栄養不足の高齢者に栄養剤・経腸栄養という選択肢

【薬剤師が解説】近年問題になっている高齢者の栄養不足。体を作る元となるエネルギーやタンパク質、栄養素が十分に摂れず、BMIの低下や体重減少といった低栄養が見られます。そもそも低栄養とは何か、低栄養を解決する栄養剤とは何かを解説します。

三上 彰貴子

執筆者:三上 彰貴子

薬剤師 / 薬ガイド

メタボリックシンドロームと逆? 高齢者の「低栄養」とは

シニアのイメージ

高齢者の低栄養が問題になっています。あなたも心当たりはありませんか?

近年、問題となっている高齢者の低栄養。日本では以前から「メタボリックシンドローム」という言葉で、エネルギーや脂質の摂取を抑えることが推奨されていましたが、これは主に中年に当てはまることです。高齢者の場合は、特に体を作る素となるエネルギーやタンパク質、栄養素が十分に摂れず、BMIの低下や体重減少といった低栄養が問題になっています。これらは体調不良、ひいては介護につながる可能性があるので、超高齢化社会を迎えた現在では、栄養摂取のあり方がとても重要になっています。

そこで今回は、そもそも低栄養とは何か、低栄養を解決する栄養剤(ONS)について解説します。

高齢者の低栄養の原因……嗜好の変化や病気など

低栄養とは、タンパク質や必要なエネルギーや栄養素が不足している状態をいいます。特に高齢になると、消化管機能の低下により栄養素が十分に消化吸収されなかったり、食事の嗜好の変化により肉や魚などのタンパク質の摂取が減るなど、知らず知らずのうちに低栄養状態になっていることがあるのです。

病気が原因の低栄養状態の場合は、主に次のようなものがあります。
  • 食事をかみ砕いたり、呑み込む機能が低下してしまう(摂食・嚥下機能低下)
  • 食事を口に運ぶ“食べる動作”が難しくなってしまう
  • 認知症やうつ病などの精神疾患により、食欲が低下してしまう
  • 特に寝たきりの場合、口腔内の衛生が悪くなることによって生じる歯の欠損や義歯の不具合、味覚低下など
飲み込む機能の低下は、誤嚥性肺炎を引き起こすこともあり、最悪の場合にはそれが原因でお亡くなりになることもあります。

低栄養が引き起こす健康被害・リスク

低栄養状態となりタンパク質や栄養素が不足すると、筋肉量や免疫をつかさどる物質などが減ってしまいます。それにより、体力や筋力低下を引き起こして転倒や骨折をまねいたり、免疫低下によって風邪を引きやすくなり肺炎になるなど、生活をしていく上でさまざまな支障をきたすことがあります。

たとえば、
  • 筋力低下による、握力低下や歩行困難
  • 皮膚の炎症、乾燥
  • 傷が治りにくい
  • 風邪をひきやすくなる
  • だるい、ぼーっとしている
  • 脱水に伴う、口の中の乾燥(虫歯や歯槽膿漏の要因)
上記に当てはまる方は、低栄養の可能性も考えられます。一度、医師に相談して低栄養状態(栄養不足)なのかどうかを聞いてみるのもいいでしょう。

低栄養問題を解決する栄養剤(ONS)とは

低栄養の状態を解決するONSについて解説しましょう。ONSとは「Oral Nutrition Supplements」の略で、口から補助的な栄養摂取をすることを指します。

まずは、実際に医療用の栄養剤である経腸栄養剤を服用している患者さん・ご家族のアンケート結果を見てみましょう。

「経腸栄養の味と服薬アドヒアランスの関係についての患者・家族調査」(株式会社Qlife)

炎症性腸疾患、がん、脳血管障害、認知症と様々な病気の方が栄養剤を服用していることがわかります。栄養剤を処方される目的としては「体力維持(約60%)」「体重減少を防ぐ(43%)」「食欲不振の改善(約24%)」に次いで、高齢者に特徴的な「飲み込みの力の低下(約18%)」が第4位となっています。

そもそも栄養剤とは……医薬品の栄養剤の食品との違い

栄養剤とは、医薬品と食品があります。医薬品の栄養剤は経腸栄養剤と呼ばれ、医師の診察を受けて処方されるので、保険が適応されます。ただし、負担額は保険により異なります。    

調剤薬局さんの中には自宅に届けてくれるところもあるようです。経腸栄養剤は重いしかさばると思いますので、処方元の病院やクリニック・薬局に配達が可能かどうか相談してみるのもいいと思います。 

一方、食品として市販されているものは流動食(濃厚流動食)と呼ばれ、専門店やネットなどで売られています。

医薬品と食品の違いを簡単に一覧にしましたので、参考にしてみてください。

■栄養剤の医薬品区分のもの食品区分との違い

栄養剤の医薬品区分と食品区分の違い

 

一部改編による引用)山本加菜子ほか:NST完全ガイド。東口高志編。P117-121,照林社,2005

栄養剤の形状・分類……粉末・液状・ゼリータイプ等

疾患や病態に合わせて使い分けるために、粉末、液状、ゼリータイプのもと、さまざまな形状があります。さらに、窒素源(タンパク質)の分解程度で、成分栄養剤・消化態栄養剤・半消化態栄養剤に分かれています。例えば、消化・吸収機能が十分でない場合は、成分栄養剤、消化態栄養剤を使用し、ある程度の消化・吸収機能がある場合は臓器の動きを生かすために半消化態栄養剤を使用するケースが多いようです。

栄養剤の摂取

栄養剤を摂取する方法もさまざまで、口から摂取できる場合は通常の食事のように摂取し、難しい場合は鼻からチューブで流したり、胃ろうなどで直接胃や腸に流し込む方法があります。

医薬品である経腸栄養剤の種類や服薬、その注意点などについては「経腸栄養剤とは……医療用経腸栄養剤の種類・使い方」をあわせてご覧ください。

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