宮澤エマundefined88年東京都生まれ。米国オクシデンタル大学卒後、12年に芸能界デビューし、翌年『メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは前へ進む~』で舞台初出演。以降も14年『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』『bare』15年『Endless SHOCK』『ラ・マンチャの男』と様々な舞台に出演している。(C) Marino Matsushima

宮澤エマ 88年東京都生まれ。米国オクシデンタル大学卒後、12年に芸能界デビューし、翌年『メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは前へ進む~』で舞台初出演。以降も14年『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』『bare』15年『Endless SHOCK』『ラ・マンチャの男』と様々な舞台に出演している。(C) Marino Matsushima

*最終頁に『ドッグファイト』観劇レポートを掲載しました*

ベトナム戦争出征前夜、6人の若い海兵隊員たちが「一番いけてない女の子をパーティーに連れて来ることができたら勝ち」という賭けゲームを始め、エディ(屋良朝幸さん)はウェイトレスのローズ(宮澤エマさん)を誘う。男の子にモテた経験の無いローズは胸ときめかせ、母(春風ひとみさん)の警告も聞かずにエディとパーティーに参加するのだが…。

1991年、当時人気絶頂の青春スター、リヴァ―・フェニックス主演で公開された映画を、新進作曲・作詞家コンビのベンジ・パセック&ジャスティン・ポールがミュージカル化。12年にオフ・ブロードウェイで初演され、ロンドンやオーストラリアでも上演されている『ドッグファイト』が12月、日本に初上陸します。

13年に『クリスマス・ストーリー』でトニー賞にノミネートされ、嘱望される若手コンビのパセック&ポールが手掛けた本作は、青春の美しさと残酷さを凝縮した映画版からさらに一歩踏み込んだ、深い内容が魅力。今回は屋良朝幸さんを筆頭にダンス力に定評のあるキャストが結集、ダンスシーンも見どころのエンタテイニングな舞台が予想されます。この舞台でヒロインのローズを演じるのが、宮澤エマさん。13年に『メリリー・ウィー・ロール・アロング』で彗星のように現れ、その後も次々と話題作に出演。のびやかな歌声と舞台度胸を武器に、恰幅のいい中年女性から美人なのにコンプレックスを抱えた高校生まで多彩な役柄を演じ分け、“カメレオン女優”の道をひた走っている彼女に、本作の魅力、そしてこれまでの道のりと今後の夢をうかがいました。

「甘酸っぱい」だけではない、深みのあるストーリー


――『ドッグファイト』の映画版(邦題『恋のドッグファイト』)やオフ・ブロードウェイで上演された舞台版はご覧になりましたか?
『ドッグファイト』ローズ役の宮澤エマさん

『ドッグファイト』ローズ役の宮澤エマさん

「どちらも観ました。映画版はいわゆる“ボーイ・ミーツ・ガール”的な作りで、主人公たちの“Love”や“Like”にフォーカスをあてていたと思うのですが、舞台版は、主人公がとても短い時間の中で一人の人間に共感することを学ぶ、でも心が触れ合った時、無情にも一緒に居られる時間は限られていて…という現実の残酷さだったり、命の尊さを描いた作品なんだなと思いました。

主人公のエディとローズは価値観も、育ってきた環境も違う。そんな二人が、ぶつかりあいながらも理解しあい、認め合う過程はとても素敵です。1幕ではお互い、本来の自分じゃない部分を見せていますが、2幕では“素顔の二人でいってみよう”となって、ほんの数時間をともにすることで、二人の人生が大きく変化する。人と人のつながりって、決して時間の長さではなくて、濃さなのだなと思える作品です」

――作者たちは85年生まれ。本作を書いた時にはまだ20代だった彼らがこの素材を選んだのには、戦後の世界情勢における、“アグレッシブなアメリカ”への内省があるような気もします。相手を知ろうともしないまま“上から目線”で行動しようとする兵士たちはその象徴なのかな、と。

