2016年も残すところわずか。年の瀬には、人間の内面を掘り下げた再演舞台『貴婦人の訪問』『Play a Life』が登場するいっぽう、ついにヴェールを脱ぐ日本初演『マーダー・バラッド』『わたしは真悟』『プリシラ』『ノートルダムの鐘』も開幕。年末まで目の離せないミュージカル界です!

*11~12月開幕の注目!ミュージカル
『貴婦人の訪問』11月12日開幕←観劇レポートUP!
『Play a life』11月16日開幕←広瀬友祐さんミニ・インタビュー&観劇レポートUP!
『わたしは真悟』12月2日プレビュー←観劇レポートUP!
『プリシラ』12月8日開幕←稽古場&観劇レポートUP!
『嵐の中の子どもたち』12月23日開幕←観劇レポートUP!

*今月の話題の映画
『戦火の馬』(ナショナル・シアター・ライブ)11月11日上映初日

*All Aboutミュージカルで特集のミュージカル
『マーダー・バラッド』出演・平野綾さんインタビュー&観劇レポートを掲載!
『ノートルダムの鐘』オーディション&製作発表、稽古レポート&演出家・キャストインタビュー、観劇レポート、作曲家インタビューを「完全レポート」として掲載!
『キャバレー』出演・小池徹平さんインタビューを掲載!
『ロミオ&ジュリエット』出演・大野拓朗さんインタビュー古川雄大さんインタビュー平間壮一さんインタビューを掲載!
『フランケンシュタイン』出演・小西遼生さんインタビューを掲載予定

プリシラ

12月8~29日=日生劇場
『プリシラ』Photo by Leslie Kee

『プリシラ』Photo by Leslie Kee

【見どころ】

1994年に公開され、カルト的な人気を博したオーストラリアのロード・ムービーが、06年に同国で舞台化。以来、英米はもちろん世界各地で上演されてきた本作が今回初めて、日本で上演されます。

都会から砂漠の町に赴くことになった3人のドラァグクイーンの珍道中を彩るのは、ドナ・サマーやティナ・ターナー、シンディ・ローパーらの往年のヒット曲と、目にも鮮やかな極彩色の衣裳たち。日本版では旅の発起人となるティックを山崎育三郎さん、また性転換者で夫を亡くしたばかりのバーナデットを陣内孝則さん、そして年若くちょっと生意気なアダムをユナクさん(超新星)、古屋敬多さん(Lead)がダブルキャストで演じ、既に宣伝ビジュアルで予想以上に(!?)美しい女装姿を披露しています。稽古を挟んで、本番での彼ら(彼女たち)のドラァグクイーンぶりにどこまで磨きがかかるか。また“ポップスはお手のもの”の彼らがあの名曲・この名曲をどう聴かせるか、大いに期待できそうです。

【稽古場レポート】
『プリシラ』稽古より、山崎育三郎さん。(C)Marino Matsushima

『プリシラ』稽古より、山崎育三郎さん。(C)Marino Matsushima

二室に分かれて進行していた、この日の稽古。メインキャストが集まっての抜き稽古を訪ねると、既にキャストはスタンバイ。開始時刻となって演出の宮本亜門さんが現れ、まずは台本細部の変更連絡。“この台詞、“に”が近いところで二度登場するので、一つは取りましょう”など、日本語の語感にもこだわり、日々細やかに検討されていることがうかがえます。一度さらりと本読みを行い、亜門さんが“じゃあ、やりましょう”と立ち上がり、机を部屋の端に寄せると、キャストも次々に立ち上がり、しゅっと場の空気が引き締まる。これから、このシーンの動きがつけられるのです。
『プリシラ』稽古より、左から古屋敬多さん、陣内孝則さん(C)Marino Matsushima

『プリシラ』稽古より、左から古屋敬多さん、陣内孝則さん(C)Marino Matsushima

場面は2幕半ば、3人が目的地に到着するも、感情がむき出しになるシーン。ティックに無鉄砲な行動を責められたアダムは泣き出し、バーナデットに慰められます。亜門さんがてきぱきとバーナデットの立ち位置を決め、自ら動きながらティックたちの動線を示すと、一緒に動いていたキャストは瞬時に把握、台本を手放して早速シーンの輪郭を見せていきます。まずは動きを体に入れ込む段階とはいえ、山崎育三郎さんは一発目から感情を全開、叱責される古屋敬多さんは自然と涙目。そこにさりげなく言葉をかける陣内さん、照れて自分に突っ込みを入れるくだりで、お茶目な表情を差し挟みます。
『プリシラ』稽古より、左からユナクさん、陣内孝則さん(C)Marino Matsushima

