大人も子供も楽しめるブロードウェイ・ミュージカル『アニー』。日本でも1986年の日本初演以来、2000年まで篠崎光正さん演出、2016年まではジョエル・ビショッフさんの演出で上演。2017年には演出に山田和也さんを迎え、リニューアルを果たしました。2018年も藤本隆宏さん、辺見えみりさん、青柳塁斗さんらの出演で上演予定ですが、そもそもどんな作品でしょうか? その魅力を多角的にご紹介します!
『アニー』

『アニー』

*目次*

ミュージカル『アニー』とは?

77年にブロードウェイで開幕、トニー賞作品賞をはじめ7部門を受賞したミュージカル(脚本=トーマス・ミーハン、作曲=チャールズ・ストラウス、作詞=マーティン・チャーニン)。24年から新聞に連載された漫画『小さな孤児アニー』を原作とし、大恐慌直後の33年、孤児アニーが逆境にあっても明るく生き、周囲の大人たちを変えながら幸せを掴んでゆく様が描かれます。

劇中歌の「トゥモロー」が大ヒット、ブロードウェイ公演は83年までの6年間、2377回のロングランを記録。以降も人気は衰えず世界各地で繰り返し上演、来月には英国ロンドンでの再演も開幕します。また82年と2014年には、ハリウッド映画版も製作。14年版では設定を現代に移し、ウォーバックスはスタックスという名の携帯電話会社の社長、ハニガンは元歌手という設定でした。

 

ミュージカル『アニー』あらすじ

世界大恐慌直後の1933年。失業者が溢れ、誰もが希望を失っているニューヨークで、11歳のアニーは両親を探すべく、孤児院を抜け出します。大富豪ウォーバックスの秘書グレースの目に留まり、クリスマス休暇に招かれた彼女は、その無邪気さと前向きな行動で、財は成しても虚しさを覚えていたウォーバックスの心を慰めることに。アニーを養女にと願うウォーバックスですが、彼女の夢が両親との再会であることを知り、手を尽くして捜索を始めます。

彼とホワイトハウスを訪れたアニーは「トゥモロー」を歌い、彼女の楽観主義に触発されたルーズベルト大統領は、ニューディール政策を発案。いっぽう、アニーの両親探しに懸賞金がかけられていることを知った孤児院の院長ハニガンと弟のルースター、恋人のリリーは悪だくみを始め、アニーは証拠の品を持参した謎の夫婦にあわや、引き取られることに……。

キャラクター紹介

『アニー』2018製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『アニー』2018製作発表にて。前列がアニー(新井夢乃さん、宮城弥榮さん)、後列左よりリリー(山本紗也加さん)、グレース(白羽ゆりさん)、ウォーバックス(藤本隆宏さん)、ハニガン(辺見えみりさん)、ルースター(青柳塁斗さん)(C)Marino Matsushima


  • アニー 11歳の孤児。11年前に孤児院の前に置き去りにされ、いつか両親が迎えに来てくれると心待ちにしていたものの、しびれを切らして孤児院を脱出、自ら両親を探しに行く。明るく行動力があり、いつか夢がかなうと信じて疑わない、赤毛の女の子。
  • ウォーバックス 貧しい境遇から身を起こし、億万長者になった実業家。出世を第一に生き、その邪魔になる人々は邪険に扱ってきたと自覚しており、そんな人生の虚しさに最近、気づき始めている。
  • ハニガン 孤児院の院長。仕事では子供に囲まれているが、自分自身は未婚で彼氏もいないことが腹立たしく、つい子供たちに八つ当たりしてしまう。詐欺師の弟に乗せられ、悪事に加担することになる。
  • グレース ウォーバックスの有能な女性秘書で、ひそかにウォーバックスを慕っている。彼の気分転換になればと、孤児院に休暇をともに過ごす子供を探しに行き、アニーに出会う。
  • ルースター ハニガンの弟。人に取り入るのがうまく、様々な詐欺を働いてきた。最近、刑務所を出て小遣いが必要になり、ハニガンのもとを訪ねてくる。
  • リリー ルースターのガールフレンド。儲け話が大好きで、大金の噂を聞いただけではしゃいでしまうが、何を考えているかわからない一面も。
  • ルーズベルト大統領(実在の人物)第32代アメリカ大統領(任期1933~45年)。大規模な公共事業で失業者を救済した「ニューディール政策」等で景気を回復させ、後に第二次世界大戦に参戦。大戦終結前の45年4月に病死した。本作ではアニーに触発され、閣僚とともに「ニューディール政策」を発案するという設定になっている。
  • 孤児院の仲間 モリー(6歳)アニーによくなついている。最年少だがハニガンには一番手強い(?)反逆児。ケイト(7歳)ハニガンの恐ろしさを理解し、無謀な計画を立てるアニーを心配する。テシー(10歳)ちょっと弱虫で「もうやだ」が口癖。ペパー(12歳)威勢がよく、けんかっ早いところがある。ジュライ(13歳)おとなしい性格で、いきり立つペパーをたしなめる。ダフィ(13歳)最年長。アニーの出演したラジオ放送を聴いて、自分も出てみたいと夢想する。

おさえておきたい時代背景“世界大恐慌”とは?

