最初の利用者はたったの7人

イヤホンガイドを取り扱っているのは、歌舞伎座からほど近いビルの中にある株式会社イヤホンガイド。その社名からして驚きましたが、イヤホンガイドというのは商標登録をしており、先代の社長さんが始めたものだそうです。

同時通訳ではなく、舞台の同時解説というのは世界でも初めて。微弱電波を使ってなにかしてみたいと考えた社長が、いくつかの失敗を経てたどりついたのが「日本人向けに日本語で歌舞伎の解説をする」というものだったそうです。

会場内にアンテナを張り巡らし、微弱電波を流すいわばミニFM。昭和50年、歌舞伎座顔見世興行でイヤホンガイドはデビューしました。そのときにイヤホンガイドを借りた人は全観客の中でたったの7人だったそうですが、「使ってみるとおもしろい」と次第に利用者が広がっていきました。


解説者、制作者、オペレーター、三位一体のチームワークの結晶だった

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社内で解説者が解説を録音

さて、タイミング絶妙のガイドは、どうやって作られるのでしょうか。

まずは、演目が決まり次第台本を入手し、解説者が原稿を書きます。30人ほどいる解説員の中から、誰にどの演目をお願いするかは、イヤホンガイドの制作部で演目の雰囲気やバランスを考えて決めているそう。1時間の演目で、コメントは50~100にも及ぶとか。

解説コメントは、役者の屋号、名前、衣装の説明、ストーリーの背景などは基本。さらに衣装、道具の名前、馴染みの薄くなった言葉や習慣などまで及びます。
舞台稽古を観ながら原稿には修正を重ねていきます。

歌舞伎は、年度が変われば同じ演目を何度も上演しますが、役者も違えば演出も違うので、その都度、原稿も書き直すそうです。

解説者と社内の制作担当といっしょになり原稿を作り上げていき、その後社内で解説の録音をします。

いよいよ上演。
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暗い中、舞台と台本を見ながら的確にオペレートしていく

歌舞伎座の場合、オペレーター室があるのは1階。オペレーターは、コメントを入れるチェックの入った台本と舞台を両方見ながら、タイミングを見計らい、機器を操作して、録音されたコメントを放送しているのだそうです。


解説は詳しければよいというものではない

株式会社イヤホンガイドのプロジェクト推進室室長の浅野さんによれば、

「解説がすごく詳しければ良いというわけでもないんです。観客の観劇の邪魔にならないように考えなければいけないし、解説のタイミングが1秒でも狂えば、心地よさが全然違ったものになってしまう。また、よりお話を楽しむために伏線を話したい。けれどもそれはネタバレになってしまうといった葛藤や、あくまでも観客が注意を払うのは舞台であって、あまり解説がおもしろすぎて、解説に反応してしまうようではそれもまずい。そのへんのバランスがむずかしいですね」

とのこと。

おもしろく、でもおもしろすぎてもダメ。情報は伝える。でも喋りすぎてもダメ。
静か過ぎず、うるさすぎず。ツボを押さえながら、観客の腑に落ちる解説を作り上げているのです。

オペレーターは、音楽がにぎやかなときには、解説の声も少し大きめに。舞台全体が静かなときには声も小さめにといった音量の微調整もしながら、その場の雰囲気を損ねないように気を配ります。

また、一方の耳が塞がれてしまうわけですから、そのことで舞台の音が入らないことを避けるため、イヤホンからも舞台の音を流しているそうです。

数々の工夫ときめ細やかな心配り。解説者の深い知識、制作での工夫、上演時、臨機応変に機器を操作するオペレーターとの三位一体のチームワークで、イヤホンガイドが成り立っていることに驚きました。

次のページではよりよくイヤホンガイドを堪能するためのコツを伺いました。