『リトルマーメイド』出演者にインタビュー!

アンデルセンの童話「人魚姫」を原作とした、とびきりポジティブなディズニーの長編アニメを舞台化、2007年にブロードウェイに登場した『リトルマーメイド』。日本では13年に開幕、幅広い層の圧倒的な支持を得て現在、名古屋・福岡の二都市で上演中です。
『リトルマーメイド』(C)Disney

『リトルマーメイド』(C)Disney

主人公のピュアな情熱と行動力が清々しいストーリーに加え、「アンダー・ザ・シー」を始めとするアラン・メンケンによる名曲、ボブ・クローリーによる色鮮やかな美術など、様々な魅力溢れる作品ですが、キャストの皆さんはどんな思いを持って演じているでしょうか。主要キャラクター役の5人(齋藤舞さん、上川一哉さん、青山弥生さん、芝清道さん、荒川務さん)に役作りのエピソードや、本作の“ここが好き”ポイントをじっくりうかがいました。名古屋・福岡情報もうかがいましたので、他地方からいらっしゃる方はぜひ参考にしてくださいね!

【インタビュー目次】
  • アリエル役・齋藤舞さん(本頁)
  • エリック役・上川一哉さん(2頁
  • アースラ役・青山弥生さん(3頁
  • トリトン役・芝清道さん(4頁
  • セバスチャン、スカットル役・荒川務さん(5頁

【アリエル役・齋藤舞さんインタビュー】

観た人が明るい気持ちで翌朝を迎えられるよう
アリエルに心を添わせ、丁寧に演じています

  • アリエル=海の世界の王、トリトンの末娘。美しい歌声を持つ人魚で、好奇心旺盛。嵐で難破した船から放り出されたエリックを助け、彼に恋してしまう。
齋藤舞undefined07年に劇団四季研究所入所。『ふたりのロッテ』で初舞台を踏み、『ユタと不思議な仲間たち』ハラ子『キャッツ』ジェミマ『ライオンキング』ナラ『マンマ・ミーア!』ソフィ『アラジン』ジャスミン等を演じている。(C)Marino Matsushima

齋藤舞 07年に劇団四季研究所入所。『ふたりのロッテ』で初舞台を踏み、『ユタと不思議な仲間たち』ハラ子『キャッツ』ジェミマ『ライオンキング』ナラ『マンマ・ミーア!』ソフィ『アラジン』ジャスミン等を演じている。(C)Marino Matsushima

――齋藤さんは2017年にアリエル・デビューをされたのですね。

「初演開幕の直後ぐらいから、何度か劇団内の本作のオーディションを受けていたのですが、合格をいただいても他の出演作との兼ね合いで、なかなか稽古に入れませんでした。その後、稽古に参加して2月の末にデビューさせていただき、嬉しさもひとしおでした」

――齋藤さんのアリエルは元気で勢いがあり、夢に向かって猪突猛進する“アリエルらしさ”に満ちていますね。アニメーション版を御覧になったお子さんが観ても、全く違和感なく引き込まれてゆくと思います。
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:堀勝志古

『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:堀勝志古

「アニメーション版と重なりたい部分もありますが、ただ“真似”をしているような演技には見えたくない、という葛藤もあります。なかなか表現するのが難しい部分もありますが、私が演じるアリエルがそのようにお客様に御覧いただけましたら嬉しいです」

――アリエルを演じるにあたって、どんなことを大切にしていますか?

「アリエルは夢と希望に溢れ、前に突き進む女の子で、私自身、とても彼女を尊敬しています。人間は厳しい現実を目の前にすると“私には無理だよ、できないよ”と考えがちですが、アリエルは決して諦めません。この舞台を観ていただいて、きらきらした希望を受け取っていただけるよう、特にアリエルのまっすぐな気持ちを大事に演じたいと思っています」

――人間界への憧れをもって頑張るアリエルですが、アースラとの取引で足を得た後、なかなか立って歩けなかったのを、スカットルたちに助けられて歩けるようになったり、“キス・ザ・ガール”でセバスチャンたちが素敵なムードを作ってくれたりと、実は周囲のキャラクターにも大いに助けられていますね。

「そうなんですよね、周りのキャラクターがすごくアリエルを愛して、応援してくれるのは、ちょっと羨ましいです(笑)。でも、それもアリエルが本気だからこそ。夢に向かってまっすぐのアリエルを見て、周りも助けずにはいられないのかもしれません」