『プリシラ』稽古より、左からユナクさん、陣内孝則さん(C)Marino Matsushima

キャストが変わってアダム役がユナクさんになると、先ほどかわいらしく見えていたアダムが今度はちょっとセクシーに見え、ほんの数分の場面でもダブルキャストの醍醐味たっぷり。山崎さんは休憩時間にも“ここにこの音が来ると、ブレス(息つぎ)が……”と、訳詞のごく細かい部分について亜門さんに相談したり、古屋さん、ユナクさんと振りを確認し合ったりとフル回転。主演俳優としての責任感が漲ります。

さて別室に移ると、こちらは2幕頭のカントリーボーイたちの振付中。西部の暮らしを謳歌する人々の楽天的なナンバーを、フォークダンスのテイストも交えながら少しずつ組み立てていましたが、もう一室での抜き稽古といい、こちらの振付といい、限られた時間で細部にこだわりつつ、実に丁寧に作られています。筆者はこの舞台をシドニーで観た際、単に華やかな“懐メロ”依存ミュージカルとなる可能性もあってバランスが難しい作品かも、と感じましたが、この細やかさを見れば日本版は心配ご無用。
『プリシラ』ダンスナンバーの稽古。左から谷口ゆうなさん、大村俊介さん、和音美桜さん(C)Marino Matsushima

『プリシラ』ダンスナンバーの稽古。左から谷口ゆうなさん、大村俊介さん、和音美桜さん(C)Marino Matsushima

そうそう、この場面にはティックの別居中の妻マリオン役の和音美桜さん、ディーバ役の3人やシャーリー役・谷口ゆうなさんも参加。『レディ・べス』『レ・ミゼラブル』など静的な役の多い和音さんが快活に踊る図……かなりレアな光景(?)ですので、お見逃しなく!

【観劇レポート】
綺羅星のような80年代ポップスに彩られ
大らか&ゴージャスに描かれる“人間愛”

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

「社会がまだLGBTのことを理解していなかった頃の物語」のフレーズが照らし出され、舞台上の楽屋セットには主人公ティック(山崎育三郎さん)が登場、メイクを始めようとする。
『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

すっきりとシンプルな舞台、と思いきや、賑々しいサウンドとともに、ディーバ3人組(ジェニファーさん、エリアンナさん、ダンドイ舞莉花さん)が宙乗りで降臨。(この構図を観て14年のメトロポリタン・オペラ『ラインの黄金』冒頭シーンを思い出したのは筆者だけでしょうか!?) 
『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

砂漠の真ん中の町、アリス・スプリングスのカジノでショーを行うことになったティックは、伴侶を亡くしたばかりのトランスジェンダー、バーナデット(陣内孝則さん)と美しく小生意気なドラァグクイーンのアダム(ダブルキャスト・この日のキャストは古屋敬多さん)を誘いますが、品のいい「ご婦人」ドレスを着こなす陣内さん、ボンテージ衣裳でマドンナになりきる古屋さん(女性も見惚れる脚線美)の役へのはまりっぷりと言ったら!
『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

そんな彼らが「Don’t Leave Me This Way」(コミュナーズ)や「Material Girl」(マドンナ)をはじめ、80年代を彩った数々のポップスを歌う姿は爽快です。(イントロが始まる度に歓声があがるような“懐メロ依存ミュージカル”の方向に向かってゆかないのは、英語圏のプロダクションとは異なり、歌詞のほとんどが丁寧に翻訳され、キャストもあくまで“ヒット曲”としてではなく、作品世界の文脈で歌っているためでしょう)。
『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

旅の途中で車が故障し、立ち寄った町で欲求不満気味の人妻シンシア(ダブルキャスト・この日はキンタロー。さん)に対抗意識を燃やされ、仰天パフォーマンスを見せつけられたり、バーナデットが気のいい修理工ボブ(石坂勇さん、滋味があり魅力的)と急接近するといった紆余曲折を経て、一行はついにアリススプリングスへ。それまで“受け身の主人公”だったティックはついにこれまで会ったことがなかった息子(ダブルキャスト、この日は加藤憲史郎さん)と対面、物語の前面へと躍り出ますが、不安な心を乗り越えようとするくだりで山崎さんの演技が光ります。
『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

