ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2018年3~4月の注目!ミュージカル(4ページ目)

厳しい寒さの中にも春の息吹が時折感じられるこのごろ、各稽古場では期待の新作・再演作品が着々と仕上がってきています。社会現象となったラブストーリーの舞台化『マディソン郡の橋』をはじめ、話題の舞台をご紹介。インタビューや観劇レポートを含め、記事は随時追記していきますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

Suicide Party

3月14~19日=すみだパークスタジオ倉
『Suicide Party』

『Suicide Party』

【見どころ】
『キューティ―・ブロンド』等で注目される新進演出家・上田一豪さんの劇団Tip Tapが、待望の新作を発表。これまでミュージカルではほとんど扱われることのなかった“自殺”を正面から扱った、異色作の登場です。

ヴァージニア・ウルフを始めとする歴史上の人物から、名もなき市民まで様々な人々が登場、それぞれ自殺に至る動機を歌い語る。社会に一石を投じたかった人、愛する人を失い、生きる支えを失った人……。“人生の終わり”を選ぶ人々のモノローグがモンタージュされてゆくなかで、浮かび上がるものとはいったい、何か。小澤時史さんの音楽に彩られ、神田恭兵さん、上野哲也さんら実力派キャストを得た舞台の行方に、注目が集まります。

【金すんらさん、笠松はるさん、谷口あかりさんインタビュー】
(左から)笠松はるさん(大阪出身、劇団四季で『オペラ座の怪人』等に出演、14年に退団後は『ねこはしる』等で活躍)、金すんらさん(茨城出身、劇団四季で『ライオンキング』等に出演、13年退団後は『ホンク!』等で活躍)、谷口あかりさん(長崎出身、劇団四季で『コーラスライン』等に出演、13年に退団後は『VIOLET』等で活躍)(C)Marino Matsushima

(左から)笠松はるさん(大阪出身、劇団四季で『オペラ座の怪人』等に出演、14年に退団後は『ねこはしる』等で活躍)、金すんらさん(茨城出身、劇団四季で『ライオンキング』等に出演、13年退団後は『ホンク!』等で活躍)、谷口あかりさん(長崎出身、劇団四季で『コーラスライン』等に出演、13年に退団後は『VIOLET』等で活躍)(C)Marino Matsushima

――今回は、劇団四季のご出身であるお三方にお集まりいただきました。というのは、劇団四季は演劇活動の根幹に“人生は素晴らしい、生きるに値する”というモットーをお持ちですよね。そうしたスタンスをお持ちのカンパニーにいらした皆さんが、一見、真逆のテーマを扱う本作にどのように取り組んでいらっしゃるか、うかがいたかったのです。

笠松はる「確かに、これまでは“生きること”がテーマの作品に出ることが多かったので、はじめにこのタイトルを聞いたときはびっくりしました。でも、稽古を積み重ねてきて最近は、“死について考える”というより、“自分はどう生きたいのかな”と考えることが多いんです」

金すんら「(劇団四季でも)戦争を扱った作品もあるしね」
『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

笠松「だから今では“真逆”という感覚はないですね」

金「(演出の上田)一豪君とも話したんだけど、この作品は“表面”ではなく“内面”を作る作品で、ある意味、裏側からの生命讃歌なんですよね。本当に命というものと向き合わないと(観ている側は)その瞬間に引いてしまうと思うし、そういう意味では四季と違いは無いかな。四季だと国家であるとか、大きなものが登場するけど、今回は孤独に生まれて一人で悩んできた個人の命の物語。僕としてはすごくやりたい内容です」

谷口あかり「劇場の規模も違いますよね。劇団四季のような大きな劇場で上演すると、きっと伝わりにくいものがある作品なんだろうと思います。

私は以前からTip Tapの、人間の内面を掘り下げた舞台がすごく好きで、今回参加させていただきました。やってみるとやっぱり大変で、(演じる役に)自分に似てる部分があっても、自分の感覚でセリフを吐いてしまうと、全然違うものになってしまう。実在した方に寄り添うという作業が大変です」
『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

笠松「それは私も同じ。(演じる人物に寄り添って、心を)抉って抉って。それでも私は一線を越えずに、生きている。この境目は何なのだろう、と思うんですね」

金「この作品では“役者”は要らない、と思うんですよ。(その人物の)内側に、自分から入り込む。稽古していると、自分はこの人たちのために命をかけて生きているか、いい気になって生きていやしないか、自問自答が始まる。怖いけれど尊い作品で、(これを上演する)Tip Tapはすごい劇団ですよ」


谷口「でもTip Tapの稽古場は何でもやってみていいので、そういう意味では楽しいし、赤組、黒組でカラーが全然違うのが面白いです」

――今回は皆さん、数人のキャラクターを演じていらっしゃいますが、特に格闘されているお役はありますか?

