肌寒さとうららかさ、そして花粉(!)がないまぜとなったこの季節。今回は『キューティ・ブロンド』日本初演など春の話題作、そして“ミュージカルの日(3月26日)”のイベント情報もお届けします。随時追加掲載する観劇レポートもどうぞお楽しみに!

*3月の注目!ミュージカル
『エルコスの祈り』3月18日初日←観劇レポートUP!
『キューティ・ブロンド』3月21日初日 演出家インタビュー&稽古場レポート&観劇レポートUP!

*注目のミュージカル・イベント
ミュージカル・スペシャルトークショー『大劇場/小劇場ミュージカル それぞれの魅力』3月26日開催←イベント・レポートUP!

*4月の注目!ミュージカル
『王家の紋章』4月8日初日←工藤広夢さんインタビュー&観劇レポートUP!
『きみはいい人 チャーリー・ブラウン』4月9日初日←稽古場&観劇レポートUP!

*AllAboutミュージカルで特集した(予定の)ミュージカル

『刀剣乱舞』上演中 見どころ&出演・太田基裕さんインタビューを掲載!
『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』3月17日初日 出演・福井晶一さんインタビュー&稽古場レポートを掲載!
『オペラ座の怪人』3月25日初日 稽古場レポート&佐野正幸さん・山本紗衣さん合同インタビューを掲載!
『紳士のための愛と殺人の手引き』4月8日初日 出演・ウエンツ瑛士さんインタビューを掲載!
『アニー』4月22日初日 作品ガイド&稽古場レポートを掲載予定
『レ・ミゼラブル』海宝直人さんインタビューを掲載予定

王家の紋章

4月8日~5月7日=帝国劇場
『王家の紋章』前回公演よりundefined写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』前回公演より 写真提供:東宝演劇部

【見どころ】

1976年から現在に至るまで連載中の、日本を代表する少女漫画の一つ『王家の紋章』。現代からタイムスリップした少女と古代エジプトの少年王の、時空を超えた愛の物語が昨年舞台化、連日大入り満員を達成してたちまち再演が決定しました。帝国劇場の規模にぴったりの壮大なスケールの物語と、『エリザベート』のシルベスター・リーヴァイによる、ポップスからクラシカルまで曲調の幅広い楽曲、そして原作漫画の世界を美しく、また生身ならではの情感を加えて体現するキャストが魅力。今回は単に初演をなぞるのではなく、細部まで再検討し、新曲も登場予定。初演とは一味異なる印象の舞台となっているかもしれません。

【セチ役・工藤広夢さんインタビュー】
工藤広夢undefined96年宮城県出身。仙台でミュージカルを始め、TOURSミュージカル『赤毛のアン』全国ツアーを機にプロを目指す。『葉っぱのフレディ』『sign』等の舞台やDVD「Heart Beat Singing」に出演後、16年『王家の紋章』で大作ミュージカルにデビュー。同年『わたしは真悟』にも出演。(C)Marino Matsushima

工藤広夢 96年宮城県出身。仙台でミュージカルを始め、TOURSミュージカル『赤毛のアン』全国ツアーを機にプロを目指す。『葉っぱのフレディ』『sign』等の舞台やDVD「Heart Beat Singing」に出演後、16年『王家の紋章』で大作ミュージカルにデビュー。同年『わたしは真悟』にも出演。(C)Marino Matsushima

王の墓の発掘に加わったことで、古代エジプトにタイムスリップしてしまうヒロイン・キャロル。倒れていた彼女を最初に発見、以来彼女を守ろうとする少年セチを、昨年の初演で溌溂と演じていたのが工藤広夢さんです。実は大作ミュージカルへの出演は本作が初めてだったという初々しい彼に、再演に向けた稽古の様子を伺いました。

――昨年の初演は、オーディションを経て?

「はい、歌とダンスを審査していただき、アンサンブルで合格したのですが、その後セチ役になり、台本を読んだら台詞もたくさんあって。はじめは稽古場で自分がどう居たらいいかわからず、すごく緊張しました」

――少女漫画の世界には、以前から親しんでいらっしゃいましたか?
『王家の紋章』前回公演よりundefined写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』前回公演より、セチとその母がキャロルを発見するシーン 写真提供:東宝演劇部

「全く読んだことがなかったので、今回初めてレンタル屋さんで借り、電車の中でカバーを付けて読みました(笑)。でも読み進めると凄く素敵な物語だし、正直、顎クイとか壁ドンはよく分からないけど(笑)、『王家の紋章』は戦闘シーンが多くて、男子としては凄く引き込まれましたね。実際、舞台でも激しい殺陣がたくさんあって、ダンスをやってきた僕は“形がきれい過ぎる、もっとリアルに”と初演ではさんざん指摘をいただき、勉強になりました。今も殺陣のシーンになると、ダンスとは違う汗が出ます(笑)」

――古代エジプトが舞台ですが、どの程度時代考証をされていますか?

「人間が演じる分、リアルさを出そうということで、原作に描かれていない部分もみんなで調べ、演技に取り入れたりしています。例えば、奴隷が王に対して両手を胸に(バツ印にして)重ねてお辞儀をする仕草とか。そういう部分が今回の再演はちょこっとずつ深くなってきて、楽しいです」

――ほかに今回の再演で変化している部分はありますか?