「そうですね。アメリカという国は“強さ”にアイデンティティを見出す伝統があるんです。以前なら国際情勢の構図もわかりやすかったけれど、今では中東を見てもプレイヤーがたくさんいて、白黒つけがたい状態ですよね。アメリカが良かれと思ってやってきたことは、果たしてどうなのか。そういう、戦争のあり方や命の重みと言った大きなテーマについて考えさせつつ、メインにあるのはエディとローズの物語。本当によくできたミュージカルだなと日々、稽古場で感じています」

*次頁ではヒロイン役を演じる上での抱負や、日本版ならではの魅力をうかがいます!

海外版よりさらに洗練された舞台が予想される『ドッグファイト』

『ドッグファイト』稽古にて、春風ひとみさんと。写真提供:東宝演劇部

『ドッグファイト』稽古にて、春風ひとみさんと。写真提供:東宝演劇部

――そのローズ役ですが、“いけてない女の子”ということで、オフブロードウェイ版ではちょっと“どすこい”なイメージの女優さんが演じていましたが、実物のエマさんは全くそういうタイプではないですよね。

「私も中学、高校の時にはぽっちゃりしてて、“モテる”感じじゃなかったですよ(笑)。映画版を観ると、ローズは“普通の女の子”、男の子からすると特に目を留めず、素通りしてしまうような女性という感じですが、女性なら誰でも彼女の気持ちに共感できると思います。女性って外見で判断されることが多くて、“そこじゃないところを見てよ”と思ったりするじゃないですか。それは“きれい”と言われてる子でも同じで、常に外見ばかり言われることは、決して気持ちのいいことじゃありません。まだ最終的にどういうビジュアルにするかは決まっていませんが、わざとらしく誇張する表現は違うかなと思っています」

――では“どことなくあか抜けない”雰囲気を醸し出す、とか?

「そこなんですよね。工夫することには全く抵抗ないけれど、それをやることでフォーカスが外面的な部分に行ってしまうようなことは避けたい。“美しくない”ところじゃなくて、ローズの内面をハイライトしていけたら、と思っています」

――音楽的にはこの作品、いかがですか?

「冒頭に海兵隊の男の子たちのすごくきれいなコーラスがあって、そこでぐっと引き込まれると思います。ローズのソロは70年代的な繊細なギターの音色を利かせたフォークっぽい曲だったりして、全編ポップスでもクラシカルでもなく、入り込みやすい音楽のような気がします」

――ちょっと(スティーブン・)ソンドハイムっぽくも聴こえましたが。

「(ソンドハイムの)影響は受けているのかなと思います。彼の音楽ほど難解ではないし、歌っていて“今の音、合ってる?”みたいなことも無いけれど、『ウィキッド』のようにキャッチーなポップスではなく、特定のメロディを複数のナンバーにちりばめた緻密な作りがソンドハイムっぽいんですよね。ローズが最初に歌うメロディも後で出てきますし、海兵隊たちが出征前の最後の晩に観た夜景と、ベトナムで最後に目に焼き付ける風景のシーンのメロディも同じだったりと、繊細に作られているなと感じます」

――稽古が始まって今、2週間ほどということですが、どんな舞台になりそうでしょうか?
『ドッグファイト』稽古より。写真提供:東宝演劇部

『ドッグファイト』稽古より。写真提供:東宝演劇部

「オフ・ブロードウェイ版はダンス・ナンバーが比較的シンプルな作りでしたが、今回は屋良朝幸さん、中河内雅貴さんはじめダンスが得意な方ばかりなので、エンタテインメント性が絶対増していると思います。それと、これは私の個人的な感覚ですが、日本ではミュージカル作品でも、米国以上に芝居の部分を掘り下げて作っています。今回も日本初演ということで、一つ一つの台詞を“これをこう言ったらどうなるか”等、時間をかけて検討しているので、より洗練された舞台になるのかもしれません」

――ご覧になる方々に、どんなことを感じてほしいですか?