ミュージカル『アニー』を観るにあたって、ぜひおさえておきたいのが、1933年、世界大恐慌直後のニューヨークという時代背景です。1929年10月、自動車会社ゼネラルモーターズの株価をきっかけに市場の株価が暴落、2年後にはヨーロッパの銀行も倒産し、世界は恐慌状態に。第一次世界大戦後のバブル景気が一気に弾けたアメリカでは、失業者が続出。家も失い、各地にバラック小屋を建てて身を寄せ合う有様でした。

その“フーバー・ビル(フーバー村)”は本作にも登場、数年前まで華やかな“狂騒の20年代”を楽しんでいた人々が、“あの時の選挙であなたを選んだ、その代償を今払わなきゃ”と皮肉たっぷりに歌う一幕も。社会は出口の見えない絶望感に包まれ、剛腕実業家のウォーバックス、大統領ルーズベルトさえお手上げ状態。そんな中に彗星のように現れ、明日への希望を歌うアニーは、人々にとって閉塞感の突破を象徴するような、衝撃的な存在だったのです。

ミュージカルガイド・松島が分析、『アニー』が時代を超えて愛される5つの理由

  • 明快でハッピーなストーリー
    主人公が“夢”に向かって突き進み、周囲の人々を変えてゆく主筋に、悪者たちの企みの行方が織り込まれ、ハラハラドキドキのストーリーが分かりやすく展開。幼児から祖父母世代まで、年代を問わず楽しめます。
  • “好きにならずにいられない”主人公のキャラクター設定
    子供らしい快活さ、優しさ、機転、そして何より、何があっても希望を失わない彼女の楽観主義は、大恐慌で疲弊した人々の心を癒やし、大統領にさえ影響を与えます。そんなアニーに、子供の観客は自分を重ね合わせ、大人の観客は“人生で大切な何か”を呼び覚まされることでしょう。
  • “かわいい”だけでない、子役と犬の名演技
    毎年、多数の応募者の中から厳しい審査を経て選ばれるアニー、孤児、ダンスキッズ役の子供たちが、大人顔負けにしっかりとカウントをとり、正確な音程でナンバーを歌い踊る様は驚異的。アニーがNYの街で友達になる犬のサンディも要所要所で活躍し、場を和ませてくれます。
  • 音楽通も唸らせる、“伝統と革新”が同居する音楽
    本作が作曲されたのは、『ジーザス・クライスト=スーパースター』等のロックミュージカルが登場し始めた70年代。基本的には「N.Y.C.」に代表されるように、伝統的なミュージカルの手法にのっとって書かれていますが、そんな中で異彩を放つのが、アニーのテーマ曲とも言えるナンバー「トゥモロー」。R&Bやロックの影響が見て取れるその曲調はそのまま“大人世代に対する、若い世代の提案”となっており、“伝統と革新”が同居する本作の音楽は、長く業界人やミュージカル・ファンを唸らせてきました。
  • わかりやすい物語に隠された、痛烈な社会批判と幸福論
    本作ではアニーの冒険を通して“管理社会である孤児院を脱出したと思ったら、自由なはずの外界も絶望の渦巻く世界だった”“どん底の生活を送る人々の世界から大富豪の世界へ移ると、物質的な豊かさはあっても大富豪の内面は寂しく、空虚だった”と、いくつもの世界を比較しながら人間と社会の在り方をチクリ。子どもの観客が無邪気にアニーの物語を楽しむいっぽうで、大人の観客にとっては考えさせられ、噛み応えのある作品となっています。

全てが新鮮! 新演出版の見どころ

2017年、新たに演出に迎えられた山田和也さんは、国内作品はもちろん、『天使にラブ・ソングを』『貴婦人の訪問』等、多数の海外ミュージカルを手掛けてきた演出家。今回は原典の研究からスタートしようと、まずは平田綾子さんが台本を新たに翻訳、スピード感にこだわった新訳台本が出来上がりました。佐橋俊彦さんによる編曲は原譜の楽器構成を尊重、“ビッグ・バンド・ジャズ”の空気感に満ちた管楽器メインの音色に。アールデコなど時代感を活かした二村周作さんの舞台美術は、開放的な空間に吊りものや可動式のパーツ(ビルのセットなど)を組み合わせる形で、流れるような場面転換を可能としています。

朝月真次郎さんの衣裳は、遠目には一見、リアルに見えますが、よく見るとファッションデザイナーでもある彼が得意とするプリントやフリルがあしらわれ、非常に凝ったデザイン。特にアニーがウォーバックス邸で着る衣裳はどれも、女の子の観客が「私も着たい!」と歓声をあげそうな可愛らしさです。また例年、アニーがウォーバックスとブロードウェイで観るショーの出演者として登場していた“タップキッズ”は今年、“ダンスキッズ”という名称にて、未来を象徴する存在として登場。演劇性の高い振付で知られる広崎うらんさんのもと、「N.Y.C」で“未来のスター”が歌う際、それぞれに異なる振付で舞台を彩ることになりました。

これらの要素を一つに束ね、山田さんはアニーの物語を華やかに、スピーディーに展開させつつ、重要なシーンではたっぷりと間をとり、観る者の心をキャッチ(以下の『観劇レポート』で詳述)。翻訳ミュージカルの達人である山田さんの手腕が冴えわたる舞台に仕上がっています。

*次頁に2018年版ウォーバックス役・藤本隆宏さんインタビュー、3頁目に2017年版稽古場&観劇レポートを掲載しています!


【2018年版ウォーバックス役・藤本隆宏さんインタビュー】

“大人のサウンド”が素敵な作品だけに、
二度目の挑戦では特に歌に磨きをかけていきたいです

藤本隆宏undefined福岡県出身。競泳選手としてソウル、バルセロナオリンピックに出場後、95年に劇団四季研究所に入所、『キャッツ』等に出演。98年に退団。舞台『Into The Woods』『エリザベート』、テレビドラマ『坂の上の雲』『真田丸』、映画、コンサート司会等、幅広く活躍している。(C)Marino Matsushima

藤本隆宏 福岡県出身。競泳選手としてソウル、バルセロナオリンピックに出場後、95年に劇団四季研究所に入所、『キャッツ』等に出演。98年に退団。舞台『Into The Woods』『エリザベート』、テレビドラマ『坂の上の雲』『真田丸』、映画、コンサート司会等、幅広く活躍している。(C)Marino Matsushima

――藤本さんは2017年の新演出版で『アニー』に初出演されましたが、出演の前と後では、作品についてのイメージは変わりましたか?

