ハウスメーカーの社員が建てた家には、“住まいのプロ”らしいこだわりや美意識、快適に過ごすための工夫が随所に見られます。今回は、三井ホームの商品開発部に在籍するTさんが設計された、奥様と2人のお嬢さんと一緒に暮らすお住まいを紹介しましょう。

境界をやわらかく区切り、街並みに溶け込む外観

Tさんは約10年前、お子さんの誕生をきっかけに土地探しを始めました。
「当時住んでいたエリアは子育てに向かないと感じていたので、子どもが生まれたら環境のよい場所に土地を買い、自分で設計した家を建てようと考えていました」(Tさん)。

しかし、なかなか思うような土地に出会えず一度中断。お子さんが1歳を過ぎた頃にこの土地に出会い、すぐに購入されたそうです。

「希望するエリアで様々な土地を見学し、条件や相場観を掴んでいたため、ここを見たときにとても恵まれた条件であることが分かり即決できました」。

約46坪という十分な広さと、南面道路のため太陽光を確保しやすい敷地に対し、Tさんが考えたのが『道路側に建物がない“余白スペース”を広くとり、道路との境界をゆるやかにつくる』ということです。

「この敷地は道路との高低差が1.4mありますが、高い擁壁を造って区切ることはせず、ゆるやかに傾斜させて芝生や花を植えてやわらかく区切りました。わが家の前を通る人が、植えられた草花を見て穏やかな気持ちになってもらえればと思っています」。
外観

片流れの屋根とアイボリーの外壁が、落ち着いた印象を与える外観。木製の格子やアプローチのウッドデッキが庭木のモミジやソロと調和しています。「塀と門扉は設けていませんが、玄関アプローチへの入り口を小さくしてプライバシー感を演出したので、見知らぬ人は入ってきません」。

外観

道路側の庭木が青葉になると涼やかな印象を与える。


道路から玄関口まで続く階段とアプローチの仕上げには、天然木を用いています。

「戸建住宅の場合、アプローチには石やタイルを用いることが多いのですが、わが家では踏み心地がやわらかい天然木で仕上げました。

リビングに面した場所にウッドデッキを希望される方は多いのですが、使用頻度は週末程度というなら、毎日必ず通るアプローチに木を用い、朝夕心地よい足触りを楽しむ方をおすすめします」。

陰影が美しい、ほんのり暗めの玄関スペース

戸建住宅の間取りを考えるとき、多くの人はLDKの位置や、部屋をいくつ設けるかなどに意識が向きがちです。しかしTさんは最初に『敷地のどこに緑のスペースをつくるか』を考えたそうです。

「戸建住宅の魅力のひとつは、土に近い生活が送れることです。子どもたちには、木の緑だけでなく幹も見せて育てたいと思っていたので、まずは木を植える“緑のスペース”を決め、その緑が家のどこからでも眺められる間取りをつくりました」。

敷地形状や方位を考慮して決めた“緑のスペース”は3カ所あり、敷地の西側の玄関横にヒメシャラ、東南側の中庭にシマトネリコ、南面の庭にモミジとソロを植えました。

「日当たりのよい南面は居室にしたかったので、玄関は道路から約12m奥まった敷地の西側に配しました。玄関奥のヒメシャラを眺めながらアプローチを歩き、玄関に入ると中庭のシマトネリコが見えるようにしています」。
玄関

玄関から中庭のシマトネリコを眺められます。「シマトネリコへ抜ける視線を、格子やのれんでゆるく遮っているのは、奥行き感を与えて広く感じさせるための仕掛けです。自分で設計したものですが、この仕掛けは正解だった思います」。


玄関には、玄関引戸のガラス越しや中庭越しの光を取り入れていますが、決して明るい空間ではありません。

これはTさんが、谷崎純一郎の『陰影礼賛』で述べられている、陰影に対する日本人ならではの美意識を感じる家をつくりたいと考えたため。玄関と和室はほんのり暗めに、LDKは明るい太陽の光が降り注ぐように、空間ごとに明暗の差をつけて設計されています。

「戦後の日本では“すみずみまで明るい家”が好まれましたが、このような家では明るいことのありがたさや、陰影がつくる美しさを体感しにくくなります。

私は子ども時代に、昭和元年に建てられた古い家と、その家を建て替えた新築住宅の両方に住みました。しかし、より直近に住んだ新築住宅より、昼でも場所によってはほの暗く、夜は真っ暗になる古い家で過ごした“明るい部屋にいる安心感”や“家の中の光と影”の記憶の方が強く残っているのです。

