2017年秋、ミュージカル界にはコメディから歴史大作、海外作品からオリジナル作まで、多彩な舞台が続々登場。幅広い選択肢が、芸術の季節を豊かにしてくれそうですよ!開幕後は随時、観劇レポートを追記していきますのでお楽しみに。

【9~10月の注目!ミュージカル】
  • 『ファインディング・ネバーランド』9月8日開幕←観劇レポートUP!(本頁)
  • 『パジャマゲーム』9月25日開幕←栗原英雄さんインタビュー&観劇レポートUP!(本頁)
  • 『52days~愚陀仏庵、二人の文豪~』(新宿公演)9月27日開幕←観劇レポートUP!(2頁
  • 『ソング&ダンス65』10月5日開幕←加藤敬二さんインタビュー&観劇レポートUP!(2頁
  • 『レディ・ベス』10月8日開幕←吉沢梨絵さんインタビュー&観劇レポートUP!(3頁
  • 『ねこはしる』10月14日開幕←笠松はるさん、神田恭兵さんインタビュー&観劇レポートUP!(4頁
  • [NEWS]ミュージカル映画『とってもゴースト』製作クラウドファンディングが進行中(4頁
【All Aboutミュージカルにて特集(予定)のミュージカル】

パジャマゲーム

9月25日~10月15日=日本青年館ホール、10月19~29日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
『パジャマゲーム』

『パジャマゲーム』

【見どころ】

1954年にブロードウェイで初演、ボブ・フォッシー(振付)やハロルド・プリンス(プロデュース)らが名声を確立した伝説のミュージカル『パジャマゲーム』。日本ではあまり上演機会がありませんでしたが、英米では“名もなき労働者たち”の賃上げ闘争と恋を描いた画期的な作品として、広く知られています。

今回は『タイタニック』『グランド・ホテル』で日本でもファンの多いトム・サザーランドが演出を熱望、宝塚歌劇での舞台姿を観て“ヒロインのベイブ役にぴったり”とほれ込んだ北翔海莉さんとの出会いによって、上演が実現しました。

スタイリッシュな“フォッシー・スタイル”のダンス(振付はロンドンで『フォッシー』に出演したニック・ウィンストン)、親しみやすい音楽、巧みに練り上げられた台本と3拍子が揃った作品を、トムの“現代的感性”でさらにスピードアップ。分かりやすく、楽しい中に知性をまぶした舞台に仕上がりそうです。

【ハインズ役・栗原英雄さんインタビュー
フォッシー・ダンスに彩られた知的な舞台で
“飛び道具”役を演じます】

栗原英雄undefined1965年栃木県出身。劇団四季に25年間在籍し、『コーラスライン』リチー等のミュージカルから『ヴェニスの商人』バサーニオ、『エクウス』アラン等のストレートプレイ迄幅広く活躍。退団後は映像、舞台と様々な作品に出演。今後の出演作に『メンフィス』『マタ・ハリ』等。(C)Marino Matsushima

栗原英雄 1965年栃木県出身。劇団四季に25年間在籍し、『コーラスライン』リチー等のミュージカルから『ヴェニスの商人』バサーニオ、『エクウス』アラン等のストレートプレイ迄幅広く活躍。退団後は映像、舞台と様々な作品に出演。今後の出演作に『メンフィス』『マタ・ハリ』等。(C)Marino Matsushima

――栗原さんは冒頭、狂言回し的に登場しますが、本編が始まるとパジャマ工場の中間管理職、ハインズとして活躍します。『エビータ』のチェや、栗原さんの当たり役である『九郎衛門』のひろめ屋のような、完全に客観的なナレーターではないのが面白いですね。

「僕のみならず、他のみんなも最初はいかにも“ショーを楽しんで下さいね”といった雰囲気で踊りながら登場するけれど、工場に入った瞬間に、日々疲れはてて7セント半の賃上げのために頑張っている人間に変わります。演出のトムもよく言っていますが、“人間は多面的だ”ということをユーモラスに描いた作品なのだと思いますね」

――近年は演技や歌がメインだった栗原さんですが、今回はニュアンスたっぷりにフォッシー・ダンスを踊っていらっしゃいますね。

「僕も今回はちょこちょこ踊ります(笑)。(古巣の劇団四季で)踊ってきて良かったと思いますね。今回はバリバリのフォッシー・ダンスですが、それがショーという枠ではなく、ごく普通の町に住んでいる人たちの物語の中で展開するのが面白いですね。
『パジャマゲーム』稽古より。撮影:花井智子

『パジャマゲーム』稽古より。撮影:花井智子

ベイブは一生懸命働くことで穏やかな生活を守ろうとしている女の子で、シドはシカゴで何かしらの事情があったのかシーダーラピッズのこのパジャマ工場で成功したい。僕が演じるハインズも、ナイフ投げの芸人をやってきたけどうまくいかなくて、この工場に来て時間管理責任者として生きている。

社長は会社を発展させたいが社員の給与は上げたくない、労働者たちは、7セント半の賃上げを求めながら必死に働いている。大きな船も沈まないし、生死をさまよう事もないけど。直面している自分たちの状況の中で様々な問題にぶち当たりながらも必死に生きている。人生って捨てたものじゃないね、というミュージカルなのではないでしょうか」

――ハインズは一見、几帳面な中間管理職ですが、実は本作で最も面白いお役かもしれません。
『パジャマゲーム』稽古より。撮影:花井智子

『パジャマゲーム』稽古より。撮影:花井智子

「性格に難がありますよね(笑)。極端なんです。まずはルーティーンが大好きで、毎日同じ時間に起きて同じものを食べて出社するというような日常を送っていて、それが崩れるとどうにもならない。実は僕もルーティーン派で、朝は出かける2時間前に起きて、コーヒーをゆっくり入れて……手早く入れても美味しくないので……という自分のペースで生活しているので、それが崩れるとなんだか気持ち悪いというハインズの感覚には共感できます。

でも、ハインズの“やきもちやき”の一面は、僕には無いなぁ。劇中、ハインズは社長秘書である恋人グラディス(大塚千弘さん)が浮気をしないかとずっとやきもきしていて、彼女にはすっかり呆れられている。恋人を束縛するような台詞をどう言ったらいいんだろう、と迷っています」

――トムさんの演出は『タイタニック』に続いて2度目。今回の彼の演出はいかがですか?

「“破壊と再生”のグレードが上がっています(笑)。彼は古典的なミュージカルが大好きで、伝統を大切にしながらも、今の時代に合うよう、見直すことを恐れません。例えば、台本のト書き(登場人物の行動を指定する文章)に彼はとらわれないんです。ト書きというのは劇場の寸法や小道具、大道具のサイズを考慮して書かれていることが多いので、そういうものはとっぱらって一から作ろう、と言っていますね」

――オープニング・シーンも段取りなど、細かく変更されています。

「そうですね。昔は“ミュージカルは長ければ長いほどいい”という共通認識があったそうなのですが、そうすると(話の)本質になかなか入っていかないんですね。今回は説明的な部分はそぎ落として、例えば僕が(彼は)社長です、労働組合委員長です、と紹介するような部分は、(敢えて言わないことで)お客様に“誰だろう”とわくわくしてもらった方がいい。それよりどんどん物語の求心的なところに入っていったほうが、工場の慌ただしい空気も伝わるし、なぜ彼らが賃上げ闘争に熱を上げるのかも感じていただける、というのがトムの考えです。まだまだ変わっていきそうですが、僕らも先読みしすぎて自分をがんじがらめにするのではなく、作品をより良くするため、皆と討論しながら変えてゆく彼のやり方に柔軟に応じていかなければなりません。

この前、三谷幸喜さんの芝居で、稽古初日に台本が5頁ぐらいしか出来ていないという状態を経験したのですが、次の原稿があがってくるたびにワクワクして、大変だけど楽しかった(笑)。“作っていく”という作業はホント楽しいですよ。突然必要な小道具が増えていったりするから、スタッフの方々は大変だと思うんですけどね(笑)」

――ご自身の中で今回、テーマにされていることは?
『パジャマゲーム』稽古より。撮影:花井智子

『パジャマゲーム』稽古より。撮影:花井智子

「冒頭の台詞で“この芝居はシンボリズムがいっぱいです”と言うこともあり、“シンボリズム”の意味をトムと考えながらやっています。格差であったり、物事の二面性の象徴がこの物語なのかな、と。そしていつも大切にしているのが、芝居を固めないこと。演技というのは自分から発生するものではなく、目の前で起きていることと相手役からの影響によって生まれるもの。

今回のように“飛び道具”的な役であっても典型的に演じてはいけない、おかしさの中に真実がなくちゃいけないと思っています。例えば酔っぱらっているシーンでも、酔った(パターン的な)動きをするのではなく、なぜ酔っているのかを考えて、ふだん時間にうるさくしている反動としての表現にしてゆく。一つ一つ、その芝居をするリアリティを考えますね」