「本作は、人と人とのふれあいのお話なんだと思います。今はモノや情報が溢れていて、人と向き合う時間がおろそかになりがちですよね。スマホにゲームにと、時間の使い方が多様化していて、自分の好きなことだけやっていても生きていける世の中です。でも、世界にはいろんな人がいて、その中には価値観が相容れない人もいるかもしれないけれど、わかりあうことは大事で、それをあきらめちゃいけない、というメッセージが本作の根本にあるのではないでしょうか。今の世界情勢を見ても、“どうしてあんなことをするんだろう”という人たちに対して“残虐で頭のおかしい人たち”と切り捨てるのではなく、その裏に何があるのか、想像する力を持たないと解決には至らないですよね。

そこまで深刻に考えながら観る必要はありませんが、ふとした瞬間にそんなことをちょっとだけでも感じていただけたら嬉しいです。本当に、いい作品なんですよ。屋良さんはすごくいい方なので、デリカシーのないエディーというキャラクターを演じるのに苦労されていますが(笑)、私も自分の世界を飛び出したことがない冴えない女の子というキャラクターで、そういう“魅力的でない部分”をお互い忠実に演じてゆけば、逆に物語が魅力的に見えてくるのではないかと思うので、繊細に、丁寧に取り組んでいるところです」

*次頁ではエマさんのこれまでをうかがいます。アメリカの大学でエマさんが専攻したのは、ちょっとマイナーな学問。しかしそれが、今のミュージカルのお仕事にとても生きているのだそうです。


 

別作品のナンバーを歌った初オーディション、その結果は?

『メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは進んで行く』撮影:渡部孝弘

『メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは進んで行く』撮影:渡部孝弘 写真提供:ホリプロ

――エマさんのお名前ですが、今回改めて苗字の英語表記を見ましたら、La Fleurとあって、発音的には“ラ・フラー”さんなのですね。

「そうなんです、英語にするとthe flower、“花”でして、父が1920年代にアメリカに移民したフランス系カナダ人の血筋なんです。日本の戸籍上も「宮澤エマ」なので芸能界に入って“ラフルアーさん”と呼ばれて新鮮だったんですけど、最近、“ラフルアー”をとることにしたんです」

――米国の大学では宗教を専攻されたそうですね。

「私は(日本で)インターナショナル・スクールに通っていまして、14歳の時に“9・11”が起こりました。学校にはもちろんイスラム教の方もいたけれど理解しえないこともあって、世界情勢の問題を紐解くとそこには歴史だったり、文化の違い、そして宗教というものがある。アメリカの大学では入学後、はじめの1、2年でいろいろな科目をとっていくなかで専攻を決めるシステムで、国際関係や歴史も考えましたが、社会学の勉強になると思って、宗教を学ぼうと決めました。今になって、ミュージカルに出演しているとだいたいの作品に宗教が絡んでいるので、学んでおいて良かったなと思います」
『bare』撮影:森弘克彦

『bare』撮影:森弘克彦

――歌やお芝居への興味はいつから?

「小学生の頃から憧れていて、高校でもミュージカルをやったりしていました。踊りはへたくそだったけれど、好きの一心で『ウェストサイド物語』でジェット団に絡んでいる女の子のエニバディズを演じたりしていました。

18歳の時に一度歌手デビューのお話をいただいたのですが、結局大学を選んで、在学中に別のものを見つけたら舞台や歌に対する私の気持ちはそこまでだと考えようと思ってたけど、やっぱりやりたいと思って日本に戻ってきたんです。でも日本の芸能界って12、13歳くらいで入る方が多くて、私はもう22歳だったので、それから歌手というのは難しいだろうということで、タレントとしての活動を始めました。そうしたら、たまたま高校時代に知っていただく機会があった宮本亜門さんから“ミュージカルのオーディションを受けませんか”というお話をいただきまして。『スウィーニー・トッド』の高音のナンバーを一生懸命覚えて臨みました。