ここで彼がしきりに息子との対面、対話を恐れていたのは、冒頭で示されたように、それが「社会がまだLGBTを理解していなかった時代」であったため。(実際、劇中には前時代的な男たちによってアダムが蹂躙される、痛々しい描写もあります。)しかしそんなティックに対して、息子ベンジーは思いがけない言葉を発する。このベンジー君の発想はほかならぬ母マリオン(和音美桜さん)のリベラルな教育の賜物なのですが、これを起点に登場人物たちは“同士”から緩やかな“ファミリー”として、新たな絆で結ばれてゆきます。出番はそう多くないものの、結果的にこの結末の仕掛け人となる“グッジョブ”なマリオンを、さらりと演じる和音さんが爽やか。

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

『プリシラ』写真提供:東宝演劇部

日生劇場も狭く感じさせるほどゴージャスなセット、衣裳が次々に飛び出す舞台ではあれど、いかにも作品の舞台、オーストラリア的なおおらかさの中、人間愛という素敵な終点へと着地させる日本版『プリシラ』。デートにもぴったりな、心温まる舞台です。

貴婦人の訪問

11月12日~12月4日=シアタークリエ、12月9~11日=キャナルシティ劇場、12月17~18日=中日劇場、12月21~25日=シアター・ドラマシティ
『貴婦人の訪問』写真提供:東宝演劇部

『貴婦人の訪問』写真提供:東宝演劇部

【見どころ】

スイスの作家デュレンマットの小説を舞台化して昨年日本で初演、人間の業を深くえぐりだした舞台として高く評価されたウィーン・ミュージカルが、アンコールに応えて再登場。かつて恋人に手ひどく裏切られ、町を追われた女クレアが、数十年後、大富豪の未亡人として帰還。彼女の思いがけない申し出によって人々の本性があぶりだされてゆく様が、迫力の音楽に乗せて描かれます。

かつてクレアを愛した雑貨店主アルフレッド役に山口祐一郎さん、クレア役に涼風真世さん、市長役に今井清隆さん、警察署長役に今拓哉さん、校長役に石川禅さん、牧師役に中山昇さんと初演メンバーが揃う中で、今回はアルフレッドの妻マチルデを瀬奈じゅんさんが担当。実力派スターたちが集結し愛憎、欲望、絶望、愚かさ、儚さ…と、人間のさまざまな側面をさらに色濃く描き出してくれそうです。

【観劇ミニ・レポート
人間の愚かさと儚さを
圧倒的な“厚み”をもって描く寓話】

『貴婦人の訪問』写真提供:東宝演劇部

『貴婦人の訪問』写真提供:東宝演劇部

初演から1年、マチルデ役以外のメインキャストは再登板ということもあり、今回の再演はさらに滑らかに、隙無く流れながらも、各役の造型がいっそうくっきりとしたものに。特に市長に警察署長、校長、牧師といった町の要人たちが、根っからの“悪人”ではないものの、それぞれの立場から倫理観をかなぐり捨ててゆく様が今井清隆さん、今拓哉さん、石川禅さん、中山昇さんの手堅い演技で浮き彫りとなり、人間の“弱さ”が束となって社会全体を狂気に駆り立てる構図が鮮やかです。
『貴婦人の訪問』写真提供:東宝演劇部

『貴婦人の訪問』写真提供:東宝演劇部

涼風真世さんは非情な申し出で人々の倫理観を揺さぶるクレア役にさらにダイヤモンドのような磨きをかけていますが、ところどころで漏れ出る“女心”に悲痛さが増し、前回よりもその内面に心を寄せやすいクレア像と言えるかもしれません。また初登場のマチルデ役、瀬奈じゅんさんは夫に依存しきっていた妻が皮肉にも、この非常事態に直面することで“脱皮”し、自立してゆく姿を堅実に演じ、物語をより立体的に見せています。
『貴婦人の訪問』写真提供:東宝演劇部