――アリエルと言えば、フライングで表現する“泳ぎ”が見どころの一つですが、かなりのテクニックを要するように見えます。特に水平に近い体勢で泳ぎながら歌っていらっしゃるときは、どこに重心を置いているのでしょうか。

「確かに、普通は地に足をついてお芝居をするところを、足が浮いた状態で台詞も歌もこなすのは初めてのことで、はじめはとても難しかったです。泳いで(フライングをして)いるときは全身の筋肉でバランスを取りつつ、腰に装着した器具にしっかり乗って、重心を置いていますね。45度に傾いた状態で、(泳ぎを表現するのに)うねりながら歌うことにはなかなか慣れませんでしたが、アリエルを演じる上で泳ぎはとても大切なので、バランスボールやバレエのレッスンで使うバーに乗って、フライングをイメージしながら筋力トレーニングをしてきました。私だけでなく、アリエルにキャスティングされた俳優はみんなそうだと思います」

――本作について、齋藤さんが特にお好きなポイントは?
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:堀勝志古

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:堀勝志古

「アリエルの場面でしたら、“パート・オブ・ユア・ワールド(リプライズ)”のところですね。(溺れた)エリックを助けた後、何て素敵な人なのと言って、自分はこの人の世界に絶対行くと決心するくだりが、私は大好きなんです。それまでは人間界に“行きたい”と思っているだけだったのが、この人の世界に“行くんだ”という強い決意に変わる。恋に落ちた瞬間って、そういう感じなのかな、と思いますね。

もう一つ、自分が出演する前から大好きだったのが、(お城の料理人である)シェフ・ルイが迷い込んできたセバスチャンにこてんぱんにやられてしまうシーン。大人でも、つい子供に帰って大喜びしてしまいます(笑)」

――今日、出演されていたシェフ・ルイ役の方(光山優哉さん)は特に“レ・ポワソン”での包丁づかいが猟奇的でした(笑)。

「魚を愛しすぎてああなってしまうのが、怖いけどチャーミングですよね。もしアリエルが出くわしていたら、相当怖がるだろうなと思いますけど(笑)」

――アリエルを演じ始めて10か月が経ちましたが、今後アリエルというお役をどう深めていきたいですか?

「10か月、早いですね(笑)。はじめはとにかく必死で、周りも見えていない部分もありましたが、やはりアリエルと言えばお子様を含め、多くの女性にとって“憧れのディズニー・プリンセス”だと思いますし、皆さんの夢を壊さないよう、責任を持って演じていけたらと思っています。アリエルの希望や夢を大事に、自分もアリエルに寄り添っていけたら。ハッピーな部分だけでなく、落ち込むときは落ち込む、怒るときは怒る。その一つ一つを、アリエルの気持ちに沿わせて丁寧に演じていくことで、きっとお客様にもきちんとお届けできるかなと思っています」

――お客さんにどんなものを持って帰ってほしいと思いますか?

「御覧になった方が、私もやってみよう、一歩踏み出してみようと思ってくださったり、次の日、明るい気持ちで朝を迎えられるような、そんな気持ちになっていただけたら嬉しいです」

――現在、『リトルマーメイド』は名古屋と福岡の二都市で上演中です。観光も兼ねて観に来られる方もたくさんいらっしゃると思いますが、ぜひお勧めしたいものはありますか?

「私は個人的に水族館好きで、地方公演の合間にあちこち訪れるのが楽しみなんです。特に『リトルマーメイド』に出演している今は役作りの参考にもしていて、魚のひれの動きや泳ぎ方を見ていると、こうやって水圧を感じてるんだなぁとわかって、勉強になりますね。福岡では「マリンワールド海の中道」、名古屋ではイルカのショーが有名な「名古屋港水族館」に行きましたが、どちらもとても楽しめました。よろしかったらぜひ行ってみてください」

*次頁でエリック役・上川一哉さんのインタビューを掲載しています。


【エリック役・上川一哉さんインタビュー】

実はアリエルと“似た者同士”の王子が
初めての“恋”を通して成長する過程を御覧いただきたいです

  • エリック=地上の王国の王子。自由な人生に憧れるが、21歳の誕生日までに結婚するよう言われている。遭難した自分を助けてくれた“あの声の持ち主”を探し続ける。
上川一哉undefined05年に研究所入所。『人間になりたがった猫』で初舞台を踏み、のちにライオネル、『春のめざめ』メルヒオール、『キャッツ』ラム・タム・タガー『ユタと不思議な仲間たち』ユタ『ウェストサイド物語』リフ等を演じている。(C)Marino Matsushima

上川一哉 05年に研究所入所。『人間になりたがった猫』で初舞台を踏み、のちにライオネル、『春のめざめ』メルヒオール、『キャッツ』ラム・タム・タガー『ユタと不思議な仲間たち』ユタ『ウェストサイド物語』リフ等を演じている。(C)Marino Matsushima

――上川さんは出演する以前から『リトルマーメイド』をご存知でしたか?