この体験から、この家も空間ごとに明るさのメリハリをつけ、子どもたちに光がもたらす影の美しさや安心感を、日々の暮らしの記憶とシンクロさせて残せればと願っています」。

玄関、ダイニング、和室に囲まれた中庭

玄関から見える中庭は、ダイニングと和室から出入りできるスペースです。

スペースの半分にはウッドデッキを敷き、もう半分には水盤を設け、ほぼ中央にシマトネリコが植えられています。

ウッドデッキは、ダイニングや和室と段差なくつなげ、窓は大きく開放できるタイプを選択されたことで、室内と外との一体感が高まり、空間的な拡がりを感じることができます。

「水盤に水を張るのは休日ぐらいなので、水を抜いてもデザインとして成り立つ空間づくりを心掛けました。水盤はメンテナンスが大変そうに思われますが、深さも10cm程度ですし、長期間水を入れっぱなしにしなければ問題はありません。

むしろ、シマトネリコの手入れが予想以上に大変です。常緑樹ですが一年中少しずつ葉が生え変わり、成長も早いので、こまめな掃き掃除や剪定が必要だからです。

秋に葉が落ちる落葉樹も敷地の南面に植えていますが、落葉時期以外はほとんど手入れの必要がないので、かえって扱いやすい木だと感じています」。
中庭

中庭に面する壁は、外壁とは異なる白の漆喰で仕上げて、太陽の反射光を効果的に室内に取り込みました。サッシも白を選択して空間内の色数を減らすことで、すっきりと感じさせています。

中庭

和室側のウッドデッキを裏手の方に若干張り出すことで、“この先に何かあるんだろう“という期待を抱かせます。人の想像力をかき立て、実際よりも広く感じさせる効果をもたらす工夫です。


自然の光に満ちた、吹き抜けのダイニング

中庭に面するダイニングは、吹き抜けの天井高が5mある開放的な空間です。北側と東側に設けられた大きな高窓から、中庭の白壁に反射した明るい光が降り注ぎます。

「ダイニングは、この家の中で最も明るい空間です。暗い場所から明るい場所へ行くと実際よりも広く感じるのですが、わが家の場合、玄関からダイニングに行くといつもそう感じられます。

家族からも“自然の光がすごく気持ちいい”と言われていて、週末は食後もダイニングテーブルで会話を楽しみ、長女はここで勉強をすることもあります」。
ダイニング

開放感あふれる、吹き抜けのあるダイニング。「日差しをたくさん取り入れるために、吹き抜けや高窓を南側に配するケースが多いのですが、北側からの光の方が一日中安定しているうえ、夏は暑くなり過ぎないというメリットもあります」。

高窓

空と中庭のシマトネリコが見える北側の高窓。「中庭の方を向いているので近隣からの視線も気にならず、カーテンを設けなくても安心して過ごせます」。


ダイニングとゆるやかにつながる、キッチンとリビング

ダイニングスペースの西側にはキッチン、南側にはリビングが配されています。
キッチンは、ダイニング側を向いた対面プランです。吊り戸を設けていないので、光も風も通りやすく、料理中でもダイニングにいる家族と会話を楽しむことができます。
ダイニング

ダイニングに隣接するキッチンは対面プランに。造作でカウンターと細々とした物をしまう引出しを設けています。「長女が小学校低学年のときはこのカウンターで宿題をして、料理中の妻に質問していました」。


ダイニングとリビングとの間は、腰高の壁と飾り棚で区切られています。
「設計段階から、のれんかスクリーン、棚のいずれかで、ゆるく区切ろうと考えていました。入居後、この空間に立ったときに飾り棚にしようと決めて、後日DIYで取り付けました。

玄関では、中庭に抜ける視線を格子やのれんでゆるく遮ることで奥行き感を演出しましたが、この空間では、飾り棚で視線をいったん遮ることで奥行きと拡がり感を与えています」。
ダイニング

ダイニングとリビングの間は、TさんがDIYで取り付けた飾り棚でゆるく区切られています。壁面のディスプレイコーナーは、両側に設けた小窓から光を取り入れて。


“おこもり感”のあるピットリビング

南側に面するリビングは、床面を30cm程度下げることで“おこもり感”を演出しています。

「リビングとダイニングはどちらも家族が集う空間ですが、ダイニングは“動” 、リビングは“静”と、集まる目的と過ごし方が異なるものです。

そこで、わが家のリビングは、ソファや床に座ってゆったりとくつろげるように、床材を柔らかいカーペットにしました。この空間は日当たりも風通しも良いので、湿気やダニのリスクは少ないですし、段差を下るときに次女が転ぶこともあるので、カーペットにしてよかったと思います」。
リビング

