メンタルヘルス

禁欲も有効!?うつ気分を予防・解消する心の防衛機制

【医師が解説】沈んだ気持ち、暗い気持ちはなかなか消えないもの。毎日のストレスに悩んでいる方は、ぜひストレスに対する「心の防衛機制」について知ってください。未熟な防衛機制では、心の病気の引き金になることもあります。どのような心のあり方で目指せば良いのか、代表的な心の防衛機制である「利他主義」「想定」「昇華」「抑制」「禁欲」について詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

暗い気持ちを引きずらない! 心理学的に考える「心の防衛機制」

毎日のストレスからしっかり心を守るためには「心の防衛機制」は重要です

毎日のストレスからしっかり心を守るためには「心の防衛機制」は重要です


毎日はなるべく平穏無事にありたいもの。しかし、社会の中で生活している以上、何か予期せぬことが起きたり、失敗して気持ちが暗くなることは珍しくありません。

暗い気持ちを引きずりがちな人は、心理学でいう「心の防衛機制」を知っておくことが有効です。何か暗い気持ちになることが起きた時、自分の気持ちを守るためには、心の防衛機制が「成熟レベル」に達していることが理想的です。「心の成熟レベルが高い」とは、物事への応対が成熟した状態、つまり大人の考え方や対応ができる状態を指します。

では、物事に対するどのような心理反応が成熟レベルといわれるのでしょうか? 心の健康を保つための基礎知識として、「利他主義」「想定」「昇華」「抑制」「禁欲」といった心の防衛機制について、わかりやすく解説します。

<目次>  

誰かの役に立っている! 自分に自信を与える「利他主義」

「利他主義(Altruism)」は、成熟した心の防衛機制の1つとされています。皆さんは誰かの役に立てた時、嬉しい気持ちが湧いてきませんか? たとえそれが些細なことであってもなかなか気分が良いものです。

それは日常的な小さな親切から、災害時のボランティアまでさまざまです。日常的によく見かけるのは、電車の席を必要な人に譲る光景などでしょうか。しかし、中には目の前に座席を必要としている方が立っていても、座席を譲らない人もいるでしょう。ひどく疲れていたから……といったもっともな理由があるのかもしれませんし、もしくは自分だけ楽であれば良いだろう……という考えがその時に出てしまったのかもしれません。

大変苦しい状況下であれば、自分のサバイバルが優先されやすいものですが、一般的に「周りの役に立っている」という意識は自分に価値を見出し、自分に自信を与える大きな原動力になるものです。

一方で、自尊心が低下している時は、精神医学的に、うつ病的な心理傾向が現れていると捉えることもできます。自分に自信がなくなれば、何事にも消極的になり、抑うつ感がさらに深まってしまうかもしれません。そんな時には、周りの役に立つことを意識してみて
ください。自分の自尊心を高め、抑うつを未然に防ぐことができるかもしれません。
 

それで大丈夫? 失敗を未然に防ぐには「想定」が大切

現実をあまり考えずに行動すると、後に大変な思いをすることは多いものです。たとえば、後先を考えずに衝動買いをして、後々苦労したといった経験はないでしょうか?

通常何かをしたくなるということは、もちろんその良い面がはっきり見えたときだと思いますが、それで失敗したとなれば、決断した時に悪い面をしっかり見られていなかったともいえます。原因はその状況にもよりますが、心の防衛機制の1つ「想定(Anticipation)」が足りなかった可能性があります。

想定とは、簡単にいえば、物事に悪いことが起きる可能性をあらかじめ予期しておくことです。悪いことばかり考えてしまう「悲観」とは違います。もし何か良くないことが起き始めた時、必要な対処を迅速に取るためには、「あらかじめその可能性を想定しておくこと」が大切です。
 

「昇華」をして、ネガティブな気持ちを切り替えましょう

社会の中で生活している以上、それぞれ個人が何らかの苦手意識やコンプレックスを抱えているはず。こういったものが何かをきっかけに刺激されれば、心の平穏を保つことも難しくなるでしょうし、時には心身の健康を損なうまでに発展する恐れもあります。

こうしたネガティブな心理を適切に対処することは、心の健康を維持していく上で重要です。そのためには、心の防衛機制の1つ「昇華(Sublimation)」を知っておくと良いかもしれません。

昇華とは簡単に言えば、「心の中にある劣等感といった負のエネルギーを良い方向へ向け直すこと」です。たとえば、自分に何かしら欠点があり、それをからかわれれば、誰でもあまり気持ちの良いものではありません。しかし、そんな心の葛藤をバネにして、頑張り続け、克服、もしくは見返すことができれば嫌な気持ちも晴れることでしょう。昔の偉人が苦難を乗り越え、勉学や仕事を極めた……という話は、昇華の理想の姿でしょう。
 

葛藤がある時には誘惑や欲望に注意! 「抑制」と「禁欲」

エネルギーを向ける方向を間違えないためには、心の防衛機制の1つ、「抑制(Suppression)」も重要です。心に葛藤が強まっている時、人によってはギャンブルやアルコール、ゲームといったものが普段以上に魅力的に見えるものです。こうしたものへの欲求をしっかりコントロールすることが抑制です。これができている方は、既に心の防衛機制は成熟レベルといえるでしょう。

食欲、性欲、金銭欲……。欲望は毎日を頑張る原動力にもなれば、トラブルの要因にもなり得るもの。欲望に負けてさらなるトラブルを招かないためには、前述の「抑制」が重要になってきますが、少し極端に言えば「禁欲(Asceticism)」という選択肢もあります。

実は、禁欲も成熟した心の防衛機制の1つとみなされています。実際、酒を断つ、ギャンブルを断つ、あるいは贅沢を控えて質素に暮らす……など、禁欲の内容は人によって変わりますが、何らかの欲望を抑えることで心が平穏になった人は少なくないはずです。禁欲は決して世の楽しみを捨てる……といったわけではなく、何か特定の、好ましくない結果を生み出す欲望に気がとらわれないように、あえてそれに近づかないといったように考えてみるとどうでしょう。

以上、今回は成熟した心の防衛機制とされる、「利他主義」「想定」「昇華」「抑制」「禁欲」について、詳しく解説しました。では、最後にもう1つ、「ユーモア」について。気持ちを明るく、毎日の生活を楽にするためには「笑うこと」が一番です。サラリーマン川柳などは、まさにこの「ユーモア」が心の防衛機制としてしっかり作動して生み出された芸術作品といえるかもしれません。何か嫌なことがあった時は、そんな気持ちを川柳にしてみるくらいの気持ちの余裕が持てたら、それから受ける心の辛さはかなり違ってくるでしょう。
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