――栗原さんは長く劇団四季で活躍され、このまま劇団の屋台骨となって行かれるものとばかり思っていました。

「25年在団して、最終的には正劇団員幹事会の一人でしたが、ある日突然辞めましたね。理由は一つじゃありませんが、役者としてもう一つ変わりたい、やったことのないものに挑戦したいと思って……。今までの履歴なんて関係なく、それまでの栗原英雄のキャリアはゼロだと考えて、インディーズ映画に挑戦したり自分でプロデュースして芝居作ったり楽しかったですよ。

そんな中でまたミュージカルに出ませんかというお話をいただいて、『タイタニック』ではトムから、クールに構えてて、人生色々あるじゃないかと判っている二等客の役を振られ、それをたまたま三谷幸喜さんが観てくださって、真田信尹というぴったりの役があるといって『真田丸』にキャスティングしてくださり、TVドラマ初出演となりました。

自然に喋りながらも一音たりとも落とさず、明晰に聞こえる、とディレクターに驚かれ、堺(雅人)さんにも“自分も母音で練習してるんですよ。栗原さんはどうやってやるんですか”と聞かれました。劇団四季で学んだ技術なんですよね。『真田丸』での芝居が三谷さんの『不信』という4人芝居にも繋がっていきましたが、自分としてはただ淡々とやってきた結果だと思います。芝居はリアリティ、相手役と交流する、自分を売ろうという芝居はしない、大切なのは目の前にあるものだというのが僕の中に常にありました」

――その姿勢が三谷さんに求められたのですね。

「三谷さんとはほとんど喋ったことがないんですけどね(笑)。新聞のエッセイに僕のことを書いてくださったのも、後で人に言われて知ったくらいです。僕が言うのもおこがましいですが、どこか感性が似ている部分があるらしく、観に行った劇場でたまたま再会しまして、芝居の感想を聞かれて僕はこう思ったと言うと、こちらもそう思ったので嬉しい、とおっしゃってました。嬉しかったです。

40を過ぎたころ、僕は“自分はあと何回舞台に立てるだろう”と思って、時間を大切にしたくなりました。当たり前の事ですが目の前の仕事に全力を尽くす。一個でも手を抜いたら、一瞬にして(信頼が)なくなる中で、つけられた振りや演出を自分の中で理解して肉体化する日々です。

僕らの仕事って華やかに見えるかもしれませんが、本当に地味な仕事だと思うんですよ。コツコツ出来るかできないかによって、生き残れるかが決まる。昔、日下(武史)さんに“いいか栗、役者ってのは職人なんだよ。その時たまたま出来るかどうか、イチかバチかというのじゃいけないんだ”と言われました。そのためにこつこつと努力しますし、考えます。例えば“この芝居はシンボリズムがいっぱいです”という台詞で、ただ“シンボリズム”という言葉をカギカッコして(強調して)言うのではだめなんです。

言葉の音程、硬さ、柔らかさ、大きさ、フィットするところを探して、演出家のトムを納得させなくてはいけません。トムは日本語は分かりませんが、うまくいっていない時は直感的にわかりますから」

――緻密なお仕事ですね。

「人それぞれですが、俳優の商品価値は”見た目と可愛さ”という方もいらっしゃいますが、僕の商品価値は“演じること”なんですよね。年をとれば、さらにクオリティの高さを求められるのは当たり前だ、お前は出来ないのかと自分に問う。“いや出来る”“それならどうする”と自問自答しながら考え、演じる。その果てに、軽妙で知的な日下さんの芝居であったり、先人たちの域に行けたらと思いますね。決して止まらない。まぐろと一緒です(笑)」

【『パジャマゲーム』観劇レポート
“等身大の人生”の歓びが溢れ出す
ポジティブ・ミュージカルの決定版】

『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

開幕前に携帯電話の電源オフなど、マナー喚起の放送を担当するのは、パジャマ工場の組合委員長プレッツこと上口耕平さん。締めくくりの「“パジャマゲーム”、始まるよぉ!」のイントネーションが何とも明るく楽しく、期待を掻き立てると、早速浮き浮きするような序曲がスタート。

続いて登場する男(工場のタイムキーパー、ハインズ=栗原英雄さん)が軽く口上を述べると、「Racing With The Clock」のタイトルにふさわしい小刻みのナンバーに乗って、パジャマ工場の様子が描かれます。
『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

ミシン台の前に座った女性陣に男子社員たちが布地を配り、時間に追われながら仕上がったものを拾いあげてゆく。そんなルーティーンのさなかに現れた新任の工場長シド(新納慎也さん)はベテラン秘書のメイベル(阿知波悟美さん)に迎えられますが、着任早々、やる気のない社員とトラブルが勃発。

しかし、そのおかげで苦情処理委員のベイブ(北翔海莉さん)と出会い、二人は互いに惹かれ合います。組合が7セント半の賃上げを要求中ということもあり、上司と部下という立場の違いが障壁となりかけますが、年に一度の社員ピクニックの日、シドはベイブに大接近。二人のキスをきっかけとして始まるナンバー「Once A Year Day」では、デュエットダンスに野球のバットを綱に見立てた綱引き、ベテラン社員も巻き込んでの大縄跳びと、ニック・ウィンストンによる創意溢れる数々の振りが目まぐるしく展開、男性キャストが胸のすくような跳躍を見せれば、女性陣はカラフルなスカートを、足を上げる度ふわりと魅せます。
『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

息もつかせぬナンバーの最後は、“へとへとだ!”とばかりに全員で寝そべる、お茶目な構図。踊り終わったシドの開口一番、“この一時間で僕はこの町が凄く好きになった”の台詞は、観客の心の高揚をそのまま代弁するかのようです。
『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

この後も、ベイブに愛の言葉をせがまれてシドが歌い始めるカントリー・ウェスタン風の「There Once Was A Man」やタンゴにサルサと、ラテンの色気が充満する「Hernando’s Hidaway」等、舞台には空間とキャストをフルに使った躍動感溢れるナンバーが続出。

体力の限界に挑むかのような振りを溌溂とこなすカンパニー全体が、本作の第一の見どころです。もちろん個々のキャラクターもそれぞれに魅力を放ち、ベイブ役の北翔海莉さんは歌唱、ダンスを含めて誠実さと清潔感に溢れ、いかにも同僚たちに頼られそうな風情ですが、シドとのシーンでは純情さが覗き、恥じらう表情が愛らしい。二幕の「Steam Heat」では冒頭、宝塚トップスターの経歴を生かしたスタイリッシュかつクールな所作で目を奪います。
『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

シド役の新納慎也さんは会見時、しきりと“二枚目に見えるか心配”と冗談交じりに(?!)言っていましたが、颯爽たる長身がぴたりと役にはまるのみならず、これまでの個性的な諸役での経験が、シドという二枚目に人間的な厚みを持たせています。ややスローテンポでなかなかの難曲であろう「A New Town Is A Blue Town」等、伝統的なミュージカル・ナンバーもきれいに、たっぷりと歌い上げ、歌い手としての本領も発揮。
『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

社長秘書グラディス役の大塚千弘さんは大人の女性の色気を嫌味なく見せ、本来は女性にだらしのない役どころであるプレッツ役の上口耕平さんも、彼自身の明るさ、潔さで役を何とも憎めない男に仕上げています。シドとベイブの恋を応援するチャーリー役、広瀬友祐さんは優しいオーラの中にほのかにベイブへの思慕を漂わせ、気になる“いい人”ぶり。

本作唯一の敵役(?!)、雇われ社長のハスラー役、佐山陽規さんは手強い存在感が頼もしく、同じくベテランのハインズ役・栗原英雄さん、メイベル役・阿知波悟美さんも余裕たっぷりの存在感、年輪を重ねるということの素敵さを感じさせます。特に、まるで踊ってなどいないかのように軽々とステップを踏み、ハインズのナンバー終わりで敢えて極めのポーズを短く切り上げ、ひょいと肩の力を抜く栗原さん、会心のパフォーマンスに唸らされずにはいられません。
『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

『パジャマ・ゲーム』(C)Marino Matsushima

いわゆる現代もの(20世紀以降を舞台とした作品)では特に、時代背景や舞台設定とどう向き合うかが大きなポイントとなってくる中、今回の舞台で“50年代のアメリカ”を匂わせるのは衣裳を中心としたビジュアルのみ。社員たちが童心に帰って年に一度のピクニックを楽しむ場面では、もはや“アメリカ”や“50年代”という縛りもなく、等身大の人間たちが集い、歓びを共有する、普遍的な理想世界が目の前に現れます。

一見、たわいないファンタジーのようにも見えますが、そこには演出家トム・サザーランドの、(ささやかな日常の幸福を見ずに“排除”や“不寛容”に血道をあげている)“今”の世相に対する風刺、もしくは願いが込められているのかもしれません。奇跡と言っていいほどの完成度を得て、日本版『パジャマゲーム』は、“ポジティブ・ミュージカルの決定版”と呼ぶにふさわしい舞台となっています。