「僕は子供の頃を含めて、ディズニーの『リトルマーメイド』を観たことがありませんでした。劇団で上演することになって初めてアニメ版を観ましたが、アリエルの成長であったり親子愛だったり、いろんな要素がつまってる作品だなあ、これが舞台化されるとどういう作品になるんだろうとわくわくしましたね。携われると決まった時は、すごく嬉しかったです」

――エリックというお役を演じるにあたり、どんなことを大切にしていますか?
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:下坂敦俊

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:下坂敦俊

「僕は、アリエルとエリックは似た者同士だと思っています。アリエルは人間の世界に憧れていて、あの世界に行きたいという、まっすぐな気持ちを持っています。いっぽうエリックは王子として生まれたのでなかなか城をでることができないけれど、自由に生きていきたいという強い気持ちを持っている。この、アリエルと似た“まっすぐな気持ち”を、大切にしたいと思いながら演じてきました」

――初演から現在までに、より深まってきた部分はありますか?

「自由を求める気持ちと、しがらみから抜け出せない自分の立場との対比が見えてきました。(理想を)求めれば求めるほど現状への息苦しさを覚え、夢も遠ざかって行くような気がするなかで、それでもこうなりたいという気持ちを持ち続ける(精神的な)強さがあったことで、アリエルもエリックも、あの結末に辿り着けたんだと思います」

――エリックにはちょっと、じれったい一面もありますね。陸に上がったアリエルとあんなに気が合いながら、(溺れた自分を助けてくれた女性のものと思しき)“あの声”に拘っているという……。

「彼は本当にピュアな人間なので、お客様がじれったく感じる面があるのかなと思います。それまで恋をすることもなかった、何も知らずに育ってきたエリックが、初めて女性を意識する部分も描かれていて、まっすぐに育ってきたピュアさがうかがえて面白いなと感じています」

――彼は何歳という年齢設定でしたでしょうか?

「(執事のグリムスビーから)21歳の誕生日を迎える前にお妃を決めてくださいという話があるので、20歳ですね。現実の世界では20歳と言えばもう大人ですが、エリックは立場上、お城の人々に生活の全てを決められて生きてきて、おそらく初恋もしていなかったと思います。そんな生活が嫌で嫌で、海に憧れを持ち、水夫になりたいと思って生きてきたので、結婚話が出た時にはびっくりしたんじゃないかな。そんな彼もアリエルと出会ったことで、初めて女の子を意識した時のようにドキドキを感じたのだと思います」

――エリックには“あの声”というソロ・ナンバーがありますが、“すべては幻か”と、彼の揺れる心情を歌う歌詞がとても興味深いですね。
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:堀勝志古

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:堀勝志古

「このナンバーは彼の想像の世界ですよね。声のイメージしかないものに対して、彼は雷を打たれたような気持ちになっているけど、それが何なのか、恋と呼んでいいものかどうかは分かりません。ただその声の主が誰なのか、知りたい。その一心で毎日浜辺に行って探すけれど、そこにはいない。あれは幻だったのか、でもあの声はずっとここにある、これからどうしたらいいんだ……と思いを持て余しているエリックの内面が、丁寧に描かれたナンバーです」

――その声に出会うことが、自分の道を切り拓くと予感しているのでしょうか?

「そうですね。(遭難して)海の中で意識がない中で聞こえた時に、自分が追い求めている何かを与えてくれるのがこの人だ、と思ったのでしょうね。

一方で、いきなり目の前に現れたアリエルも、自分をいろんな気持ちにさせてくれる。アリエルと幻の声との間で、彼の中には葛藤があるけれど、自分が本当に大好きなのは誰だったのかが、最後にわかるんです」

――同じ男性として共感できるキャラクターでしょうか?