「変わりましたね。以前は、子供の出ている子供のためのミュージカルかなと思っていたけれど、実際は子供が主役の“大人のミュージカル”なんだな、と。子供だけでなく大人もしっかり楽しめる、本格的なブロードウェイ・ミュージカルだと感じました。本作の楽曲はバラエティに富んでいるし、台詞もとても深いんです」

――前回公演の藤本さん演じるウォーバックスは、日本での上演史上最も若いウォーバックスということもあってか、ブルドーザーのように勢いのある実業家として映りましたが、ご自身の中ではどのような人物像を抱いていらっしゃったでしょうか。

「おっしゃるようにブルドーザーのようにまっすぐで、信念を持つビジネスマンではあるけれど、その方向性がお金の方向に行きすぎていた人物として演じました。現代で言えばドナルド・トランプのような、口角泡を飛ばしながら仕事をしている実業家ですね。自分では思い切りやっているつもりでも、 “ちょっと優しすぎる”というご指摘もあったので、次回は優しさを封印したウォーバックスにしてみたいと思っています。殻を破っていけるような思い切りの良さ、破天荒さをもったウォーバックスを、特に1幕の登場シーンでお見せしたいですね。

そして2幕では、アニーを見守るにあたって、自分の心が動いてもあまりそれを表に出し過ぎない、大人なウォーバックスに出来れば。前回は“Maybe”リプライズの後ですとか、アニーが自分の胸に飛び込んできた時、涙が止まらなくなってしまったことがあって、その気持ちは間違いではないけれど、ぐっと我慢しなければ、と思っています」

――ウォーバックスは、孤児院の子供とクリスマス休暇を一緒に過ごすという慈善活動の一環で、グレースが選んできたアニーを受け入れますが、はじめは無関心だったのが、いつしか彼女を“養子にしたい”と考えるようになります。彼女を孤児という境遇から救うというより、ウォーバックスの側がアニーという存在を必要としたのですね。

「そうですね、生きるのに精一杯の筈なのに飛び切り前向きで、大人に対して“明日のことを考えて行こう”と言ってくれるアニーに接するうち、親子になることで、(彼女を救うというより)自分のほうも生きるエネルギーが欲しい、と願ったのでしょうね。

でもアニーに対して“養子にしたい”というシーンは、なかなか難しいものですね。すんなり言える台詞ではないし、それに対するアニーの返答もそう。公演を重ねるうち、だんだんお互い、時間が伸びていったような気がします(笑)。逆に言えばウォーバックスとアニーの芝居が出来てきたということなのかもしれないけど、あそこの気持ちをうまくコントロールするのも課題かなと思っています。」

――前回公演は、藤本さんにとっては久しぶりのミュージカルだったそうですね。

「はい、まずはどう発声すればいいのかというところから振り返ってやって行きましたが、演出の山田さんからは、心の内面についてのご指摘が多かったです。やっぱり映像も舞台も同じく、相手の台詞を聞いてどう心を動かし、どう応えるかが大切ですが、それを追究するうち千穐楽になたという感覚がありますね」

――ふだん映像で活躍されている方はしばしば、ミュージカルでは台詞から歌への切り替わりが難しいとおっしゃいますが。

「僕の場合、そこでの苦労はそれほど大きくはなかったですね。例えば(ビッグ・ナンバーの)“N.Y.C”にはそれまでの勢いのある芝居のまま行けましたし、“I Don’t Need Anything But You”も、意外と前奏までに心を動かすことが出来たので、スムーズに歌に入っていけたような気がします」

――本作の音楽を、どうとらえていらっしゃいますか?

「一言でいえば、“大人のサウンド”でしょうか。ジャクソン5(60~70年代に絶大な人気を得たグループ。マイケル・ジャクソンがリード・ボーカルを務めた)的な要素もあるのは、70年代に作られたミュージカルだからこそだと思いますし、“Maybe”にしても“Hard Knock Life”、“Tomorrow”、“Something Was Missing”にしても、聞けば聞くほどいい曲だなと思います。

本作は本当にいい曲揃いだというのが、演じながら感じられましたね。ただ、自分が歌ってみると予想以上に難しいんです。例えば“N.Y.C”は冒頭、低音から、ウォーバックスの高揚感を表現しているのでしょうが、一気に高いCに上がるので、外さないよう注意が必要なほど音域が広いし、調も3回変わります。いっぽう“ワルツ”は中音域がメインで、はじめに低い方を響かせてしまうと全体の響きが変わってしまうので、気を付けなければなりません。

たしか数年前にブロードウェイでウォーバックスを演じていたのが、(『レ・ミゼラブル』の)バルジャンをやった方で、クラシカルな素晴らしい歌唱でした。やっぱりメロディをなんとなく語るのではなく、きちんと音を取ってちゃんと音符をなぞっていかないと成立しないミュージカルだなと思いましたね。私もはじめはきちんと音をとりましたが、途中、“歌える”と思って感情優先にしてしまい、しっくり来なくてもう一度ピアノで音を取りなおしたことがありました。音ってとてもデリケートなもので、僕は楽器や声楽をやっていたわけでもないので、本当に毎日やらないといけない、とミュージカルのハードさを教えていただいた作品です」

――新演出版のウォーバックスは、ダンスも“がっつり”なさっています。

「本番ではこなしましたけど、稽古場でははじめ、笑いが起きるぐらいダメでした(笑)。基本的に踊りは得意な方ではないけれど、稽古で一回動けば、昔スポーツをやっていたこともあって体がすっと覚えてくれるんですね。次回はより磨きをかけて、しっかり頑張らなきゃいけないなと思っています」