『貴婦人の訪問』写真提供:東宝演劇部

この舞台を観るにつけ、難しい役どころだと思われるのが主人公のアルフレッド。“脛に傷持つ”身、それも潔い大悪党ではなく小心者でかつて打算に転んだ役柄ながら、主人公として最後まで観客の視線(同情)を集めなければならない。とりわけ日本人の感性としては、あまりリアルに彼の焦燥を表現されても観る側はいたたまれない、という面もあります。そんな難役アルフレッドを、山口祐一郎さんは優柔不断さに絶妙の“ふんわり”とした軽やかさを加え、生々しい人間ドラマを“寓話”へと転換。さらに今回は後半、マチルデ、クレアとの対峙、そして裁判において諦観のオーラを漂わせ、何とも言えない感慨深さが残ります。

ウィーン・ミュージカルらしい、肉厚で迫力のある音楽に彩られながら、人間の愚かさと儚さを描く本作。その日本版は、キャストの豊かな表現力を得、エンタテインメント性と人間ドラマとしての迫真性がこれ以上ないバランスで同居していると言えます。

*次頁で『Play a life』ほかの作品をご紹介します!


Play a Life

11月16~21日=すみだパークスタジオ倉
『Play a life』青猫チームの稽古より。(C)Marino Matsushima

『Play a life』青猫チームの稽古より。(C)Marino Matsushima

【見どころ】

男女の愛と“今を生きること”を描いて昨年初演、好評を博したTip Tapのオリジナル・ミュージカルが、新キャストで再登場。教育実習生との交流を通して自分自身と向き合う高校教師と、その妻のある秘密とは……?

来年は『キューティ・ブロンド』を演出予定の上田一豪さんが、以前から抱いていた思いを反映させて執筆し、小澤時史さんの音楽とともに繊細に織り上げた作品。今回は黒猫チーム(上野聖太さん、麻尋えりかさん、吉田萌美さん)、青猫チーム(広瀬友祐さん、塩月綾香さん、嘉悦恵都さん)、白猫チーム(原慎一郎さん、木村花代さん、田中里佳さん)のトリプルキャストでの上演となります。男性の人生観、恋愛観を深く掘り下げた作品とあって、特に女性の観客にとっては“男心”を知る絶好の機会(!?)かもしれません。

【青猫チーム 広瀬友祐さんミニ・インタビュー】
広瀬友祐undefined85年東京都出身。『メリリー・ウィー・ロール・アロング』『1789』『エリザベート』等に出演。来春は『ロミオ&ジュリエット』でティボルト役に抜擢。小池修一郎さん演出作品が続くが「いい意味で裏切って、ご期待以上のものをお見せしたいです。一つ一つの積み重ねから理想の表現者に近付いていけたら」と言う。(C)Marino Matsushima

広瀬友祐 85年東京都出身。『メリリー・ウィー・ロール・アロング』『1789』『エリザベート』等に出演。来春は『ロミオ&ジュリエット』でティボルト役に抜擢。小池修一郎さん演出作品が続くが「いい意味で裏切って、ご期待以上のものをお見せしたいです。一つ一つの積み重ねから理想の表現者に近付いていけたら」と言う。(C)Marino Matsushima

――広瀬さんは近年『1789』や『エリザベート』など、大劇場公演が続いていますが、今回、小劇場でのミュージカルに出演を決めた理由は?

「Tip Tapの公演には14年にも『Count Down My Life』で出演させていただきましたが、もともと僕は小劇場が好きで、下北沢の駅前劇場の芝居などよく観ていました。本作のテーマは自分自身は体験していないことだし、そもそも結婚もしていないので“夫”役が出来るか不安もありましたが、だからこそ“無”から生み出してみたい、とチャレンジを決めました」

――稽古が始まって2週間程とのことですが、現時点で手ごたえは?

「正直、今は一番苦しい時期かと思います。大まかな流れは出来てきましたが、芝居はなまもので日々発見がある。初日までに一番見つけづらいものを探し出そうと、細かい作業を積み重ねている段階です」

――演じる“夫”役の恋愛観や人生観について、どう感じていらっしゃいますか?
『Play a life』青猫チームの稽古より。小劇場の距離感を意識した広瀬さんの演技は至ってナチュラル。大劇場での演技とはまた違った色気が漂います。(C)Marino Matsushima

『Play a life』青猫チームの稽古より。小劇場の距離感を意識した広瀬さんの演技は至ってナチュラル。大劇場での演技とはまた違った色気が漂います。(C)Marino Matsushima

「これだけ人を思える(愛せる)ものなのか、と彼の気持ちの強さに驚きますね。僕は小さい人間なので(笑)、ここまでのことはできないと思います。でも自分にはないものだからこそ、そう感じさせないように表現したい。この作品はおそらくご覧になる方によって、感情移入するキャラクターが違うと思うんですよ。どういう感想がいただけるか、僕自身も楽しみですね」

――今回は3組の競演となりますが、それぞれどんなカラーがありますか?

