突然死のリスクを回避するICD植込み手術とは

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ICDです。手の平と比べるとかなり小さくなったのがわかります

報道によれば作詞家なかにし礼さんがこの4月にICDの植込み手術を受けておられたことがわかりました。ICDとは特別な機能をもつペースメーカーの一種です。

 
以下はスポーツニッポン電子版からの引用です。
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なかにし礼氏、突然死の恐怖消えた!体内にICD埋め込み

作家で作詞家のなかにし礼氏(77)が4月に突然死を回避するための手術を受けていたことが8日、分かった。致死性不整脈を感知し治療する植え込み型除 細動器(ICD)などを体内に埋め込んだ。不整脈は心臓突然死の最大の原因とされるだけに「突然死の恐怖が消えた。大変なストレスからの解放」と語り、今 後の創作活動にも意欲を見せている。
(中略)
手術は1~2時間で終わり、現在の体調は「すこぶる元気」という。脈拍データは機器を通じて毎日、心臓血管研究所に届けられており「もはや人造人間」と笑う。

それでも長年悩まされてきた突然死の恐怖が消え、「大変なストレスからの解放」を感じている。創作活動への意欲も全く衰えていない。7月には作詞を手掛け た小林幸子(62)の新曲「百花繚乱(りょうらん) あっぱれジパング」を、9月には自身の作詞曲を女優たちが歌うアルバム「なかにし礼と12人の女優たちプラスワン」をリリースする。「連載中の小説もある。まだまだ書きたいものも、書かなければいけないものもある」。今後も精力的な活動を続けていく。

[ 2016年6月9日 09:21 ]
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作詞家としてこれまで幾多の名曲を生んで来られたなかにしさんですが、仕事以外でもいつも前向きに生きてこられました。難病と言われる食道がんに向き合い健康を立派に守り、さらにお若いころに患った心筋梗塞の後遺症に対して今回ICD治療で安全確保に大きく前進されたようです。

ICDとは…特別な機能をもつペースメーカーの一種で

ペースメーカー

通常のペースメーカー。コインより少し大きいだけです。昔よりずいぶん小さくなりました

ICDとは植込み型の心臓除細動器の英語略称です。これは広い意味のペースメーカーの一種で、特別な機能を併せ持っています。

まず普通のペースメーカーについてご説明しましょう。これ は心臓の一部、多くは体の静脈から届きやすい右心房か右心室またはその両方にリード線を挿入し、内臓電池で電気刺激を与えることで心臓を動かします。ペースメーカーの力で心臓をぐぐっと動かすのではなく、あくまで着火(もちろん火花も炎も出ません)するだけ、動くきっかけを作るだけです。着火すればあとは心臓の筋肉が反応して動いてくれるのです。同じ理由でその電池も長持ちします。

着火だけと言ってもこれによって脈が異常に遅い(たとえば一分間に40未満など)患者さんの脈拍は60にも80にも増やすことができます。脈が遅いだけの患者さんなら、このペースメーカーでお元気になれるのです。

一方ICDではどうでしょうか。前述
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ICDです。通常のペースメーカーよりは大き目ですが、手の平と比べるとそう大きくなく、からだになじみやすいことがわかります

のペースメーカーと同様の仕事もできますが、もう一つ、大事な役割を担います。それは、心臓にいのちに拘わる悪性の不整脈たとえば心室細動や心室粗動が発生したときに、それをすぐにキャッチし、直ちに電気ショックを心臓の中で与えてくれるのです。空港や駅、デパートなどに備え付けてあるAEDをうんと小さくして体の中に埋め込んだものとお考えください。


なぜからだの中に植え込む必要があるのか…ICDとAEDの違い

もっともな質問ですが、もし不整脈が心室細動であれば、普通は3~4分で脳死になりかねません。救急車でもまず間に合いませんし、AEDを近くの駅まで取りに行く時間も、病院へ行く時間もないのです。脳死になってしまってはそれ自体が死亡ですし、まもなく心臓も止まり完全にいのちを失ってしまうため、もっと素早い治療法が必要なのです。それがICDなのです。

たとえば夜中に患者さんもご家族も眠っておられる間に危険な不整脈が発生しても、ただちにICDはそれを治してくれるのです。電気の刺激で患者さんは目が覚めるかも知れませんが、いのちは助かることが多いわけです。

ICDの植込み方・具体的な手術の方法

通常のペースメ
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ICDもペースメーカーも入れ方はほぼ同じです

ーカーと同様です。多くは左胸の上の方にある静脈からリード線を入れてレントゲンで確認しながら心臓まで進めます。ペースメーカー本体は左胸の同じ傷の奥に小さいポケット(長さ4~6cmほど)を造り、そこへ植込みます。

ICDの場合はペースメーカーの場合よりも時間をかけて不整脈発生の際にきちんとそれを発見し、電気を出して不整脈を治す、これが確実に行われるまで調整を加えます。なお調整のためには不整脈を誘発し、不整脈状態を造ってICDがきちんと作動することを確認する必要から全身麻酔かそれに準じた方法で行うのが一般的です。もちろん未調整のICDが作動しなくても困らないようにAEDなどの準備のもとに調整は行われます。

本体の植込み操作はペースメーカーの場合と似ていますが、本体が少し大きい分、ポケットも一回り大きくなります。いずれにせよ、現在のICDはかなり小さくなっているため普通の体格の患者さんならそう目立つものではありません。

ICDを検討するケース…なかにし礼さんの場合は?