「セットががらりと変わるのと、上演時間が少し短くなるのと、新曲の登場ですね。2幕でキャロルが初めてテーベの町に行くシーンがあるのですが、そこのナンバーがとてもハッピーな曲調です。それと、圧倒的に違うのがフィナーレです。重きを置くところが変わっていますので、楽しみにしていてください」

――お稽古も終盤かと思いますが、どんなご様子ですか?
『王家の紋章』前回公演よりundefined写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』前回公演より 写真提供:東宝演劇部

「『王家の紋章』のカンパニーは物凄く仲が良くてアットホーム。初演の時、新作ということで、ああしようこうしようという議論がたくさんあった影響かもしれません。今回は初演をなぞるのではなく新たな気持ちでやろう、とみんな細かいところまで詰めていますね。

個人的な課題としては、出番が1幕に集中しているので、そこでキャロルを守ろうとするキャラクターをはっきり出さないと、2幕で感動していただけないと思っています。原作には描かれていないけど、僕の中では、セチはキャロルを発見した時にその美しさに感動し、彼女にひと目ぼれしたのだと思う。11、12歳くらいの役だから初恋かもしれないですよね。その思いの強さがあるから奴隷から兵士に取り立てられるわけで、キャロルを思う気持ちは大切にしています」

――プロフィールについても少し伺いますが、工藤さんは仙台でミュージカルを始めたのですね。

「はい、小学校の入学式で名前を言えなかったのを心配した両親に、無理やりミュージカル・スクールに入れられまして(笑)。水泳もやっていたのですが、そちらでは東北大会で金メダルをいくつもとるほど成績が良かったので、当初は自分も含めて皆、ミュージカルはそのうちやめるだろうと思っていたけど、中学3年で出た『赤毛のアン』という作品が楽しく、そのすぐ後に帝劇で観た『レ・ミゼラブル』に衝撃を受けまして。コーチに「水泳はやめます」と言ったら、絶句されました(笑)。

その後、日本大学芸術学部に進学したのは、それまでミュージカルをやってきたので、お芝居を学んでみたいと思ったからです。入ってみると周りはミュージカルに興味のない人が多くて、チラシを渡すと“こんなのに出てるの?”と言われたりして、びっくりしました(笑)。ダンスも歌もない演劇の授業は、僕にとっては武器をとられたようなものだったけど、演技をつきつめることができて勉強になりました。声の使い方ひとつとっても、それまで台詞は“いい声”で言うものだと思っていたけど、唐十郎さんの赤テントの芝居などでは、声帯をつぶすぎりぎりまで叫んでいたりして、声を出すポジションはいろいろでいいんだと思えるようになりました。今回の『王家の紋章』でも、この経験が無ければ拷問シーンで汗をかくほど叫ぶことは無かったろうなと思います」

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「僕は小柄ということもあって、『王家の紋章』を含め、ここ1年ほどずっと子どもの役を演じてきました。昔は自分の身長が物凄いコンプレックスでしたが、『わたしは真悟』で、大柄ではないのに舞台上ではとても大きく見える成河さんとご一緒して、たくさんお話をさせていただく中で、とても影響を受けました。身長であったり、体が動くことであったり、そうした自分の特性を生かせる役にこれからも出会えていけたら幸せだな、と思っています」

【観劇レポート】
古代エジプトと現代の邂逅のドラマに
“愛が歴史を変えてゆく”希望を含ませた
2017年版『王家の紋章』

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

現代に生きるアメリカ人の少女キャロルは、エジプトの古墳発掘作業に参加するうち、墓の主である少年王メンフィスの姉アイシスの霊魂を怒らせ、タイムスリップさせられてしまう。古代エジプトの人々を現代の知恵で驚かせ、“ナイルの女神の娘”と呼ばれるようになったキャロルは、絶対的権力者であるメンフィスに物おじせず、次第に愛されるようになるが、彼を溺愛し、邪魔とあれば隣国の王女さえ謀殺してしまう姉アイシスの不興を買い、命を狙われる……。
『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

シルヴェスター・リーバイさんのスケール感溢れる音楽に彩られ、舞台は長編漫画のエッセンスをギュッと凝縮。具象と抽象のバランスが程よい舞台美術(二村周作さん)の効果もあり、古代から現代世界への一瞬の時間移動も違和感なく見せてゆきます。
『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

1年と間を空けずしての再演とあってキャストの演技にも磨きがかかり、メンフィス役の浦井健治さんは古代エジプトの王としての雄々しく輝かしい存在感はそのままに、宿命に従って生きてきたのが、キャロルとの出会いによって真の自我に目覚め、後半のナンバー「Wavering Mind」で“(キャロルが)側にいないと 途方に暮れる”と歌うほど弱さをも吐露、人間的な成長を見せてゆく様が鮮やか。マントや剣裁きも滑らかに魅せてくれます。
『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

この日のキャロル役・新妻聖子さんはその凛とした歌声で、なりゆきで歴史の渦に巻き込まれてゆくも、それぞれの局面に理性的に立ち向かい、時空を超えた愛を成就する少女役に説得力を持たせ、この日のイズミル役・平方元基さんは、その長身から繰り出す歌声に哀しみの風合いがあり、キャロルを強引に拉致し、戦争のきっかけを作りながらも、その行動のベースには暗殺された妹ミタムンへの思いがあることがうかがえ、悲劇的キャラクターとして余韻を残します。
『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