谷口「私ははじめ、大切な旦那様が亡くなって後追い自殺する役が全く理解できなかったけれど、稽古をするうち、逆に自分から遠いからこそ見えてくるものがありました。いっぽう、女優などのキャラクターは自分に身に覚えがあるような部分もあるだけに、この人はこうという固定概念があって、それを崩すのに苦労しています」
『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

笠松「私は4人演じさせていただくのですが、その内数人は一見はっきりした動機が見えない役なんです。しかも本作はモノローグをバトンタッチしてゆく構造だから、前の人の後に瞬時にその動機が積みあがった心から始まらなくちゃいけない。そして私は馬鹿正直というか(笑)、思っていることが全部言葉と顔に出ちゃう人間で、その対極にある人を演じなくちゃいけない、その感覚が難しくて……。

それを一豪さんに、この人は息をぐっとこらえて悩みを我慢しているのではなく、ふーっと息を吐きながら抑制しているんだよ、と指摘されて、よくよく考えるとそういうときもあるな、と気づきました。そうやって自分の中にあるちょっとしたこと(類似点)をつないでつないで、あとは自分もどん底まで気持ちが落ち込んだことはあるから、そういったこともミックスして、いかに自分が本当に感じてることとして演じられるか。苦しいけれど、その中で少しでもチャンネルが開いたときの喜びは大きいし、とても勉強になると感じています」

金「本当に死を選ぶ人って“死ぬ死ぬ”とは言わないし、人前でため息をつかない、と言いますよね。僕はものすごい溜息マンで、家に帰ったら溜息ばっかりついてる(笑)。それはさておき、僕も4役を演じますが、これらの役はこなすというより、生きることだから、“居方”に終始するんですよね。民衆のために生きた政治家を演じるのに、ハングルの歴史を参考にして、そこを入口として役に入っていったりするのはすごく面白い経験です」

――小澤時史さんの音楽はいかがでしょうか?
『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

金「僕は、今、日本から海外にも持っていけるミュージカルを書けるのは上田一豪さんと小澤さんのコンビだと思っています。とても面白いし、ずっと見守っていきたい二人ですよ」

谷口「この重い歌詞からどういう曲が作れるんだろう、と台本を読んだときはまず思いましたが……」

笠松「こんな明るい曲アリ?と思った時もあったけど、稽古をしていくうちに、これしかないわ、と思えるんです」

金「ブロードウェイや韓国に持って行って、そのあと逆輸入して日本ミュージカル界に風穴をあけたいくらいです」

――どんな舞台になるといいなと思っていらっしゃいますか?

金「最終的には、この作品は“人生讃歌”なんだと思うんですよ。それをTip Tapらしい方法で見せている。個人的には笑える部分もあったりして……」

谷口「悲しいけれどあったかいんですよね」
『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

『Suicide Party』「赤」チーム稽古より。(C)Marino Matsushima

金「大事に観ていただきたいし、心の奥深く、闇の部分にも光が差すといいなと思います。僕は一つだけ祈りがあって、これは(『ジーザス・クライスト=スーパースター』で演じた)ユダの時と同じだけど、“俺はちゃんと命かけて死ぬから、もう一回命を見つめてほしい”と思っているんだよね」

笠松「見つめてほしいですね。この作品は自殺を美しいと言っているわけでも、生きてほしいと言っているわけでもなくて、“選ぶのは自分自身”。私もまだ(どう演じるべきか)答えは出ないけれど、今日、どう生きるかということは考えています。とにかく中途半端なことはしちゃいけない、と思っていますね」

谷口「(御覧になった方には)願わくば生きる選択をしてほしいけど、歌詞に出てくるように“死にたくて死ぬんじゃなくて、生きるのがつらいから”死を考える方もいると思うし、それなのにつらいことを続けろとは私たちは言えません。ただ、これを機に(命というものを)見つめなおしていただけたら、と思います」

笠松「このテーマって(ミュージカルでは)本当に挑戦だと思うんですよ。どうなるんだろうと思っていたけど、もう一つの組の稽古を観ていると、なんといっていいかわからない感動があるんですね。共感することがたくさんあるし……」

谷口「清々しいんですよね」

金「目から清々しい“汗”が出る。この、目からの汗を、みんなに伝えられたら幸せだな。彼らは、ちゃんと、しっかり生きてた人たちなんだよね。翻って俺たちは何してたんだ、とさえ思う」

笠松「懸命に生きた人たちだから。タイトルから想像するものとはおそらく全然違う舞台を、ぜひ体験していただけるといいなと思います」

金「世界に一つしかない作品です」

【観劇レポート】
さまざまな決意を秘めた人々の“魂の叫び”が
圧倒的な力を持って迫り来る舞台
『Suicide Party』写真提供:TipTap

『Suicide Party』写真提供:TipTap


客席に入ると、舞台中央には一人の男性が腰かけ、その頭上には先端が輪になったロープが吊り下げられている。彼は首つりを考えているのだろうか? 静かな緊迫感に支配される場内。やがて開演時間になると、舞台上手袖のバンドが演奏を始め、両脇に控えていた出演者たちが、激しいロック調のオープニングナンバーを歌い始める。