ファインディング・ネバーランド

9月8~24日=東急シアターオーブ
『ファインディング・ネバーランド』Photo by Jeremy Daniel

『ファインディング・ネバーランド』Photo by Jeremy Daniel

【見どころ】

ジョニー・デップ主演の映画を舞台化し、15年にブロードウェイで初演。ダイアン・パウルス(『ピピン』)の演出と、英国の人気グループ、Take Thatのゲイリー・バーロウによる楽曲が高く評価されたミュージカルが来日。19世紀後半の英国で劇作家バリがある一家と出会い、子供たちに教えた“空想ごっこ”から『ピーターパン』の着想を得てゆく様が描かれます。最新テクノロジーに頼らず、人力を生かして逆に斬新なフライング・シーンなど、創意に満ちた演出で魅せつつ、悲しくも美しいストーリーが観る者の心を浄化。19年には日本人キャスト版が石丸幹二さん主演で予定されているそうですので、その“予習”としても見逃せない舞台です。

【観劇ミニ・レポート】
『ファインディング・ネバーランド』

『ファインディング・ネバーランド』

甘やかな音楽が響き始め、見慣れた緑色の衣裳をまとった少年が光の玉と戯れる。おそらく誰の目にも、それがピーターパンとティンカーベルであることは明らかでしょう。そこに物語の作者であるジェームズ・バリ役の男性が現れ、『ピーターパン』誕生の経緯を語り始めます。ロンドンのケンジントン公園で“ごっこ遊び”に興じるデイビス家と出会ったバリは、父親を亡くしたことで心を閉ざしていたピーターに“想像すること”の楽しさを教えますが……。

一家との出会いがバリの童心を呼び覚まし、『ピーターパン』誕生のきっかけとなってゆく様を、舞台はバーロウのポップなメロディに乗せ、わかりやすく描いてゆきます。中でも上っ面ばかり取り繕う上流社会に閉塞感を抱いていたバリが、海賊(フック)の姿をした“奔放な自我”に心を解き放たれる一幕終わりのナンバー“Stronger”がパワフル。また2幕でバリのために芝居を練習する4兄弟たちの歌唱“We’re All Made Of Stars”の達者な歌唱には唸らされること請け合いです。

後半、大きな悲しみに包まれる舞台ですが、幕切れは爽やか。19年の日本版では、日本人の持ち味がどのように生かされるか、また作品のトーンを大きく左右するだろう少年たちの母親、シルヴィア役やフローマン/奔放な自我役のキャスティングがどうなるか、興味がいや増す今回の来日版です。

*次頁で『52days』『ソング&ダンス65』をご紹介します!


52days~愚陀佛庵、二人の文豪~』(新宿公演)

9月27~28日=新宿文化センター大ホール
『52days』

『52days』

【見どころ】

愛媛県に“坊っちゃん劇場”という、発信型のミュージカル劇場があるのをご存知でしょうか。地域の歴史や文化を取り込んだオリジナル作品を発表し、ミュージカル役者の誕生するまちづくりをめざそうと、ジェームス三木さんを名誉館長として設立。これまで三木さんの『坊っちゃん!』、横内謙介さんの『げんない』、高橋知伽江さんの『鶴姫伝説』など、様々な作品が誕生してきました。

昨年10周年を迎え、今年5月で総来場者数80万人を達成した劇場がこの秋、夏目漱石生誕150年を記念して漱石山房記念館がオープンするのに合わせ、初めて東京で公演。正岡子規と夏目漱石が松山で同居していた52日間の騒動を、宝塚歌劇団の石田昌也さんがコミカルに、ハート・ウォーミングに描きます。子規役・岩渕敏司さん、漱石役・藤原大輔さん(愛媛出身、元・劇団四季)らオーディションで選ばれたキャストの熱演もあわせ、地方発の意欲作の登場に期待が集まります。

【観劇ミニ・レポート】
『52days~愚陀佛庵、二人の文豪~』より。写真提供:坊っちゃん劇場

『52days~愚陀佛庵、二人の文豪~』より。写真提供:坊っちゃん劇場

華やかに装った主人公たちのナンバーで幕をあける舞台は、明治28年、松山で英語教師をしていた夏目金之助(漱石)のもとを学生時代の友人、ノボサン(正岡子規)が訪ね、同居した52日間のドラマを、彼らを話題にする現代のとあるバッティングセンターのオーナーとバイト娘たちの姿を差し挟みつつ展開。松山に金之助を引き留めるべく持ち上がった見合い騒動や、ノボサンを巡る芸者と大家の姪っ子の恋の鞘当て、当時の不治の病・肺結核を患い、“死”を意識せざるをえないノボサンの葛藤等が、テンポよく描かれてゆきます。後に“文豪”と呼ばれるようになった二人の等身大の姿に思いを馳せるなかで、実は病気や介護の仕事の悩みなど、それぞれ事情を抱えていた現代の登場人物たちも、小さな一歩を踏み出そうとする。別々に展開していた二つの世界が、シンガーソングライター、金森幸介さんによる挿入歌「悲しい日々」を全員で歌う瞬間にリンクし、不思議な味わいを醸し出します。

病魔に侵されながらも底抜けに明るいノボサンを時にユーモラスに、時に悲哀を滲ませて演じる岩渕敏司さん、几帳面な金之助を確かな歌唱力で演じる藤原大輔さん(二幕冒頭には劇団時代に演じた『ユタと不思議な仲間たち』を彷彿とさせる切れのあるダンスも披露)、バッティングセンターのオーナーを余裕たっぷりに演じる治田敦さんら、キャストも充実。本作は10月4日から再び本拠地の坊っちゃんで連日上演され、1月下旬には新作『よろこびのうた』(作・羽原大介、演出・錦織一清)にバトンタッチ。四国方面に行く際にはぜひチェックしたい劇場です。

ソング&ダンス65

10月5日~11月26日=自由劇場
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

【見どころ】

劇団のレパートリーを中心に、ミュージカルの名曲・名場面をたっぷりコラージュ、独自の演出で魅せる人気シリーズ『劇団四季ソング&ダンス』。来年の劇団創立65周年を見据え、加藤敬二さんの構成・演出で最新版が登場します。構想段階では“自由”や“祈り”を共通テーマとして、『リトル・マーメイド』『アンデルセン』『ノートルダムの鐘』『ウィキッド』等の名曲が登場する予定。ふつうの“ミュージカル・コンサート”とは全く違う、作り込んだ演出・振り付けとキャストの渾身パフォーマンスが話題の的。シリーズではお馴染みの楽器あしらいでは、今回はマリンバ演奏に挑戦。出演者内でオーディションの上、選ばれたキャストが真剣にチャレンジする様は、通常の演技とはまた一味違った感動を与えてくれそうです。

【構成・演出 加藤敬二さん共同インタビュー
“何が出て来るかわからない”わくわく感を起点に
皆で作りあげた舞台です】

(読みやすいよう、話の順番を少々入れ替え、まとめています)
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

――今回の公演コンセプトをお教えください。

「来年、劇団創立65周年ということで、10年前の55周年の時には宝箱を開けていろいろな宝石が零れ落ちるようなものをイメージして作りましたが、今回は65年間の足跡、これまでの道と65年からの道をコンセプトに掲げました。

一番意識したのは、なるべくこれまでの『ソング&ダンス』と同じ曲を使わないということ。僕の中で(この曲は使いにくいと考え)“逃げた”ものがあるんですね。それも含めて、クリエイターも増えていることですし、いろんなアイディアを出し合おう、“開けてみなきゃわからない”という姿勢で取り掛かり始めました。

僕もわくわくしてましたし、皆もそうだったと思います。僕が一人でやっているときは、いろんなアイディアは出るとはいえやはり一人で考えることが多いのですが、今回は各スタッフが若い人たちに教えながら、彼らも含めて一緒に同じところを向いて作っていく、それがとても良かったと思います。

(中でも面白かったのが)装置デザインの日下部(豊)君が映像関係もやっていたのですが、一つの振付と演出、照明があるとして、そこに映像が加わるとまた全然違うものが生まれるんです。ただ、映像は使いすぎると映像と生の人間のバランスがとれない。使い方だと思うんですが、このショーを作るうえで映像について彼がいろいろなアイディアを持ってきたのが面白かったですね」

――今回新たに、劇団の3人の俳優さんが振付で参加されていますが、その意図と経緯は?