そうしたら“エマちゃん、ふだんはこういう歌は歌ってないんでしょ”と言われて、“どちらかというとブルースやソウル、ジャズかな”“そういうの歌ってみて”ということで『ウィズ』のナンバーを歌ったら、“いいねいいね、じゃあまた”。『スウィーニー』のオーディションなのに違う曲を歌ったってことは、ダメだったんだなあと思って落ち込んで帰ったのですが、亜門さんは私の中に変化願望があると見てくださったらしくて、1か月ほどして“こういう作品あるんだけどやってみないか”とお声をかけてくださったのが『メリリー・ウィー・ロール・アロング』だったんです」

――主人公3人組の一人で、それこそ“どすこい”な存在感と歌唱のメアリー役、強烈なデビューでした。

「そうですね(笑)。あの時は40代から20代へと若返ってゆく構成で、肉布団も含めてたくさん重ね着をしていて、それを脱いでゆくことで若返ってきれいになるということだったので、誇張して演じてもよかったんです。

今振り返ると、当時は右も左もわからない中で、日本語でお芝居するのは小学生の時以来でもあり、大変でしたね。亜門さんは特に女優さんに厳しくて、私も高橋愛ちゃんもICONIQさんも、“僕の求めてるのはそういうことじゃない”と何度も言われました。何を求められているのかなかなか掴めないでいたら、ある時亜門さんに“ベット・ミドラーなんだよ”と言われて、『ジプシー』のDVDなどを何度も観たんですよ。そうしたら初日が開いて二日目に“もうこれ以上ベット・ミドラーにならないでいいよ”と言われて、“やったー!”と思いました。音楽も素晴らしかったけど、脚本がしっかりした作品ができるのはほんとに幸せだなと思いました」

*次頁ではその後手がけたお役、そして今後の抱負を語っていただきます!

NGも「境界線」も無い女優を目指したい

『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを』写真提供:東宝演劇部

『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを』写真提供:東宝演劇部

――その後が『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』の、ちょっと気弱なシスター・ロバート役。『メリリー』でのお役との落差が激しかったです(笑)。

「“今度はかわいい役でよかったですね”と皆さんに言われました(笑)。『メリリー』のときは銀河劇場という中劇場でしたが、それが今度は帝劇ですので、小さいお芝居をすると後ろのお客様には表情などは見えない、けれど繊細に心の動きを見せなくてはいけないという難しさもあったし、初めて70回以上という公演数も経験し、すごく勉強になりました。歌も地声で高いところで歌わないといけないので、70数回の公演の中でペース配分やコンディションのケアもありましたね。でもあの舞台で多くの方に私の存在を知っていただけて、ほかの作品につながっていきました。来年の再演もすごく楽しみです」

――続いてはアメリカの高校生の青春群像ミュージカル『bare』。美人なのにコンプレックスを抱えたお役でした。

「『ドッグファイト』にも通じますが、10代の子にとっては建前だったり評判だったり、表面的な部分が重要なんですよね。アイビーという子は見た目はきれいだけど、自分が抱える問題を上手に表現できなくて、周りからは“どうせ悩みなんてないんでしょ”と決めつけられています。言っていることと思ってることが違ってたり、かわいくないこともいっぱい言ってる女の子でした。その後、『ラ・マンチャの男』でも経験したのですが、台詞として伝える内容と本当はこう思っているというものが違うという表現の難しさを体験したお役でしたね。でも目の肥えたお客様や、二度ご覧いただいた方にはキャラクターの内面をもう一歩深く見ていただけたと思うので、すごくやりがいのある役でした」

――その『ラ・マンチャの男』では、半世紀近く主演されている松本幸四郎さんと共演されました。
『ラ・マンチャの男』写真提供:東宝演劇部

『ラ・マンチャの男』写真提供:東宝演劇部

「幸四郎さんは演出家として、稽古では最初代役をたててご覧になっていて、“そうじゃない”というときはまずやって見せて下さるのですが、それが私にはまず真似できないんです。台詞一つをとっても、目線だったり、間だったり。その絶妙な間が、幸四郎さんがやると本当におもしろくて、やっぱり間で変わるんだなあ、と傍で見せていただけたのが、何物にも代えがたい経験でした。

私の演じたアントニアは、一曲のナンバーの半分をソロで歌って、ちょっとお芝居して、最後にまたお芝居があるだけなので、登場するシーンはすごく少ないんですけど、幸四郎さんは“(出番が少ないのなら、あなたがすべきことは)役をどう魅力的に見せるかということだと思います”とおっしゃってくださいました。好かれるように、という意味ではなくて、嫌な役でも見とれてしまうとか、リアリティをもって演じるということを教えてくださって、今でもそれは課題です。舞台では、その人自身が魅力的なものを持っているかがやっぱり出てしまうと思うんですね。その引き出しの多さというものが、幸四郎さんはふんだんで。俳優としてだけでなく、人間として魅力的であることが大事なのだと、あの現場ではものすごく感じました」

――小劇場から大劇場まで、新作から古典ミュージカルまで。非常にバランスのとれたキャリアを積んでいらっしゃいますね。

「すごくいい作品に立て続けに出演できて、本当にラッキーだったと思います。長く下積みをされてきた方からしたら“ぽっと出”と思われても仕方ない状態なだけに、一つ一つの舞台で誰よりも早く吸収しなくては。“新人なのでわからない”とは言えないので、追いつけ追い越せのメンタリティでやってきました。今回の『ドッグファイト』では、今まで培ってきたものをどれだけ生かせるか。こんなに大きい役をいただいたのも初めてなので、どれだけ魅力的にできるか、頑張らなきゃなと思っています」

――表現者として、今度についてはどんなビジョンを抱いていらっしゃいますか?

「すごくありがたいことに、これまではいわゆる“ヒロイン”枠に当てはまらないことが多かったのですが、これからも“そんな役をやるの?”と思われるような、NGのない女優でいたいです。凝り固まっていきたくないというのと、できれば、ミュージカルにとどまらず、ストレートプレイとか、今、TVでコメンテーターもやらせていただいているんですけど、とにかく“No Boundary(境界線無し)”な自分でいたいです。それが舞台に繋がっていくのかなと思うんですね。芸歴が浅い分、いわゆる技術と言うものはあまり持っていないかもしれないけれど、普通に、20数年間一般の人として生きてきて、皆さんの経験していることも経験してきたし、たくさんの人が経験してないこともしていると思うので、それが私の芝居に生きているのかなと思います。表現者として、とにかく“No Boundary”にやっていきたいなと思っています」

*****
体当たりの“おばちゃん”役が“鮮烈”を超えて“強烈”だった『メリリー』でのデビューから、2年。この間、理想的ともいえるキャリアを築いているエマさんですが、その素顔は気さくで柔らか。これからも一つ一つの現場で多くを吸収し、さらに豊かな引き出しを蓄えた魅力的な女優になってゆくのでは、と期待がいや増したインタビューでした。そんな彼女が「今回、本当にいい舞台になりそうですよ~」と取材終了後も目を輝かせて語っていた『ドッグファイト』。これまでの各国版の中でも、決定版となるかも?!しれません。

