不妊症

妊娠しやすい時期・正しいタイミング法

【不妊治療鍼灸師が解説】「排卵日にセックスをすると最も妊娠の確率が高くなる」と思っている人は少なくありません。また、「精子は溜めた方が良い」と信じている人も多いようですが、これらの情報は実は誤り。卵子の老化にも焦点をあて、最も妊娠しやすいタイミングの取り方と正しい排卵日の予測方法について説明します。

徐 大兼

執筆者:徐 大兼

鍼灸マッサージ師 / 不妊鍼灸ガイド

妊娠しやすい時期は「排卵日の前日と前々日」…排卵日の4倍高い確率

妊活中の夫婦のイメージ

もっとも妊娠しやすいタイミングの取り方と正しい排卵日の予測方法とは


妊娠を望まれる方にとって妊娠しやすい時期を知ることはとても重要です。

では、そのタイミングとはいつ頃なのか。それは、排卵日の前日と前々日です。この時期にセックスをすることが最も妊娠の確率を高めると考えられており、排卵日と比較してその確率は4倍アップするとも言われています(1)。

「排卵日しか」狙わないタイミング法をとっている方も多いと思いますが、この方法だとなかなか妊娠はしないのです。妊娠するためには、1回のタイミングに合わせるよりも排卵の前後に合わせて3回~4回タイミングを取るのがベストです。

<目次>  

排卵日の前日、前々日が最も妊娠する確率が高い理由

通常、卵子の寿命は排卵からおよそ1~2日間だと言われています。その間に受精をしなければ卵子は死んでしまいます。

卵子の老化には2種類あって、卵巣内での老化であるいわゆる「卵巣年齢」と排卵後の老化があります。体外受精でも採卵から時間の経った卵子はどんどん状態が悪くなります。ですから、排卵直後の状態が一番良い状態であると言えます。卵子がベストな状態で受精を完了させるためには、排卵をしたときに「元気な精子が待ち構えていること」がポイントになってきます。

一方、精子は射精後、子宮内で4~5日間生存することが可能とされています。しかし、実際に受精可能な期間は射精の5~6時間後から36時間(1日半)なので、射精直後には受精能力がありません。

ですから、正確には射精後5~6時間後から40時間前後が受精可能枠となります。受精可能な状態になった精子を排卵前に待機させておくことが妊娠率をあげるためには重要なのです。

それでは、妊娠を逃さないために意識したい妊娠可能日を具体的に見ていきましょう。
 

妊娠のチャンスを逃さないために意識したい妊娠可能日

排卵より6日間以前のセックスと、排卵から1日以降のセックスの場合、妊娠の確率はほぼゼロといった論文があります(1)。 まず「排卵6日間以前のセックス」は精子による問題が指摘されています。あまり早すぎると精子が排卵まで受精能力を保ったまま待機できないという問題が生じることから妊娠の確率が低下してしまうのです。

次に「排卵1日以降のセックス」の場合は卵子の問題が考えられます。これは排卵後時間が経ちすぎることで卵子の質が低下してしまいます。また、排卵日のセックスでも妊娠はするが妊娠6週までにその80%が淘汰される、と言われています(1)。

よって、排卵の6日前から排卵日前日(5日間)までにタイミングを取ることが大切です。精子の受精能力は排卵後36時間(1日半)となりますので、精子の受精能力に合わせて1日半を目安にタイミングが取れればベストですね。

妊娠の確率を高めるという点からいえばセックスの回数という部分も注目されると思いますが、セックスの回数と妊娠の確率を調べたアメリカの論文によると、毎日セックスした場合、1周期あたりの妊娠率が37%、1日おきが33%でした。これが週に1回になると、15%に落ちています(3)。

つまりセックスの頻度が高まるほど妊娠する可能性も広がるということになります。
 

排卵後のセックスは無意味なのか

妊娠成立後、妊娠の継続を可能にするには免疫の働きが関与してきます。なぜかというと、人の免疫は非自己のものに対して排除しようとする働きがあるからです。

妊娠とは新たな生物が体内に宿ることを意味しますので「寄生」といっても過言ではありません。非自己の生物が母体から栄養を吸収して驚異的なスピードで大きくなるわけですから、免疫機能としては排除すべき存在と認識しても何ら不思議ではないのですね。不育症の人はこの免疫が過剰反応を起こして妊娠を中断させてしまいます。

では、これらを避けるためにはどうすればいいのでしょうか?