行方不明となったキャロルを探し続ける兄ライアン役・伊礼彼方さんは“現代世界”を象徴する役どころを力強い歌声で体現し、アイシス役・濱田めぐみさんは昨年の初演に引き続き、3000年もの時を超えて彷徨い続けるほどのメンフィスへの強い愛を冒頭のナレーションに始まり、「Unrequired Love」他のナンバーで余すところなく表現。
『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

今回が初登場のミヌーエ将軍役・松原剛志さんはワンフレーズの歌唱でも明瞭に歌詞を聞かせて存在感をあらわし、セチ役の工藤広夢さんは溌溂とした演技で古代エジプトの“名もなき民”を躍動的に代表。キャロルへの思いを舞台後方で人知れず舞踊で表現する場面は鮮烈です。インタビューでは11、12歳の設定とおっしゃっていましたが、それをふまえると2幕で奴隷から兵士に取り立てられてキャロルに言う台詞“これからはずっと君を守るんだ”がいっそう切ないものに。そして宰相イムホテップ役の山口祐一郎さんはさすがのオーラで、登場の度に場をきりりと引き締め、劇世界に格調高さをプラス。

*以下の段落ではいわゆる「ネタバレ」を含みますので、未見の方はご注意下さい。*
『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

さて、今回の上演ではフィナーレ(エピローグ)の変更が開幕前から話題となっていましたが、新たに書き下ろされたメンフィスとキャロルのナンバーは圧倒的に明るく、晴れやかな曲調。昨年版を観た身としては、アイシスの強い思いが込められた語りが余韻を残すエンディングも捨てがたいのですが、今回のこの新曲、よく歌詞を見てみると、メンフィスとキャロルが未来への展望を語るものとなっています。
『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

『王家の紋章』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

愛だけを頼りに“幸せと喜びだけの歴史を作ろう”という二人の誓いからは、暴力的な出来事が頻発する昨今の世界情勢の中で、人間たちが忘れかけているものを、古代と現代を繋ぐこの作品世界を借りて訴えようとする、作り手たちの思いも感じられてなりません。“愛は歴史を変えてゆける”か……。夢見心地の中にも、ずしりとしたものの残るフィナーレとなっています。

キューティ・ブロンド

3月21日~4月3日=シアタークリエ、その後4月30日まで愛知、高松、大分、福岡、広島、静岡、福井、大阪を巡演
『キューティ・ブロンド』

『キューティ・ブロンド』

【見どころ】

おしゃれな女の子が恋人に振られ、一念発起して弁護士を目指すさまを描いて大ヒットしたハリウッド映画『キューティ・ブロンド』を舞台化、07年にブロードウェイで初演されたミュージカルが本邦初演。主人公エルを神田沙也加さんが演じるほか、佐藤隆紀さん、植原卓也さん、樹里咲穂さん、長谷川初範さんらが出演します。

ローレンス・オキーフ&ネル・ベンジャミンによる軽快な音楽に乗せテンポよく進むストーリーは、とにかくポジティブ! はじめは恋のために、途中からは“法律で人を救う”使命感を持って頑張るヒロイン、そして彼女に巻き込まれてゆく周囲の人々の姿に、観ている側は鼓舞されること受け合いです。神田さんはもちろん、『エリザベート』での重厚な役どころから一転、朴訥な青年を演じる佐藤さんからアンサンブルまで、キャスト一人一人のチャーミングな演技もお見逃しなく!

【演出家・上田一豪さんインタビュー】
上田一豪undefined84年熊本県生まれ。早稲田大学在学中にミュージカル研究会に所属。劇団TipTapを旗揚げ、オリジナル作品を作・演出。東宝演劇部契約社員として様々な大作にも携わる。(C)Marino Matsushima

上田一豪 84年熊本県生まれ。早稲田大学在学中にミュージカル研究会に所属。劇団TipTapを旗揚げ、オリジナル作品を作・演出。東宝演劇部契約社員として様々な大作にも携わる。(C)Marino Matsushima

――今回、東宝での初演出にあたって『キューティ・ブロンド』を選ばれたのは?

「何本か候補があって、最終的に2本に絞ったところで、神田沙也加さんがこの期間、出演していただけるかもと聞き、“それなら『キューティ・ブロンド』しかないでしょう!”ということになりました」

――ヒロインのエル役が神田さんにぴったり、と?

