建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

陰影のある柔らかな住まい[清瀬の小住宅]

東京郊外の自然豊かな地に建つ約13坪の小さな二階建てです。灰色の漆喰で仕上げた壁と天井と大きな吹抜けのある「一室空間」のなかで、四人の家族が元気に暮らしています。若原アトリエの若原一貴氏が手掛ける建築実例を紹介します。

執筆者:川畑 博哉

都心のマンションで生活していたMさん夫妻。お子さんが小学校にあがるのをきっかけに自邸を建てることを決め、東京の郊外の土地を探していた時、偶然にケヤキ並木のある清瀬の地に出会いました。この並木は通称「キヨセ ケヤキ ロードギャラリー」と呼ばれ、散歩をしながら彫刻を鑑賞できる野外ギャラリーになっています。

Mさん夫妻はここが気に入って東側に道路計画のある一画を購入し、ネットで建築家を探しました。その中で若原一貴さんのホームページに掲載されていた[南沢の小住宅]や[鎌倉の分居]を知り、一家四人で暮らす家造りの夢を託すことにしたのです。

緑に囲まれた切妻屋根の白い箱

外観
西側の外観。外壁はモルタル金コテ押さえの上塗装仕上げ。2階にバルコニーが見える。植栽は、こなから建築工房によるデザイン。
外観
南側の外観。コーナーの背の高い植栽はヤマボウシの樹。
外観
東側の外観。窓の前にはソヨゴの樹とアオハダの樹が植えられている。
窓
東南のコーナー窓。内側に障子が仕込まれている。
玄関
大きめの庇の下の玄関。ドアはナラ材貼り。

まだ農地の残る住宅地に建つMさんのご自宅は、典型的な切妻屋根(棟の両側に流れる二つの斜面からできている山形の屋根)の家ですが、必要最小限の窓しかついていないので周りの家に比べて寡黙な印象を与えます。特に東側は計画道路の空き地に面しているので、白い大きな壁になっていて窓は1つしかありません。

しかし、家の周囲に大小様々な植物をセンス良く配置しています。これが窓からの眺めをいっそう豊かなものにしています。さらにこの植栽は、自宅のみならず近隣の住宅環境の向上にも貢献しているのです。

パースペクティブと吹抜けのリビング

食堂
丸いテーブルが置かれたダイニング。障子の枠はタモの造作。床は黒く着色されたモルタルの金コテ仕上げの「黒い土間」。
居間
土間と19cmの段差があるリビング。床はナラ材のフローリング。窓枠はタモの造作。傍島浩美作のベンチが吹抜け空間に馴染んでいる。
居間
2階からリビングを見下ろすとギャラリーのよう。奥を左に入るとトイレになっている。
吹抜け
北側から吹抜けのリビングを見返す。2階の壁にはエアコンが仕込まれている。

玄関を入ると、まず正面に丸いテーブルのあるダイニングが目に入ってきます。ここは壁と天井が「瓦を混ぜた灰色の漆喰」の左官仕上げになっています。東南の角に設けたコーナー窓が床から約36cmの位置に設けられています。ちょっと低いように思われますが、これはイスに座ったときの目の高さに合わせて決められたのです。

北東側は一段上がったフローリングのリビング。北側に行くほど狭まっていきますが、二層分の吹抜けが圧迫感を解消しています。パースペクティブ(遠近感)をつくり出す東側の傾いた壁には木の造作窓が開けられ、柔らかい光がもたらされます。さながら画家のアトリエのような空間になっています。

2階はL字形のフリースペース

2階
2階の西側を見る。窓際に置かれたチェストは建築家のオリジナルデザイン。窓の奥はバルコニー。
2階
2階の東側を見る。床は1階のリビングと同じナラ材のフローリング。
2階
吹抜けに面した手すりの高さは、北側が約120cm、西側が90cm。
2階
三畳の和室には収納が付いている。
2階
和室には階段室に向いた縦長窓が設けられている。

2階は三角形の吹抜けによってつくりだされた、L字形のフリースペースになっています。南側は広めの子供室になっています。

南西側には半坪のベランダが設けられ、物干としても使われています。西側の中心に位置する階段の奥は畳敷きの三畳の和室で、ここは家族の寝室を兼ねています。

タイル貼りの機能的なキッチン

階段室
和室の障子窓が階段室に現れている。
階段室
階段の折り返しには小さな窓が設けられている。
台所
キッチンからダイニングを見る。
台所
キッチンカウンターの前面は2cm角のタイル張り。
台所
キッチン家電やゴミ箱などが表に出ないように、奥に収納を設けている。

キッチンは1階の南西のコーナーに位置しています。床はダイニングと同じ黒いモルタル仕上げ。正面の壁は料理中の汚れや熱に強いタイル張りになっていて、毎日の調理を快適にしています。

漆喰の壁や天井、フローリングや木製の窓枠など、素材と光がつくりだす陰影のある柔らかで落ち着いた雰囲気を醸し出す空間を見て、訪れた親しい友人が「ギャラリーのよう」と思わず言ったそうです。その中で、二人の子供達と共にMさん夫妻の新しい生活が始まっています。

[清瀬の小住宅]
所在地: 東京都清瀬市
構造・規模: 木造 地上2階
竣工年月: 2017年3月
敷地面積: 96.07m2
建築面積: 44.71m2
延床面積: 76.72m2
設計・監理: 若原アトリエ/若原一貴 永峰昌治
構造設計: 長坂設計工舎/長坂健太郎 馬上友弘


若原一貴[若原アトリエ]プロフィール

日本大学を卒業した後、横河健氏の元で建築設計の実務を経験し、2000年に独立。「生活が豊かに感じられる空間をつくること。光が美しく、かつ陰影のある空間である事。表情のある本物の素材を使う事。」をポリシーに、ご両親の住まい「あがり屋敷の家」を皮切りに、戸建て住宅をはじめとして多くの建築を手がけてきました。2017年には「一般社団法人 東京建築アクセスポイント」を共同で設立しています。

若原アトリエ
Tel. 03-3269-4423
http://www.wakahara.com//

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           若原一貴[Wakahara Kazuki]


これまで登場した若原アトリエの住宅


 

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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