まず、重要な考え方として覚えておいてほしいのが「免疫寛容」です。免疫寛容とは具体的に言うと自己を攻撃しないようにする免疫コントロールの一種ですが、この免疫抑制を排卵後のセックスで実現することができます。

よく、「排卵後のセックスは意味がない」と言われますが、実は子宮内膜が精液へ暴露されることによってそれが免疫寛容へと繋がり着床が促進される可能性があることが様々な論文で指摘されています。着床促進に関与している調節性T細胞(Treg = CD4+CD25+Foxp3 T細胞)は移植や妊娠などの際に、臓器や胎児が拒絶されないために(免疫寛容)働いている免疫細胞です。これは精液へ内膜が暴露されることにより増殖しますので、人工授精や体外受精の周期のセックスでも意義があると言えるのです(5)。

つまり排卵後のセックスは妊娠を継続させる上で非常に効果を発揮するということなのです。
 

「精子はできるだけ溜めておく」は誤り

精子と卵子
WHO(世界保健機構)では精液検査ガイドラインに際しての禁欲期間を2~7日間にするという記載をしています(4)。 このため、一般には数日の禁欲期間(精子を溜める期間)を設けて、精液を提出していただくように指導していることが多いようです。それが一発狙い(排卵日に1回のみのセックス)の温床になっているのではないかと思っています。

しかし現在では、様々な論文から禁欲期間を18時間~30時間と設定したときが精子のDNA損傷や奇形率などの危険性を最も避けられると言われています(4)。 精子は溜めず、できれば2日に1回は射精するのが精液の質を保つためには良いとされています(2)。
 

的確に排卵日を予測することは可能か

残念ながら、排卵時期をピンポイントで特定することは非常に困難です。排卵日を予測する方法はいくつもありますが、実はそのどれもが大まかな目安であって、排卵の瞬間は人それぞれ違います。また、その人の体調や精神状態によっても前後します。

例えば、病院に行ってタイミング指導を受けても、医師はホルモン値と超音波で卵胞の育ち具合をみて排卵時期を予測しているに過ぎません。排卵の正確な時期は誰にも予測できないのが現状なのです。
 

排卵日を正確に知る方法

正確な排卵日を知るためにはいくつかの方法があります。すべてとは言いませんが、下記の中から3つぐらいの方法を同時に使うと、かなりの確率で排卵日を特定することができるのではないかと思います。
 
  1. 基礎体温表をつける
  2. 排卵検査薬を使う
  3. 病院でホルモン検査、超音波検査をしてもらう
  4. おりものの量と質を観察する
  5. 子宮頚部の位置を確認する
 

基礎体温表の効果・測り方のポイント

基礎体温表でいつ排卵しているのか予測します。排卵後に体温が上がりますから、体温が上がる前日、前々日にタイミングを合わせます。一般的に排卵前に体温が少し下がるとも言われていますが、下がらない人もいます。また、基礎体温がギザギザの人がいます。特に不規則な生活をしているとギザギザになりがちです。この他、なかなか寝付けない日なども正確な体温が図れません。

■基礎体温表を測るときのポイント
  • 検温には目盛の細かい専用の体温計を使う
  • 目が覚めたら寝たままの状態ですぐに検温する
  • できるだけ毎日同じ時間に測る(測り忘れた場合は、その日は付けないでOK)
  • 自分のサイクルを知るためには、最低でも3か月つける
  • お酒を飲んだ日の次の日の体温は高めにでる可能性を記載しておく
  • ストレス、旅行、病気で変動するのでそういう時は記載しておく
  • 電気毛布や冷房で体温は変化します
  • 睡眠時間が短いと基礎体温は低めになります。目安としては1時間で0.2部
 