「やはりそれぞれかなり異なりますね。黒猫チームはリアルで大人の雰囲気だし、白猫チームはパワフルなのに繊細。それに対して僕らの青猫チームは若い感じ、かな? 僕の好きな言葉に“出会うために生きる”というものがあって、出会いが全てだと思うんですね。今回の作品や共演者たちにも出会った以上は感謝と責任をもって、自分ができる精一杯、取り組みたいと思っています」

【観劇レポート】
『Play a life』青猫チーム。写真提供:Tip Tap

『Play a life』青猫チーム。写真提供:Tip Tap

開演時刻の前から舞台に佇み、それぞれの役の“日常”を垣間見せる3人。時間が来ると教育実習生役の嘉悦恵都さん(青猫チーム・以下同)が、本作のテーマソング的なナンバー「今を生きる」を歌い始め、夫役の広瀬友祐さん、妻役の塩月綾香さんも加わります。明るく、爽やかなメロディ(作曲・小澤時史さん)を柔らかく歌い上げる3人。小劇場ならではの、アットホームにして息遣いがダイレクトに伝わる歌唱が、心地よい幕開けです。

世界史の教育実習で指導担当となったのは、映画好きの男性教師。どこかマイペースな彼との交流の中で、実習生は彼とその「妻」の秘密を知る。放っておけない実習生は或る行動に出るのだが…。
『Play a life』青猫チーム。写真提供:Tip Tap

『Play a life』青猫チーム。写真提供:Tip Tap

男女の愛の永遠を「男性目線」で描いた本作は、「夫」役の在り方によって全く趣が異なりそうですが、昨年の初演の小林遼介さんがエネルギッシュに舞台を牽引していたのに対し、今回の広瀬さんはふんわり、ナチュラルな存在感。確かに音符をとらえて歌っているにも関わらず「歌っている」ことを全く感じさせないその歌唱が、ミュージカルの作為性をきれいに浄化しています。『1789』等、大劇場での活躍が目立つ広瀬さんですが、今回は小劇場ミュージカルとの相性の良さを証明。日本のオリジナル・ミュージカル界にとっても貴重な存在となってゆきそうです。

*次頁で『わたしは真悟』ほかの作品をご紹介します!

わたしは真悟

12月2~3日(プレビュー)=KAAT神奈川芸術劇場 ホール、12月9日=浜松市浜北文化センター大ホール、12月15日=富山市芸術文化ホール オーバー・ホール、12月23~25日=ロームシアター京都メインホール、2017年1月8~26日=新国立劇場中劇場
『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

【見どころ】

1980年代に人工知能の時代を予見、現在もカルト的人気を誇る楳図かずおさんの同名漫画が“まさかの”ミュージカル化。純粋に愛し合う小学生、真鈴と悟が遊び道具にしていた工場のアームロボットが自我を持ち、自らを「真悟」と名付ける。そして離れ離れとなり危機が迫った二人を救うため、壮大な旅に出る様を描きます。

純真な子供の世界からいつの間にか放り出されてゆく主人公を演じるのは、高畑充希さん(真鈴)と門脇麦さん(悟)。大人へと成長してゆく“痛み”を、若手女優ならではの感性で豊かに表現してくれそうです。また『エリザベート』で強烈なルキーニ役を演じた成河さんが、今回は無機質な「機械」から感情を持ち、人間を超えるほどの純粋な愛に突き動かされてゆく「真悟」役をいったい、どう演じるか。演出は10月末の自らのカンパニー公演『コンタクト』でも、舞台芸術の無限の可能性を見せてくれた振付家、フィリップ・ドゥクフレさん。イマジネーションに溢れた新作舞台に、大きな期待が寄せられます。