「これまでずっと(私が)一人で振り付けてきましたが、もっとクリエイターを育てなければいけないと思ったのです。(思い返せば)自分自身、初めて振付をさせてもらったのが『ユタと不思議な仲間たち』で27、28歳の頃。現役でバリバリ踊っている人がどんどんやらないといけないと身をもって実感しておりますので、今回新しい企画で挑戦しようと。(結果的に)思ったよりも個性的で面白いものが出てきて、今後の劇団の財産になっていくと思っています。
『ソング&ダンス 65』より「彼はお前の中に生きている(『ライオンキング』)」(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』より「彼はお前の中に生きている(『ライオンキング』)」(C)Marino Matsushima

選抜の経緯としては、以前、劇団内で“今後振付をやってみたい人”というくくりでコンペをやったところ、10人くらい集まりました。それをふまえて今回、この作品のために『ライオンキング』の「彼はお前の中に生きている」を、こういうコンセプト、衣裳、流れで振りつけてみてと6人の方にお願いして、その中から3人を選ばせてもらいました。それは「彼はお前の~」のためにというより、どういう振付をするのか、ドラマ性を持っている人、ショーに合っている人、他の個性がある人、それを見極めようという意図で、それを見たうえで3人にシーンを振り分けてお願いしていったわけです。

例えば、松島勇気君は以前、(2000年、『ソング&ダンス』第二弾の)「オーヴァー・ザ・センチュリー」で「パリのアメリカ人」をお願いしたことがあるのですが、前のナンバーの「アメリカ」(『ウェストサイド物語』)からパリに移ると説明した時に、僕は(アメリカの)ストリート・ダンスからダンスが変わってゆくというつもりでコンセプトを渡したのですが、松島君はそれを全部マイムにしてきたんです。で、それを(次のナンバーである)『壁抜け男』に繋げていった。

それと以前、横浜で『キャッツ』をやったときにも、クリスマスイベントでダンスキャプテンだった彼にカーテンコールをお願いしたことがあるのですが、その時のステージングがとてもドラマチックだったので、彼には今回、ドラマ性のあるナンバーをお願いしました。
『ソング&ダンス 65』より、フラメンコ(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』より、フラメンコ(C)Marino Matsushima

また今回はもう一人、多田毬奈というスペインにフラメンコ留学経験のあるメンバーにもフラメンコのシーンをやってもらっているので、実質的には4人に(振付を)お願いしています。(こうした試みは)今後いろいろな作品を、オリジナルミュージカルを含めて作っていくうえで、この人にこういうものをお願いしようというものがはっきり見えてくるんじゃないかと思っていますし、若い人が(各振付家の)スタイルを学ぶいい機会になっていくと思います」

――これまでとは異なる作り方をするうえで、苦労した部分は?

「正直に言うとですね、僕はこう思うのに、違う方向に行ってしまったということがあって、明らかにこちらのほうがいいと思っても、そこでダメとは言えない。それでどんどん彼らがぬかるみにはまっていくのを見ていて“いつ言おうかなぁ”と一か月半前からずっと思ってて、もう限界かなと思って一昨日変えました(笑)。そういう戦いもありつつ、若い人に冒険もしてもらい、いろんなことがありましたね。そういう意味での作り方の違いはありましたし、時間との勝負もありました。

そういえば今回はいつもの倍の8週間をかけていましたが、(それは決して長くはなく)本作にはそれぐらい必要だったと思います。とても念入りに、5回同じ箇所を直したこともありました。こちらからの提案もあったり、スタッフからの提案もあったり、ああしようこうしようといろんなアイディアがごちゃまぜになって現在に至る。そうしたプロセスは大事なことだと思います」

――劇団四季だから出来るんだぞと思える部分は?
『ソング&ダンス 65』より、『アンデルセン』オーヴァーチュア。壮絶なエピソードとは裏腹に(?!)皆さん実に楽しそう。(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』より、『アンデルセン』オーヴァーチュア。壮絶なエピソードとは裏腹に(?!)皆さん実に楽しそう。(C)Marino Matsushima

「このシリーズでは野球やサッカーといったスポーツや、ガムランなど楽器演奏を必ず入れていますが、今回はマリンバ演奏を入れています。キャストが練習をしたのは2か月半で、教えてくださっている平松浩一郎さんはTV番組などでも指導をされている先生なのですが、プロでもこのテンポは嫌がる、無理ですとおっしゃったけど、『ソング&ダンス』に集まるキャストは、どうしてもやり遂げるという精神をもっていて、そのマンパワーがこの作品を支えているので、失敗覚悟でやらせてくださいとお願いしたんです。そうしたところ、彼らは全くの初心者でしたが、不可能を見事に可能にしてくれました。それが劇団四季のマンパワーだと(思います)。

常識的に考えて無理というものを乗り越える。僕ら、いつも海外作品をやっていると、現地スタッフから必ず驚かれるんですよ。“こういうものが必要だ”となると、翌日必ず用意されている。それはありえない、と。例えば『アラジン』の早替えのシーンはブロードウェイでもすったもんだの大騒ぎでぎりぎりまでやっているそうなんですが、僕らは難なくこなしている。向こうのスタッフはその様子をビデオに撮って、向こうに持って帰って見せるんだと言っていましたね(笑)。開幕に向けて、お客様にいいモノをお見せするということを先輩からずっと叩き込まれてきているので、厳しさと、でもそれが俳優たちの歓びでもあるんです。だからどの作品でもまとまっていくんですね」

――若い俳優さんに言っていることは?

「よく言うのが、背もたれから背中を離して観ている人がいたら、それはその作品が面白いということ。もたれかかっていたら終わりだ、その距離を俳優たちにわかってほしいなと思っています。お客様が時間を気にされるような舞台にはしたくないですから。お客様の様子は、客席が真っ暗でも空気ではっきりわかりますね。少しでも明かりがあれば表情でも伝わりますし。今作はお客様との交流がダイレクトなので、(俳優たちにとっても)学ぶいいチャンスなのではないかと思います」

――キャスティングのポイントは?

「これまでは比較的固定されていたので、今回は若い人を含め、初めての人も、ということを意識しました。例えばフラメンコを踊る多田は『アラジン』の稽古でよく見ていて、彼女だったら面白い表現ができるんじゃないかと思ったんです。「みにくいアヒルの子」を演じている宮澤聖礼(せいら)は『ウェストサイド物語』で全国をまわっている時、ものすごくいいものを持っている、磨けば光ると思ってあえてここに抜擢しました。
『ソング&ダンス』より「リフレクション(『ムーラン』)」久保佳那子(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス』より「リフレクション(『ムーラン』)」久保佳那子(C)Marino Matsushima

シンガーですと、久保佳那子はこれまで劇団のいろいろなオーディションに参加していて、これまではなかなかぱつっとはまるものがなかったのですが、今回こういう曲があるというところでオーディションをしたところ、はまったんです。彼女はとても魅力的な俳優なので、今後のためにもぜひということで入ってもらいました」

(これ以降は筆者・松島が質問)
――今回、新機軸として映像を多用されていますが、ほとんどは抽象的な映像です。その意図は?
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

「一つ難しい問題がありましてね、権利関係というものが(笑)。それをすり抜けすり抜けということがありました。それが一つと、僕は舞台化をするうえで、その方の人生観で、例えば同じ歌詞でも受け取り方が違う、その幅、スペースを出したかった。具体化してしまうと“これだ”という提示になってしまうので、一つの見方しかできない。お客様が勝手に想像するスペースが無くなる。具体化しないといけないところもありつつ、僕はなるべく想像してもらう隙間を入れようと、わざと抽象的な映像にしています。

本当は映像を使えば俳優とのコラボなど、もっともっと面白い演出が可能で、世界中でもそういうものがいっぱい出てきていますが、僕らは映像を(第一に)見せているわけじゃない。ミュージカルから抜粋した曲と、劇団四季ならではのアレンジが消えない程度に使いたい。やっぱりどんなきれいな照明を当てても、生のダンサーに勝つものはないと思うんです。筋肉の筋が見えたほうがよっぽどきれいだと僕は思う。だからなるべく想像が広がる抽象的な映像にしています」

――(ネタバレ要素がありますので、未見の方はご注意ください)具体的な演出についてうかがいますが、『アラジン』「フレンド・ライク・ミー」の最後の演出は、某ランドのエレクトリカル・パレードがヒントになっていたりしますでしょうか?
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima「フレンド~」の該当シーン写真は後日、観劇レポートと共に掲載。かわりにご紹介するこちらの方々、何のお役か当ててみてください。ちなみにジェット団ではありません。

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima「フレンド~」の該当シーン写真は後日、観劇レポートと共に掲載。かわりにご紹介するこちらの方々、何のお役か当ててみてください。ちなみにジェット団ではありません。答えはこのページ最後で。

「あれは若い衣裳スタッフに、いろんな発想をしてみてほしいと投げかけたら、こういうアイディアを持ってきたんですね。その時は装置も含め舞台全体をというアイディアで、技術的にはキラキラとエレクトリカル・パレードみたいなことは簡単にできますが、(僕としては)俳優と曲がメインということで、次の時代に繋げる試みとしてああいう形で取り入れてみました」