「大好きなものがあるという点で、共感できる部分はありますね。こうありたい、曲げたくないと思うものは僕にもあって、俳優という仕事や踊りに心惹かれる瞬間って、エリックが“海っていいな”と思う瞬間と同じなんだと思います」

――本作のどんな部分がお好きですか?

「この作品はアリエルとエリックはもちろん、いろんなキャラクターに感情移入できるように作られていて、男性であれ女性であれ、年齢を問わず、一度は体験したことがあるような気持ちがたくさん描かれているんですよね。思春期の時に初めて手がふれたドキドキ感だったり、親との喧嘩、親から子に対する思いなど、観ていただいて身近に共感してもらえるのが、僕は好きです。

例えば、お父さんが御覧になると、自分の娘もいつかこうやって結婚してくのかと思うとぐっとくる、とよく聞きます。いかに共感いただける舞台にするかというのは、稽古の段階からみんなが戦ってきた部分でもあるので、感じていただけていたらとても嬉しいです」

――今後、エリックをどう深めていきたいと思っていらっしゃいますか?

「王子ではありますが、皆さんの身近な存在でありたいです。客席と舞台の間に距離があるのではなく、その気持ちわかるなとか、この人こんなことで苦しいんだなと思っていただきたいので、喜怒哀楽や成長過程を嘘なく、自然に見せられるようにしていきたいです」

――現在、本作は名古屋と福岡で上演中です。

「どちらも出演させていただきましたが、カーテンコールで掛け声をいただくこともあって、嬉しいですね。温かさを感じます」

――他県からいらっしゃる方に、お勧めのモノ、コトはありますか?

「やっぱり美味しいごはんですね(笑)。今は福岡に滞在していますが、どこで何を食べても美味しいです。例えば、ですか? ゴマサバ。生のサバをゴマと甘い醤油であえた料理で、それまであまりサバを食べることが無かったけど、福岡ではどこに行っても食べてしまいます。お店によっても味が違って、それぞれに美味しいのでお勧めですよ」

*次ページでアースラ役・青山弥生さんのインタビューをお届けします!


【アースラ役・青山弥生さんインタビュー】

数あるディズニー・ミュージカルの中でも
真の“魔女”アースラを優雅に、思いっきり演じています

  • アースラ=海の魔女。自分を追放した弟トリトンへの、復讐の機会を窺っている。地上に憧れるアリエルに、その声と引き換えに三日間だけ人間に変えてやろうと罠をしかける。
青山弥生undefined1979年に研究所入所。『嵐の中の子どもたち』で初舞台を踏み、翌年『魔法をすてたマジョリン』マジョリン役に抜擢。『コーラスライン』コニー『オペラ座の怪人』メグ『ライオンキング』ラフィキ『マンマ・ミーア!』ロージー等を演じている。(C)Marino Matsushima

青山弥生 1979年に研究所入所。『嵐の中の子どもたち』で初舞台を踏み、翌年『魔法をすてたマジョリン』マジョリン役に抜擢。『コーラスライン』コニー『オペラ座の怪人』メグ『ライオンキング』ラフィキ『マンマ・ミーア!』ロージー等を演じている。(C)Marino Matsushima

――青山さんはアースラの日本版オリジナルキャストですが、巨大なアースラを青山さんが演じるということで、意外なキャスティングが話題になりました。

「例えば『ライオンキング』でもし自分が男性だったらスカーを演じたいほど思うほど、敵役に興味がありました。小柄だとどうしても演じる役柄が限られますが、この役は6本の足を動かしてくれる俳優(テンタクルス)とともに大きくなれますよね。これなら私でもできるのではないか、役の幅を広げるチャンスかもしれないと思い、チャレンジしたのです。

『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:下坂敦俊

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:下坂敦俊

でも、実は本作の最初のオーディションを、私は受けていませんでした。当時、私は大阪の『ライオンキング』に出演していて、近々同作のブロードウェイ版15周年イベントで日本のラフィキ役として歌うことにもなっていたのです。二兎を追うことはしたくなかったのでオーディションは諦めたのですが、ブロードウェイで歌って帰って来たところ、すでに始まっていた『リトルマーメイド』の稽古で、アースラ役(の候補)がもう一人必要になったと聞き、演出家に“受けてもいいですか”と直訴しました。マイケル・コザリンという音楽スーパーバイザーに歌を聴いていただき、合格しましたが、稽古場では皆、既に振付などがついていて、覚えることが山のようにあり、必死でしたね」

――『魔法をすてたマジョリン』のかわいいマジョリン役が今も目に焼き付いている観客としてはかなりの衝撃でしたが(笑)、ご自身の中でそういった抵抗はありませんでしたか?

「私が魔女らしく見えれば見えるほどアリエルがよく見えるし、中途半端では絶対ダメだと思っていました。悪賢く、執念深い性格を思いっきり表現しようと思っています」

――アースラの高笑いはとても印象的ですが、彼女は悪事をどこか“楽しんで”いるようにも感じられます。

「そうだと思いますね。私の高笑い、さきほどお話しした音楽監督のコザリンさんが気に入って下さって、“携帯の着信音にしたい”と言われました(笑)。ディズニーのヴィランズには独特の美意識があり、特にアースラは美しさの中に残忍さのある役だと思っていますので、あまりアグリーなアースラにはしたくなかったですね。おばちゃんというより、どこかに品を残しておきながら、動きを含めてセクシーな女ボスみたいにできたら、と」

――青山さんの腕が、様式的な美しさを見せる瞬間があり、素敵でした。
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:荒井健

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:荒井健

「私、少女時代に日舞をやっていたので、お扇子の扱いがどこか様式的に見えたのかもしれないですね。優雅さを大事にしています。またヨーロッパ(の宮廷文化)では、お扇子の扱い方次第でメッセージが違ってくるそうで、いろいろ調べて参考にしました。

もう一つ大事なのが、アースラの足を動かしてくれる6人の俳優たち(テンタクルス)との一体感です。初演の時は、お稽古が終わった後も毎日、彼らと鏡を見ながら稽古していました。息が合うまで本当に大変でしたね。本番に入ると自分では(鏡で)見られないのでどうかなと思っていますが、ぴったり合って見えましたら嬉しいです」

――初演から4年が過ぎ、改めて作品について“見えてきたこと”はありますか?

「私は東京開幕以来、他の演目との兼ね合いもあり、今回は久しぶりの出演となりました。初演の頃は自分のことで精一杯だったのですが、今はどういう役割を果たすべきか、見えてきたような気がします。そうは言っても幕が開くと緊張してしまいますが、やはり本当に作品世界に没頭するしかないですね。少しでも気を緩めたら、アースラになりませんし、アリエルとの手綱を緩めるわけにはいかないんです。頭のいいアリエルと取引をするアースラですが、目的は彼女の声を取ることではなく、あくまでトリトンを倒し、国(海の世界)を自分のものにすることだと、明確にしておかないといけません」

――敵役は、常に気を張っているものなのでしょうか。

「そう思います。それが最後の最後に緩んで、一瞬の隙を突かれてしまうんです」

――本作で、一番お好きな部分は?

「最後に、父親が娘(の恋)を許すところですね。もう一生会えないかもしれないのに、娘のためと思って彼女を許すという行為が、素晴らしいなと思います。アリエル役の俳優にもよく“親子だからこそ、あそこまで喧嘩できるんだよ”と言っていますが、子供のことを思うが故のトリトンの行動は本当に偉大ですね。私自身、この(演劇という)世界に入るときに“お前の好きな仕事をやっていいぞ”と言ってくれた、亡くなった父がトリトンに重なって見えます」

――手離すのは親としてはつらいことですが、子供を“信じている”からこそ、出来るのでしょうか。

「そうだと思います。この子は大丈夫だ、もう生きていけると確信できたことで、子供の幸せのために決断をする。家族って素敵ですよね。(アリエルの)姉役の俳優たちにも、トリトンと同様に、妹のことをよく考えていてねとよく言っています。この作品はみんなが、夢に向かうアリエルを中心に廻っていて、こんなにわかりやすい作品は無いと思います。ディズニー・プリンセスの中でもアリエルは特に人気らしいのですが、それは多分にアリエルの願い、祈りを巡って物語がストレートに伝わるからなのでしょうね。この部分(演目の骨格)は皆で大切にしていきたいなと思っています」

――世代を選ばず、楽しめる“最強演目”の一つですね。

「そうなんです。これからの時期は卒業・入学のプレゼントなどにもお勧めですね。名古屋と福岡、どちらの劇場も舞台と客席が近くて、見やすいですよ」

*次ページでトリトン役・芝清道さんインタビューをお送りします!


【トリトン役・芝清道さんインタビュー】

海の王としての“外面”と、娘を思い慌てている
父の“内面”の対比を鮮やかに、と心がけています

  • トリトン=海の世界の王。妻が人間に殺されたと思い、彼らを憎んでいる。娘たちを愛しているが、人間の世界に憧れるアリエルに激怒し、彼女の宝物を壊してしまう。
芝清道undefined86年に『エクウス』で初舞台を踏み、『キャッツ』ラム・タム・タガー『エビータ』チェ『オペラ座の怪人』怪人『ノートルダムの鐘』フロロー『ミュージカル李香蘭』王玉林『ジーザス・クライスト=スーパースター』ユダ等を演じている。(C)Marino Matsushima

芝清道 86年に『エクウス』で初舞台を踏み、『キャッツ』ラム・タム・タガー『エビータ』チェ『オペラ座の怪人』怪人『ノートルダムの鐘』フロロー『ミュージカル李香蘭』王玉林『ジーザス・クライスト=スーパースター』ユダ等を演じている。(C)Marino Matsushima

――芝さんは『リトルマーメイド』という作品に対して、どんなイメージをお持ちでしたか?

「原作であるアンデルセンの『人魚姫』に対しては、ちょっと寂しい印象があったんですよ。でも実際にアニメーション版を観てみたら、ヒロインは自分の世界を持っているし、“思いがあれば、一生懸命やれば夢はかなう”という、実にわくわくする物語でした。落ち込んだ気分の人が観た時に“私は変われるんだ”と信じることができる、希望をプレゼントできる作品なんだとイメージが変わりましたね。
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:荒井健

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:荒井健

またこの舞台版では、父と娘の親子愛がより深く描かれています。お互いに“こうしたい”“してもらいたい”と葛藤する様や、いろいろな出来事を経て子供が成長してゆく様、それを見て父が、“これならもう、ひとりで生きていけるな”と思いつつも寂しさを覚えている様を、しっかりお見せできるように、と思っています。ドラマが最も“うねる”部分ですからね。本作は特に“お父さん”たちに人気があるそうで、観て涙しましたというお手紙をいただくこともあります。

個人的には、特にふだん(大きくなった)子供と離れて暮らすお父さん、お母さんに御覧いただいて、ほろりとしていただきたいですね。郷里に帰って友人たちが“(思春期の)娘が、口もきいてくれん”と嘆いていると、僕は“それなら『リトルマーメイド』を親子で観においでよ。家族の絆が改めて再確認できるし、“お父さん有難う”って、娘さんが思うかもしれんばい(笑)”と言っているんです」

――トリトンを演じるにあたって、一番大切にしていらっしゃることは?

「権威ある王様の包容力、厳しさといった“外面”の部分と、娘を思う父の“内面”が対比してあらわれるように、ということですね」

――芝さんは日本版のオリジナル・キャストですが、他演目を経て、久々のトリトンです。
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:下坂敦俊

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:下坂敦俊

「怪人(『オペラ座の怪人』)にフロロー(『ノートルダムの鐘』)といった、暗く、人間の業をさらけ出すような作品が続いていたので、この作品に戻ってきて、ちょっとほっとする部分があります(笑)。もちろん本作でも“葛藤”は描かれているけれど、ちょっと他の作品とは世界観が違うんですよね。

僕は(人生を)泳いでいるうちにいろいろと洗練されていくタイプですが、いろいろな経験を経て今回またトリトンに戻ってきて、気づいたことがたくさんあります。開幕時のキャラクター研究を踏まえつつ、今は気負いすぎず、もっとフラットに自分を解放しよう、作品世界にふっと存在して、その中で感じられたらと思いながら演じています」

――さきほど拝見した舞台では、アリエルの大事なコレクションを壊すに至るくだりを拝見していて、トリトンの“怒り”の厚みがさらに増したように感じました。

「芝居は相手とのキャッチボールなので、アリエルからちょっと強く口答えをされると、なんとかわかってもらおうと、こちらもより強い怒りが出てくるんです。アリエルが夢中になっている“人間”は、肉親の敵であって、絶対に許せない、許せば破滅が待っているとトリトンは信じているんですね。怒りもあるし、絶対に止めなければいけないという思いもあります。

演出家からは、あそこで爆発した後に、“ちょっとやり過ぎたかな、でも今はこれが必要なんだ”という表情を去り際に一瞬見せて、と言われていました。娘を心配する良い父親ではあるけれど、(宝物を)壊したのはまずかった。これがもとで親娘のボタンの掛け違いが始まって、アースラがすっとアリエルの心の隙間に入っていくことがよくわかるように……と。物語が悲劇的な方向に転じて最後にまた戻ってくるためには、あそこは強く怒りを出すことが必要だと思っています。普通(の怒り)だと、アースラのもとに行くきっかけにはなりませんので」
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:荒井健

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:荒井健

――芝さんは福岡県のご出身なので、福岡公演では“ホームだなぁ”と感じることもありますか?

「もちろん昔からの仲間が観に来てくれるし、休演日は久留米の実家でご飯を食べたりもできるので、リラックスできますね。福岡のお客さんは総じて明るいです。『キャッツ』をやっていると客席から方言が聞こえてきて、そういう面でも“ホーム”だと感じましたね」

――福岡でお勧めの体験を一つ挙げるとすれば?

「福岡では、やっぱり食べ物がおいしいとですよ(笑)。ラーメンも有名だけど、福岡に来たら、うどんを食べてください。だしがいいんですよ。うどんマップが作られていて、下手するとラーメン屋さんよりうどん屋さんのほうが多いんじゃないかというほど、隠れた“うどん県”なんです。ぜひうどんを食べに来てください!」

*次ページでセバスチャン、スカットル役・荒川務さんインタビューをお送りします!


【セバスチャン、スカットル役・荒川務さん】

「どんなにつらいことが起きても必ず乗り越えられる」という、
作品の強いメッセージを受け取っていただけたら嬉しいです

  • セバスチャン=宮廷音楽家のカニ。アリエルの美声に惚れ込み、トリトンに彼女のお目付け役をおおせつかると、海が自分の居場所ではないという彼女に海の世界のすばらしさを熱心に説く。
  • スカットル=楽天家のカモメ。自由に飛び回って得た情報をもとに、アリエルに地上の世界のことを教える。セバスチャンらとともにアリエルの恋を応援する。
荒川務undefined85年のオーディションで入団、翌年『ウェストサイド物語』リフ役で初舞台。『マンマ・ミーア!』サム『クレイジー・フォー・ユー』ボビー『コーラスライン』ボビー『ミュージカル異国の丘』九重秀隆『オンディーヌ』騎士ハンス等を演じている。(C)Marino Matsushima

荒川務 85年のオーディションで入団、翌年『ウェストサイド物語』リフ役で初舞台。『マンマ・ミーア!』サム『クレイジー・フォー・ユー』ボビー『コーラスライン』ボビー『ミュージカル異国の丘』九重秀隆『オンディーヌ』騎士ハンス等を演じている。(C)Marino Matsushima

――荒川さんはスカットルのオリジナル・キャストを勤め、現在はセバスチャンも演じていらっしゃいます。

「僕も初演時、はじめは『リトルマーメイド』ではなく他の作品の稽古をしていたんです。稽古もだいぶ佳境に入った頃に、僕が入ることになりました。初日の1か月ちょっと前で、既に作品もかなり出来上がってきていて僕は出遅れたスタートでしたが、この劇団では稽古のやり方はみんな心得ているので、振り覚え歌を覚え台詞を覚え……と、スムーズに入っていけましたね」

――マイペースのスカットルはなんとも憎めないキャラクターですが、どこにポイントを置いていらっしゃいますか?
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:下坂敦俊

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:下坂敦俊

「カモメなので、フライングで実際に飛ぶシーンがあって、そこでは本当に鳥らしく飛べるよう、非常に気を付けています。あとは仕草ですね。喋るにしても、あくまでカモメが喋っているイメージになるように。だから動画サイトでよくカモメの映像を見ましたし、どんな鳴き声、飛び方をするんだろうと、近所の川にたまにカモメが来ると、ずっと観察していました。飛び方はけっこう優雅なんですが、声は一瞬“カラスか?”と思うような、ガーっという鳴き声で。でもいろいろ観察していると、中にはちょっときれいな鳴き声のカモメもいて、同じカモメでも個性があるんだなと思いましたね。

スカットルはキャラクターとしては、いわゆる“知ったかぶり”のおじさんです。よく言えばとっても前向き、違う角度から見ればおせっかいというか暑苦しいといいますか(笑)。とにかく自分の思ったことをすぐに口に出してしまうし、思い込みも激しいし、そんなに賢くもないですが、いい意味の“いい加減さ”が楽しいですよ。細かいことは気にしない気にしない、目の前がよければいいし、楽しいことを前向きにやろうぜ、というキャラクターです」

