「エリートは打たれ弱い」は本当か?

エリートは打たれ弱い?頭の良さとメンタルの関係

エリートは打たれ弱い?頭の良さとメンタルの関係

優秀な頭脳をもって、数々の競争に勝ち抜いてきたエリート。そうしたエリートに期待を寄せる人は多く、経営幹部からは「今年は東大生を10人採用した」「彼はハーバード帰りなのですよ」と期待を滲ませた発言をよく耳にします。

一方で、筆者のもとには「せっかく一流大学の学生を採用したのに、思ったような活躍が見られない。なぜなのか?」「期待していたのにすぐに辞めてしまった。打たれ弱いのか?」という質問もよく寄せられます。

周囲からの期待が大きいと、それだけストレスもかかりますが、そもそも「頭の良さ」と「打たれ強さ」には、関係があるのでしょうか?

Grit(不屈の精神)を測定する8項目:ペンシルベニア大学のホームページで自己診断!

長期目標を達成するための忍耐と情熱を意味する「Grit(グリット:不屈の精神)」研究で一躍有名になったのが、米・ペンシルベニア大学の心理学者であるアンジェラ・リー・ダックワース博士です。

博士らの研究(※1)では「失敗や逆境に関わらず仕事に関心を持ち努力し続け、そうしたプロセスさえも楽しめるGritは、知性とは関係がない」ことが確認されています。

話を進める前に、この「Grit」は、どんな項目で測るのでしょうか?

ダックワース博士の所属先であるペンシルベニア大学のホームページ(※2)で、オンライン調査の一環として、Gritの高さが無料で測定できるようになっています。

下記に出て来る8つの設問を出てくる順番に翻訳しましたので、ぜひ実際に自己診断してみてください。

回答は「とてもよくあてはまる」「大体あてはまる」「ややあてはまる」「あまりあてはまらない」「全くあてはまらない」の5段階です。

1問目:新しい考えやプロジェクトのため、それまでの考え/プロジェクトに関心がなくなることが時々ある
2問目:妨げがあっても、くじけることはない
3問目:短期間、特定の考えやプロジェクトに没頭した後で興味を失うことがある
4問目:私は努力家である
5問目:目標を設定しても、後に、その目標とは異なるものを追うことがよくある
6問目:完了するのに数か月以上かかるプロジェクトに集中し続けることは難しい
7問目:始めたことは、やり遂げる
8問目:私は勤勉である


継続力を予測する要素は、知性ではない

厳しい訓練に耐えられる人の特性とは?

厳しい訓練に耐えられる人の特性は?

ダックワース博士らは、これらの質問から成るアンケート調査(実際には、これらの質問の基となった12項目版)を、ウエストポイント陸軍士官学校の士官候補生1218名に実施しました。

この士官学校に入ることは、アメリカではハーバード大学を含むアイビーリーグに入学するのと同じくらい名誉あることです。しかし、入学後の最初の夏の訓練は「獣兵舎」と揶揄されるほど過酷で、20人に1人が辞めてしまうのだそうです。

さて、そんな過酷な訓練をやり遂げられるのは、どんな資質を持つ候補生なのでしょうか?

それを明らかにするために、ダックワース博士らは、Grit(不屈の精神)の他、高校のランク、入試の成績、リーダーシップ特性得点、身体適性調査を合わせた総合得点等の結果を評価しました。

結果は、Gritが平均より高い候補生は、夏の訓練をやり遂げる可能性が60%以上高かったというものでした。Gritが「過酷な訓練をやり遂げられるか」を予測する最大の要因であることが確認されたのです。

そして、入試の成績(知性)を含む総合得点では「過酷な訓練をやり遂げられるか」を予測できなかったというのです! Gritと総合得点との関連はなく、また高校のランク、入試の成績、リーダーシップ特性得点、身体適性調査結果を個別に見ても、関連性は見られませんでした。

つまり、Gritが「過酷な環境下でもやり遂げられるか」を予測するための最大の要因であることが確認され、かつGritと知性との関係はみられなかったのです。

さらに他の対象で測定しても、Gritと知性との関連は見られませんでした。

「学歴」を褒められ続けると、打たれ弱くなる

ところで、仕事で誰かが成果を上げたときに「さすが、◯大卒は違うな」などと、その人の学歴と絡めて褒める人はいませんか?