――もう一つ、『オペラ座の怪人』の趣向も面白いですね。

「いつもは怪人とクリスティーヌが一対一で歌っていますが、今回は彼女が怪人に包まれているということをいろんなところから声が聞こえることで表現したいと思いました。はじめは“分身の術”みたいに、大勢の怪人が……ということを考えていて、20分くらいのナンバーであればそれも出来たと思うのですが、4分しかないので、ああいう形でやってみました」

【観劇レポート】
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

(注・文中のキャストは筆者が観た日のものです)

シンプルな舞台上で女性シンガー(久保佳那子さん)が、「Somewhere」(『ウェストサイド物語』)を美しくも力強く歌う。歌唱が終わると白い敷物とカーテンがさっと捌け、劇団のレパートリーの宣伝ビジュアルが映し出され、「ヴァリエーション23」(『ソング&ダンス』)が流れる中でダンサーが抽象的な映像とともに躍動します。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

これまでになくスタイリッシュな幕開けの後、ボーカリスト5名が登場。飯田洋輔さんを筆頭に、渡り台詞で挨拶を述べた後、まず登場するのが『ライオンキング』の「彼はお前の中に生きている」です。本編では自らのアイデンティティを見失っていたシンバが父の面影に出会う重要なナンバーですが、ここでは一人の青年(笠松哲朗さん)が迷いから醒めるまでを表現。

劇団きってのダンサー、松島勇気さんによる振付はコンテンポラリー・ダンス色が強く、加藤敬二さんが演出・振り付けを担当していた従来の『ソング&ダンス』シリーズとは一味異なる作品であることが印象付けられます。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

この後も劇団のトップダンサーたち(松島さん、脇坂真人さん、永野亮比己さん)が振り付けたナンバーが続き、多田毬奈さん振付のフラメンコ・シーン含め、滑らかな流れの中にも各ナンバーがカラフルに個性を競う様が新鮮ですが、全体の構成と曲ごとのコンセプトは、加藤さんによるもの。

全編を通して今回、顕著だったのが、加藤さんがインタビューで“分身の術”と呼んでいたところの、“複数人一役”による“人間の多面性の表現”です。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

例えば「Love Changes Everything」(『アスペクツ・オブ・ラブ』)では瀧山久志さんを筆頭に、作品の主人公さながらの扮装の男性キャストが順にメロディを歌い、『壁抜け男』のナンバーではイザベル(久保佳那子さん)が歌う際には男性ダンサー演じるデュティユルが、デュティユル(飯田洋輔さん)が歌う際にはやはり女性ダンサー演じるイザベルがそれぞれ側に寄り添い、曲終わりでは4人が中央で美しいシンメトリーの形を見せます。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

そして『オペラ座の怪人』ではマジックミラーを用い、途中で交替するシンガーを含め、複数の怪人が登場。根っからのエンターテイナーである加藤さんらしいヴィジュアル的な面白さの追求であると同時に、一人の人物の内なる多面性や、これまでそれらの役を演じて来た人々へのオマージュが感じられる趣向となっています。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

インタビューでも話題にした「フレンド・ライク・ミー」、劇団のレパートリー外ながら“不揃いの面々”ぶりをユーモラスに強調し、曲のエッセンスが見事に描かれる「誰にでも夢がある」(『塔の上のラプンツェル』)、マジック部分は飛ばして純粋にミストフェリーズ役(永野亮比己さん)のダンステクニックに見惚れさせる「ミストフェリーズ~マジック猫」(『キャッツ』)等、目を奪うようなシーンが続々と登場します。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

一方では、江畑晶慧さんの「自由を求めて」(『ウィキッド』)、久保佳那子さんの「リフレクション」(『ムーラン』)で人間の声の力に改めて圧倒され、島村幸大さんの「Something’s Coming」(『ウェストサイド物語』)や斎藤洋一郎さんの「みにくいアヒルの子」(『アンデルセン』)、三平果歩さんの「パート・オブ・ユア・ワールド」(『リトル・マーメイド』)では若く溌溂とした歌声に高揚、華麗な演出と出演者の表現力が見事なバランスを見せています。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

全編見どころ、聞きどころと言ってもいいステージですが、特に強い印象を残したのが、前述した「彼はお前の中に生きている」の中で、下を向く青年の周りに一人また一人とダンサーたちが集まり、彼の体に腕を差し伸べるくだり。仲間、あるいは先輩たちからエネルギーを得て、彼が奮起し、やがて鋭い群舞に加わっていく様は、そのまま厳しくもあたたかい、劇団の人材育成を描いているかのよう。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima

またカーテンコールで飯田洋輔さんが、その日の出演者の名を一人一人、観客がインプットできるようゆっくりと読み上げてゆくくだりも、加藤さん、ひいては劇団の、メンバー一人一人を大切にする姿勢がうかがえます。楽しいだけで終わらない、何ともあたたかな心持で劇場を後にすることの出来るショーだと言えるでしょう。

*インタビュー最後に掲載した写真は『リトルマーメイド』より。西尾健治さんたちは(ジェット団ならぬ)船乗りですね。(簡単すぎたでしょうか?!)

*次頁で『レディ・ベス』をご紹介します!


レディ・べス

10月8日~11月18日=帝国劇場
『レディ・べス』Photo by Leslie Kee

『レディ・べス』Photo by Leslie Kee

【見どころ】

大英帝国の礎を築いたエリザベス1世の波乱の青春を描いて14年に初演、センセーションを巻き起こした歴史大作。待望の再演に、花總まりさん・平野綾さんら強力キャストが再び集結します。(前回公演時の花總まりさんへのインタビュー、観劇レポートはこちら。)激しい権力争いの中で命を脅かされながら育ってきた王女が、恋と運命の間で揺れ動きながら自分の生き方を見つけてゆく物語が、『エリザベート』のシルヴェスター・リーヴァイによる中世音楽風~ロック調まで多彩な音楽、演者の魅力を引き出す小池修一郎さんの演出、重厚感の中に現代の感性が光る二村周作さんの美術、生澤美子さんの衣裳に彩られながら展開。ヒロインが恋する吟遊詩人の醸し出す情感に、後見役の懐の深さ、べスを窮地に陥れる“悪役”たちの憎々しさと、カラフルなキャラクターたちもそれぞれに魅力的。豪華キャストが生き生きと演じてくれそうです。

【メアリー・チューダー(ベスの腹違いの姉)役
吉沢梨絵さんインタビュー
“新しい『レディ・べス』の創作に
加われた気がします”】

吉沢梨絵undefined東京都出身。歌手デビュー後、02年に劇団四季に入団、『夢から醒めた夢』『ふたりのロッテ』『赤毛のアン』等に主演。09年に退団後ロンドンに留学、帰国後、舞台やTVドラマで活躍を続ける。主な舞台に『マンザナ、わが町』『I LOVE A PIANO』など。(C)Marino Matsushima

吉沢梨絵 東京都出身。歌手デビュー後、02年に劇団四季に入団、『夢から醒めた夢』『ふたりのロッテ』『赤毛のアン』等に主演。09年に退団後ロンドンに留学、帰国後、舞台やTVドラマで活躍を続ける。主な舞台に『マンザナ、わが町』『I LOVE A PIANO』など。(C)Marino Matsushima

――吉沢さんは劇団四季時代、“陽”のヒロインを次々と演じて来られたので、『ルドルフ ザ・ラスト・キス』といい本作といい、退団後のダークなお役へのキャスティングは意外でした。

「どちらの作品も、私の歌声が決め手だったようです。特に本作はゴスペル調であったりハードロック調であったり、地声でバーッと歌う曲が多くて、そこに私の声がドンピシャだったのかな。実際に演じてみると、出ずっぱりではないのにも関わらず消耗が激しくて、特に最後のベスとメアリーが和解する曲は、力強さと同時に繊細さが必要。一筋縄ではいかない役です(笑)」

――初演から3年、待望の再演ですが、開幕を数日後に控えた今(取材時)の手ごたえはいかがでしょうか?
『レディ・ベス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部

「再演ということで楽なのかな、と思っていたら、とんでもなかったです(笑)。小池(修一郎)先生はまるで新作のように、24時間営業?!というほどずっと頭をひねらせていたし、私も(未来優希さんと)ダブルキャストということで自分の役の稽古を(客観的に)観ながら、率直な感想をお話してそれが演出に反映されたりもして、新しい『レディ・べス』の創作に加われた気がしました。初演を御覧になった方も“おおー”となるところがあると思いますので、皆さんのリアクションが楽しみですね」

より濃縮され、分かりやすくなったベスと彼女を巡る人々の物語
――今回、最も変わった部分は?
『レディ・ベス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部

