用される小青竜湯、AGA治療薬のフィナステリドなどの影響とリスクについて解説します。

住吉 忍

執筆者:住吉 忍

薬剤師 / 妊活サポートガイド

妊娠中はもちろん、妊活中・不妊治療中も注意すべき薬

妊活中のロキソニンやイブの影響

妊娠を希望する時期は、基本的に健康であるという認識から、注意を促す添付文書などは少ないが、実は気をつけるべき薬があります

薬の添付文書には、よく「妊娠中、妊娠の可能性のある女性、また授乳中の方は服用を医師、薬剤師にご相談ください」という注意事項が記載されています。一方で、妊活中、不妊治療中の女性への注意事項は、あまり見かけないものです。妊娠を希望する女性は健康であることが前提であるため、過度に注意しすぎり必要はないのですが、習慣的に飲み続けていると妊活、不妊治療に影響する薬があります。

今回は、私が担当している不妊治療専門クリニックの漢方外来で、実際にご相談を受けた事例を中心にご紹介させていただきます。
 

ロキソニン、イブ等の非ステロイド性消炎鎮痛剤・NSAIDsの影響・リスク

女性は生理痛や頭痛を抱えている方が多く、ロキソニン、イブなどのNSAIDsを常用している方は少なくありません。「生理期間は初日から3日目まで、最高量を服用します」という方もよくいらっしゃいます。

NSAIDsは、プロスタグランジンの合成酵素の一つであるcyclooxygenase(COX)を阻害することで、解熱鎮痛作用の効果を発揮します。このCOXは、排卵前の卵胞に発現し、卵の成熟や排卵を促すプロスタグランジンの合成に関わっています。そのため、NSAIDsでCOXを阻害することが排卵を抑制させると考えられています(※1)。 

また、排卵期には頭痛を起こす方も多く、NSAIDsに頼るというお話もよく伺いますが、妊娠を希望されている時期は、排卵期の服用は可能な限り控えた方がよいでしょう。またプロスタグランジンには、血管を拡張し、血液量を増やす作用があります。COXを阻害され、プロスタグランジンの生成が抑えられた結果として、血液量が抑制されて、血流も悪くなり、冷えやすい身体になっていきます。

妊活中には、冷えることも、血液量が減ることや血流が悪くなることも、卵子の成長や、内膜の状態に関わってきますので、むやみなNSAIDsの服用はお勧めできません。生理痛は本来は生理現象であり、痛みを伴うものではありませんが、冷えや、血流が悪いことで生理痛が起きやすい環境になります。つまり、解熱鎮痛剤を常用することで、より痛みが生じやすい身体になっていきます。もちろん、激しい痛みを伴う時や、炎症が強い時には、必要な薬です。疾患の状態によりますが、基本的には、月に7回以上のNSAIDsの服用が毎月のように続く場合には、解熱鎮痛剤によって身体を冷やしている状態と考えていいでしょう。妊活中、不妊治療中に頻繁な服用が必要な場合には、その場しのぎの解熱鎮痛剤に頼るのではなく、痛みを起こさないための処方や身体作りをすることが大切です。

中医学には「不通則痛、通則不痛」「通ぜざればすなわち痛み、通ずれば則ち痛まず」と言う言葉があります。これは、体の水分、血液、気力、の循環が上手くいっていれば、痛みは起きないという理論です。実際の漢方外来でも、初めての問診では、生理痛や、頭痛、排卵痛などの痛みを訴えられる方はとても多いのですが、体の状態を伺って、血流の悪さや水分代謝を改善することで、痛みが軽減される方、全く無くなる方も少なくありません。

初潮から、生理痛で悩まれていた方からは、「もっと早く知りたかった……」という声も頂きます。痛みは体のSOS反応です。体のSOSが起きないように、体の血流、水分代謝を良好に保つことが、妊娠に向けての体作りにも繋がります。
 

