食と健康

睡眠不足でダイエット失敗?レム睡眠と脳の意外な関係

「寝不足でいつもより甘いものが食べたい」と感じたことはありませんか? 睡眠不足の人が太りやすいことは、ご存知の方も多いでしょう。最新の研究で、甘いものが食べたくなる原因には、レム睡眠不足と脳の「前頭前皮質」の働きが影響していたことがわかりました。睡眠不足と甘いものへの欲求、糖尿病への影響について、最新の研究を基に詳しく解説します。睡眠の質を改善し、ダイエットの見直しを図りましょう。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

寝不足で太りやすくなる? ダイエット方法の見直しを……

パンケーキを食べる女性

寝不足で太りやすくなることはよく知られています。その理由は甘いものを食べすぎてしまうから。これには脳の前頭前皮質が関係していました

寝不足の人が太りやすいことは、以前からよく知られています。その理由は、特に「レム睡眠」が不足した際に、甘いものや油っこい食べ物を好んで食べてしまうから。では、そのメカニズムは一体どのようなものなのでしょうか?

2016年12月、筑波大学はこのメカニズムについて、「脳の前頭前皮質がこのメカニズムの一部に関与している」という新たな見解を示しました。聞き慣れない「前頭前皮質」の基礎知識を踏まえ、睡眠とダイエットの関係について、詳しく解説します。

睡眠の質を左右する「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」

研究内容を解説するにあたり、まずは睡眠について復習しましょう。布団に入って眠りにつくと、まず始めに深い眠りの「ノンレム睡眠」が現れ、しばらくすると浅い眠りの「レム睡眠」になります。ノンレム睡眠とレム睡眠は約90分サイクルで一晩に4~5回繰り返しているといわれています。

■ノンレム睡眠
深い眠りであるノンレム睡眠は、脳が休息をしている状態です。脳が休んでいるので、ノンレム睡眠のときには夢は見ていないといわれています。昼間に疲れが出て居眠りをしてしまったことのある人も多いと思いますが、この居眠りはほとんどがノンレム睡眠。その証拠に居眠りがわずかな時間であっても、目覚めたときに頭がすっきりしているのを実感できるはずです。ノンレム睡眠中に活動しているのは、身体を支える筋肉、呼吸と心拍を司る器官のみと考えて下さい。

■レム睡眠
浅い眠りと称されるレム睡眠は、身体は眠っているのに脳は起きているような眠りです。夢を見ているのはレム睡眠のときです。目覚めの準備状態とも言われ、レム睡眠のときに目覚めるとすっきり目覚められるといわれています。

 「前頭前皮質」ってどこにあるの? 重要な役割とは

次に、前頭前皮質について説明します。前頭前皮質は頭の見える部分でいうとおでこの辺りにあります。霊長類が最も発達している部分で、他の脳の領域よりも成熟が遅く、20代になってやっと成熟するといわれています。

前頭前皮質には、抽象的な思考に関する神経回路があります。集中力を高めて作業に専念する役割や計算をする時などの一次記憶のほか、高度な精神機能を司っています。高度な精神活動を司る部位なので、ストレスを受けるとパニックを起こしてしまいます。

「前頭前皮質」は甘いものの欲求をコントロールできる?!

ここで、レム睡眠と食欲の関係について、筑波大学で行われた研究をご紹介します。レム睡眠不足が甘いものへの欲求にどう影響するのかがこの研究で証明されました。

■実験方法
レム睡眠だけを減少させることができる器具を使い、レム睡眠不足の状態にしたマウスを、「普通のマウス」と「前頭前皮質の神経活動を抑制したマウス」に分け、同じ食事を与える。

■実験結果
「普通のマウス」では、ショ糖と脂質の摂取量がともに増加。一方で、「前頭前皮質の神経活動を抑制したマウス」では、脂質の摂取量が普通のマウス同様に増加したものの、ショ糖の摂取量が増加せず。

この結果から、寝不足(レム睡眠不足)になると、甘いものが欲しくなるという脳のメカニズムには、脳の一部すなわち「前頭前皮質」が影響していることがわかりました。前頭前皮質が甘いものを食べたいという欲求をコントロールしている可能性が示唆されたのです。

糖尿病予防に! 睡眠時間は「6~8時間」が理想的

生活習慣の中で特に影響を与えるのは、「運動」と「食事」と言われていますが、実は「睡眠」も大きく影響を与えています。糖尿病やメタボリックシンドロームは「生活習慣病」と呼ばれるように、生活習慣によってリスクを増やすことも減らすこともできます。

特に、寝不足と糖尿病との関係は研究が進んでいます。「睡眠時間が6時間未満の人」「睡眠時間が9時間以上の人」は、いずれも「睡眠時間が6~8時間」の人よりも、血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の数値が高い人が多いことが知られています。糖尿病の場合には、夜中にのどが渇いて水を飲み、その30分後にトイレに行くために起きる……といったことを繰り返すため、寝不足を訴えて来院し、糖尿病が発覚するケースも少なくありません。

一方で、加齢とともにレム睡眠が減少することが知られています。高齢化に伴い糖尿病やメタボリックシンドロームなど、肥満と関連の深い疾患が増加するのにも、睡眠の影響が関係しているのかもしれません。

寝つきが悪い夜には、「ホットミルク」がおすすめ

眠れない夜には、お酒を飲むとよく眠れるという話をよく耳にします。ところが、寝酒をしてよく眠れたような気がするのは、単なる気のせいかもしれません。お酒に酔って、朝に不眠の状態をしっかり記憶できていないこともあるでしょうし、寝付けたとしても睡眠の質としては決して良いものではありません。

寝つきの悪さが気になるようであれば、お酒よりもホットミルクを1杯飲むことをおすすめします。カルシウムやマグネシウム、またはアミノ酸の1種であるトリプトファンが含まれており、良質な睡眠をとるにはホットミルクは最適です。

また、骨粗しょう症の予防にも牛乳はおすすめです。骨を作るのに必要な成長ホルモンの分泌が夜間に多いため、骨の材料であるカルシウムも夜間に摂るのが理想的というわけです。骨粗しょう症と牛乳の関係については、「夜に飲むべき!? 「時間栄養学」で考える牛乳の飲み方」を併せてご覧下さい。なお、牛乳のカロリーが気になるという方は、飲む量を調節し飲みすぎには注意しましょう。


本記事で紹介した筑波大学の研究によって、就寝時間が遅くなると甘いものが欲しくなるのは、気持ちの問題だけではなく、「脳の働き」によるものだということが分かりました。ダイエットのためには、早めの就寝を心がけたいものです。
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