「チャーミングなところはもちろんですが、何より、生き方がぴったり。これまで(演出部スタッフとして関わった)『ダンス オブ ヴァンパイア』などの現場で彼女を見てきて、ひたむきに、誰よりも努力する、という印象がありました。演出家が求める以上の地点にどうやったら辿り着けるかを常に考えている神田さんなら、きっと作品を引っ張ってくれると思えたのです。実際、開放的で一生懸命すぎて一見おバカに見えるけど、実はすごく賢いエルを、彼女は非常にわかりやすく演じてくれています。演出家としてはご一緒していて楽しくて、頼もしいです。」

――『キューティ・ブロンド』ブロードウェイ版は、アメリカのティーンエイジャー向けのコメディ番組のノリというか、観客の歓声を想定した間合いで作られていますね。
『キューティー・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

「それもそうだし、何より、映画版を御覧になった人を想定しているかのような、ものすごいスピードで進んでいきます。日本でも幸いなことに、映画版が好きで舞台も観ようと思ってくださった方が多いようなので、その点ではあまり心配していませんが、ほぼ全編途切れることなく音楽で繋がっているので、翻訳作品ではいつものことですが、訳詞に苦労しました。基本情報だけではつまらなくなってしまうので、簡潔に、かつ“おかしな”言葉を探しましたね」

――“マジヤバイ”とかですね。

「台本が書かれた時代と今とでは若干のタイムラグがあるので、時代的にちょっとだけふくらみを持たせ、10代から30代くらいの女性が“分かるなあ”と思っていただける言葉をあてるようにしています」

――アイリッシュ・ダンスにチアリーディングと、アメリカの白人社会ではお馴染みの要素が盛り込まれた作品でもあります。

「おそらくアメリカのお客さんは、あそこで突然チアリーディングが出てきただけで盛り上がるのだと思うけど、僕らが見ると一瞬、“ど、どうした?!”と思う。でもその“どうした!?”が面白いんだと思うんです。
『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

例えば『モンティ・パイソンのSPAMALOT』というミュージカルの冒頭に(唐突に)フィンランドの歌が出てきます。本来は(モンティ・パイソンというコメディ・グループが過去に発表した)fish slap danceというスケッチ(場面)の焼き直しなんですが、モンティ・パイソンを知らない人には、意味のわからない歌がいきなり挿入されてる馬鹿馬鹿しさがおかしい。今回のチアリーディングも、そんな感じなのかなと。とにかく、馬鹿馬鹿しく出演者の熱のこもったパフォーマンスで、納得させる。チアにしてもアイリッシュ・ダンスにしても、今回皆さん、かなりの熱量で頑張ってます」

――女性やゲイへのキワどいジョークもアメリカ的ですね。

「作者自身もブロンドの女性だし、実際にゲイのお友達がいる“当事者だから言える自虐ジョーク”だと思うんです。対象への愛がベースにある。そもそも本作の原題“Legally Blonde”はLegally Blind(法律上の失明)という言葉をもじったもので、非常にアイロニック。でもすべてに愛があるから(ジョークも)言い合えるし、(排他的ではなく)ポジティブ。そんな愛に溢れたコメディなんです」

――エルを見守る先輩弁護士エメット役は佐藤隆紀さん。ちょっと意外な配役でした。

「このキャラクターって、(貧しい境遇に生まれて)ずっと努力をしてきたけど、不器用で(弁護士事務所への就職など)次のステップに進めない。一歩踏み出せない男なんだけど、そういう人って、見てて“しっかりしろ!”と思っちゃう(笑)。でもそれで嫌われるのではなく、応援したいと思わせる人がほしかった。あったかさとか、情けなさがキュートに見えるものを持ってる人と考えた時、すぐ佐藤さんがいい、と思ったんです。『エリザベート』の稽古場で彼を見ていたので、彼が本来持っている、人に対する優しさ、素朴さがぴったりだな、と」

――どんな舞台が期待できそうですか?

「とにかくスピーディーで、深く考えずに楽しめると思います。心が疲れていたり、仕事がうまくいってない方が御覧になっても“楽しかった!”と笑顔で帰ってくれるといいな、と思っています」

【稽古場レポート】
『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

夕方に訪れた稽古場は熱気がむんむん。第一幕の通し稽古は、管楽器入りの華やかなバンド演奏に彩られて始まります。お洒落で社交的な大学生のエルは、完璧な彼氏からプロポーズされる……筈が、「別れよう」と言われてしまう。上院議員を目指す彼に、私は見合わないの?と一度は落ち込むものの、「それなら私も!」と一念発起。猛勉強の末、彼を追ってハーバード大学法学院へ……という目まぐるしい展開が、映画さながらのテンポで描かれてゆきます。

『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

始まってすぐに感じられるのが、フレッシュな若手が多いアンサンブルの“熱”。本作をステップとして羽ばたこうとするかのような気迫を秘め、生き生きと躍動する彼らがまず、爽やかです。そして彼らの熱量に圧倒されることなく、眩しいオーラを放ちながらセンターに立つのが、神田沙也加さん。お洒落で明るく、ポジティブにして強い芯を持つエルを、驚くほどのフィット感で演じています。本作に多々登場する“笑い”も達者な間合いでこなしており、コメディエンヌの資質は、大。いっぽう、エルを振ってしまうワーナー役の植原さんは、登場の瞬間からダンスの才能を生かしたポージングで要所要所をキめ、歌声も二枚目。嫌味に見えがちな役どころを魅力的に見せています。そしてエルを見守る先輩、エメットを演じる佐藤隆紀さんは、穏やかで優しいオーラが終始漂い、1幕も3分の2を過ぎてやっと歌い始めると本領発揮。朗々たる歌、というより多分に演劇的なエルとの掛け合いナンバーを、安定感たっぷりに聞かせてくれます。