実は、こうした褒め方が打たれ弱い人を育ててしまう可能性があることを知っておきましょう。

「頭が良いのだから、成果を上げて当然」といったトーンで褒められ続けていると、「有能であるはずの自分の能力を用いても、逆境を乗り越えられない」という状況に置かれたときに、打ちのめされやすくなるのです(※3)。

たとえば、「自分より学歴の低い同僚に抜かれた」という状況にあった場合、学歴を褒められ続けた人は「情けない。最悪だ!」等と混乱します。同僚に抜かれてしまった自分を「有能ではない」と感じ、そんな自分に、もはや価値を感じることができなくなり、そして努力する気力を失っていきます。

そして、成果を上げようと尽力する代わりに、自分と同じように「学歴は高いのに成果を上げていない人」を探してホッとしたり、さらに悪い場合には、自分を抜いた同僚の足を引っ張ることに力を注いだりするようになってしまうのです。

自信とやる気のある優秀な人材でも、入社後、期待したような活躍が見られないのは、周りが「頭が良いから成果を上げて当然」というような接し方をしたからかもしれません。

「Grit」育成のために「努力し続ける意味」を実感させる

では、相手にどう接したら「Grit」を育成できるのでしょうか? 

ポイントは「こんなにつらいのに、何のために粘り強く努力し続けないといけないのか」、その意味を実感させることです(※4)。

場面別の具体的な方法は、次の3つです。

1)日頃から、努力や工夫、忍耐力等に気づき、認める
2)何かを達成したときには喜びや嬉しさに共感し、日頃の努力や工夫、忍耐力等を改めて振り返り、評価する
3)一定期間努力しても結果が出ない場合は、「まだ達成できていないだけ」という姿勢で接する

日々のコミュニケーションでこうした3点をおさえることで、相手は「自分の存在が認められている」と感じ、「努力や工夫・忍耐は、より良い将来や自分の成長につながる」と粘り強く努力し続けることの意味や重要性を理解できるようになります。

仮に結果が出ていなくても「だからといって、私がダメな人間になるわけではない」と、自分の存在価値と切り離して感じられるようになります。すると、逆境に置かれても、諦めずに乗り越えようと努力し続けることができるのです。

場面別「メンタルの強い部下」を育てる声のかけ方

最後に、場面別にメンタルの強い部下を育てる声のかけ方の具体例をご紹介しましょう。

1)日頃から、努力や工夫、忍耐力等に気づき、認める
「効率化をはかるために、良い工夫をしているね」
「常に目的を意識して、仕事をしているね」

2)何かを達成したときには喜びや嬉しさに共感し、日頃の努力や工夫、忍耐力等を改めて振り返り、評価する
「やったな! やっぱり、あの工夫がよかったね」
「よかったね! あのとき諦めなかったからこそ、この成功があるんだね」

3)一定期間努力しても結果が出ていない場合は、「まだ達成できていないだけ」という姿勢で接する
「今回、成果につながらなかった一番の理由は何だと思いますか?」
「では、次は、その点を改善していきましょう」

職場にこうした言葉をかけ続けてくれる人がいると、「結果が伴う・伴なわないに関わらず、この努力には意味があるんだ」「失敗したからといって、私がダメな人間になるわけではない」「結果と私の存在価値には関係がない」と感じられ、心が折れにくくなるのです。


【引用文献】
※1 Duckworth AL, Peterson C, Matthews MD, Kelly DR. Grit: Perseverance and passion for long-term goals. J Pers Soc Psychol. 2007 Jun; 92(6): 1087-1101.
※2  ペンシルベニア大学のGritのオンライン調査
https://sasupenn.qualtrics.com/jfe/form/SV_06f6QSOS2pZW9qR 
※3 キャロル・ドウェック『必ずできる!未来を信じる脳の力
Ted×Norrkoping. Filmed November 2014.
https://www.ted.com/talks/carol_dweck_the_power_of_believing_that_you_can_improve?language=ja 
※4 蝦名玲子『生き抜く力の育て方:逆境を成長につなげるために』大修館書店, 2016年
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