*公演情報*ドッグファイト』12月11~14日=サンケイホールブリーゼ、17~30日=シアタークリエ、16年1月7~8日=東海市芸術劇場大ホール

*次頁で『ドッグファイト』観劇レポートを掲載しました!*

『ドッグファイト』観劇レポート
瑞々しく、緩急自在の音楽に彩られた
「人生を変える出会い」のドラマ

『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

暗闇のなか、ギターを持ったローズ(宮澤エマさん)、そしてエディ(屋良朝幸さん)の姿が浮かび上がり、離れ離れのまま「序曲」を歌う。どこか懐かしく、憂いに満ちたメロディが観客の心を引き寄せると舞台は一転、現実世界のバスの中へ。戦争帰りで心に傷を負っていることが一目でわかるエディは、隣客のピート(戸井勝海さん)から話しかけられても、心ここにあらず。腕のタトゥーについて聞かれて回想する形で、舞台は戦友たちとの会話、そして1963年のベトナム戦争出征前夜へと戻ってゆきます。
『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

「一番イケていない女の子を連れて来たら勝ち」という賭けゲーム「ドッグファイト」。実は出征前の若者たちの感受性を麻痺させるため仕組まれたこのゲームのため、エディは普段なら振り向きもしないだろう女の子ローズに声をかける。生まれて初めてのデートに胸躍らせる純情なローズの姿に、彼は良心の呵責を覚えるが…。
『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

無知のまま強さばかりを追求し、傷ついてゆく若い兵士たちの姿を通して、世界を牽引することにこだわり続けてきた戦後アメリカへの、クリティカルな視点も感じられる本作。本国での上演時にはおそらく、作者と観客との間で「自国の在り様への内省」が共有されたことと思われますが、今回の日本版は何より、主人公二人の心の軌跡を鮮やかに浮かび上がらせます。「間」を効果的に使い、時に「和」のエッセンスすら感じさせる音楽がバンドと俳優たちによって丁寧に紡がれる中、芝居と舞台を広く使った躍動的なダンスシーンをバランスよくミックス。エンタテインメントとして観客の目や耳を存分に楽しませつつ、エディとローズの小さな出会いが人生を変える出来事になってゆく過程を浮き彫りにし、普遍的な感動に満ちた舞台に仕上げています。(演出・山田和也さん)。
『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

繊細にしてドラマティックな舞台には出演者たちの入魂の演技も大きく寄与し、屋良朝幸さんは不器用で粗野な青年エディが、その心の奥底にある優しさをローズによって少しずつ引き出され、変わってゆく過程を、丹念に表現。宮澤エマさん演じるローズはもっさりとしたオーラを服装や足の開き具合など全身で表現していますが、それに劣等感を抱いているというより、どこか「ピントがずれ」ているゆえ「イケていない」女の子、といった造形です。つらい目に遭っても自分を否定するのではなく、エディにきちんと向き合い、知らず知らず彼の人生を変えてゆくその姿に、いつしか観る者、特に同性の観客は共感せずにはいられないことでしょう。後半に彼女がギター片手に、おずおずと自作曲を歌いはじめるシーンは、息をのむほどの美しさです。
『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

エディの同輩ラルフィー役中河内雅貴さんはシャープなダンスと「兄貴」のオーラで舞台を引き締め、ディッキー役矢崎広さんも、世間知らずだが憎めない若者を体現。残るキャストは本役のみならず様々な役柄で登場し、達者なところを見せますが、中でも「ドッグファイト」会場のラウンジシンガー役・戸井勝海さんはさえない中年男のバスの隣客ピートにいささか高慢なウェイター、タトゥー師と多彩な役どころをさらりと演じ分け、ラルフィーに誘われ、金のためと割り切って「ドッグファイト」に参加する娼婦マーシー役の保坂知寿さんは、ローズの闘志を目覚めさせるナンバー「ドッグファイト」で一本筋の通った女の姿を颯爽と見せ、この作品に彼女が求められた理由が納得できるシーンとなっています。
『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

『ドッグファイト』撮影:松島まり乃

青春の痛みに加えて、戦争という現実の過酷さを体験する主人公たちがたどり着く、一つの結末。シンプルにして含蓄のあるひとことで締めくくられる本作に、観客は等しく感慨と人恋しさとを覚えることでしょう。

*本作ご出演者への過去のインタビュー記事 中河内雅貴さん


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