『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』稽古より。写真提供:東宝演劇部

ミュージカル・コメディでは構造的に、華やかな場面が多ければ多いほど、静的なシーンが退屈に感じられることもありますが、この日の稽古ではそのような場面はまるでなく、一気に一幕終わりまで疾走。ダンスも大人数の登場もなく、エルと出会った美容師ポーレットが滔々と恋愛観を歌う(静的な)くだりも、ポーレット役・樹里咲穂さんの力強い歌唱が場面を立体的に膨らませ、強い印象を残します。

主人公役からベテラン、そして若手に至るまで、それぞれに輝く出演者たち。このカンパニーなら、本番では飛び切りの舞台を見せてくれるのでは。浮き立つような心をおさえ、稽古場を後にしました。

【『キューティ・ブロンド』観劇レポート
一人一人が躍動し、スピーディーにして
“ポジティブさ”と“愛”が溢れるサクセスストーリー】

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

開演前のマナー喚起のアナウンスは、“僕がこの作品で一番まともなキャラクターだから”と“あの人”が担当。穏やかな低音に聞き入っていると、舞台は“(ヒロインの)エルが今日にもプロポーズされるらしい”と色めき立つ女子大生たちのナンバーで、華やかに開幕します。浮き浮きムードが最高潮に達したところで登場したプチ・セレブのエル(神田沙也加さん)は、彼氏(植原卓也さん)とのデートに臨むためドレスを買いに行きますが、彼女を見た店員は“おつむの弱いブロンドのお嬢様”と決めつけ、売れ残りのドレスを売りつけようとする。それに気づいたエルはさあ、どうする? 
『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

ヒロインがひょんなことから法律の道に足を踏み入れ、それを天職としてゆくサクセスストーリーであると同時に、このシーンが象徴するように、社会に蔓延する様々な“偏見”を痛烈に風刺し、笑い飛ばす作品でもある『キューティ・ブロンド』。実は聡明でウィットにも富むエルが鮮やかに、どんな局面にも切り返せるようになってゆく様は、日常的に様々な偏見・差別に遭遇している女性たちには痛快そのものです。演じる神田沙也加さんの爽やかでひたむきな持ち味はエル役にぴたりとはまり、観ている側は自然とエルに心を寄せずにはいられません。 
『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

また難局を次々に乗り越えてゆくエルが、自分を捨てた元カレにいつまでも執着し、彼が現れると先輩のエメットから“バカなウサギみたいな目をしてるよ”と指摘される様もリアル。そんな彼女が終盤、“(あなたに捨てられて)傷ついたからこそ今がある”とトラウマをポジティブにとらえなおし、人間として大きな成長を遂げてゆく姿も共感ポイントです。物事の表面ばかりにとらわれ、エルの真価に気づけなかった“嫌われ役”の元カレ、ワーナー役を、何かとポーズをつけたがる二枚目として“憎めない”キャラに落とし込んでいる植原卓也さんもお手柄。
『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

いっぽう、彼とは対照的にエルに対して偏見を持たず、彼女の頑張りを応援し、いつしかその健気さに惹かれてゆくエメット役の佐藤隆紀さんは、さすがに台詞にあるような“スラム育ち”には見えないものの、本質を見抜く目を持った朴訥な青年像がマッチ。エルとの掛け合いナンバーで物語をどんどん進めてゆくくだりでは、温かく安定感抜群の歌声で持ち味を発揮しています。
『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

ワーナーの“新・彼女”として、はじめは“女の敵は女”とばかりに嫌味を振りまくヴィヴィアン役、新田恵海さんは終盤の変化が気持ちよく、美容師ポーレット役の樹里咲穂さんは、ちょっと“乙女”な側面を持ち、年下のエルとも対等に助け合える素敵な女友達を体現。前半の歌唱力だけでなく、後半は唐突なアイリッシュダンス(『リバーダンス』というより、後発の有名ショー『ロード・オブ・ザ・ダンス』の趣)も楽し気にこなし、芸達者ぶりを見せてくれます。
『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

またエルたちが弁護する殺人事件の被告でワークアウトの女王役の木村花代さんは、2幕幕開きでビリーズ・ブートキャンプ並みのハードなエクササイズを“歌いながら”披露。一見サディスティック、だけどその実は……というギャップのある美女を迫力たっぷりに演じます。
『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

また今回のカンパニー最年長の長谷川初範さんは、エルたちが師事するキャラハン教授役をかなり癖の強い人物として怪演。ポーレットの最悪な“元カレ”やセクシーな宅配のお兄ちゃん等を次々に演じ分ける上野聖太さんはじめ、アンサンブルの面々もそれぞれが躍動感いっぱいに登場し、終始親しみを抱かせます。映画さながらのスピード感を維持しつつ、ドラマとしての骨格もしっかりと浮かび上がらせ、登場人物の一人一人が輝く、愛に溢れた舞台に仕上げた上田一豪さんは今回、大作演出デビューにしてスマッシュ・ヒット。“次も楽しみな演出家”の仲間入り、と言えましょう。
『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

『キューティ・ブロンド』写真提供:東宝演劇部

*次頁で『エルコスの祈り』等をご紹介します!


