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配偶者控除と103万円の壁の見直しに注目

配偶者控除の見直しと、103万円の壁の見直しが議論されています。女性の働き方、夫婦の働き方の今後を左右するこの話題。ニュースがわかるように103万円の壁、配偶者控除の基本と、いま議論されているニュースのポイントを解説します。

氏家 祥美

執筆者:氏家 祥美

女性のためのお金入門ガイド

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103万円の壁の見直しを検討中

年末になるとパート時間を調整する女性が増える

年末になるとパート時間を調整する女性が増える

毎年、年末が近づくと、電卓をたたきながら、年収が103万円を超えないようにパート時間を調整する主婦が相次ぎます。この原因になっているのが、103万円の壁です。

12月に発表される税制改正大綱の作成に向け、いま、この103万円の壁の見直しが活発に議論されています。そこで今回は、103万円の壁を超えると、どんなデメリットがあるのか。この壁はそもそもどうして103万円の壁なのか。また、この103万円の壁がこれからどんな風に変わろうとしているのかについて、お話ししたいと思います。

103万円の壁を越える3つの影響

103万円の壁は所得税の壁です。
130万円の壁(一部106万円の壁)が社会保険料の壁であるのに対して、まずはここをしっかりと押さえておきましょう。103万円を超えて働くと主に3つの影響があります。

(1)妻自身に所得税がかかるようになる
(2)夫が配偶者控除を受けられなくなる
(3)夫の会社から家族手当(配偶者手当)がもらえなくなることも


ただし、この3つがすべての人に影響するわけではありませんし、103万円を超えたからといってどーんとお金を持っていかれるわけではありません。

妻自身の所得税は103万円を超えた部分にだけかかる

それではさっそく
(1)妻自身に所得税がかかるようになる 
から考えていきましょう。
ではさっそくひとつめの質問です。
「妻の年収が105万円だった場合、妻は所得税をいくら払うことになるでしょう?」

答えは……1000円です。

所得税は103万円を超えて働いた部分にしかかかりません。つまり、105万円の年収があった場合、103万円を差し引いた残りの2万円に対して所得税率をかけていきます。この場合、日本の最低所得税率5%が該当するので、2万円×5%=1000円が妻の所得税率になります。所得税だけなら、実はそんな大きな負担ではなくて、働いて増える収入の方がずっと大きいということがわかります(このほか、100万円を超えた部分に住民税が10%かかります)。

なぜ103万円なのか

103万円の壁の103万円は、

基礎控除(きそこうじょ)38万円+給与所得控除(きゅうよしょとくこうじょ)65万円=合計103万円

からきています。

控除(こうじょ)という言葉が出て来たら、控除=差し引くと言い換えて考えてください。所得税の計算では、年収から基礎控除38万円と、必要経費として差し引ける給与所得控除(65万円~、年収に応じて変わる)を先に差引き、残った金額に所得税率をかけていきます。

年収が103万円以下の場合、基礎控除と給与所得控除を差し引いて残る所得が0円になるため、所得税がかかりません。

(2)夫が配偶者控除を受けられなくなる。
妻が年収103万円以下の場合、妻は所得がないとみなされて所得税がかかりません。所得がない妻を養う夫は独身者よりも経済的負担が重いので、税金負担を軽くしてあげましょう、という配慮から、年収103万円以下の妻を養う夫の年収からは、配偶者控除として38万円が差し引かれます。

この配偶者控除38万円が差し引かれて夫が得する金額は、
夫の所得税率が10%の場合には、所得税3.8万円+住民税3.3万円=7.1万円。
夫の所得税率が20%の場合には、所得税7.6万円+住民税3.3万円=10.9万円
となります。
(※住民税の配偶者控除は33万円、住民税率は10%)

このように、高所得な夫ほど所得税率が高くなるため、配偶者控除のメリットが大きくなります。妻の年収が103万円を超えると配偶者控除が利用できなくなりますが、103万円超141万円以下の場合には、所得が1000万円以下の夫は配偶者特別控除が段階的に利用できるため、夫の手取りが急激に減るわけではありません。

(3)夫の会社から家族手当(配偶者手当)がもらえなくなることも
103万円の壁に関して、一番気を付けるべきなのは実はこれ。夫の勤務先から家族手当や配偶者手当をもらっている場合には、妻が103万円の壁を越えて働くことのダメージが大きくなります。こうした手当の支給要件は会社によって異なり、妻の年収を103万円以下までとしている場合と、130万円以下までとしている場合があります。

もしも夫の会社から家族手当や配偶者手当を今もらっている場合には、毎月いくらの手当があるかと、その支給基準となる妻の年収を確認してみてください。

103万円の壁が150万円の壁になる?

配偶者控除の見直しは、当初、妻の収入の限度額を問わずに一定額を差し引く夫婦控除への転換を中心に話し合われていました。年収制限のない夫婦控除にすれば、103万円の壁のような就労調整を引き起こすことなく女性の労働力の拡大につながると考え、それが税収の拡大につながると考えたからです。

しかし、夫婦控除への転換は今回見送られることになりました。夫婦控除は、これまで配偶者控除の恩恵を得られなかったフルタイムの共働き夫婦などにとって追い風となる制度であり、女性の就労拡大への後押しになるともいわれていました。その一方で、なぜ「夫婦単位にこだわるのか」「実質的な独身税じゃないか」など、問題点も指摘されていました。

その後は、配偶者控除の対象を103万円以下の配偶者から150万円以下の配偶者に拡大するという案が中心に議論されています。配偶者控除の対象を150万円まで引き上げれば、103万円以下に就労を押さえていた人がもっと働くきっかけとなるでしょう。ただし、金額が変わっただけで、女性の就労調整という問題を解決することにはなっていません。女性は家のことを今まで通りやってほどほどに働いてほしいというメッセージを国が送っているといわれても仕方がありません。

私自身は、この際、配偶者控除そのものを廃止すべきだと考えています。女性も男性も近年はライフスタイルが多様化していますから、既婚未婚にかかわらず、個人単位で納税したほうがわかりやすく、どの人にも納得がいくのではないでしょうか。

また、103万円の壁のような優遇がなければ、女性が就労調整をすることもなくなるでしょう。ライフスタイルによる優遇を無くしたうえで、子育てや介護など個別の事情に応じて給付金を支払ったり、子育てや介護にかかる費用を今よりも減額したりするほうが、子育てや介護を支援しているというメッセージも伝わりやすいと思います。

いまの制度は非常にわかりにくく、みんなが十分に理解しているとはいいがたいところに問題点があります。現在ある制度をシンプルでわかりやすく、多様なライフスタイルの人に納得がいく形に変えていく一方で、基本的な仕組みを学校等で教えていくことも重要でしょう。

12月の税制大綱発表に向けてこれから議論が重ねられていく予定です。政府がどんな決断をするのか、今度の配偶者控除の行方に注目しましょう。


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