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ウイスキー裁判2/販売数量の9割はブレンデッド

前回記事につづいて、100年以上前にあったブレンデッドウイスキー伸張によるモルト対グレーンのスコッチ業界の対立について述べてみる。1909年にやっと決着をみるのだった。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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ウイスキーはモルトのみなのか

ティーチャーズ ハイボール

ティーチャーズ ハイボール

前回につづいて19世紀末からのモルト対グレーンの抗争をお話する。
1890年代中頃からイギリス経済は好景気に湧いた。南アフリカの植民地化をめぐるボーア戦争(第1次1880-1881、第2次1899-1902)による戦争景気である。
政府が戦艦の発注、物資輸送の増強、武器調達などにしゃかりきになり、造船業、機械製造業をはじめ産業界は積極的な設備投資をおこなう。スコッチウイスキー業界も同様で、楽観的に設備投資をおこない増産をつづけた。このことは『ティーチャーズの歩みから探るブレンデッドの歴史1~6』の記事を読んでいただいた方ならば、その成長ぶり、楽観ぶりは理解できるはずだ。
ところが20世紀になって、ボーア戦争がクライマックスを迎えると景気が後退しはじめる。他の産業同様、蒸溜業界が消費減速、減少に気づいたときには過剰生産によるつけがまわってきていた。小さなモルト蒸溜所は買収、閉鎖の道しかなかった。ここからモルト蒸溜業者とグレーン蒸溜業者、ブレンダーとの関係がより悪化していく。
モルト側は原酒の余剰在庫に悩まされていた。利益を上げることが難しくなり、ウイスキー産業を自分たちがコントロールできないことに焦りを感じていた。
前回記事で述べたモルト対グレーンの戦いが激化していくことになる。発端は1901年、ある企業が大量のグレーンウイスキーに少量のモルトウイスキーのブレンデッドをモルトウイスキーと偽って販売した詐欺が裁判で明らかになる。
これに勢いづいたモルト業界は“アイリッシュまたはスコッチウイスキーは、モルトウイスキーのみに限定”とのキャンペーンを開始する。1903年には印刷物をつくり、大規模な反ブレンデッドウイスキー・キャンペーン活動を展開した。
1905年には北ロンドン警察裁判所は、ブレンデッドウイスキーを否決した。翌年にはグレーン業界による控訴審が開かれるが、ここでは結論に至らなかった。
グレーン業界を擁護したのはブレンダーたちである。“高品質のブレンデッドを生むためには、高い比率で多種類のモルトウイスキーを使用する。問題の本質は原酒の過剰在庫と過剰生産にある”とブレンダー側は主張した。
モルト、グレーン、ブレンドの論争はこの後しばらくピートの炎のように揺らめき、燃えつづけた。互いに中傷の泥沼化がはじまる。

1909年ウイスキー論争に決着

シングルグレーンウイスキー知多

シングルグレーンウイスキー知多

1908年、政府は「ウイスキーとその他の飲用スピリッツ」に関する科学者と医者による王立委員会を設置し、技術調査や化学分析までおこなうことになる。
さまざまに折衷案が出されてもいるが、両者が歩み寄ることはなかった。
譲歩がないまま37回もの審理を経て、1909年に王立委員会は決定を下す。
「ウイスキーとは麦芽のジアスターゼで糖化した発酵醪(もろみ)を蒸溜したスピリッツであり、この方法によってスコットランドで蒸溜したウイスキーはスコッチウイスキーである」
つまり、モルトウイスキーもグレーンウイスキーもウイスキーである、そのブレンドも同じく、との決定であった。早い話、グレーン業者が勝利したのである。

現在からすれば、当たり前に飲んでいるブレンデッドウイスキーだが、19世紀末から20世紀はじめにかけてこんな戦いがあったのである。わたしは当時はやっていた(21世紀のいま復活しているが)ウイスキー&ソーダ(ハイボール)を3杯飲んでみた。1杯目はシングルグレーン「知多」。2杯目はブレンデッドの「ティーチャーズ ハイランドクリーム」。そして3杯目は「ティーチャーズ」のキーモルトである「アードモア レガシー」。それぞれに独特の香味個性があり、こころを優しく包み込む。
100年以上前の論争があったからこそ、洗練されたいまがある。モルトがどうとか、グレーンがどうとか、ブレンデッドがどうとか、ぐちゃぐちゃ語るのは愚かなこと。ウイスキーはいいもんだな、酒っていいもんだな、って楽しく飲めばいい。
最後に、現在もウイスキー販売数量の9割はブレンデッドである。

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※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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