伝えられている情報の範囲内で考えられるのは、なかにしさんがお若いころ、患われた 心筋梗塞がおおもとの原因のようです。心筋梗塞が大きいつまり悪いと、心臓へのダメージが大きく、そこを乗り越えても心臓のちからは低下します。いわゆる虚血性心筋症とか虚血性心不全と言われる状態です。こうなると普段から少し運動しても息切れが出たりして制約が増えます。そしてさらに恐ろしいのは悪性の不整脈とくに心室細動が起こりやすくなるのです。

なかにしさんの場合は心臓のちからが本来の約半分と報じられているため駆出率(心臓のポンプ室の血液の何%を一回に送り出せるかの指標です。健康者ではおよそ60%ぐらいです)で言えばおそらく30%前後と推察されます。駆出率が30%以下の虚血性心筋症では普段から心臓が無理をしているため、状況によっては恐ろしい心室細動が起こるおそれがあるのです。

ICD以外の対処法は? 他に良い治療法はないのか

その患者さんの状態に応じて、もし心臓に虚血つまり血液が十分流れず酸欠状態になっているのであれば、PCIと呼ばれるカテーテル治療や冠動脈バイパス手術が役立つことがあります。とくに治せるような虚血がない場合でもさまざまなお薬をうまく使って不整脈を抑え込むこともある程度以上できるでしょう。

あるいはポンプである左心室の一部がこぶのように膨らんでポンプ機能が低下しているようでしたら左室形成術が役に立つかもしれません。左心室が病気のためにゆがんで入り口の弁が漏れる虚血性僧帽弁閉鎖不全症の状態なら手術などで治せることが多々あります。実際劇的に改善したケースが少なからずあります。しかしそれらが適応にならない場合や、それらの治療を行ってもなおかつ危険な不整脈が出る場合、ICDが役に立つのです。

若い方ならいざとなれば補助循環(人工心臓の一種です)や心移植が最後の手段としてあります。もちろんそこに至るまでに安定化を図りたいものですが。

いずれにせよ専門家とご相談されるのが安心です。セカンドオピニオンとして他病院の専門家や、あるいは心臓の内科だけでなく外科の意見ももらうのも役に立つかも知れません。

ICD植込み手術にならないための予防策は?

ICDが必要な状態になることを予防するというよりは、心筋梗塞にならないように平素から食事・運動・そしてストレス発散さらに早期発見と早期治療が大切です。禁煙も重要ですしストレスを貯め込まないのも有用です(「天海祐希さんが入院された急性心筋梗塞とは?」の解説ページもあわせてご参照ください)。カテーテルや手術で不整脈が起こりにくくすることも可能です。

ペースメーカーの機能ももつICD

ICDはペースメーカーの親分のようなものですので、脈が遅い場合、電気信号を出して心臓の脈のスピードを調整できるのです。脈があまり遅くなりすぎるとそれだけでふらついたり、ひどい時には失神することもありますので脈のスピード調整は大切です。

それ以外に重症心不全の場合に役立つ心臓同期治療CRT(心臓の各部の動きがバラバラになってちからが落ちるときに、これを整えてパワーアップを図ります)の機能を加えてCRTDとして使われることもよくあります。重症心不全の患者さんには有益な方法です。

ICDやペースメーカーを体内に入れることへの抵抗がある場合

また、体内にICDやペースメーカーを入れるのは何だかサイボーグ的な手術に感じてしまうと抵抗感を伝えてこられるご患者さんもいらっしゃいます。しかし時代は確実に進歩しています。体の部品が壊れればそれを治す、しかし治せないほど壊れておれば取り換える。それによって患者さんがお元気に楽しく暮らせるのであればそれで良いのではないかというのが医療者の大方の意見です。人工弁しかり、人工血管しかり、人工関節またしかり、人工物が入っているかどうかより、その治療を受けた方の生き方こそが大切なのではないでしょうか。

最後になりましたが、これまで多数の優れた作品を生んでこられたなかにし礼さんの早い全快と、ますますのご活躍をお祈りいたします。

参考サイト:心臓外科手術情報WEBの虚血性心疾患のページ

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