――次回のアニー役の女の子たちには、既にお会いになっているのですよね。

『アニー』2018製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『アニー』2018製作発表にて。(C)Marino Matsushima

「まだ2回しか会っていませんが、元気なお子さんたちです。緊張しているけどそれを楽しんでいますと言っていて、度胸があるなと思いましたね。一人は(『レ・ミゼラブル』の)リトル・コゼット、もう一人は『ガンバの大冒険』でジャンボをやったことがあるということで舞台経験もあるから、こちらが心配する必要はないでしょう。大人としては、彼女たちの良さを伸ばしていけるよう対応できればと思いますね。やっぱりアニーって主役ですし、子供たちが憧れるような存在であって欲しい。そういう輝きを持ってる二人なので、今回共演するのが楽しみです」

――ご自身の中で、今回“隠しテーマ”にされていることはありますか?

「やはり歌に関して、オーケストラとの合わせ方であるとか、もっと音楽を研究して、完成度の高いものを目指していきたいなと思っています。そのために海外版のCDを聴きなおしたり、音楽監督の佐橋さんや演出の山田さんにも相談したいですね。とにかく素敵な音楽、素敵なミュージカルですから、一音、一音、なぜこの音なのかと考えながら、もっともっと上を目指していきたいです」

――藤本さんのプロフィールについてはご存知の方も多いと思いますが、競泳選手として活躍(ソウル、バルセロナオリンピックに出場)された後、劇団四季に在籍されました。四季で学んだことで最も大きかったのは何でしょうか?

「俳優としての基礎を教えていただきました。努力が必要であることはスポーツと全く同じで、劇団ではカリキュラムも組まれ、みんな自然にやっていましたね。退団後、映像の世界に入ってからは、俳優には遊びや、いろんな情報を得て人間的に成長することが大事だと思っていましたが、ことミュージカルに関しては芝居も歌も踊りも、基礎をやった上で初めて人間的なプラスアルファを加えることができるのだと、『アニー』に出演したことで思い出しましたし、その基礎を教えていただいたのが四季だったと感じます。

劇団時代の思い出というと、努力の仕方がわからず、ひたすら一人でピアノをたたいていたことですね。劇団では週に一回、ソルフェージュ(注・楽譜を音名(ドレミ)で正確に歌う練習などを通した、音楽の基礎訓練)のレッスンはあったけれど、1時間しかありません。いただいた役で一小節か二小節、ソロがあっても、どう歌うのが正解かは誰が教えてくれるわけでもなく、個室に入って自分でピアノをたたきながら練習していました。音大を出ていらっしゃる方は出来るのだと思いますが、僕はスポーツ選手あがりでしたし、どういう声がいいのか、正解が分からないんですね。何とか見つけようと、必死でした。でもそれが今に活きていて、それは感謝しています。

いまだに、ミュージカルが“わかってきた”とは思いませんが、音に関しては敏感にやって行かなくてはならない、もっと聴く耳をもって、冷静になってやっていかないといけないと改めて思います。それによって、レベルを少しでも上げていきたい。ミュージカルが好きでこの世界に入りましたが、やっぱりミュージカルはいいですね。心を動かされます」

――どういったミュージカルが好みですか?

「基本的には、音楽があれば何でも。例えば今年(2017年)トニー賞作品賞をとった『Dear Evan Hansen』、ポップな音楽がいいですよね。最近は“いい曲”が少なくなってきたといわれるけれど、実にいい音楽だと思います。ブロードウェイには最近行けていませんが、元気をもらえる場所なので、また行きたいなぁ。(『アニー』に限らず)ミュージカルにも、機会があればどんどん出演していきたいです」

*次頁にルースター役・青柳塁斗さんインタビューを掲載しました*


【2018年ルースター役・青柳塁斗さんインタビュー】

さらにダイナミックになった大ナンバーとともに、
僕らの詐欺師っぷりも楽しみにいらしてください

青柳塁斗undefined90年北海道生まれ。アクターズスタジオ北海道本部校を経て上京し、ミュージカル『テニスの王子様』で人気を博す。以来『FROGS』、地球ゴージャス『海盗セブン』『HEADS UP!』『三文オペラ』等の舞台、映画、ドラマなど様々な分野で活躍。6月開幕オリジナルミュージカル『ザサーカス』に出演予定。(C)Marino Matsushima

青柳塁斗 90年北海道生まれ。アクターズスタジオ北海道本部校を経て上京し、ミュージカル『テニスの王子様』で人気を博す。以来『FROGS』、地球ゴージャス『海盗セブン』『HEADS UP!』『三文オペラ』等の舞台、映画、ドラマなど様々な分野で活躍。6月開幕オリジナルミュージカル『ザサーカス』に出演予定。(C)Marino Matsushima

――初日まで1週間を切りました。今、お稽古はどんな段階でしょうか?

「オーケストラ付きの通し稽古をやっています。だんだん全体像が見えてきたところですね」

――アニーが探す“本当の親”になりすまし、ウォーバックスから大金をせしめようとするルースターと恋人リリー。青柳さんは昨年からこの役を演じていますが、今年はどんなテーマで取り組んでいるでしょうか?

「変装して一芝居打ちに行く時、本気で騙しに行っています(笑)。登場した時、お客様が“あれは誰?!”と混乱するぐらい。姉のハニガンとのやりとりではコミカルに鶏の真似をしたり、甘え上手なところを見せるけれど、後半、金のためなら邪魔者は消すとほのめかして冷酷さを見せたりと、いろいろな面のある役です。振付の広崎うらんさんが海外で『アニー』を観た時は、この役がとてもかっこよかったそうで、僕も“Easy Street”などではカッコよさを追求していますね」

――彼とハニガンのきょうだいは、もとはどんな家庭に育ったのでしょう?