リビングは、ダイニングから階段2段分、約30cm下げた空間。週末は学校の音楽部に所属している長女の演奏を聴きながら、リラックスして過ごします。


リビングの床面を下げたことで、庭の“土”に近くなり、外に出やすくなったそうです。

「他の空間は地面から床面まで約50cmありますが、リビングは約20cm程度です。このぐらいの高さだと、小さな子どもでも一人で外に出られるので、庭木に集まった虫や鳥をよく観察していました。子どもと一緒にシジュウカラの巣立ちを何回も見届けましたよ」。

地窓から入るほのかな光を味わう和室

中庭をはさんだダイニングの対面側には、約6畳の和室があります。
天井と壁には濃い茶色のクロスを貼り、中庭面以外の窓は地窓にして光を穏やかに取り込むなど、日本的な“ほの暗い”雰囲気の空間です。
和室

和室の地窓から見える、床の間代わりの設え。床の高さを揃えたことで外空間も室内の一角にあるように見せています。


和室を洋の住まいに融合させるのはとても難しいのですが、T邸の場合、和室を離れのような位置に配したことで、テイストの異なる空間を無理なくまとめています。

「玄関から和室までの間は、フローリングを張らずに、自分で砂利と敷石を敷き詰めました。床を和の印象が強い素材で仕上げることで、洋から和へと“気”を変える効果もあると思います」。
玄関

玄関から和室の入り口までは砂利と敷石を敷きつめて。Tさんがご自身で材料を購入し、DIYで仕上げられました。


四季折々の借景を楽しめる洗面室・トイレ

玄関の横に配した洗面室・トイレは、窓越しに敷地内のヒメシャラを眺められる空間です。
「ガラス窓の前にピアノ線で鏡を吊り下げ、ヒメシャラの借景の中に鏡が浮いているように見せています。この方法は、以前訪れた海外のリゾートホテルを参考にしました」。
トイレ

サッシ幅が薄く、鍵がないFIX窓にして、窓まわりをすっきりと見せています。窓とトイレの間にアジアンテイストの暖簾を下げ、窓外からの視線を遮りました。


この空間は2階への階段下にあるのですが、そうは感じられません。
「窓からの自然光を室内に届けるために、出入口の引き戸は常時開けておくつもりだったので、インテリア的に美しい空間にしたいと思いました。

そのために、室内から美しく見える位置に木を植える、鏡をアートのように設える、洗面台を白のカウンタータイプにして軽やかに見せるなど、さまざまな工夫を施しています」。

敷地に合う間取りで、長く快適に暮らせる家を

Tさんが勤務している三井ホームの家には、オリジナルの健康空調システムを導入するケースがとても多いです。しかしTさんは、「子どもたちに『夏は暑く冬は寒い』という日本の四季を、暮らしの中で体感させたい」と考え、導入しませんでした。

「一年中快適な室内環境をつくる健康空調システムは魅力的です。でも、この家は断熱・気密性能が十分に高いので冷暖房の効きが良く、シーリングファン(天井扇)を回せば熱がこもることもないので、四季をほどよく享受した暮らしを楽しめています」。

そしてTさんは、敷地を通り抜ける風の流れや、降り注ぐ日差しを正確にとらえ、間取りづくりに活かすことがとても重要とお話しされます。

「間取りを考えるとき、今の家族構成やライフスタイルにとって“ベストな住まい”を目指しがちです。しかし、これらは時を経て変わりますし、少し変わっただけで“ベストな住まい”ではなくなる可能性があります。

その点、風通しや日照など、敷地に対して普遍的な条件を重視した間取りの方が、長く快適に暮らせる住まいになります。

実際、わが家は入居後に家族が一人増えましたが、光と風、緑を楽しめる快適な暮らしは変わりません。もし建て直すとしても、今と同じ間取りにすると思います」。

注文住宅は、間取りを自由に決められるというメリットがあります。そのメリットを活かし、敷地とその周辺環境を考慮した間取りをつくり、長く快適に暮らせる住まいを手に入れてください。


【関連情報】
三井ホーム社員の家
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。