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オール電化賃貸のメリット・デメリット

オール電化住宅というと、一戸建てや新築分譲マンションなど「マイホーム持家派の話」としてのイメージを持ちがちですが、「賃貸派」にもその選択肢はあります。今回はオール電化の「賃貸」に焦点を絞って、光熱費などをポイントにメリットとデメリットについて考えてみましょう。

河名 紀子

執筆者:河名 紀子

家づくりトレンド情報ガイド

オール電化に対応したマンションやアパート

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デザイン的にも人気なIHクッキングヒーターのあるキッチン

「オール電化賃貸」は戸数の集計も公的に発表されていないなど実態をつかみにくく、実際、数に乏しく導入されても都心の超高級な「オール電化マンション・アパート」であったりなど、一般消費者がオール電化賃貸を比較検討できるほどの量が市場で提供されていないのが実態です。

ただ、そういう中にあっても、賃貸分野にも耐震性や省エネ性を高めた商品提供は業界側として注力していますし、新築フローだけでなく既存ストックへのリフォームも入居者への差別化訴求として増えていくと考えると、少しずつではありますが「オール電化賃貸」も増えていくと思われます。

そこで気になるのが「オール電化賃貸のメリットとデメリット」。オール電化といえば「火を使わない」「空気がきれい」「掃除がしやすい」などのメリットがすぐ思い浮かびますが、「賃貸(アパート・マンション)」に限定した場合、どのようなメリットやデメリットが考えられるでしょうか。

火を使わないメリットは賃貸でこそ大きい?

まず「火を使わない」ことは、借主と貸主それぞれにメリットがあります。仮に賃貸アパート・マンションの借家人(借主)が過失で火事をおこし、建物を焼失させてしまった場合、借家人は賃貸人(大家、オーナー)に対して原状復帰させて返却しなければならない債務不履行責任を負います。しかし、そもそも火を使わなくてすむオール電化であれば、このような不安や火災時の負担も軽減されることが考えられます。

また失火責任法では、失火者に「重大な過失」がなければ、損害賠償責任を追及できないとされています。たとえば火の消し忘れや不始末で火事を起こした借主の責任が「重大」とはいえない場合、貸主(大家)はその借主に「損害を賠償しろ」とは言えないのです。

このため多くの賃貸オーナーは自分のアパートに「火災保険」をかけるわけですが、仮に十分な保険をかけていない場合、貸主自らの過失でなくても貸主は自ら負担して補修・建替えしなければならなくなります。

また賃貸は複数世帯が集まる共同住宅であることが多いですが、火災リスクが減れば、他の住人も火事に巻き込まれる心配は少なくなります。戸建やマイホームをオール電化にするメリットは自分や家族を火事リスクから守ることになりますが、共同住宅や賃貸をオール電化にすればオーナー自身はもちろん多くの入居者を火事リスクから守ることになり、「賃貸で火を使わない」ということは、借主・貸主・住人の3方ともこうした火事やガス爆発によるリスクを低減できます。

賃貸におけるIHクッキングヒーターのメリット

賃貸とマイホームとの違いは、「住人が頻繁に入れ替わる」点です。賃貸の空室率は供給過剰と人口減少とともに上昇傾向にあり、空室を防ぐために大家さんは水回りやキッチンなどを新しくしたりリフォームしたりコストをかけて鋭意努力をしていますが、掃除や手入れのしやすいIHクッキングヒーターなら日々の汚れも付着硬化することが少ないため、借主もより快適に住めるうえ、オーナーにとってもリフォームコストをより低減させることが考えられます。

エコキュートのメリット・デメリット

オール電化のもう一つの代表格に、自然冷媒ヒートポンプ給湯機「エコキュート」があります。エコキュートとはヒートポンプと呼ばれる技術を取り入れた電気給湯器で、空気の熱を利用してお湯を沸かすシステムです。

このエコキュートを賃貸に導入すると、どんなメリットが考えられるでしょうか? まずは以下のメリットがあります。

  1.  割安な深夜電力を使って沸かすため電気代の削減(ガス給湯器に比べ電気代1-2割カット)→各居室の光熱費は入居者負担となるため、「光熱費をより軽くする賃貸」として入居者募集で訴求できる
  2.  熱交換式追い炊きシステムがある場合はタンクに貯まっているお湯の熱エネルギーを使って温める仕組み。冷水から沸かす必要ないため、より電気代を節約できる
  3.  災害時にタンク内の水が非常用に使える
  4. 給湯設備の枠で各種エコ補助金や減税などが使える

ちなみに電気代の3/4を占めているのは照明や調理・冷暖房費でなく「給湯」。特に冬場などはこの割合が高くなり、この「給湯部分」でいかに省エネにするかが、環境負担や光熱費を軽くする大きなポイントになります。

オール電化は設備費がかかることも念頭に

とはいえ、「オール電化」にもデメリットは少なからずあります。
例えば、エコキュートはまともに買うと80万ほどかかり、キッチンコンロでも比較すると、「ガスコンロ(初期投資:約7-32万円、ランニングコスト1.2~1.5万円)vs「IHクッキングヒーター(前同約22-47万円、前同2万円)」とIHのほうが少々割高のようです。

賃貸の場合、これらの設備費はオーナー大家さんが建築時に負担し、場合によっては戸数分となりますから決して少なくない初期投資に。オール電化を謳うことで入居者をより集めやすくし家賃を上げるなどして積極的に投資回収を図っていく必要があります。

ただし前述したように電気代全体でみると75%は「給湯」が占めており、「給湯」部分の電気代を減らせるメリットはトータルで見れば大きいでしょう。

また エコキュートの場合、「すぐにお湯が出ない」「使いすぎると湯切れが起こる」「故障しても自分の手では直せない」「深夜に低周波騒音を起こす可能性が有る」「空気の熱を利用するため、冬は効率が下がり、光熱費が上がる」といった点もあるようです。

オール電化持家とオール電化賃貸で大きく違うのは、前者は「設備投資する人(施主)」と「電気代を減らせる人(住む家族)」が同じであるのに対し、後者は「設備投資をする人(大家・オーナー)」と「電気代を減らせる人(入居者)」と異なる点です。まともに見ると賃貸はオーナーに負担がいくため、オール電化賃貸が劇的に普及してこなかった要因がここにあります。

賃貸の差別化に投資する時代?

しかし、今や賃貸戸数は過剰気味。空室リスクが低かった以前は「安かろうアパート」で大家さんが初期投資をケチっても入居者が集まらないという心配はありませんでした。しかし空室が右肩上がりの今、デザインや設備にいかにお金をかけるかで入居者の多寡が左右されるようになっています。

いかに初期投資をケチっても入居者が集まらなければ家賃収入がゼロになってしまい、そもそもの賃貸経営計画は悪化してしまいます。その意味でも、多少の設備はかかっても「省エネかつデザイン性もいい」「入居者が月々負担することになる光熱費が安くなる」賃貸にしていくことは、過剰な賃貸市場での差別化につながるでしょう。

また入居者側としては、物件案内に「オール電化」とうたわれていた場合、仲介会社やオーナーに「お湯の量はどれくらい使えますか?」「トータルの光熱費はオール電化でない場合とどのくらい違ってきますか」と率直に質問してみるとよいでしょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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