トイレの位置、窓のない部屋……町家造りならではの問題が噴出

Iさん宅のベッドサイド水洗トイレはカーテンの仕切りを設け、お母様が利用するベッドの隣に設置

Iさん宅のベッドサイド水洗トイレはカーテンの仕切りを設け、お母様が利用するベッドの隣に設置

町家造りの家々が立ち並び、歴史を感じさせる街並み。その一角でお母様と2人で暮らすIさんに、今回ベッドサイド水洗トイレのある暮らしを語っていただきました。

90歳を過ぎるというお母様は現在、要介護度3。2014年、Iさんのお父様が亡くなった後に脳梗塞を患い、右半身に麻痺が残って言語も出づらくなったそうです。

「以前にも一度、軽い脳梗塞を患って、要介護度1になりました。そのときは1人でトイレに行くことができたのですが、要介護度3になるとそれも無理で、私自身母を連れて行くのがもう大変になって。結局、昨年3月からポータブルトイレを使うことになったんです」

間口が狭く、奥行きが15間(約30m)あるのが、この辺りの町家の基本設計。トイレの位置は一番奥にあるため、移動に時間がかかり、間に合わなかった……ということもあったそうです。ポータブルトイレを導入してからは、その心配はほぼ解消されましたが、すぐにまた別の問題が浮かびあがってきました。

「ポータブルトイレは、においがやっぱり気になるんです。風が抜ける造りの町家は夏ならいいのですが、それ以外の季節は窓がない部屋では空気がこもってしまう。どうしても我慢できなかったので、1回1回使うたびに庭の水道で排せつ物をためるポータブルトイレのバケツを洗っていました」

「流せるって素晴らしい」本当に心からそう思った

ベッドからベッドサイド水洗トイレへ、お母様が移動するときの様子を再現するIさん。介助に加え、柱に備えられた手すりの利用も欠かせません(手すり工事を除いた工事費用は15万円。なお費用は現場によって変わります)

ベッドからベッドサイド水洗トイレへ、お母様が移動するときの様子を再現するIさん。介助に加え、柱に備えられた手すりの利用も欠かせません(手すり工事を除いた工事費用は15万円。なお費用は現場によって変わります)

排せつ後にポータブルトイレ全体を拭き、バケツの中身を家のトイレに流してから水で洗う。他人からは簡単なように見えることも、実際自分自身が行うのはとても大変だったとIさんは語ります。「当時は当たり前のようにしていたものの、あの生活を継続して送っていたら私はどうなっていただろう……」といま改めて感じるそう。

「当時はとにかく笑顔がなかったです。私にも、母にも。健康な人でもトイレは外出先ではなく、落ち着くことができる自宅で、と思いますよね。当然母も同じで、デイサービスなどから帰ってくると、まずはトイレなんです。だから帰宅時間が近づくと、私も“ああ、またトイレか”と気分が暗くなっていました」

そんなIさん宅にベッドサイド水洗トイレが設置されたのは、2014年9月のこと。担当するケアマネージャーの推薦を受け、導入を決めたそうです。

「実際に使ってみて、“素晴らしい! 流せる!”って感動しました。まるで夢のようだとも。介護の経験がないと大袈裟に感じるかもしれませんが、本当に夢のようだったんです。流せるからにおいが気にならず、何よりラク。ポータブルトイレの後片づけって、手間はもちろんですが、ものすごく気を遣うことでもあるんです。ノロウイルスなどの感染を避けるため、神経を研ぎ澄ませて処理していましたが、そこまで気を遣うこともなくなりました」

介護される側と同じ土俵に立って、一緒に喜べるという幸せ

ベッドサイド水洗トイレを使うようになって、Iさんとお母様には、とてもいい変化が表れたといいます。それは、笑顔が戻ってきたということ。

「それまでは余裕がなかったので、言葉も表情もきつくなって、母が泣いてしまったことも。でも、後片づけがいらなくなって、心にゆとりができたんですね。母は便がゆるめなので、間に合わずに失敗してしまうこともあるのですが、それでも前のようにキリキリしなくなりました。うまくできたときは、一緒に拍手しながら喜んだりしています。2人で便器の中をのぞき込んだりして(笑)」

そう語るIさんは以前、お父様の介護をしていたとき、ある方から言われた「お父さんと同じ土俵に立って」という言葉が忘れられないそうです。当初は理解できなかったものの、あるとき、お父様が突然真夜中にテレビをつけて爪を切り始めたことがあり、その出来事の中で腑に落ちたのだとか。

「いつもならうるさくて父を怒るところでしたが、ふとこの言葉を思い出して“私も切りたいから、終わったら爪切り貸して”って伝えたんです。すると、父はすぐに爪切りをやめて、何事もなかったかのように床につきました。衝動的に怒っていたら、再びすぐ寝つくことはなかったでしょう。母に対するいまの姿勢も同じなんですよね。トイレをのぞいて一緒に拍手するなんて、私が母と同じ土俵に立てているからこそできることだと思います」

Iさんはそう言って、ベッドサイド水洗トイレを「夢のような商品」と続けます。

「排せつ後に流せるようになったことで、これまでマイナスだった自分の時間を、ようやくゼロに持ってくることができたと思います。ゼロからのスタートなら、今まで日常生活で見落としていた喜びを少しでも感じられるようになるでしょうね」

次のページでは、Iさんを周囲で見続けてきた人が語る心境の変化を紹介していきましょう。