メンタルヘルス

摂食障害は思春期の病気?中年期に発症するケースも

拒食症や過食症などの摂食障害は、若い女性の病気というイメージが強いかもしれません。摂食障害は確かに10代、20代の女性に多い病気ですが、中年期に発症することもしばしばあり、間違った先入観のために治療の開始が遅れることは少なくありません。中年期に気をつけるべき摂食障害について、詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

拒食症・過食症は中年期に発症することも…中高年と摂食障害

中年女性イメージ

摂食障害は若い女性だけの病気ではありません。中高年で初めて拒食症や過食症を発症するケースはしばしばあります(画像はイメージです)

精神疾患の中には、「こういう人がなりやすい」といった先入観が強い病気もあります。拒食症、過食症などの「摂食障害」もその一つ。摂食障害は、モデル体形に憧れるダイエット願望の強い10代の女性に多い病気だと思っている方も少なくないようです。

これらの先入観があると、自分自身が実際にその病気を発症してしまった場合、病院受診の妨げになる可能性があります。摂食障害は確かに若い女性に多い病気ですが、40代、50代の中年期になって初めて発症することもあるのです。また、女性と比べると相対的に少ないとはいえ、男性も発症する病気ということも知っておくべきでしょう。

今回は中年期に気をつけたい精神疾患の一つとして、摂食障害について詳しく解説します。

摂食障害の初期症状…自覚症状が得にくい場合も

摂食障害には拒食症、過食症などいくつかのタイプがあります。いずれの場合も、始まりは日常のストレスがきっかけになることが多いです。

40代からの中年期には、中年期ならではのストレスが多くあります。家庭生活に問題を抱えている人もいれば、仕事で悩んでいる人も少なくないかもしれません。また、更年期症状が辛い場合もあります。

摂食障害の始まりは、最初のうちは単に「食欲がわかない」といった、食欲不振のようなものだったりもします。しかし、病気とは思わずに食べたくないから食べないという状態を続けるうちに、気が付けば食べ物のことばかりが頭に浮かぶようになったりします。その時点でかなり体重減少していることも少なくありません。

しかし体重減少に拍車をかけるように、ジムなどでのトレーニングをエスカレートさせてしまうこともあります。強いダイエット願望が元々あったわけではないのに、「このトレーニングで○kcal消費できた」といった考えが繰り返し浮かぶようになっていたら、思考内容が強迫観念に近くなっている可能性もあります。

「中年期でも拒食症になる」という理解は早期発見にも重要

何の病気であれ、その症状が現れれば、すぐに病院を受診して、必要な治療を受けることが望ましいです。しかし、わかってはいても、忙しい毎日を送っていると、それが病気の症状だとはっきりするまで、しばらく様子を見てしまう人が多いのではないでしょうか。

特に摂食障害の場合、症状がはっきりと現われていても、自分で病気になっていることをなかなか認めにくい傾向があります。

とりわけ中年期で発症してしまった場合、「摂食障害は若い女性の病気だ」という思い込みが災いすることがあります。10代、20代でない私がいまさら発症するはずがない、あるいは中年期になって発症するのは恥ずかしい…といった気持ちがある場合もあります。実際、摂食障害の方は自分の摂食問題を一緒に暮らす家族にも知られないようにしていることが少なくないのです。

摂食障害に限りませんが、精神疾患から回復していくためには、必要な治療をできるだけ早く始めることが大切です。そして、疾患から良好に回復していくためには、患者さんを支える家族の存在も大変重要なのです。

ご家族の方が患者さんを効果的に支えていくためにも、病気の全容は正しく理解されておく必要があります。自分の症状を周りに隠しておくことは、精神科受診が遅れてしまうだけでなく、自分を支えてくれるはずの家族のサポートも得られないまま、問題が深刻化していく大きな要因になってしまうのです。

中年期の摂食障害の治療法・対処法

拒食症や過食症などの摂食障害に対処する際、もしその摂食障害に関わる問題が原因で、健康上に何か深刻な問題が現われている場合は、まずそれに対処する必要があります。

例えばもし拒食症と診断できるレベルならば、低栄養の状態が長期間続いていた可能性があります。場合によっては命に危険が及ぶほどの栄養失調になっている場合もあります。実際、拒食症になってしまった場合、栄養失調により命を失うこともあることは、この疾患を軽視しないためにも必ず知っておきたいことです。低栄養などの緊急性のより高い問題に対処した後で、精神科的な治療を中心に行うことになります。

拒食あるいは発作的な過食などが起こる背景には、何らかの心理的な問題が関わっているものです。自分に自信がない、何かを律する感覚を必要にしている、あるいは体重や体形などに関する観念が頭から離れない、などが挙げられます。

こうした心理的な問題に対しては、認知行動療法など精神療法での対処が一般的です。また、摂食障害の経過において、摂食の問題以外にも精神科的対処が必要な問題がいくつか現れる可能性もあります。

たとえば、気持ちが落ち込んでいたり、夜、床についてからも30分以上眠れなかったりする場合です。そのような場合は、抗うつ薬や睡眠導入剤などが必要になることもあります。

摂食障害は、誰にも言えず悩んでいる方の多い疾患です。自分の体重や体形にあまり満足していない方は、若い年代だけでなく、中年期の方もそして老年期の方も決して少なくありません。強いダイエット願望などの自覚がなくても、実際に60代、70代の女性の4%が摂食障害と診断できるレベルにあったという調査報告もあります。摂食障害はどの年代にも起きうる疾患だということは、ぜひ知っておいてください。
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