“40秒に一人が自ら命を絶つこの世界……”
“人生の終わりの瞬間を自分で選ぶことは許されないのか……”
『Suicide Party』写真提供:TipTap

『Suicide Party』写真提供:TipTap


舞台中央の男性は、実はカウンセラーという設定。彼を水先案内人として、舞台は様々な時代・環境・事情で自死を選んだ、有名・無名の人々のモノローグを重ねてゆきます。ひとくちに自殺と言っても、社会に対する抗議等、明確な“目的を持つ”死もあれば、愛する人の喪失や自身の病によって生きる“目的を失った”結果の死もある。カウンセラーと、息子の自死の理由が分からず、自らも死の誘惑に駆られる男役以外の出演者たちは複数のキャラクターを受け持ち、死に至る事情を代わるがわる、台詞と歌で語ります。

そのほとんどが実話に即していることもあり、客席には登場人物たちの情念が恐ろしいまでに迫り来るものの、作者・上田一豪さんによる、“ぎりぎりの瞬間”に至る人々の描写は真摯にして懸命、時には意外なまでの力強さを見せ、激しさと繊細さ、ユーモアさえも孕んだ、小澤時史さんの音楽も素晴らしく、観る者を引き込みます。(魅力的なメロディであるにも関わらず、深刻な歌詞内容ゆえ観劇後に口ずさみにくいのはなんとも残念ではありますが)。もう一つ、美術館の額縁をイメージして後方に行くにつれ小さく舞台を囲む電灯(美術・柴田麻衣子さん)も、逃げ場のない空間で堆積しがちな空気を、巧く舞台奥に逃がしています。
『Suicide Party』写真提供:TipTap

『Suicide Party』写真提供:TipTap


もっとも、この“問題作”はキャストの渾身の演技なしには実現しなかったことでしょう。Red、Blackの2組のキャストは、それぞれ各役に真正面から取り組み、迫真の演技を披露。事情の異なる二人の女性作家を知的に、細やかに演じ分けた白木美貴子さんを筆頭に、雷に追いかけられ続けた男の数奇な人生をエネルギッシュに見せる金すんらさんら、人生の経験値の大きい方々が圧倒的なアドバンテージを見せる一方で、演じる人物の心象に懸命に想像力で近づこうとする新人俳優たちの姿も、好ましく映ります。そんな中で、安定感ある口跡でしっかりと言葉を聞かせつつ、感情を表に出さず、ニュートラルに存在するRed組のカウンセラー役・内海大輔さんが舞台の“芯”として頼もしさを見せ、好演。

作品には随所に上田さんの死生観も登場し、その中には論議を呼びそうな表現もあるものの(筆者もそのすべてに賛同するわけではありません)、“最大公約数的な表現”がされがちなミュージカル界において、個人的な視点を前面に打ち出した本作は、意欲的な異色作。“作家性の強い”ミュージカルとしても、注目に値する作品です。


第三回東京ミュージカルフェス「ミュージカル・スペシャルトークショー

3月25日18時半~=東京建物八重洲ホール、26日=GOOD DESIGN Marunouchi
『東京ミュージカルフェス』

『東京ミュージカルフェス』

【見どころ】
「日本にもっとミュージカルを」を合言葉に、ミュージカル振興団体Musical Of Japanが3月26日の「ミュージカルの日」にあわせ、開催している「東京ミュージカルフェス」。3回目となる今年、豪華な顔ぶれのトークショーが実現します。

25日は「海外ミュージカル」を切り口として、4月に上演される『In This House~最後の夜、最初の朝』の岸祐二さん、入絵加奈子さん、綿引さやかさん、法月康平さんと、『お月さまへようこそ』の吉原光夫さん(演出)、西川大貴さんが登壇。これまでに出演された作品の思い出や“翻訳もの”を演じるうえでの工夫、最新作の魅力などを、楽曲披露を交えつつ、たっぷりお話いただきます!

26日は「オリジナル・ミュージカル」をテーマに、近々上演される『Play a Life』より彩吹真央さん、上田一豪さん(演出)、柴田麻衣子さん(プロデューサー)、『遠ざかるネバーランド』より木内健人さん、井上花菜さん、劇団イッツフォーリーズメンバー3名、また昨年の佳作『ねこはしる』より笠松はるさん、神田恭兵さんをお招きし、ミュージカルを“創り上げる”楽しさ、醍醐味をたっぷりトーク。こちらも一部の演目で楽曲披露を予定しています!

両日とも100分程度を予定し、構成・司会はいずれも筆者・松島が担当予定。どちらもアットホームな空間での開催となるため、チケットが早々に無くなることも考えられます。25日分に関しては3月10日から発売とのことですので、お見逃しなく!

↑こちらのイベントのレポートは別記事にて掲載しています。

*次ページで『GEM CLUB2』をご紹介します!

  • 前のページへ
  • 1
  • 3
  • 4
  • 5
  • 7
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます