<今回のポイント>

高級住宅街の一戸建てから、都心のマンションに回帰

エグゼクティブ、つまり「経営者」や「重役」そして、高収入の職業の代表ともいえる医師や弁護士などの住まいといえば、かつては、大田区の「田園調布」や世田谷区の「成城」が代表的でした。どちらも全国的に著名な一戸建て中心の高級住宅地です。都心からやや離れた城南エリアの広い敷地に、大型の邸宅を構えることが、功成り名を遂げた社長たちのステータスだったといえるでしょう。

ところが、この十数年の間に、そんな常識が崩れ始めています。東京商工リサーチが調査した「社長の住む街」(町村別)ランキングの変化に、それが表れているのです(図1参照)。
図1.社長の住む街ランキングの変遷。赤はランクダウン、青はランクアップ、黄色はほぼ横ばい。青と黄のエリア(太字)は東京都心5区の港区と新宿区。

図1.社長の住む街ランキングの変遷。赤はランクダウン、青はランクアップ、黄色はほぼ横ばい。青と黄のエリア(太字)は東京都心5区の港区と新宿区。


15年前の2003年は、1位が「田園調布」、2位が「成城」でした。練馬区の「大泉学園」も戸建て住宅地です。また、トップ10の中に、東京以外の地方都市も入っていました。東京都心は「港区南青山」しかありません。

その約10年後の2012年には、地方都市がトップ10に入らなくなり、「田園調布」と「成城」が一気に6位以下にランクダウンしました。代わって、港区の「赤坂」「高輪」「六本木」「南麻布」、渋谷区の「代々木」「広尾」、新宿区の「西新宿」がランクインしています。

さらに2017年になると、「田園調布」と「成城」がトップ10から姿を消し、江東区亀戸以外はすべて都心部で占められています。いずれも一戸建てよりもマンションの比率が高いエリアです。

つまり、「社長の住む街」が、地方都市から東京へ、そして東京の中でも城南エリアの一戸建てから都心のマンションへと、明らかにシフトしていることがわかるでしょう。


時間価値を重視するエグゼクティブの価値観が都心にフィット

では、なぜ多くのエグゼクティブたちが、都心のマンションを選ぶようになったのでしょうか。一言でいえば、「時間がもったいない」というのが理由です。

私は広尾や麻布エリアで住まい売却・購入をお手伝いしていることもあり、経営者や役員、医師・弁護士のお客様が少なくありません。そうした方の多くが、ご自身で財を成し、限られた時間でストイックに働いている印象です。

結果、ビジネスにもプライベートにも猛烈に忙しく、打ち合わせが5~10分ほど伸びただけでも、「次のスケジュールに影響する」と気にされるほどシビアです。

これは、「時間価値」が以前にも増して重要視されるようになったからではないでしょうか。特に、外資系の証券会社や投資銀行、IT系ベンチャー企業などのエグゼクティブの方は、「1分1秒の無駄」が莫大な損失につながるという価値観を持っているのです。

それにより、住まいの希望条件も変わってきます。一般のビジネスマンなら、自宅から最寄り駅までの徒歩時間、鉄道の移動時間、駅からかオフィスへ徒歩時間を含めて「ドアツードアで40~50分以内」といった希望を出すことが多いでしょう。

エグゼクティブの方は、ほとんど電車は使いません。マイカーやタクシーを利用します。自宅を出た途端に仕事モードが「オン」になり、電話やメールで仕事ができるからでしょうか。「車で10分」「タクシーで2,000円以内」といった感覚で探しています。
「職住」だけでなく、プライベートジムなどの趣味や自己投資、多業種交流会やセミナーなどの学びの場も近くに。

「職住」だけでなく、プライベートジムなどの趣味や自己投資、多業種交流会やセミナーなどの学びの場も近くに。


都心のマンションを選ぶのは「職住近接」というだけではありません。ジョギングをしたり、ジムでトレーニングをするために、自宅かオフィスの近くにジムがある場所を希望する方が多いのです。赤坂や青山を始め、都心に24時間営業のジムが増えているのも、こうしたニーズに応えているのでしょう。また、頻繁に開かれる異業種交流会や勉強会に参加しやすいという面でも、自ずと選択肢は都心になります。

また、図1の「社長の住む街」が「田園調布/成城」から「赤坂/六本木」へシフトしたのはマンションの変化も関係しています。かつて「赤坂/六本木」は商業施設が中心のエリアで、ごく一部の外国人向け高級賃貸マンションを除けば、エグゼクティブが満足できるような広いマンションは多くありませんでした。

実は、都心に大型のタワーマンションが出来始めたのは2000年代前半からです(図2参照)。

図2.タワーマンションの供給推移グラフ

図2.タワーマンションの供給推移グラフ


郊外のマンションは、現在も70m2前後の3LDK、ファミリータイプ中心ですが、都心部では30m2のワンルームから200m2を超える4~5LDKまで多彩です。一戸建てに負けないゆとりある空間も選べますし、タワーなら一戸建てでは得られない眺望が手に入ります。その結果、多くのエグゼクティブが都心マンションに集まって来たといえるでしょう。

なお、エグゼクティブのライフスタイルは、必ずしも職住近接だけではありません。かつてのエグゼクティブは「オフィス=都心、自宅=郊外」でした。最近では「自宅=都心オフィス・店舗・工場=郊外」というオーナー経営者開業医も増えています。これは純粋に、都心の住環境、アメニティの高さを評価しているからでしょう。

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