――セバスチャンはいかがでしょうか? 手と足を開いたポーズをずっとキープしながらのお芝居は大変そうにも見えますが。
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:下坂敦俊

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:下坂敦俊

「セバスチャンはトリトンにも、アリエルにも翻弄される役ですが、その翻弄のふり幅を大事にしています。王であるトリトンへの対峙とアリエルへの対峙は違って、アリエルを目の前にしたときの心中はすごく複雑ですから。王女なのだからダメですよとしっかり叱らなくてはいけない。でもアリエルの笑顔を見ると、ついいいよと言ってしまう。そんなふり幅が芝居に出たらいいなと思いますね。

ポーズについては、なるべくカニらしさを出すということでずっと手足を開いていますが、カニの爪は全く重くないですよ。ただずっと手足を開いた姿勢をキープしていると、筋肉はついてきますね。腰にも負担はあります。でも劇団四季ではみんな、鍛えていますから大丈夫ですよ」

――今やスタンダード・ポップス化しているセバスチャンのナンバー「アンダー・ザ・シー」は、名ダンサーの荒川さんが歌われるとダンス・ナンバーにも見えてきます。

「僕自身は踊っている感覚はないですね。周りの海の生き物たちがものすごく盛り上げてくれるので、自分自身は踊るというより、楽しんでいます。できることならもっと踊りたいですが、自然に動いて楽しい空気を醸し出すということが大切ですから。曲調としてはサンバやカリプソといったラテンのナンバーで、血が騒ぎますね。僕はもともとこういうリズムの音楽が大好きで、性にも合っているので、すごく前向きに乗れるナンバーです。前奏が始まると、“来た来た、よしよし~!”という感じですよ(笑)」
『リトルマーメイド」(C)Disney 撮影:下坂敦俊

『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:下坂敦俊

――この作品のどんな部分がお好きですか?

「ナンバーとしては、(2幕の)アリエルとトリトン、エリック、セバスチャンがそれぞれの思いを歌う「もしも(カルテット)」が好きですね。難しい場面ですが、このナンバーによってドラマにいいうねりが生まれます。2幕の大詰めに入れたということは、作者たちがとても大事にされているナンバーなのでしょうね。いつもあの場面の前には改めて気合を入れるようにしています。

初演の頃は、スカットル役で舞台裏で、“ああいいな~”なんて思いながら聴いてましたが、自分がやるとなると、いいななんて思っている余裕はないですね(笑)。客観的に人がやってるのを見ていいなと思っても、自分が向き合うと苦しい。それがプレイヤーの醍醐味でもあるのではないでしょうか。毎日自分の課題を見つけて、一つ一つクリアしていくのが俳優の仕事の根源であって、職業として舞台に立つからには、そこと向き合わないといけないと僕は思っています。そして結果としてお客さんが喜んでくださることが、僕らの喜びであるわけです」

――尊いお仕事ですね。

「“観るは天国、やるは地獄”と言いますよね(笑)。でも、それでいいんです。お客様が喜んでくださる、笑顔になってくださるとあれば、なんでもしますよ!というのが俳優というものなんだと思います」

――『リトルマーメイド』を御覧になった方に、どんなものを持ちかえって欲しいですか?

「この作品は、今いる世界を飛び出し、ひたすら自分の思いを貫く、強い女の子の話です。人生、どんなつらいことが起きても、必ず乗り越えることが出来るのだという、この作品の強いメッセージを感じていただけたら嬉しいですね。パッションとエネルギーがあれば苦難は乗り越えられますし、自分にいい道を照らしてくれると思います」

――荒川さんは名古屋と福岡、どちらにも出演されていらっしゃいますね。

「今は福岡に出演していますが、どちらの劇場でもカーテンコールで、客席の“熱”を感じます。あとはお子様がよく観てくれていますね。子供の声って、すごく通るので、笑い声やカーテンコールでの掛け声で、反応してくれているのがこちらにもよく伝わってくるんですよ。

他の地方からいらっしゃった方には、ぜひそれぞれの食文化を楽しんでいただきたいですね。名古屋なら赤味噌、八丁味噌が大好きなので、味噌煮込みうどんも味噌カツもよく食べますし、鉄板メニューで言うなら、ひつまぶしも美味しいです。福岡だと、今の季節はフグがいいですね。衣裳が入らなくならないよう、食べ過ぎに気をつけています(笑)」

*公演情報*
リトルマーメイド』ロングラン上演中=名古屋四季劇場、キャナルシティ劇場
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