エルコスの祈り

3月18日~4月4日=自由劇場
『エルコスの祈り』

『エルコスの祈り』

【見どころ】

今から50年後の世界、徹底的な管理教育で子供の個性を奪う“ユートピア学園”に、経費削減のためロボットが送り込まれる。生徒一人一人の個性を理解し、深い愛情を注ごうとするロボットに、子供たちは心を開き始めるが、人間の教師たちはロボットに仕事を奪われると思い、悪だくみを始める……。

近未来の設定とは言っても、たぶんに現代の画一的な教育を思い起こさせ、劇団四季のファミリー・ミュージカルの中でも大人たちに“考えさせる”テーマを持つ『エルコスの祈り』。管理教育の徹底ぶりが、加藤敬二さんのスピーディーな振付を一糸乱れず踊って見せる俳優たちのダンスによって十二分に表現され、後半はエルコスを巡る人間たちの葛藤ドラマとして観る者を引き込みます。15~16年の年末年始に自由劇場で上演、全国公演を経て東京に戻ってきたカンパニーの、さらに練り上げられたパフォーマンスが期待できそうです。

【観劇ミニ・レポート】
『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季

『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季

15年の暮れに自由劇場で開幕以来、全国で巡演を続け、また自由劇場に帰ってきた“エルコス”。1年あまりの旅を経て、シリアスな中にもコミカルな要素を多くまぶした舞台はさらにメリハリを強め、生徒たちが珍妙な“国民体操”をさせられるシーンなどでは、客席からリラックスした笑いが起こっています。

物語は非人間的ともいえる徹底した管理教育のもとにある子供たちが、人間ではないロボット=エルコスによって人間性を取り戻す、という皮肉に満ちたものですが、このエルコスに動機を与えるのが、開発者であるストーン博士の“祈り”。この日演じた深水彰彦さんの歌唱には慈愛が滲み、鈴木邦彦さん作曲の憂いに満ちたメロディも手伝って心に響きます。そしてそんな博士の思いを一身に受けて生まれたエルコス役、古田しおりさんは“感情を持たない”ロボットでありながら、その行動は優しさに溢れているという難しい役どころを、安定の歌声ときれいな所作で好演。エルコスが悪者たちの悪だくみによって……という終盤、思わず目頭をおさえる観客もあちこちにお見受けしました。
『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季

『エルコスの祈り』写真提供:劇団四季

なお、筆者は今回、6歳の子供と鑑賞。小学校入学直前のタイミングに本作を観て「自分が行く学校もユートピア学園みたいなところ?!」と怖がるかな、と親の側はちょっぴり心配でしたが、鑑賞後、子供にはポジティブな印象が残ったらしく、「エルコスは私の心の中にいるんだよね」と頷いていました。ただ、白塗りの悪役先生たちは最後まで怖かったらしく、終演後ロビーでの“お見送り”では、彼らがいるゾーンを避けて通行……。なお、公演プログラムには現在、日本で活躍中の様々なロボットや、ロボットに関する児童文学を紹介した読み物ページも。子供は「これ、科学博物館で触ったことある!」などと写真を指差し、帰路にも“エルコス”の世界を楽しんでいました。

ミュージカル・スペシャルトークショー『大劇場/小劇場ミュージカル それぞれの魅力

3月26日18時~19時半=GOOD DESIGN Marunouchi 

『第二回東京ミュージカルフェス』

『第二回東京ミュージカルフェス』

【見どころ】

日本におけるミュージカル文化の普及を目指し、俳優(『エリザベート』等)・ミュージカル映画監督の角川裕明さんらMusical Of Japanが昨年、立ち上げた「東京ミュージカルフェス」。“ミュージカル”にちなんで3月26日に行われた昨年に続き、第二回の今年は5日間にわたり、都内各地でイベントを開催します。

そのラスト・イベントとして行われるのが、ミュージカル俳優と作曲家によるトークショー。観客を別次元に誘う大劇場ミュージカルと、日本で少しずつ増えてきている小劇場ミュージカルそれぞれの魅力を、双方で活躍する木村花代さん・上野聖太さん(お二人ともこの日は『キューティ・ブロンド』に出演中)と若手作曲家・音楽監督の小澤時史さんのトークで解き明かします。小ぶりの会場ですが最後には歌唱の披露も予定され、ミュージカルの楽しさ奥深さ、そして出演者たちの魅力をたっぷり味わえる、文字通り“スペシャル”なトークショーとなりそうです。(司会進行は松島まり乃が担当)

【イベント・レポート】
「第二回東京ミュージカルフェスundefinedスペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

生憎の雨天にも関わらず、立ち見の出る盛況となった当日。当初、登壇者は俳優の木村花代さん、上野聖太さんと作曲家・小澤時史さんの3名の予定でしたが、直前に小劇場ミュージカルの代表格である劇団Tip Tapプロデューサー柴田麻衣子さん、その座付き作家・演出家で『キューティ・ブロンド』演出家でもある上田一豪さんの参加も決まり、さらに充実のトークに、と期待が高まります。

まずは『キューティ~』こぼれ話コーナーということで、ワークアウトの女王役・木村花代さんの壮絶な役作りから、今回の回り舞台(業界用語で“盆”)はハイテクの時代にも関わらずスタッフが手動で行っており、日々、小澤さん率いるバンドの演奏に“完璧に”合わせて動かされているという秘話まで、貴重なエピソードが続々。続いての木村花代さん・上野聖太さんコーナーでは、ミュージカル界に入ったきっかけから今に至るまでを『スタジオパークからこんにちは』風にインタビュー。駆け足のトークながら、舞台に立つという夢のために地道な努力を続けた木村さんの強い意志、映像志望から『レ・ミゼラブル』に衝撃を受けてミュージカルを志した上野さんの純粋な舞台愛が伺えました。

「第二回東京ミュージカルフェスundefinedスペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。左は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』プロデューサーの土屋友紀子さん。写真提供:Musical Of Japan

次に登壇した小澤時史さんは、もともと作曲家を目指していたわけではなく、ミュージカルもそれほど好きではなかった、との衝撃発言で笑わせた後、影響を受けた作曲家としてトム・キットやジェイソン・ロバート・ブラウンを挙げ、作曲を手掛けた5月の新作『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に話題が移ると、コーラスに定評のある劇団イッツフォーリーズだが今回は敢えてソロの魅力を引き出す楽曲を工夫した、と話した後、実際にそのテーマ曲を生演奏。しっとりとした曲調に、場内はしばし聴き入りました。

「第二回東京ミュージカルフェスundefinedスペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

そしてお待ちかねの座談会では木村花代さん、上野聖太さん、上田一豪さん、柴田麻衣子さん、小澤時史さんがずらりと並び、まずは柴田さんが劇団Tip Tapの沿革を説明(大学のミュージカルサークルとして生まれ、現在は主に上田一豪さん作・演出のミュージカルをプロデュース)。上田さんが書く台本にわかりにくい部分があっても、小劇場作品ならではの強みとして、(誰が見てもわかるよう作らなければならない大劇場公演のように)修正をお願いするわけではなく、敢えてその部分を生かそうとしている、キャスティングに関しても単に優れた人を配するのではなく、その俳優さんのキャリアにとってプラスになるかどうか鑑みてお願いしている、とのこだわりも語られると、上田さんが「(大劇場で失敗すると大勢に影響が出るけど)小劇場なら僕らが(赤字で)困るだけで済みますから。実際そういう時期もあったけど」と赤裸々トークで笑わせます。
「第二回東京ミュージカルフェスundefinedスペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

「第二回東京ミュージカルフェス スペシャル・トークショー」より。写真提供:Musical Of Japan

いっぽう小澤さんは作曲において敢えてつらい(歌いにくい)メロディを試みているそう。帝劇のような大劇場だけでなく、Tip Tapのような小劇場公演にも積極的に出演している木村さん、上野さんからは、華やかさが魅力の大劇場に対して、小劇場では繊細な表現を突き詰められるという醍醐味があり、「(小劇場での演技が)きちんとこなせないと本物の俳優じゃない」という思いで参加している、との力強い言葉があり、小劇場ミュージカルの可能性が予感されたところで、残念ながら時間終了。最後に昨年Tip Tapが上演したソンドハイムのミュージカル『Marry Me A Little』より、小澤さんの生伴奏にて、木村さん&上野さんが3曲をメドレーで披露。恋の楽しさから切なさへと、曲の移り変わりに応じて一瞬で場の空気を変えてゆくお二人の表現力に、場内はたちまち引き込まれて行きました。

予定時間を大幅に超過して終了したイベント。作り手から俳優までが一堂に会し、思いを語るトークショーは非常に希少であり、最後にはスペシャル・ライブも堪能できたことで、来場者の皆さんは一様に笑顔で帰って行かれました。これを弾みに、ミュージカル文化がさらに興隆してゆくよう、企画進行を担当した筆者としても願ってやみません。

*次頁で『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』をご紹介します!


きみはいい人、チャーリー・ブラウン

4月9~25日=シアタークリエ、以降5月10日まで福岡、大阪、愛知を巡演
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』

【見どころ】

世界で最も愛されているキャラクターの一人(一匹)、スヌーピー。その原作漫画『ピーナッツ』の世界観を舞台化した1967年の名作ミュージカルが、新キャストを得て日本では久々に上演されます。自分に自信を持てない男の子チャーリー・ブラウンが、友人たちと様々な経験を重ねてゆくうちに“本当の幸福”に気づく……。シンプルにして深淵な人生のテーマが、『SHOW-ism』シリーズ等を手掛けてきた小林香さんの演出のもと、チャーリー・ブラウン役・村井良大さん、スヌーピー役・中川晃教さんらによって描かれます。簡明だけど何度もかみしめたくなる台詞満載の作品を今回の若手キャストがどう表現するか、注目が集まります。

【稽古場レポート】
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』稽古より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』稽古より。(C)Marino Matsushima

開幕までほぼ一週間となったこの日は、いくつかのシーンの抜き稽古(部分稽古)の後、通し稽古を実施。抜き稽古ではスヌーピー役の動きに微妙な変更がありましたが、演じる中川晃教さんは動きながら確認、たちまち体に入れ込んでゆきます。中川さんは全員のコーラス部分でも“今、ちょっとテンポが遅れてましたよ”と指摘し歌ってみせるなど、随所で出演者たちの“優しいお兄ちゃん”的存在であることをうかがわせ、それに応えるメンバーたちも阿吽の呼吸。多方面から集ったキャストではありますが、チームワークはすでにばっちり、とわかったところで通し稽古のスタートです。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』稽古より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』稽古より。“かわいい”というより“カッコいい”、中川晃教さんのスヌーピー役。(C)Marino Matsushima