【観劇レポート】
音、言葉、ビジュアルがダイナミックに絡み合い、生まれる
“失われた無垢”へのオマージュ

『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

開演前、舞台上手では4人のミュージシャンがテクノサウンドを操り、下手では黒子たちがロボットアームに無機質な動きを繰り返させている。加工音声による場内アナウンスを挟んで改めて開幕すると、ゼンマイのように回転しながら人々が登場。“東京タワー”を登る二人の子供たち(悟=門脇麦さん、真鈴=高畑充希さん)を見て慌てふためく様を、互い違いにビートに乗って動き、描写します。大人たちの混乱をよそに、固い決意でてっぺんに登りつめ、「私たち、一生のうち今が一番幸せなのかもしれない」と暗に作品テーマを語る二人。悟の「やるんだ!」という叫びとともにシーンは暗転し、音、台詞、動きがダイナミッ クに絡み合った光景は、一人の俳優(成河さん)がその肉体を使ってロボットアームの自我の覚醒を表現するシンプルな場面へと、バトンを渡して行きます……。
『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

日本のとある町工場を起点に宇宙をも巻き込み、壮大なスケール感で展開してゆく漫画『わたしは真悟』。およそ舞台向きとは言えない本作を、創意あふれる振付家・演出家として知られるフィリップ・ドゥクフレは、長大な物語を削ぎ落とし、子供たちとロボットアーム“真悟”の愛と成長の物語として凝縮した脚本(谷賢一)を軸に、独創的な音楽(トクマルシューゴ、阿部海太郎)・映像(オリヴィエ・シモラ、ローラン・ラダノヴィッチ)・美術(エリック・マルタン)、そして出演者たちの卓越したパフォーマンスを束ねて舞台化。“1980年代の日本”に限定されない、普遍的にしてユニークな世界を作り上げています。
『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

中でも特筆に値するのが、子供たちが出会いの記念にと知能を与えたことで自我に目覚め、進化を遂げてゆく工場の機械“真悟”の表現。舞台上では、3人の黒子たちが模型を操って演じる“実体”と、それを客観視しながら物語る“自我”とに分けて表されますが、黒子たちの巧みな操作もさることながら、コンテンポラリーダンス的な動きを取り入れつつ舞台空間を自由自在に動き、無感情から少しずつ感情を帯びて物語る“自我”役・成河さんが圧倒的。真悟が“四角から三角へ、そしてマル”へと進化する過程で、ついにその声にかかっていたイフェクトが完全に解かれ、成河さん本来の声が初めて響く瞬間は感動的です。
『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

また“大人になること”を拒みながらも、いつしか無意識的に成長してゆく子供たちの表現も的確。門脇さんはやや素っ頓狂な発声で少年の無垢をよく表し、長い手足はナチュラルに“男の子らしく”動きます。いっぽう、高畑さんは人間の身体をコラージュした映像とダンサーたちの生身の動きが作り出す壮観のビジュアルに負けることなく、“大人になりたくない”心境を凛とした声で歌い切り、いざ大人になってしまった瞬間の女の子特有の“案外、平気”感も、ちょっとしたしぐさで表現。強い印象を残します。
『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

『わたしは真悟』写真提供:ホリプロ

ストーリーを額面通りに受け止めれば、本作は“悲劇”でしかありませんが、フィリップ・ドゥクフレが今回、フォーカスしたのは悟と真鈴、そしてロボットアーム“真悟”が、最終的に象徴するもの。ストーリーが語り終えられた後、成河さんは或る、美しい光景の中に入ってゆき、そこに参加する。日本もフランスも、また1980年代も現代も関わりなく、かつて子供だったすべての大人たちの心の中にある、それは“無垢なる子供時代”の象徴です。ある日を境に失われ、二度と取り戻すことのできない時間はここでは永遠に続くかのように描かれ、そして儚く消えてゆく。ここに辿り着くために全てが組み立てられて来たのだろうと思える、珠玉のラストシーンが待つ舞台です。

*次頁で『嵐の中の子どもたち』ほかをご紹介します!