排卵検査薬の正しい使い方・注意点

多くの女性が排卵日の特定に固執するあまり排卵検査薬の正しい使い方ができていません。

排卵検査薬は尿中に放出されるLHホルモンを測定しています。一般にはLHサージのピークから24時間~36時間後に排卵すると言われています。LHサージがピークに達すると検査薬の陽性反応は一番濃くなり、それからまた徐々に薄く変化していきます。

多くの人は一番濃くなるまで何度も計り、濃くなった時点でタイミングを合わせようとします。しかし、排卵検査薬を何度も使用してピークを特定することに何の意味もありませんし、この使用法では誤ったタイミングの合わせ方となってしまいます。排卵の前日、前々日にタイミングを取るのがベストなのですから、うっすらと陽性がでたら、それがタイミングをとる合図です。そこから1日おきにタイミングをとりましょう。

最近、PCO(多嚢胞性卵巣症候群)の人が増えています。PCOの場合、濃い陽性反応が数日に渡って続くことがあります。こういった症状が見られた際は排卵障害の可能性もあるので産婦人科医の診察を受けることをお勧めします。
 

病院のホルモン検査・超音波検査によるタイミング指導

卵胞の成熟度を測定するため、血中のE2(エストラジオール)と超音波で卵胞の大きさを測定します。自然の卵胞発育(1個の場合)では、E2の血液中濃度が1ミリリットル当たり250~300ピコグラム(1兆分の1 グラム)、卵胞の大きさが18~23ミリ位で成熟したと判定します。また、1日2mm程度成長するといわれているので、それを予測してタイミング指導が行われます。
 

おりものの量と質の観察による排卵日の予測

おりものの量は排卵に向けて量が増えてきます。また、卵白のように粘液性があり、透明になるといわれています。おりものの変化を注意深く観察してください。
 

子宮頚部の位置による排卵日予測は欧米では一般的

日本ではあまり知られていませんが、欧米では子宮頚部の位置や状態も排卵を予測するため観察します。子宮頚部は排卵が近づいてくるにつれて子宮の奥へ上がっていきます。また、外子宮口は排卵に向けて卵白状の粘液に満たされ、開いてきます。

自分の指で触診することも可能ですが抵抗のある人もいるでしょう。しかし慣れるとかなりの確率で自分の排卵日を予測することができるようなので一度挑戦してみてください。
 

妊娠とセックスの頻度、実際の関係は?

コンドーム製造大手Durex社の2005年の調査によると、セックスの回数が最も多い国はギリシャで1年に138回、フランスが120回、アメリカが113回、中国が96回、日本は最も少なくて45回でした。

2位フランスでの2012年の全国調査によると、半年で妊娠しないカップルは46%、1年で24%、2年で11%となっています。逆に自然妊娠をするカップルは半年で54%、1年で76%、2年で89%と高い数字を示しています(6)。 妊娠の確率や頻度は国々によって違いますが、セックスの回数が多い方が妊娠しやすいのは明らかですので、積極的に機会を増やしてみてください。
 

まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございます。長々と書かせていただきましたが、排卵日の前日と前々日が最も妊娠しやすい時期であることをまずは覚えてほしいと思います。妊娠日を特定してタイミングを合わせはお互いにとってもストレスになりがち。心にゆとりをもって、ベストなタイミングで3~4回の機会を設ければ自然妊娠の可能性もぐんと高まります。また、排卵後も免疫寛容のために1~2回のセックスをすることが大切です。

最後に、パートナーと良い関係を築いていくことは妊活で最も大事にしたい部分だと思います。妊娠を望むあまり気持ちばかり焦ってしまわずに、お互いの都合を第一に考えて寄り添う心を忘れないようにしていきましょう。

■参考文献
(1) Wilcox AJ et.al. Human Reproduction 13: 394–397, 1998
(2) Fertil Steril 2005; 83: 1680
(3) Wilcox AJ, et al. New EnglJ Med.1995;333(23):1517-1522
(4) Andrology 2013, 2:1
(5) Hum Reprod Update 2009; 15: 517 (Review)
(6) Hum Reprod 2012; 27: 1489

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