「上演時間が短くなりました。でも“省略”ではなく“濃縮”にしようということで、より(物語を)分かりやすくするための話し合いをたくさんしました。私の部分で言えば歌だった部分が台詞に替わって、時間は短縮はされたけどその分、ガーディナーやルナールに翻弄されている様子がより伝わりやすくなった気がしますね。あと今回、プロローグで(ベスの師であり、物語の水先案内役でもある)アスカムが物語の背景を歌う中で、言及される人たちが(寸劇風に)舞台に現れるのですが、そこには私も登場します」

――ヘンリー八世が妻のキャサリンと娘のメアリーを捨て、アン・ブーリンに走ってベスという娘をもうけるが……というあらましですね。

「現れるのはちょっとの間ですが、それによって私も自分の芯が繋がったというか、メアリーとして(舞台に)居やすくなりました。それと、クライマックスではベスのナンバーが増えています。彼女が運命に導かれるだけでなく自覚を持って女王になってゆくということが、すごく伝わるのではないでしょうか」

――メアリーのキャラクターに変化はありますか?
『レディ・ベス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部

「以前は、真面目さゆえにお客様からは滑稽に見えてしまうところがあったと思いますが、今回はそういうところが少しそぎ落とされて、位の高い人たちの間では一方が生きればあちらは殺されてという一瞬先も見えない状況のなかで、(命への執着が)燃え滾る。そんな中でメアリーも致し方なく、べスを憎む運命になってしまった。

けれども終盤、振りかえってみればべスもある種鏡のように自分と同じような経験をしていることに気づき、彼女に自分の地位を渡してゆく。べスが光ならメアリーは影というわけで、どちらにも感情移入できる部分が増えた気がします。

初演の時から、(単純な)悪い人として演じるのはやめようと思っていましたが、今回はさらに“人間は多面的なものだ”ということを大事に、厳かに(カトリックを)信仰する心があったり、政治に苦手意識があったり、若くてイケてる男の子の前では弱くなってしまったり(笑)しながら、生き生きと演じ抜き、お客様に何かを残せたらと思っています。
『レディ・ベス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・ベス』2017年 写真提供:東宝演劇部

『エリザベート』を観ていた時にも感じたのですが、(作者の)クンツェさんの作品には言葉にはしつくせない、なるほどなという発見がいっぱいあるんですよね。お客様の前で演じることで感触がつかめて来る部分もあると思うので、今は開幕がとても楽しみです」

自分の常識をいい意味で壊してくれた、あの作品での“無茶ぶり”
――吉沢さんの“これまで”についても少しうかがいたいのですが、劇団四季時代の思い出の演目を一つ挙げるとしたら?

「私のことをミュージカルの世界で知っていただけるきっかけになったのは『マンマ・ミーア!』(ソフィ役)ですが、自分の中で人生を変えてくれたのは『コーラスライン』だと思っています。

(ミュージカルのアンサンブルを選ぶオーディションという設定の作品で)オーディションに残る役(ディアナ)を振られたのですが、私、それまでダンスなんてやったことなかったんですよ(笑)。こんな下手な人間が出られるわけないと思ったけど稽古キャストに入れられるとやらざるをえなくて、ダンスも特訓コースに入れていただきました。

劇団四季は出来なければ(役を)降ろされるシステムなので、とりあえず出来る限りやってみようと思ってやっていたら、踊りの技術は本当に未熟だったと思いますが、ドラマを運ぶ部分で面白いと思っていただけたのか、出られることになったんですね。自分の常識がいい意味で壊れた瞬間でした。最終的に『赤毛のアン』ではダブルピルエットを廻ってファンキックなんていうことも出来るようになって、今できないこと、無理と思っていることもやればできるかもしれない、と思えるようになったんです。

その後、(地声でなく)頭声で歌う役もやってみようと前向きになったし、四季でのダンス経験があるから、今回も(高貴な役で)お辞儀をするコツがわかります。そういう意味で、可能性をバーンと広げてくれた劇団四季さんにはものすごく感謝しているんです」

“覚悟を決めた”出産を経て今、目指すもの
――昨年、出産を経験されましたが、ミュージカル界でも育児とお仕事を両立される女性が増えて来られました。女性読者の中には、真面目であればあるほど、「仕事と育児は両立できないのなら、一択しかできないのでは?」と迷われている方もいらっしゃるかと思います。

「こればかりは人それぞれですよね。私の場合は覚悟を決めて出産しました。実際“ああ、やりたかった”という仕事が二、三度、目の前を通り過ぎていきましたが、それでも結果的に妊娠、出産でき、子供も元気で過ごせていて良かったと感じますし、毎日が大変だけど、育児と仕事という2チャンネルが自分の中では楽しめています。多くの女性が40歳の頃に悩むことだと思いますが、両立もあり得るんだと、皆さんにとって選択肢が増えるような存在になれたらと思っています」

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「私は“ひょうきんさ”を大切にしていて、悲劇でも喜劇でも、ユーモア・センスを持ち続けたいと思っています。あとは可愛げのある役者でいたい。これからは自分より若い演出家とのお仕事の機会も出て来ると思うので、声をかけやすい存在でありたいですね。

先日、村井國夫さんが、彼ほどのベテランになられると気軽には声をかけてくれないから、いい演出家だと思ったら自分から声をかけに行くんだよとうかがって、素敵だなぁと感動しました。一緒に作品を作りたいと思っていただけるよう、可愛げをもって生きていきたいですね」

【観劇レポート
無数の人々の“生”を乗り越え、
ひとりの王女が暗黒から
眩さへと歩み出しゆく絢爛絵巻】

『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

世界に英国の名を轟かせ、栄光の時代をもたらした女王、エリザベス一世。彼女が一生夫を持たず、その身を国に捧げた背景には何があったのか。史上最も有名な女王をモチーフとした本作は、腹違いの姉、メアリー・チューダーとの対立という史実と、名もなき吟遊詩人との恋というフィクションを織り交ぜ、王女べスの生き方を決定づけた青春の日々を、重厚かつ絢爛たるビジュアル、音楽とともに描いています。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

世界初演から3年、今回の舞台ではディテールのあちこちをカット、上演時間を3時間に短縮しつつも、冒頭のアスカムのナンバーで言及される人物たちが舞台上に登場、これまでのあらましを明示したり、終盤にべスの決意のナンバーを新たに加えることで、彼女の置かれた劇的状況と変化をよりわかりやすく表現(演出・小池修一郎さん)。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

いっぽう、前回はいかにもヒール(敵役)然とした押し出しだったメアリー・チューダーやガーディナー司教、スペイン宰相ルナールがぐっとシリアス味を増し、彼らなりの正義、必死の“生”への執着が浮き彫りとなっています。彼らに加え、死してなおこの世に彷徨うアン・ブーリン、よりよき世の象徴としてべスの即位を待望したことで処刑されてゆく民衆ら、多くの人々の屍を乗り越えて生き延びてゆく中で、べスは否応なしに彼らの凄まじい情念に影響を受け、それが後の、自分自身を厳しく律する生き方へと繋がってゆく。一人の人間の“生”が形作られてゆくまでには、無数の人々の“生”が関わっていることを痛感させる舞台となっています。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

初演からほぼ続投のメインキャストはそれぞれに表現を深め、べス役(wキャスト)の花總まりさんは台詞から佇まいに至るまで、驚異的なフィット感で高貴なヒロインを体現。日陰の身で育ちつつも滲み出る“特別な存在感”をもって自然に観る者の心を寄り添わせます。もう一人のべス役、平野綾さんは“体当たり”のフレッシュさに満ちていた前回よりも風格を増し、逆境の中で育まれた強い信念をうかがわせるヒロイン像。その様を見守り、時に“行くべき道”を進言するアスカム役・山口祐一郎さんは風格に加えて飄々たる学者の空気も漂わせ、場面に柔軟さを加味しています。同じく彼女を見守る教育係のキャット役・涼風真世さんも品格に溢れ、場面をきゅっと引き締める歌唱が流石。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

ひょんなことからべスと出会い、彼女に心惹かれてゆく吟遊詩人ロビン役(wキャスト)では、山崎育三郎さんが軽やかな身のこなしとのびやかな歌声で自由な生き方を体現、あまりにも境遇の異なるべスとの恋の行く末を予感させるのに対して、加藤和樹さんのロビンは野性味を帯び、思うがままにならない運命へのもどかしさを印象付けます。同じ父を持ちながらも“政敵”として対立せざるをえなかったメアリー・チューダー役(wキャスト)の未来優希さんは、堂々たる存在感の中に弱さや女性的な可愛らしさを覗かせ、吉沢梨絵さんは施政者としての張り詰めた“気”をびんと伸びる高音で表現。お二人とも初演より感情移入しやすいキャラクターとなっています。

また不義の罪を着せられ死刑に処せられたベスの母アン・ブーリン役・和音美桜さんは、“自分が生きた意味”であるからこそベスの側を離れられないという狂おしい愛を情味豊かに歌い、前回より役の輪郭をくっきりとしたものに。再演にあたりあちこちに手が入った中で、1幕終盤、謀反の疑いでベスが囚われたのを受けて歌うアン・ブーリンのナンバーはストーリー上必須には見えませんが、敢えてこれを残している点で、今回のバージョンにおけるアン・ブーリンの重要性がうかがえます。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