嵐の中の子どもたち

12月23日~1月9日=自由劇場
『嵐の中の子供たち』

『嵐の中の子どもたち』

【見どころ】

81年に初演、全国公演などで上演を重ねてきたファミリー・ミュージカルが、自由劇場に初登場。アイバン・サウスオールの『ヒルズ・エンド』(嵐によって孤立することになったオーストラリアの子どもたちのサバイバル物語)とヘンリー・ウィンターヘルトの『子どもだけの町』(子供たちのいたずらのせいで大人たちが町からいなくなってしまう物語)を原作とし、嵐に見舞われた村で生き抜く18人の子供たちの姿を描きます。

近年、様々な天災に見舞われている日本では決して“遠くない”身につまされるテーマでもありますが、対立を乗り越え、「友情」「信頼」「思いやり」など、人としての“根っこ”を少しずつ学び、心を合わせて困難に立ち向かってゆく子供たちの姿からは、きっと明日を生きる「勇気」が湧いてくることでしょう。子供たちを体当たりで演じる劇団四季の若手(新人)俳優たちの奮闘、そして終演後ロビーでの、彼らによる「お見送り」も楽しみな舞台です。

【観劇ミニ・レポート】

『嵐の中の子どもたち』撮影:下坂敦俊

『嵐の中の子どもたち』撮影:下坂敦俊

幕が開くと、そこでは村の開拓記念日を祝う人々が集まり、楽しくダンス……と思いきや、二つの子供グループの喧嘩が勃発。『ウェストサイド物語』さながらのスリリングな立ち回りを皮切りに、本作では対照的な二組の子供たちが、“子供だけで村に取り残され被災する”という絶体絶命の状況を機に、対立から協力、再び対立、そして……と、少しずつ成長してゆく姿を、台詞や歌のみならず、ふんだんなダンスを通して描いてゆきます。

他のファミリーミュージカルと比べても動きが多く、ハードに見える本作ですが、演じる若手俳優たちはいたって溌溂。振付(山田卓さん)に頻出する、20人近い子供たちが舞台に一列に並び、同じ動きを行う場面での息の合い方、客席に放たれる“気”は圧倒的です。特に乱暴者(と思われている)“山賊団”のリーダー・ボブ役、田邊祐真さんの気概溢れるダンスは、見どころの一つ。二つのグループの仲がひどくこじれてしまった瞬間に「すてきな仲間」を歌い、和解を訴えるビッキ―役、長谷川彩乃さんのまっすぐな歌声も光ります。
『嵐の中の子どもたち』撮影:下坂敦俊

『嵐の中の子どもたち』撮影:下坂敦俊

天災がモチーフの一つとなっているだけに、本作には“かわいらしい児童文学”の枠におさめてはならないシリアスさがありますが、この子供たちが終盤に起こす一つの奇跡は、様々なシチュエーションで絶望の淵にある人々にも、小さな希望を見せてくれるのではないでしょうか。

なお、重いテーマを扱っているだけに小さい子供にはどう見えるだろうと思いつつ、今回、筆者の6歳の子を連れていったところ、“ダンスがたくさんで楽しかった”と、自分の好きな要素を中心に楽しんでいた模様。また子供役がたくさん出てくるのがツボで、上演中、舞台と手元のパンフレットの人物紹介イラストを懸命に見比べながら、“私のお気に入りさんは……”と、終演後の“お見送り”で握手していただくお目当てのキャラクターを探していました。シェイクスピア劇や蒸気機関車の操作に関する台詞などもあり、文学や考古学、理科への興味も少しずつ刺激してくれる作品です。

【今月上映の話題の映画】

戦火の馬』(ナショナル・シアター・ライブ)

11月11~16日=TOHOシネマズ(日本橋、六本木ヒルズ、梅田、天神ほか)
『戦火の馬 War Horse』(C) Brinkhoff Mo?genburg

『戦火の馬 War Horse』(C) Brinkhoff Mögenburg

【見どころ】

マイケル・モーパーゴの小説を3人遣いのパペットを取り入れて07年に英国ナショナル・シアターが初演、世界的なセンセーションを巻き起こした舞台が、1週間限定で日本の映画館でも上映。飼い主の少年から引き離されて戦地へ送られた馬ジョーイと、彼に関わる少年、英国兵、ドイツ兵、そしてフランスの農家の少女たちの運命が描かれます。

等身大の馬のパペットを滑らかに操作するパペット遣いたちの動きも迫真のカメラワークで堪能できますが、劇中折々に登場する「ソングマン」にもご注目。直接的な“ナレーション”ではなく、場面の時代を彩るオリジナル曲をアイルランド民謡風に無心に歌う歌手が素晴らしい。幕間の「おまけ映像」として作者モーパーゴと演出家マリアンヌ・エリオットも登場、ユーモアを交えてポイントを語ってくれます。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。