「貧しい家庭で、金のためなら人を裏切ってもいいという家訓のなかで育ってきました。人を利用して生き延びてきたので、ギラギラした部分はあると思いますね。詐欺師を演じるにあたって、以前、メンタリストがブームになったとき、人の心を読む心理学の本を何冊か読んだことがあって、それが役立っているかもしれません。(人をだます)コツとしては、“さっと行ってさっと退散”と台詞でも言っていますが、一方的に話してやばいと思ったら話を切り替える、そういうテンポ感が大事なんだろうと思っています」

――今回、初共演のハニガン役・辺見えみりさんとは、どんなきょうだいになりそうでしょうか?

「辺見さんのハニガンからは、芝居のあちこちで、(いずれも曲者のきょうだいだけど)弟を上に立たせまいとする“圧”を感じますね。姉貴としての力強さがあります。いっぽう、序盤の登場シーンで、姉にお金をせびるところでは、ふつう距離感がありがちなのに、初めてやった時から演出の山田(和也)さんが“仲の良さが出てるね”とほめてくれました。辺見さんが稽古場で積極的に話しかけてくれた事もあり、そうしたものがうまく役にも出ているのかもしれません」

『アニー』2018年undefined(C)Marino Matsushima

『アニー』2018年 (C)Marino Matsushima

――続投の山本紗也加さん演じるリリーとの関係性はいかがでしょうか?

「改めて、ルースターとリリーとの関係は薄っぺらいものだったんだなぁと感じます(笑)。恋人のはずなのに、(ラブラブなムードより)金にしか反応しない。“金”という言葉が出てくると目を合わせる二人です。互いに利用し合っていることがよりわかりやすく見えるかもしれません」

――昨年は鮮やかな宙返りも取り入れていましたが、今回は?

「やっています。 “日替わり”でいろいろと試しているところです(笑)。でも今年はダンスキッズが凄くて、男女ともアクロバットをやる子がいるんですよ。そこは負けないぞ、と彼らとは違う技を出そうと思っています」

――今年のアニー役の二人はどんなアニーでしょうか?

「やえちゃん(宮城弥榮さん)はあいさつもしっかりしていて、真面目に取り組む姿勢が歌に生きている。ストレートにこちらに(その時の心情が)伝わってくる歌声です。ゆめちゃん(新井夢乃さん)はこの前“クラス替えがあったんだけど、疲れちゃって……”と学校の様子を話してくれて、ちょっとおませな感じがアニーらしいです。歌や芝居もいいけど、何より立ち姿が面白いですよ。子供ならではなのかもしれないけど、僕にはできない力の抜け加減で、アニーの抱えているいろいろなものが伝わってきます。

(演出の)山田さんと(振付の広崎)うらんさんは、今年の子役たちに対して、孤児院育ちなのだからもっと悪ガキっぽさも欲しいということで、しばしば“いい子にならないように”と言っていますね。大人の僕らであっても難しいことだと思うので、見ていて勉強になります」

――どんな舞台に仕上がりそうでしょうか?

「ビッグナンバーの“NYC”も少し変わってきて、さらにダイナミックな舞台になっていると思います。とてもわかりやすいストーリーで、僕らが出てくるパートは笑いも多いし、音楽もすごくいいので、気楽に観ていただきながら、アニーに勇気づけられ、元気をもらって帰っていただけるといいなと思います」

――プロフィールについても少しうかがいたいのですが、青柳さんはどんな経緯で芸能界に入られたのですか?

「郷里の北海道のアクターズスタジオに知り合いがいて、何となく行って気づいたらオーディションを受けていました。小学4年生の時です。男兄弟の家庭でみんな野球をやってたけど、アクターズスタジオに入ったことで僕だけダンスが好きで、夢中になってました。それで中二の時、今の事務所に声をかけられ、上京しました」

――中学二年生で上京とは、大きな決断だったのでは?

「当時の芸能界は東京メインでやっている人が多かったので、東京に行けば芸能人になれる!という感覚で、寂しさなどはまったくなかったです。でも上京してから、長く下積みが続いて……。当然ですよね、周りはすごい方ばかりで。北海道のスタジオは小さくて、その中でできるといっても、東京では強者ばかり。いろいろな舞台に出させていただき、苦しみながら楽しみながら現在も修正中です」

――でも上京したての頃にはやくもミュージカル『テニスの王子様』に出演されていますね。

「中三の時ですね。オーディションで皆がやっていないことをやろうと思って、台詞の書かれた紙を置いて、壁をけって回ったりしたのが自己表現として評価されたみたいです。歌ったり踊ったりという表現が楽しくて、ミュージカルをやっていきたいと思うきっかけになった作品ですね」

――幼馴染の平間壮一さんは、同じ飛行機で上京し、今も同じ事務所に所属する仲ですが、彼はどんな存在でしょうか。

「北海道にいた頃は、どちらが上に行けるか競っていたけれど、もう“ライバル”とは思わなくなりましたね。時々連絡して、ごはんにいって。相手が頑張っているから自分も頑張れる、という支えにもなっている。いわば兄弟のような存在でしょうか。たまに会うと、“お互い、長く続けていこうぜ”と言い合っています」

――表現者として、どんなビジョンをお持ちですか?

「これまでは“体がきく”と評価してくださる方が多かったけれど、これからはさらに自分だけのカラーを出しつつ、いろんな分野に挑戦していきたいですね。例えばハリウッドという可能性を考えると、英語も磨いていかなくちゃいけないし、日本刀を使ったアクションも極めていきたい。公演ごとに取り組む殺陣にとどまらず、継続的にアクションを学んでいきたいです」

――和服も似合いそうです。

「そういう自分でありたいです」

*次ページで2017年版稽古場・観劇レポートを掲載しています!