メアリーの母キャサリンの出身国で、当時英国と微妙な緊張関係にあったスペインの王子フェリペ役(wキャスト)は、出番は短いながらも周囲を翻弄する“美味しい”役どころですが、平方元基さんはメアリーとの望まぬ結婚式では率直にため息をつき、状況への反感からベスの味方に転じることをうかがわせるまっすぐな青年であるのに対して、古川雄大さんのフェリペは同じ場面で一瞬「やれやれ」という表情を見せつつもポーカーフェイスでメアリーに接しており、一筋縄ではいかない人物像を表現。彼に賢明さと狡猾さが紙一重であることを身をもって教える宰相ルナール役・吉野圭吾さんは端正な身のこなしと歌唱に磨きがかかり、“悪役”の一つの完成型を見せています。ルナールとともにベスを陥れようとするガーディナー司教は“強敵”としての存在感はそのままに、心臓疾患の表現で彼が日常的に抱えるストレスを見せ、前回より哀れさを漂わせるキャラクターとなっています。
『レディ・べス』2017年undefined写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』2017年 写真提供:東宝演劇部

wキャストによってカラーの違いはあれど、激動の日々を経てベスが自分の生き方を定めるラストでは初演時、眩いばかりの装束に身を包んだベスとイモーテルの花を手にしたロビン、彼女を見守るアスカムが舞台に残り、哀切な余韻を残しましたが、今回の余韻はむしろ爽やか。それぞれのキャラクターが存分に生ききり、一人の少女が決意をもって大人の世界へと歩み出すさまが、ポジティブに目に焼き付けられる幕切れです。

*初演時のベス役・花總まりさんへのインタビューはこちら

*次頁で『ねこはしる』をご紹介します!


ねこはしる

10月14~22日=川崎市アートセンター アルテリオ小劇場。*完売につき追加公演決定!*10月15日18時開演。一般発売10月2日9時より。
『ねこはしる』

『ねこはしる』

【見どころ】

落ちこぼれの猫と池の魚が出会い、友情をはぐくむ。しかし他の猫たちが池の魚に気づき、魚とり競争をすると言い出す。どうしたら友達を助けることができるかと悩む猫に、魚は思いがけない言葉をかける……。種を超えた動物たちの友情ドラマを通して、命や自然の摂理について考えさせる工藤直子さんの詩的物語『ねこはしる』。これまでも様々に舞台化されている人気作ですが、今回上演されるのは2003年初演の、ふじたあさやさん脚本によるミュージカル版です。猫役を笠松はるさん、魚役を神田恭兵さんが演じ、ふたりを見守る大自然の生き物たちを他の出演者たちがコロス的に表現。優しく切なく、心がじわりとあたたまる物語世界を、美しいコーラスときめ細やかなステージングで見せてくれることでしょう。

【笠松はるさん、神田恭兵さんインタビュー
深遠なテーマの物語に
想像力と肉体と声を駆使して
挑んでいます】

笠松はる(右)大阪府出身。劇団四季在籍中に『オペラ座の怪人』『ウェストサイド物語』等でヒロインを演じる。14年退団後、『李香蘭』『ボクが死んだ日はハレ』等に出演。神田恭兵(左)神奈川県出身。『ミス・サイゴン』『Beautiful』等で活躍。年末には『屋根の上のヴァイオリン弾き』に出演。ライブ活動も展開している。(C)Marino Matsushima

笠松はる(右)大阪府出身。劇団四季在籍中に『オペラ座の怪人』『ウェストサイド物語』等でヒロインを演じる。14年退団後、『李香蘭』『ボクが死んだ日はハレ』等に出演。神田恭兵(左)神奈川県出身。『ミス・サイゴン』『Beautiful』等で活躍。年末には『屋根の上のヴァイオリン弾き』に出演。ライブ活動も展開している。(C)Marino Matsushima

――原作を最初に読まれた時、どんな印象を持たれましたか?

笠松「童話のつもりで読んでみたら、童話というより“詩”なんですね。言葉からイメージがものすごく湧いて出てくるのですが、私とお客様の間で抱くイメージにずれが生じないか、シンプルな作品だからこそ、そこが難しいんじゃないかなと感じました。ストーリーとしては、じーんと来るお話ですね。結末が明言されていなくて、想像させてくれるところがいいなと思いました」

神田「僕も童話と思って読んだので、テーマが深すぎて驚きました。“魚”役を演じるとわかった上で読んだのですが、(自分が“魚捕り競争”の獲物になる運命であることを知って)友達の猫のランに魚が告げる言葉が、どういう心境で言っているのか(掴み切れず)、今も悩んでいます。でもそれは“いい悩み”だと感じるんですよ。こういう感覚になれる作品ってなかなかありません。おそらく“命を繋ぐ”というようなことだと思うんですが、今の人間社会ではとらえづらいことが、心の奥底にしっかりと残る作品ですよね」

――本作については、タイトルをどう読むか、終盤の行動をそのままタイトル化した“ネコ、ハシル(猫走る)”なのか、それとも主人公がこの世の真理を理解するという“ネコハ、シル(猫は知る)”なのかという論議がありますが、お二人はどう読まれますか?

笠松「私の場合、最初に“『ネコ、ハシル』っていう作品があるんだけど……”と言われたので(笑)、最初から“猫走る”のつもりで読んでしまいました」

神田「カンパニーでもみんなそう呼んでいたからね。でも、そういう論議があると聞いて、確かにそうだよなと思います。工藤さんがダブルミーニングとしてこのタイトルをつけられたのか、逆に知りたいと思いますね」

――従来の公演では、ランと魚はどちらも女性が演じていますが、今回は男女バージョンなのですね。そこにどんな意味があるのでしょう?
『ねこはしる』稽古より。お母さん猫が一生懸命教えても、のろまな子猫のランは宙返りができず、ドッタバッタの日々。(C)Marino Matsushima

『ねこはしる』稽古より。お母さん猫が熱心にコツを教えても、のろまで宙返りがうまくできない子猫のラン。笠松はるさん演じるランが懸命に練習する姿がなんとも愛おしい。(C)Marino Matsushima

笠松
「演出のふじたあさや先生が稽古の最初に、これまで10回以上この作品を演出してきて、今回全く新しいものにしたいとおっしゃったんです。そういったところで、今までとはタイプの違う私たちを入れることで、新しい風を吹き込むという意図だったのかなと思います」

神田「男女ではキーが違うので、楽譜を調整する必要があるのですが、稽古場に作曲家の西村勝行先生が来てその作業をされていると、先生自身が想定していなかった音楽性が見えてくるそうです。そこでまた新たな演出が浮かんだり、作品の新たな切り口が見えてくる、それが新しい風ということなのかな。ただ、男女が演じているからといってカップルに見えないか、というのは気になりますね」

笠松「そうですね。二人が仲良く遊ぶシーンがたくさんあるので、二人が並んでニコニコしてるときにどう見えるか。ランはオス猫だけど、演じる私は女性なので、ランと魚の間にあるものはあくまで“友情”に見えないといけない、と思っています」

――原作と同じく、この作品では動物や植物、大地が二人の様子を物語る部分が多く、コロスの存在がとても重要ですね。

神田「本当にそうですね。今回は素舞台に近いステージになるかと思うので、僕らが魚とランを演じているときも、コロスがどこかで演じている感じがないと、二人だけでは成り立ちません。例えばランと魚が遊ぶ様子を表現するとき、僕自身、猫と魚が遊ぶ姿って正直見たことがないんだけど、お客様にそういうふうに見えるためには、僕ら二人だけでなく、周りのみんなのイマジネーションと視線、そして動きを重ね合わせて初めてそのシーンが成り立ってくるんです。その微妙なバランスを今、みんなで作りあげているところです」

笠松「私たち二人もランと魚ではない瞬間もあるので、むしろ“全員がコロス”であって、その中でランや魚を担当して演じている。“コロスが語る『ねこはしる』というお話”として観ていただくのがいいかもしれません」

神田「今回、観に来た子供たちが、舞台って形にとらわれない、無限の可能性を秘めたものなんだと感じてくれたらいいなと思うんです。例えば目の前で人間が魚のふりをしたら“何それ?”と思うかもしれないけど、舞台でならそれが成り立つ。よくわからないけど面白い、と思ってもらえるものを作りたいよね、とみんなでよく話をしています」

笠松「私自身、子供の頃に舞台が大好きだったので、そういう心境に子供たちを引っ張っていけたらというのが願いですね」

神田「そのためには柔軟な頭脳が必要なんだよね」
『ねこはしる』稽古より。喉が渇いて池に水を飲みに来たランに、一匹の魚が「おまえたちはけしからん」と声をかけるのですが……。(C)Marino Matsushima

