シアン化合物とは

アーモンド

シアン化水素の特徴は「アーモンド臭」です

シアン化合物とは、炭素(C)と窒素(N)で構成されるシアノ基(CN-)を含む化合物のこと。シアン化合物は毒物および劇物取締法で毒物に指定されており、その種類には特徴的なアーモンド臭がするシアン化水素や、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化第二水銀などがあります。

シアン化合物の中毒性や対処法、環境基準について、以下で解説します。

シアン化合物の種類とそれぞれの毒性

日常的には意識することのないシアン化合物。ここでは、代表的なシアン化合物であるシアン化水素、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムについて、それぞれどの程度の毒性があるのかを解説します。かなり専門的ですが、毒性を示すものとして「LD50」という指標を用います。LD50とは、「同一集団の動物の50%を死亡させる薬物量」のことです。例えば、「LD50=3700μg/kg(マウス経口)」とあれば、マウスに3700μg/kg食べさせると、100匹中50匹が死んでしまうくらいの毒性がある、という意味です。

■シアン化水素(HCN):猛毒 LD50=3700μg/kg(マウス)
シアン化水素の水溶液を「青酸」と言います。猛毒です。無色で収穫前のアーモンドのような特徴的な臭いがあります。水やアルコールに溶けやすく、主に、殺鼠剤や農薬を含む殺虫薬、ゴム・アクリロニトリルなどの繊維、樹脂などの原材料に使用されています。また、使用鉱石から金属を抽出する時にも使用されており、驚かれるかもしれませんが、一般的なタバコの煙にも微量が含まれています。

また、アーモンド臭がすると言われるシアン化水素ですが、ライマ豆、アーモンド、杏仁、梅などにもシアンが糖分と結合してできたシアン配糖体(アミグダリン、プルナシン)が含まれています。そのため、化学反応でシアン化水素が発生します。このシアン配糖体は果肉より種に含まれているので、こちらの食物に加工品や果肉に関しての毒性はほとんどなく、種を含まれていることが多いです。アンズの種を20~40個食べると、シアン中毒になることが報告されていますが、子どもが青梅2個程度の果肉をかじる程度なら症状は無かったと報告されています。

■シアン化ナトリウム(NaCN):猛毒 LD50=6400μg/kg(ラット)
別名、青酸ソーダと言われるものです。白色の粉末で、水に溶けやすいです。治金(鉱石から金属を採取、精製、加工すること)、鍍金(メッキ)などの金属の加工や殺虫剤の原料として使用されています。顔料の原料としても使われています。酸と反応して、シアン化水素ガスが発生しますので、酸性のものと別に保管しないと危険です。

■シアン化カリウム(KCN):猛毒  LD50=5mg/kg(ラット)
別名、青酸カリと呼ばれています。白色の塊、粉末で、水に溶けやすいです。治金、鍍金に使用されたり、農薬や医薬品の原材料として使用されています。

1年間に230トン? シアン化合物が発生する理由

工場

金属の抽出や精製、加工にシアン化合物は使用されます

少し専門的な話になりますが、化学物質の管理手法として「PRTP(化学物質排出移動量届出制度)」という制度が用いられています。この制度は、有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握・集計し、公表する仕組みのことです(環境省HPより)。

2010年度の報告によると、1年間に230トンのシアン化合物が、化学工業や窯業・土石製品などの製造業、下水道業から大気・河川・海に排出されていたようです。そのうち、金属製品製造業から廃棄物として排出されるシアン化合物は約160トン、下水は約1.1トンに及びます。前述の通り、シアン化合物はタバコの煙にも含まれており、喫煙所からも大気に排出されています。なお、大気中のシアン化水素は、濃度が半分になるのに0.8~1.5年かかると言われています。このように、シアン化合物は猛毒である一方、かなりの量が日常的に発生しており、誰もがごく微量には日常的に触れている可能性のある化合物なのです。

シアン化合物はなぜ危険? シアン中毒の症状・対処法

シアン化合物の体内への吸収は、どこからでも速やかに行われます。その経路は気道や皮膚からが多いものの、時には経口により大変な事件に発展する場合もあります。

■シアン中毒の作用機序と症状
シアン化合物は酸素を運ぶ赤血球の「ヘモグロビン」の鉄部分に結合します。そのため、酸素の代わりに結合してしまったシアン化合物の影響で、赤血球による酸素運搬が上手くいかなくなります。全身に酸素が行き届かなくなった結果、細胞や臓器は無酸素状態となり、細胞は死に至ります。酸素に対して弱い脳や肺、心臓などの臓器から徐々に障害が出てきます。

具体的な急性中毒が起こってしまった場合、皮膚が赤くなる紅潮や頻脈といった症状から始まり、その後、頭痛、頻呼吸、めまい、興奮状態、混迷、昏睡などの意識障害、無呼吸、全身性痙攣、徐脈、血圧低下、肺に血液が停滞する肺水腫と続き、最終的には死に至ります。急性中毒は症状の進行が早く、少量で致死的になります。殺人事件や保険金詐欺などの事件でも有名かもしれません。

一方で、慢性中毒症状には、無力感や頭痛、めまい、神経過敏、体重減少、食欲不振などの症状があります。職業によるシアン化合物の環境暴露により、慢性中毒の症状を訴える人が多いことから、できるだけ環境暴露を避ける必要があります。

■急性中毒への対処法
日常生活を送るうえでシアン化合物の急性中毒になる可能性はほとんどないでしょうが、事件・事故などによる万一の場合には、病状の進行が速いため救急処置が必要です。気道を確保し、100%酸素を投与、輸液を行います。重症であれば、解毒剤(ヒドロキソコバラミン・チオ硫酸ナトリウム)を投与するなど、集中治療が必要になります。

■慢性中毒への対処法
シアン化合物の慢性中毒も、日常生活を送る人がなることは通常はありません。メッキ工場などで発生することがあるため、薬剤の管理と排気などの環境整備が必要とされています。慢性中毒の症状が出た場合、職場に原因があるのなら、作業改善、離職により回復します。結局のところ、シアン化合物との接触を避けることだけが一番の対処法なのです。

シアン化合物の環境基準・規制状況は?

水道法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法、食品衛生法などの多くの法律で規制されています。シアン化合物の種類や状態によって基準値が異なりますが、基本的には検出されないか、検出されても非常に少ない量で規制されています。

シアン化合物は猛毒であるが故にしっかりと規制されています。今後も食の安全から、市場の調査には注目しておくと良いでしょう。
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