2017年版稽古場レポート

『アニー』稽古より。写真提供:日本テレビ

『アニー』稽古より。写真提供:日本テレビ

稽古も後半に差し掛かったこの日、室内には大人たち、子供たちの熱気がむんむん。犬のサンディ(ダブルキャストのため2匹)もおとなしくお座りして待機しており、筆者がこれまで訪れたどの稽古場より大所帯に感じられます。稽古前には演出の山田さんがアニー役の二人にテニス・ラケットのあしらいをやって見せ、二人が真似をするとたちまちユーモラスなニュアンスを帯びたものに。振付の広崎うらんさんはダンスキッズを招集、大人顔負けのスタイリッシュな振りをこなす彼ら一人一人の形を細かくチェック。ほんの短い時間の指導でもがらりと変わる子供たちの吸収力に、目を見張らされます。

さて、時間となって二幕後半の通し稽古がスタート。アニーの両親探しに懸賞金をつけたところ、ウォーバックス邸には両親を名乗る男女が殺到。グレースが1000人以上との面接を終えたところに、ホワイトハウスを訪れていたウォーバックスとアニーが帰ってきます。手がかりだと思っていたロケットが量産品だったことが分かり、落胆するアニーにウォーバックスは“(経済的に)望むものは手に入れた(でも)いま孤独に気づかされた”と本心を打ち明け、二人はワルツを踊ります。小柄な野村里桜さん演じるアニーに合わせ、大柄な体をかがめて彼女に目線を合わせる藤本隆宏さん。優しさの溢れる光景です。

この流れで養子縁組がまとまり、舞台は喜びに包まれますが、そこに現れるのが怪しげな夫婦。本物の両親である証拠の品を持つ彼らに、アニーは翌朝、引き取られてゆくことに。皆が急転直下の成り行きに肩を落とすなか、一つの知らせがもたらされ、舞台は誰もが望むエンディングを迎えます。ジェットコースター的な展開ながら、一つ一つの場面での登場人物、とりわけウォーバックスの心の動きが鮮やかに表現され、観ている側は引き込まれずにはいられません。

秘書グレースをフェミニンに演じる彩乃かなみさん、ドラマを愉快にかきまわしてくれるハニガン役マルシアさん、ルースター役・青柳塁斗さん、リリー役・山本沙也加さんはもちろん、そこはかとないユーモアを称えた執事ドレーク役の鹿志村篤臣さん、アニーが引き取られることになり、ほんの一瞬ながら舞台に一人残って泣くピュー役の坂口安奈さんら、アンサンブルもいい味。間もなく初日を迎える舞台が、ますます楽しみなものとなりました。

2017年版 観劇レポート
スピード感と情味、華やぎを絶妙にブレンドし
“人生で本当に大事なもの”を描くミュージカル・コメディ

2017年版『アニー』孤児院を飛び出したアニー(会百花)は出会った犬にサンディと名付け、“明日はしあわせ”と「トゥモロー」を歌う。写真提供:日本テレビ

2017年版『アニー』孤児院を飛び出したアニー(会百花)は出会った犬にサンディと名付け、“明日はしあわせ”と「トゥモロー」を歌う。写真提供:日本テレビ

いよいよ開幕した新演出版『アニー』。今回、筆者は6歳のわが子と鑑賞しましたが、昨年に続き2回目の『アニー』となるわが子は幕が下りるなり、「もう終わり~?」と一言。ふだんの観劇では、少しでも台詞が多かったり淀む場面があるとたちまち飽きてしまうわが子をして名残惜しく感じさせるほど、新版『アニー』はテンポの良さが際立っています。

最も顕著なのが、ぽんぽんと飛び交う台詞の応酬。文末を簡潔化するなど、全編にわたってスピード感が行き届いた新訳の台詞を、登場人物たちはナチュラルスピードでたたみかけ、ブロードウェイで英語のミュージカルを観ているかのごとき軽やかさで、物語を進めてゆきます(演出・山田和也さん)。この“スピード感”は他要素にも共通しており、例えば孤児院で「ハード・ノック・ライフ」が歌われるシーンでは、ナンバーが近づくと、直前の意地悪先生ハニガンと孤児たちのやりとりが進行しつつ、オーケストラがかなり早い段階からイントロのビートを刻み始める。ハニガンがいなくなると、彼女たちの“うんざりモード”が最高潮とばかりに、間髪入れずに歌が始まり、イントロに耳が慣れていた観客はごく自然に歌へといざなわれてゆきます。

また可動式の舞台美術(二村周作さん)を多用した場面転換も鮮やかで、アニーが孤児院を抜け出し、街なかでサンディに出会って「トゥモロー」を歌うシーンでは、後半に差し掛かると背景が上下左右にはけ、2軒の建物だけに。それもはけ、入れ替わりに大恐慌で零落した人々が身を寄せる掘っ立て小屋が登場、いつしか次の「フーバー・ビル」のシーンへと移行しているといった具合です。(その背後には、富の象徴たるマンハッタンの高層ビル群の夜景が美しく浮かび上がり、“こちら側”の暮らしをいっそう切なく見せる効果が)。
2017年版『アニー』アニー(会百花)の孤児院脱出を、「あたしにはなんだってお見通しさ」としたり顔で阻止するハニガン(マルシア)。写真提供:日本テレビ

2017年版『アニー』アニー(会百花)の孤児院脱出を、「あたしにはなんだってお見通しさ」としたり顔で阻止するハニガン(マルシア)。写真提供:日本テレビ

流れるような舞台とは言え、要所要所には日本的な“間”がまぶされ、例えばベーブ・ルースに会いたいかとウォーバックスに問われたアニーが「うわー、すごく会いたい!」とはしゃいだ後に思い返して「誰だろう?」とつぶやき、笑いが起きるまでのとぼけた間や、彼からティファニーの銀のロケットをプレゼントされたアニーが「でも……でも(私が一番欲しいのは、ママとパパを見つけることなんだ)」と泣き出すまでの間合いはたっぷり。観客の心をキャラクターにしっかりと寄り添わせます。

また今回は、初めてアニーと対面したウォーバックスが彼女のもてなし方がわからず、グレースが仕草でヒントを示すもなかなかピンと来ないため、グレースのジェスチャーがだんだん大きくなり、様子をみていたアニーが「映画!」と当てるというコミカルなシーンを挿入。仕事一筋のウォーバックスがいかに人間の機微に疎く、グレースがいかに彼に尽くしているか、そしてアニーの利発さが強調されます。

2017年版『アニー』ハニガン(マルシア)は孤児たちを一列に並ばせ、床磨きを命じる。子供たちは“未来はないよ希望もないよ”と「ハード・ノック・ライフ」を歌いながら掃除を始める。写真提供:日本テレビ

2017年版『アニー』ハニガン(マルシア)は孤児たちを一列に並ばせ、床磨きを命じる。子供たちは“未来はないよ希望もないよ”と「ハード・ノック・ライフ」を歌いながら掃除を始める。写真提供:日本テレビ

続く「N.Y.C」のシーンは本来、ウォーバックスのNY讃歌に、今しがた地方から出てきた少女(“未来のスター”)の意気込みが重なるナンバーですが、今回はそこに、アニーが街なかで見かけた子供たち(ダンスキッズ)が夢想の中でスター・ダンサーとなって踊る、という要素がプラス。“未来のスター”役の坂口杏奈さんの衣裳が引き抜きで華麗なドレスに変わると、子供たちもピカソの「アルルカン」風(?)など、朝月真次郎さんによる個性的な衣裳を纏って登場、舞台のあちこちでそれぞれに見事なダンスを披露(振付・広崎うらんさん)。大恐慌下にあってもNYが依然、人々の“夢”の街であることが、重層的に描かれます。

2幕直前の休憩時間には、幕前にアンサンブルの谷本充弘さんが現れ、無言で観客と“拍手練習”、その訳が2幕のラジオ番組収録シーンで分かるというちょっとした“お楽しみ”もあり、サービス精神もたっぷり。そして山田さんが以前、本作の重要ポイントとして挙げていた2幕のワルツ・シーンでは、両親探しが暗礁に乗り上げたアニーに対してウォーバックスが手を差し出し、彼の周りが小さく四角に照らし出される(照明・高見和義さん)。そこにアニーが足を踏み入れ、弦楽器の音色が優しく響く中ワルツを踊る光景は情感に溢れ、見事に本作のクライマックスとなっています。

庶民の娯楽、映画を観に行こうとアニー(会百花)をNYのタイムズ・スクエアに連れて行く。写真提供:日本テレビ

2017年版『アニー』ウォーバックス(藤本隆宏)とグレース(彩乃かなみ)は、庶民の娯楽、映画を観に行こうとアニー(会百花)をNYのタイムズ・スクエアに連れて行く。写真提供:日本テレビ、

こうした様々な演出の工夫を輝かせているのが、新版を成功させようと気概に満ちた出演者たち。この日の子役ダブルキャストはチーム・モップの面々で、アニー役の会百花さんは、チーム・バケツの野村里桜さんや歴代のアニー役に比べても少し大人びた雰囲気。前述の「映画!」と当てるシーンでウォーバックスとグレースの関係性を瞬時に理解したかのような聡明さを見せるいっぽう、両親への思いを吐露する場面ではアニーが決して“お気楽な楽観主義者”であるわけではなく、不遇な中で襲い来る感情をコントロールしつつ楽観主義を信じてきた“一生懸命な女の子”なのであって、その健気さ、純粋さこそが人々の胸を打つのだ、と感じさせます。

そんなアニーによって“人生で本当に大事なもの”に気づかされるウォーバックス役、藤本隆宏さんは、日本版ウォーバックスの歴代最年少。恵まれない環境から身を起こし、億万長者に成り上がった人物をブルドーザーのような覇気で演じ、アールデコ様式の豪奢なお屋敷に住んではいるが自身に教養は無い、という設定も、勢いのある喋りや歌声でうまく表現しています。そんなウォーバックスが、終盤にはおそるおそるステップを思い出しながらアニーとワルツを踊り、グレースの真心に応えて手を差し伸べ、ハニガンの悪事を暴く段では“すべてお見通し”とばかりにおどけて歌いだす。一気に人間的な幅を広げてゆく様が、実に微笑ましく映ります。

2017年版『アニー』アニーが大富豪の養子になるかもしれないと聞いたルースター(青柳塁斗)とリリー(山本紗也加)は、ハニガン(マルシア)を巻き込み一獲千金を目論む。写真提供:日本テレビ

2017年版『アニー』アニーが大富豪の養子になるかもしれないと聞いたルースター(青柳塁斗)とリリー(山本紗也加)は、ハニガン(マルシア)を巻き込み一獲千金を目論む。写真提供:日本テレビ

この親しみやすさは今回の登場人物すべてに共通しており、ハニガンを演じるマルシアさんはパンチのある歌声で圧倒的存在感を示しつつ(ソロ「Little Girls」の迫力ある締めくくりは彼女ならでは)、“期待”が“がっかり”に変わるなど、くるくる変わる表情で笑わせ(筆者の子は後々まで“あそこが面白かった”と言い続けていました)、“憎めない”悪役ぶり。グレース役の彩乃かなみさんも、落ち着いたたたずまいで1930年代のハンサム・ウーマンを体現しつつ、感情がたかぶるとずっこけてしまう様がかわいらしく、アクロバットも取り入れた鋭い動きでルースターの狡猾さをあらわす青柳塁斗さん、そのガールフレンド・リリー役をエネルギッシュに演じる山本紗也加さんも、企み自体は悪いけれど、ミュージカル“コメディ”の悪役としての可愛げをキープ。

