似て非なるスプリットウェルト

スプリットウェルト

「ストームウェルト」との違いが解り辛い「スプリットウェルト」の意匠です。こちらは ウェルトが途中で二股に裂けている、と申し上げればご理解いただけるかな?

グッドイヤー・ウェルテッド製法などの靴には不可欠なパーツ、細革=ウェルト。アッパーとアウトソールとの境界線に靴の外周に沿う形で密着し、ここに「出し縫い」が施されます。前回からはその「断面形状」について詳しく見ております。平らなものとそうでないものがある、まずはこれを押さえておいて下さい。

さて、前回の記事の後半でご紹介した「ストームウェルト」と、一見同じに見える意匠が存在します。それが上の写真、こちらは「スプリットウェルト」と呼ばれるもので、それとは構造が根本的に異なるものです。おさらいしますと、「ストームウェルト」はウェルトの中央部、ちょうどアッパーに接するか接しないかの部分に、山状の盛り上がりを設けたものでした。

それに対しこの「スプリットウェルト」は、その名の通り厚みのあるウェルトを半分裂くことで、アルファベットのYの字を横にした形状に加工したものです。つまり根元の部分には出し縫いを掛け、裂いた革の上方を「防護壁」としてアッパーの側面に沿わせ、下方は靴の内部に潜り込んで「掬い縫い(つまみ縫い)」が施される訳です。上端が革の断面の切りっぱなしの状態になるので、そこが丸みの帯びた形状となる「ストームウェルト」とは、慣れれば簡単に見分けられますよ。
ストームVSスプリット

向かって左が「ストームウェルト」、右が「スプリットウェルト」です。またどちらも左側が内部に潜り込んで「掬い縫い」が施され、右側が表面に露出し「出し縫い」が行われます。防護壁の上端に注目。前者は丸く整形されていますが、後者は革の断面そのものでより素朴な雰囲気です。


この仕様のウェルトは、トリッカーズのものなどイギリスのカントリーユースの靴で非常に多く見られます。実用上の効能としてはもはや「ストームウェルト」仕様とは大差ないのですが、それより更に素朴な印象に映るからでしょうか? なお、靴メーカーによってはこの意匠を有するものをスプリットウェルトではなく、前回お話した用語である「ノッチドウェルト」と称する場合もあります。こちらは中心部、前回ご紹介したものは上端とノッチ=刻みの場所の違いに起因する混用であり、どちらが正解という訳ではありませんので念のため。更に申し上げると、この記事の方の「スプリットウェルト」の上端部が、前回の記事の「ノッチドウェルト」のように装飾の刻みが付いているものも存在しまして(言い出すとキリがない)……

次のページは、さあ、いよいよ分類が複雑になりますよ!

いったいどっちだ? 側面ステッチ付き

ステッチ付きスプリットウェルト

「スプリットウェルト」にはご覧のように、防護壁の側面にステッチが掛けられているものもあります。ただしこれはあくまでも飾り。アッパーと縫われてはいません。

前ページの「スプリットウェルト」ですが、これにはちょっとしたアレンジ版があります。上の写真のように、「防護壁」となる部分の側面にステッチを備えたものです。ただしこのステッチはあくまでも「飾り」に過ぎず(壁面の補強に多少はなっているかもしれませんが……)、近接するアッパーとは縫われていません。有名なところでは、オールデンのコードヴァンを用いた外羽根式のプレーントウ#990のウェルトがこの仕様です。

そして、この「側面ステッチ付きのスプリットウェルト」は…… フランスのパラブーツが頻繁に用いる意匠である「リバース・ウェルテッド製法」(「外縫い式グッドイヤー・ウェルテッド製法」)と誤認されがちです。下の写真をご覧いただければお解りの通り、「リバース・ウェルテッド製法」はウェルトの断面がY字状ではなく完全なL字状で、その横棒部で出し縫いを掛ける一方で、縦棒部の側面には掬い縫い(つまみ縫い)が掛かります。
リバース・ウェルテッド製法

上の写真の仕様と混乱しがちなのが、この「リバース・ウェルテッド製法」の底付けです。こちらは防護壁の側面のステッチでアッパーと縫われており、ウェルト断面もY字状ではなくL字状です。


つまり、「リバース・ウェルテッド製法」はウェルトと掬い縫い(つまみ縫い)が靴の外側に完全に露出し、ウェルト側面のステッチで実際にアッパーと縫われているのです。ウェルトが靴の内部に潜り込まずにアッパーの端部を隠すことになるので、防水性・防塵性はこれが最強! ただし掬い縫い(つまみ縫い)が露出する点で、これまでご紹介したフラットウェルトやストームウェルトそれにスプリットウェルトを用いたものとは、厳密には別の底付けとなります。

なお、この「リバース・ウェルテッド製法」なる名称は、掬い縫い(つまみ縫い)をミシンで行う場合に限って用いられ、それを手で行う場合は「ノルウィージャン・ウェルテッド製法」と呼び名が変わります。要はグッドイヤー・ウェルテッド製法とハンドソーン・ウェルテッド製法との呼称の使い分けと、基準は同じです。

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