何かにつけて自信のない男の子チャーリー・ブラウンとその仲間たち、そしてスヌーピー。たぶんに哲学的な台詞をちりばめた原作漫画の世界が、弦楽器を含むカラフルなバンド演奏に彩られ、舞台上で次々と、テンポよく描かれてゆきます。何をやってもピントがずれているチャーリー役・村井良大さんは自虐的な台詞を言っていてもほのぼのとした味わいでチャーミングにたたずみ、ルーシー役の高垣彩陽さんは終始きっぱり、恋する相手にもあっけらかんと愛を告白。ちゃっかり者のサリー役・田野優花さんは溌溂とした演技にちょっとエキセントリックな味をまぶし、毛布を持ち歩くことと指しゃぶりがやめられないライナス役の古田一紀さんは、かわいらしく優しいオーラと大人びた台詞のギャップが印象的です。シュローダー役・東山光明さんはピアノに向かい、その音色に心酔する姿にストイックなアーテイストぶりを見せ、スヌーピー役の中川晃教さんは意外に人間くさい?犬の本心を、そこはかとないユーモアを漂わせながら聞かせ……と、各キャラクターが個性豊かに、各場面を紡いでゆきます。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』稽古より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』稽古より。村井良大さんが演じるチャーリーは必死に好きな女の子への手紙の渡し方を考えるが、最後の最後に痛恨のミスをおかしてしまう……。(C)Marino Matsushima

今回のミュージカル版では“総出”で歌い踊るナンバーも多く、しかもかなりアクティブな構成ですが、出演者たちは例の“阿吽の呼吸”で息の合った動きを見せ、観る者を楽しませます。(名うてのシンガー、中川さんは今回“ダンサー”としても大活躍。)今回はカメラを構えながらの鑑賞だったためつい彼らの動きに意識が集中しましたが、本番では本作の芯にある、“子供の世界を借りて描かれる人生哲学”がどのように響いてくるか、非常に興味深いものがある舞台です。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』稽古より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』稽古より。(C)Marino Matsushima

【観劇レポート
抜群のチームワークで描かれる
“子供の世界を借りた、人生の真理探究”ミュージカル】

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

『ピーナッツ(スヌーピー)』の4コマ漫画群を“ミュージカル”という手法でカラフルに舞台化した『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』。久々の登場となる今回の日本版は、小林香さんによる無駄のない、滑らかな演出と出演者たちの抜群のチームワークで、半世紀前のミュージカルとは思えないフレッシュさを見せています。
明確なストーリーに牽引されているわけではなく、4コマ漫画のスキットが次々と登場する本作は一見、無邪気な子供の世界の描写に見えますが、人生や人間世界の本質もさりげなく描き、その突きはなかなか鋭い。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

例えば、“ピアノを弾くシュローダーとルーシー”の場面。原作にはこのシチュエーションの4コマ漫画が多数あり、その多くが“ピアノ演奏に夢中のシュローダーに、ルーシーが無神経に(あるいは能天気に)愛を語るものの拒絶される”というパターンとなっています。今回の舞台版でも、うっとりとベートーベンを弾くシュローダーに対して、ルーシーは『月光』のメロディに乗せて「私たち結婚したらいいと思うの」と迫りますが、あえなく去られてしまう。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

このシーンをルーシー役・高垣彩陽さんが突き抜けた無邪気さで、うんざり顔のシュローダー役・東山光明さんが彼女とは“別世界の芸術家”の風情で体現すると、“驚くほど確信的でめげないルーシー”の大胆行動に吹き出しながらも、そこに現れる“コミュニケーションが成立しない状況の一つの法則”や“哀しいほどに異なる男の性(さが)、女の性(さが)”といったテーマの深遠さに、ちょっぴり考えさせられずにはいられないことでしょう。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

本作の出演者はたったの6名、この規模の劇場で上演される作品では昨今、類を見ない小編成のミュージカルですが、キャストの皆さんの息はぴたり。チャーリーのダメっぷりをチャーミングに演じる村井良大さん、前述の高垣さん、東山さんにちゃっかり者のサリーを溌溂と見せる田野優花さん、少年の面影をうまく役に落とし込んで“大人びた弟”を演じる古田一紀さん、そして人間たちを時に傍観し、時に寄り添うスヌーピーとして楽し気に一座をまとめる中川晃教さん(一幕の「Snoopy」、二幕の「Suppertime」でのR&B色の濃い歌唱は実にのびのびとしており、必聴です)……と、それぞれにカラーは違えど、全員で歌い踊るナンバーには、稽古期間に彼らが培ったのだろう互いへの信頼感が溢れ、観ている側も温かな気持ちに包まれます。
『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』より。(C)Marino Matsushima

そして最後のナンバーで彼らがあれこれ言及する、日常に潜む“幸せ”。人生の真理は深遠だけれど、幸福の追求は存外、こんなにシンプルなのかもしれないよ、と観る者の人生を肯定し、励ます本作。様々な経験を経てきた大人はもちろん、人生に惑い始めた若い世代にも大いに“体験”していただきたい舞台です。






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