アニーの楽観主義に触発され、閣僚たちに「一緒に歌って」どころか「ハモって!」とまで指示してしまうルーズベルト大統領役・園岡新太郎さんらも好演です。チーム・モップの孤児仲間たち(今村貴空さん、年友紗良さん、久慈あいさん、吉田天音さん、相澤絵里菜さん、野村愛梨さん)もおとなしかったりこまっしゃくれていたりと各キャラクターを表現しつつ、歌い踊るナンバーでは思い切り蹴り上げる動きに生命力が漲り、物語の“その後の彼女たち”を楽しく想像させてくれます。

上演32年目にして第三ステージへと突入した日本版『アニー』。新たな魅力を得た今年、春夏の公演の間にどのように磨きをかけ、来年へとバトンを渡してゆくでしょうか。この先、どのような歴史を作ってゆくのか、いつまでも見届けてゆきたいと思える舞台です。

2017年『アニー』の演出家・山田和也さん(左)とキャストの方々。左からルースター役・青柳塁斗さん、ハニガン役・マルシアさん、アニー役・野村里桜さん、ウォーバックス役・藤本隆宏さん、アニー役・会百花さん、グレース役・彩乃かなみさん、リリー役・山本紗也加さん

2017年『アニー』の演出家・山田和也さん(左)とキャストの方々。左からルースター役・青柳塁斗さん、ハニガン役・マルシアさん、アニー役・野村里桜さん、ウォーバックス役・藤本隆宏さん、アニー役・会百花さん、グレース役・彩乃かなみさん、リリー役・山本紗也加さん

*公演情報*
『アニー』
2018年4月21日~5月7日=新国立劇場中劇場

2018年版『アニー』観劇レポート
さらに滑らかな運びの中で、
各キャラクターが生き生きと活躍する舞台

『アニー』2018年(C)Marino Matsushima

『アニー』2018年 アニー役・宮城弥榮(wキャスト チーム・モップ)(C)Marino Matsushima

オーケストラが軽快にオーバーチュアを奏で終わると、するすると幕が昇り、孤児院が現れる。閉塞空間の中ですっかり煮詰まった孤児たちとハニガンの生活が描かれ、場面はそこをまんまと抜け出したアニーとともに街中へ。しかし大恐慌のさなか、彼女はホームレスの人々が集う集落で警官につかまり、孤児院へ連れ戻される。ハニガンに怒られるアニーだが、偶然訪れた大富豪ウォーバックスの秘書グレースの目に留まり、邸宅でクリスマスを過ごすことに。

明るく機転のきくアニーを気に入ったウォーバックスは、彼女を養子にと望むも、彼女の本当の夢が本当の両親との再会であることを知り、莫大な懸賞金をかけて捜索を開始。そのニュースを聞いたハニガンの弟で詐欺師のルースターは、よからぬアイデアをひらめかせる……。
『アニー』2018年(C)Marino Matsushima

『アニー』2018年(wキャスト チーム・モップ)(C)Marino Matsushima

山田和也さんによる新演出となって2年目の今年は、滑らかでスピーディーな展開に磨きがかかり、アニー役の新井夢乃さん、宮城弥榮さんをはじめとする子役の皆さんの生き生きとした姿が引き立ちます(wキャスト2組とも拝見)。

いっぽう大人キャストも各キャラクターを鮮やかに演じ、前回から続投のウォーバックス役・藤本隆宏さんはいっそうの“ブルドーザー”ぶりで、登場からしばらくはまるでトランプ大統領のような風情。成功のためにはかなり強引な手法も使ってきたのだろうと想像させ、後半との落差が際立ちます。
『アニー』2018年(C)Marino Matsushima

『アニー』2018年(C)Marino Matsushima

今回が初役となるグレース役・白羽ゆりさんは抜群の安定感ある歌声はもちろん、一挙手一投足に品があり、“優雅さ”という役名そのもの。終盤、ウォーバックスから暗に求婚され、どぎまぎする様も可憐です。

ハニガン役の辺見えみりさんは、(ほぼ)どの衣裳のスリットからものぞく脚線美が女性性をもてあますハニガンの雰囲気を醸し出し、鬱積したものがとげとげしさとなって表れてしまうことがナチュラルな台詞からよく伝わってきます。
『アニー』2018年(C)Marino Matsushima

『アニー』2018年(C)Marino Matsushima

そして今回最も目を引くのが、青柳塁斗さんと山本紗也加さん演じるルースターとリリーの悪党カップル。登場の度に切れの良い身のこなしとせりふ回しで、ユーモラスでありながらもどこか油断ならない緊張感をもたらし、アニーの親に扮するくだりでは迫真の詐欺師っぷりを見せています。

特にアニーの(偽の)親としてウォーバックスに近付く際、へつらっているように見せても抜け目なく何かを狙う、山本さん演じるリリーが絶品。賞金のことを知らずに来たという設定だったのにウォーバックスから“5万ドル”という言葉を聞いたとたん、欲深い二人が反射的に“おーーっ”とアニメーションのような動きで吸い寄せられるさまも捧腹絶倒。続投コンビならではの成果と言えるかもしれません。
『アニー』2018年(C)Marino Matsushima

『アニー』2018年(C)Marino Matsushima

ユーモアと涙とスリルをほどよく織り交ぜ、最後には大団円となる物語。華やかさに満ちた幕切れで、今年も年齢を問わず、誰もが笑顔で帰途に就くことのできる舞台に仕上がっています。

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