昔ながらの素材と手業を伝える、現代の暮らしにあう和の家

戦後の高度経済成長に伴い、私たちの住まいと暮らしは大きく変わりました。その結果、現代の暮らしのなかで日本の伝統的な生活様式や習慣の多くが消え、西洋風の生活様式に慣れ親しむようになっています。

「日本人は、古くから木で家の骨組を作り、その上に瓦をのせ、土で壁をつくり、木の塀で囲いをつくってきました。しかし今、このような家をそのまま建てたとしても、現代の暮らしに馴染んだ私たちが快適に暮らすのは難しいでしょう。しかし、昔ながらの和の家に対する親しみや憧れは、日本人の心に深く刻まれています。今でも家の中では靴を脱いで過ごしますし、和のもつ独特の意匠に感動するのはそのためだと考えます」(住友林業 マネージャー 不破隆浩さん/以下同)
居間

 


住友林業では、日本の伝統的な建築文化「数寄屋」を残しつつ、現代の日本人が心地よく暮らせる住まいを、「駒沢公園ハウジングギャラリーステージ3」(東京都世田谷区)に建つモデルハウスで提案しています。

「よくある現代数奇屋のように、日本古来の材料を近代的な材料に置き換えるのではなく、職人の手業(てわざ)にこだわることで伝統的な技術や素材を伝えられる和風住宅にしたいと考えました。ただ、間取りは今のライフスタイルに合わせて、家族のコミュニケーションを深める工夫や、家事を手早く行うための合理的な動線などを盛り込んでいます」(不破さん)。
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住友林業 マネージャー 不破隆浩さん

住友林業 マネージャー 不破隆浩さん。「脈々と伝えられている職人たちの優れた手業と、本物の素材だからこそ醸し出される造形美を、実際に体感して頂くために創り上げたモデルハウスです」

腰葺き屋根が印象的な数寄屋の外観

まずはモデルハウスの外観からご紹介しましょう。

緩やかな屋根勾配と、深い軒によって強調した下屋の水平線が美しい外観です。二階部分のボリュームを抑えることにより、日本建築らしい、重心の低い、地を這うようなフォルムを創り出しています。
外観

和風住宅らしい安定感のある外観。屋根は、軒桁より先の部分を金属で葺いた腰葺き屋根で軽やかな美を表現。瓦は三州のいぶし瓦、板金部分は銅という伝統的な材料を用い、瓦の詳細な納まりにもこだわった、繊細で美しい屋根です


この家の軒は1200ミリと深く、ケラバ(切妻屋根の妻側の端部分)も 910ミリあります。「近頃は軒のない家もありますが、軒がないと外壁や窓に直接雨が当たり、直射日光が季節を問わずに部屋の中に入ってきます。日本の伝統的な建築に多い深い軒は、雨が多く、夏の暑さが厳しい気候を考えて設けられたものなのです」(不破さん)。
外観

深く低い軒とケラバは、雨の跳ね上がりを避け、夏の強い太陽光を遮り、冬の暖かな日差しをとり入れるため、心地良い室内空間をつくる効果があります

一般的なモデルハウスは、見学者が家の中に入って頂きやすいように、外に開いた造りにしています。しかし今回ご紹介するこのモデルハウスは、正面から玄関や内部が見えません。

「あえて通りから内部を見通せないようにすることで、和風の家の奥ゆかしさと、本来家が持つ“守るための機能”を表しました。でも、通り土間と庭の一部を格子越しに透かして見せることで気配を伝え、訪問される方の期待を膨らませています」(不破さん)。

格式をあらわす畳敷きの玄関

引戸を開けると、和の風情が漂う玄関が現れます。敷きこんだ畳は、取次の間としての格式を表現するだけでなく、豊かな香りで訪れる人を爽やかに出迎えます。

「日本人は、履物を脱ぎ裸足で床の上に永く暮らしていることから“足の裏に美意識がある”と言われ、床材の素材や仕上げを変えて雰囲気を楽しむことを知っています。このモデルハウスでも、さまざまな床材を機能や空間に合わせて用いています。その違いを味わえるように、あえてスリッパをご用意せずに、素足で床を感じて頂くようにしています」(不破さん)。
玄関

わら床に国産のイグサを使用した畳を敷き込んだ玄関。畳は調湿機能を持ち、適度な柔らかさや香りを楽しめる優れた床材です


凛とした美しさを醸し出す居間

居間は、床にブラックウォルナットの無垢材、壁はすさ入りの土壁、天井は杉の無垢材と、上質な自然素材にこだわった空間です。

南面には、巾3間(約5.6m)の大きな障子を設えました。障子の上にはスリット状の欄間を設け、天井が外へと伸びて行く様子を見せると同時に、光と風を室内に招いています。

「梁状の鴨居と障子で、和の空間にはそぐわないアルミサッシの存在を目隠ししました。無垢材の長い鴨居は自重でたわむことがありますが、今回は、腕利きの職人が木目を見て材を選び、たわみも計算に入れたうえで、わずかに中央部を高くして取り付けています。なので、竣工後5年を経た今でも全く曲がっていません」(不破さん)。
居間undefined全景

床は、床暖房にも使用できる厚さ15ミリのブラックウォルナットの無垢材。足触りが柔らかいため、裸足で歩いても足が疲れません


居間の正面の壁には、木目に映える信楽焼のタイルを壁面に用い、空間に重厚感を与えています。

「このタイルは、今回のモデルハウスのために、信楽にある窯元で焼いて頂きました。深く奥行きのある色から『千年の翠(みどり)』という名前を付けました。釘で引いた柄が入ったスクラッチタイルと、表面が平らのタイルはそれぞれ厚みが異なり、奥行きとゆらぎを演出しています」(不破さん)。
居間undefinedタイル壁面部分

外部から連続する信楽焼のタイルと、軒天へと続く天井の杉無垢材が、庭へと続く広がり感や、庭との親密感を高めています


不破さんは、「この家は、当社の設計力と施工力を見ていただくために、あえて難しい真壁で多くの空間を仕上げています」と語ります。真壁とは、構造の柱がすべて表面に見え、敷居や鴨居が直接柱に取り付ける和の家ならではの施工法ですが、その反面、美しい構造計画と大工・左官などの職人の手業が必要不可欠です。

「今回携わって頂いた大工職の仕事には、細かい点まで妥協をしない“手業の極み”を感じました。優れた職人の手先の器用さと工夫から生まれた建築技術は、世界に誇るべき素晴らしいものだと思います」(不破さん)。
居間全景undefined逆カット

柱、敷居、鴨居など構造そのものがデザインとなった、明快で潔い真壁の空間。設計や施工に誤魔化しが効かないため、高い技術が必要となります


居間の北側のスペースは、赤松の皮付きの柱を床柱に見立て、床の間として設えています。

「床の間の一段上がった式台部分は、名栗(なぐり)仕上げを施したタモ材を用いています。名栗仕上げとは、専門の職人が丸い刃の付いた鉋で、一つ一つの凹凸を削っていくという手間のかかる手業による仕上げです。木目や素材感が引き立ち、足触りが心地よくなるので、このモデルハウスでは、縁側や土間、階段といったレベル(高さ)の変わり目に用い、自然に足元に注意を向けるようにしています」(不破さん)。
居間北側

 

居間undefined北側

床の間として設えたスペースには、染色家・吉岡幸雄氏が紅と藍で染めた斐伊川和紙を、表具師・鈴木源吾氏が二曲屏風に貼り仕上げた作品を飾って。このスペースの裏に、吹き抜けのある階段が配されています


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