ドグマチールなどの胃腸薬、一部の抗精神病薬、抗うつ薬、制吐剤などの影響・リスク

プロラクチンは脳の下垂体から分泌され、本来は産後の女性が授乳をするために必要なホルモンです。乳腺を発達させ、乳汁の分泌を促進するのと同時に、次の妊娠を抑えるために、排卵を抑制する働きがあります(※2)。授乳期間ではなくても、血中のプロラクチン濃度が高いと、授乳期と同様に排卵が抑制されてしまうので、妊娠しづらい状態になってしまいます。また、血中プロラクチン濃度が高いと、男女にかかわらず、性欲を低下させる作用もあります。

副作用として高プロラクチン血症を招く可能性が高い薬として、一部の抗精神病薬、抗うつ剤、制吐剤などが挙げられます。服薬を中止することで治ることが多いのですが、減薬や休薬には十分な注意が必要なケースも多いので、かかりつけの医師のもと、休薬、減薬、変更を行うようにしましょう。
 

花粉症時に頻用される小青竜湯、胃炎・高血圧等で用いる黄連解毒湯などの影響・リスク

漢方の中には、体内の余分な「湿」を除くことで症状を改善させる処方があります。湿とは、中医学で考える自然界に存在する六気「風・寒・暑・湿・燥・火」の一つで、体の不調を引き起こす、湿気のことです。

小青竜湯は、花粉症やアレルギー性鼻炎でもよく使われますが、水鼻や涙といった症状を、身体の表面を乾かすことで改善させます。黄連解毒湯は、体表の熱を冷まし、乾燥させる効果があります。ですが、妊娠のためには、女性の膣が頸管粘液で潤い、精子が侵入できる状態であることが必要です。これらの処方を服用することで、膣の頸管粘液も乾きやすくなるので、妊活中、不妊治療中は、できる限り服用を避けましょう。

また、漢方だけではなく、スパイシーな香辛料や、激辛の料理を好んで食べることも、身体を乾燥させます。これらの食事を適度に食べる分には大きな影響はないのですが、食べ過ぎには注意しましょう。
 

男性型脱毛症・AGAの治療薬・フィナステリドの影響・リスク

AGA治療薬の副作用には、性欲減退、精子量の減少、勃起機能の低下といった、男性側の精子の状態と射精機能に大きな影響を与えるものがあります(※3)。

クリニックで処方された場合には、医師から副作用や子作りの時期の休薬期間などの注意事項が伝えられますが、最近では、個人輸入によって安価にフィナステリドを入手される方が増えています。この場合には、副作用などの説明も受けないまま、服用を継続されているケースもあります。子作りの3ヶ月前からは休薬が望ましい薬ですので、妊娠を意識し始めたらお休み期間に入りましょう。

また、フィナステリドには、男性ホルモンであるジヒドロテストステロンの働きを低下させることで効果を発揮しますが、ジヒドロテストステロンは男性胎児の生殖器官等の発達に必要でなホルモンです。フィナステリドを妊婦が服用、もしくは触るだけでも、皮膚を通して体内に吸収され、胎児の発育に影響が出てしまう可能性があり、妊婦さんにとってはリスクの高い薬です。十分に注意して取り扱うようにしましょう。

今回は、4つの製剤をご紹介させて頂きました。妊娠中だけではなく、「赤ちゃんが欲しい」と妊活に夫婦で取り組む時期にも、注意が必要なお薬があります。薬はリスクよりも有益性が上回った場合には必要になりますが、「影響があるとは、知らずに服用してしまっていた……」とならないように、妊活中も、薬を内服する場合には、医師、薬剤師に相談をするようにしてください。

参考文献
※1 『Nonsteroidal anti-inflammatory drugs and reversible female infertility』(英語)
※2 『Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease』(英語)
※3 『Finasteride use in the male infertility population: effects on semen and hormone parameters.』(英語)

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