『ねこはしる』稽古より。喉が渇いて池に水を飲みに来たランに、一匹の魚(神田恭兵さん)が「おまえたちはけしからん」と声をかけ、ランは思わず謝ってしまう。水藻や水の揺らぎもコロスたちが身体的に表現し、観る者のイマジネーションを刺激。(C)Marino Matsushima

笠松
「カンちゃんはスケジュールの都合でワークショップの最初の1週間に参加できなかったのだけど、合流した初日に、他の皆が本読みなのに立ってお芝居を始めたんですよ。それに乗っかって、カンちゃんも即興で動き始めて。初めての稽古でこんなことが出来るなんて、この人凄い!と思いました」

神田「必死だったから、やるしかなかった(笑)。でも、このカンパニーはいいよね。合流したとき、“みんなはワークショップの間に、モノづくりをするための大切なことを積み重ねてきたんだな”とすごく感じました。(演出の)あさや先生も、みんなが作品を良くしようとして相談を始めると、必ず時間をとって、待ってくださる」

笠松「こんなに任せてもらえる現場ってなかなかないよね。誰が一番キャリアが長くて、誰が短いというのが分からないくらい、なんでも言い合える空気なんです。激しくクリエイティブな稽古場よね(笑)」

神田「小劇場の実験的なストレートプレイをやっているみたいな感覚なんだけど、作品自体は完成されていてるので、実験では終わりに出来ないという緊張感もあります。あさや先生は今回を『ねこはしる』の決定版にしたい、とおっしゃっていたね」

笠松「ハードルの高さにドキドキしますね(笑)」

――さきほど子供の観客の話が出ましたが、私の7歳の子は観劇後、いつも“このお芝居はこういうお話だったね”と自分なりに咀嚼して、確認してきます。でもテーマの深い今回は、そこでどう答えたらいいだろうと迷います。

神田「簡単に一つの答が出せるんだったら、この作品をやる意味はないと思うんですよね。作者の工藤さん自身、そういうことを描きたかったんじゃないかなと思うし、究極的にその問いに人類はまだ答えを出せていない。答えは何万通りもあるだろうから、きっとその時感じたものが正解だと思うし、それまでの生き方や環境によっても、感じることは違うと思います。大人からしてみたら、自分の子供がどう感じるのか、“そういう見方もあったのね”と思う事もあるだろうし、彼らの答えに“外れ”はない。逆に面白い体験になると思いますね」

笠松「何を感じたとしても大正解。“その後”を聞かれても、大人からは“答え”を言う必要はないと思います。“あの後いったいランはどうしたの?”と聞かれたら、“……ね(とニッコリ)”。それでいいんじゃないかな」

――ご自身にとって、本作をどんな作品にしたいと思っていらっしゃいますか?

笠松「私は本作が今年、6本目の舞台で、ずっと数珠繋ぎだったんです。本作に取り掛かる頃には摩耗して何も出て来なくなるかなと思っていたけど、実際に稽古が始まると私、すごく元気なんですよ(笑)。若いメンバーたちの情熱や発想に感動したり、ゲスト出演されている横山由和さんが演出家としてあれだけキャリアがおありなのに、私たちと一緒にワークショップで汗を流したり、いろんなことにトライされている姿を目の当たりにして、自分が舞台にどう関わっていくべきか、もう一回立ち返って考えることができているし、同世代のカンちゃんが相手役としていつでも相談に乗ってくれる。今日はこれをクリアしなくちゃ、明日はこれができてないと、と慌てることなく、今日はどんなものが生まれてどんな気持ちになれるのかな、とわくわくしながら通っています。どんな成果が生まれるか楽しみだし、今回は、私個人としては久々にかなり動く(踊る)作品ですので(笑)、ぜひ皆さんに御覧いただきたいです」

神田「僕はプリンシパルもやればアンサンブルをやることも多いのですが、どちらにしても、この仕事って課題が山積みで、それが一つ終わると、いつも一つパワーアップした気持ちになれるんです。だからこそ、いつもその時できる“ベスト”のものをやりたいと思う。今回も、最新アップデート版の自分をお見せしたいという気持ちで臨んでいます。今回は皆の舞台への向き合い方が見ていてものすごく勉強になるし、絶対負けたくないという気持ちになれる。それを自分にとって全部プラスに変えていきたいですね」

【観劇レポート
“命の摂理”と“究極の愛(友情)”を
優しくも厳しく描く『ねこはしる』】

*やや“ネタバレ”を含みます。未見の方はご注意下さい。
『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

ピアノにヴァイオリン等、5人編成のバンドが音合わせを始めると一人、二人とキャストが登場。発声練習をしたりストレッチをしていた彼らは、和やかな空気の中で“命とは何か”を問いかける「はじまりのうた」を歌い始めます。そして語られる、黒猫ラン(笠松はるさん)の誕生と成長。笠松さんは宙返りがうまくできないランの“落ちこぼれ”ぶりを、絶妙な“不器用感”でフィジカルに演じて見せ、その懸命さをまっすぐに歌いあげます。次々にその様子を“目撃証言”する大地や蝶、野兎たちの歌声もあたたか。

世界の片隅の小さな命と、それをとりまく無数の生き物との“繋がり”を示しながら、舞台はランがふとしたことから池の中の小さな魚(神田恭兵さん)と“ともだち”となり、春・夏・秋にかけてたくさんの幸せな思い出を紡ぐ様を描きます。原作では子猫であるランと魚が“遊んだ”としか記述がない部分を、舞台では側転をしたり、バランスボール使うなどして表現。現実的には想像しにくい“ネコと魚の幸福な日々”を、イマジネーション豊かに描いてゆきます。
『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

しかしある日、ランのきょうだいが池の魚の存在に気づき、猫一家は次の満月の夜に“魚とり競争”をすることになってしまう。おそらく、小さな池の小さな魚は助かるまい。ランは悩む。そして答えが見つからないまま、池のほとりを訪れる。すると魚はランを見つめ、「それでもいいという気がしている」と運命を受け入れ、さらに思いがけない言葉を告げる。「ただね、お願いがある たべられるなら……」。

背後で彼らの会話を聞いていたすすき役のコロスたちが衝撃を受け、ざわざわと揺れるなかで、一点を見つめながらその決意をまっすぐに語る魚。神田さんの無心な歌声に、観る者の胸は締め付けられ、ランならずとも究極の問いにはっとさせられます。そして長い沈黙の後、ランも自分の覚悟を告げ、やがて舞台はクライマックスへ。息詰まるような“魚とり”の場面を、本作はラップとタップダンスを使い、独特の昂揚感の中、描きます。コロスの歌唱とシンクロしてラン=笠松さんが見せる、鬼の形相、そしてそこからの“限りない優しさ”への変化。演者の表現を観客が100パーセントキャッチできる小劇場公演ならではの、圧倒的な瞬間です。
『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

『ねこはしる』写真提供:川崎市アートセンター

結末が詳述されない原作に比べると、行間を読み込み、俳優たちが肉体で表現する舞台版はより輪郭が明確ですが、それでも結びの部分は紗幕の向こうで表現され、観る者の想像力に訴えかけます。“命の摂理”と“究極の愛(友情)”を優しくも厳しく問いかける舞台。劇場のレパートリーとして、毎年上演されてもいいのでは、と思える公演です。


[NEWS]ミュージカル映画『とってもゴースト』製作
クラウドファンディングが進行中

ミュージカル映画『とってもゴースト』

ミュージカル映画『とってもゴースト』

事故で亡くなり、ゴーストとなった美人デザイナーと、デザイナー志望の青年の交流を描いた『とってもゴースト』。音楽座の代表作の一つであるこのミュージカルが、安蘭けいさん(『スカーレット・ピンパーネル』)、古館佑太郎さん(NHK連続テレビ小説『ひよっこ』)、永山たかしさんらの出演で映画化、2018年夏の公開を目指しています。

この企画は『エリザベート』等で俳優として活躍する傍ら、映画監督でもあり、日本のミュージカル振興に尽力している角川裕明さんが「SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ」のサポートを得て、音楽座に本作の映画化を提案して実現。以前から角川さんの熱い思いに共鳴していたという安蘭さんの出演が決定。映画用に脚本を書き直し、この冬の撮影が予定されています。

撮影を前に、現在、製作資金の一部を募るクラウドファンディングが進行中(2017年10月20日まで)。1500円から20万円までの中から選んだ金額を寄付すると、角川監督からの御礼メールから出演者のサイン入りグッズまで、様々なリターン(御礼)が後日届くそうです。

舞台公演ではなかなか無い“製作支援”のチャンス。作品作りに“参加”する気分が味わえる、見逃せない企画です。

*前作『蝶~ラスト・レッスン~』での角川裕明監督、上口耕平さん、染谷洸太さんへのインタビュー記事はこちら






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