2014年1月、ケラ&ザ・シンセサイザーズの新作『BROKEN FLOWERS』は、レコーディングの過程で、ザ・シンセサイザーズ結成以来の朋友、三浦俊一さんが突然の脱退を発表。暗礁に乗り上げたと思いきや、杉山圭一さんの加入、そして8人のゲスト・ギタリストを迎えて2015年6月に発表となりました。今や、演劇の世界での知名度も高いKERAさんに、発表までの経緯とその想いを話していただきました。

なおこの取材は、現地に行けない四方(ガイド)に代わって、音楽ライターの小暮秀夫さんにやって頂きました。ありがとうございました。

BROKEN FLOWERS (amazon.co.jp)
brokenflowers

BROKEN FLOWERS

synthsizers

ケラ&ザ・シンセサイザーズ (左から: RIU、Reiko、KERA、杉山圭一)


意図して何年か先をガツンと開けておくしかない

ガイド:
今回、ケラ&ザ・シンセサイザーズ、有頂天の新作が同時発売となり、この後にはNo Lie-Senseの新作やKERAさんのソロなどがまだ控えています。これだけ制作が集中したのは、意図的なものですか?

KERA:
半分は偶然なんですけど、半分は意図的に舞台のスケジュールを入れなかったんです。今年の3月に「三人姉妹」を大阪で閉幕して、そこから8月1日まで演劇も映像の仕事も入ってない。半年も舞台をやらないのは、おそらく90年代以来です。自分で会社をやってた時は、(演劇の仕事を入れないと)社員食わせられなくなっちゃう切実な経済事情があって、半年間音楽に没頭するなんてことはできなかった。

逆に言えば、本当にくやしい話なんですけど、今の自分の置かれてる状況ってのは、ミュージシャンとしての活動に人が以前ほど耳を傾けてもらえなくなってる。当然お金にもならない。だから事務所も演劇の仕事を沢山入れることになる。そうすると演劇のお客さんが増える。で、音楽はその隙間にやるようになっていく。むつかしいところです。加えて、演劇は日程が決まるのが早い。今、もう2019年の仕事を決めてますから。そうすると、意図して何年か先をガツンと開けておくしか、音楽に時間を割く方法はないんですよ。音楽活動のほうを先に決めろと言われても、業界のルールがありますから。

No Lie-Senseは2013年11月に1stアルバム『First Suicide Note』を出した直後から2ndアルバムのレコーディングをしてましたし、その2ヶ月後、2014年の年明けぐらいからシンセサイザーズも作り始めていたんです。さっき「半分は偶然」と言ったのは、もっと早くこの2枚はリリースされる予定だったからです。ところが、(三浦俊一の突然の脱退によって)シンセサイザーズのレコーディングが中断された。こりゃマジで半年ぐらいスケジュールを空けて(音楽活動を集中して)やらないとお蔵入りだぞと考えた。大英断でした。

二人のメンバーの脱退

ガイド:
福間創さんと三浦俊一さんの脱退はほぼ同時に?

KERA:
福間君はね、2013年の暮れに新宿ロフトで4日間開催された「ケラリーノ・サンドロヴィッチ・ミューヂック・アワー」が終わった時には脱退が決まってました。それで三浦の提案で、レコーディングに入る時には杉山(圭一)でいこうと。そうしたら、レコーディング真っ最中の深夜に三浦から突然「シンセサイザーズを脱退しました」というメールが来たんですよ。すぐに杉山から「今なんか変なメールが来ませんでしたか!?」って電話がかかってきた。

ガイド:
レコーディング開始早々に意見が対立して、脱退するような雰囲気になっていたのでしょうか?

KERA:
全然。こっちはその日の夜、つまり数時間前まで、「この曲はこうしようよ」とか、レコーディング作業について具体的な話を三浦としてるんですよね。「一体どうしたんだろう?」っていう。わけがわからなくてメンバー全員困惑するばかりでした。これは想像でしかないんですけど、三浦は三浦で何かを遠慮していて言えなかったことがあったんじゃないかと思うんですよね。それが弾けた。三浦をフォローするつもりはまったくないし、彼は人として絶対にやってはいけないことをやってしまったと思ってるけど、反面、物を作ってる人ってどっかそういうとこもあるんじゃないかなっていう風にも思うんですよね。

ガイド:
三浦さんからのメールは他にどんなことが書かれていたんですか?

KERA:
「心が揺れるので、メールとか電話とかしてこないでくれ」という内容でした。それで姿をくらましちゃったりしたらみんな心配するんだけど、あいつ普通に音楽活動やらツイッターやら続けているから(笑)。これが20代だったら「ふざけるな!」って話になるでしょうし、向こうは向こうでなんらかの具体的な言葉を返してきたりもするんでしょうけど。一応本人が脱退って言ってるから脱退なのかなとは思うんですけど、ただ僕の中ではね、劇団なんかもそうなんですけど、なるようになるさって感じなんですよ。辞めるって言い出さないような状況ができた時に、戻ってくればいいんじゃないかっていうような気持ち。

脱退後…

ガイド:
制作当初にやっていたことは、三浦さんの脱退によってどうなったんですか?

KERA:
すごく乱暴に言うと、最初の2週間か3週間の作業の多くは無駄になってしまった。青天の霹靂だったので、周囲にも大変な迷惑をかけた。だから制作開始当初の予想とはかなり違うものができあがりました。

ガイド:
バンマスの脱退で、当然バンド内部の制作体制にも変化が生じたわけですよね?

KERA:
それまで最終ジャッジは基本、三浦がしていて、それに異を唱えることがあるのは僕だけ、というのがバンド内の暗黙のルールだったので、突然逃げるようにして舵取りがいなくなった時にみんながモチベーションを失ってしまうんではないかという危惧はありました。でもフタをあけてみたらまったくそういうことはなかったし、むしろ「今まで遠慮していたのか、こいつらは!」っていうぐらい頼もしかった。たとえばReikoだったらコーラス班のチーフで、コーラスのラインを次々と提案してくれた。杉山からも、三浦がいたら絶対自分からは提出しないだろうアイデアが続々出てくる。

何が起こっても、どうにかなるんですよね、バンドって。でももし僕一人だったら、どうにもならなかった。だから3人のメンバーには感謝しているし、あらためてこういう風に作ってみると、今まで本当の意味では全員一緒には作ってなかったんだなって思うんですよね。その時はできる範囲で精一杯やったつもりだったけど、今回はその4倍も5倍も時間を使ってるし、思考してるし、何度も何度も組み立てなおしている。「もう期限だから、これでGOしちゃおう」ってことが皆無でした。「ここまでやったんだから、気になるところがあったら納得いくまでやろう」っていう。

そういう作り方ができたのって、LONG VACATIONのある時期――ハワイ盤『SUMMER LOVERS』以来かなと思うんですね。あの時、三浦が辞めずに作り続けていたら、また別の意味でいいものができたとは思うんですけど、これまでのシンセサイザーズとさほど変化のない作品になったでしょうね。ここまで革新的なアルバムはできなかったと思う。

8人のゲスト・ギタリスト

ガイド:
今回はゲスト・ギタリストが8人も迎えられていますが、実に多彩な顔ぶれですね。当サイト的には、ムーンライダーズの白井良明さん、POLYSICSのハヤシさん、FLOPPYの小林写楽さん、くるりの岸田繁さんの起用のされ方が興味深かったです。

KERA:
良明さんは後期ムーンライダーズでハッチャケ担当みたいな印象があったので、「ロケット・ソング」と「大発見(休息と抵抗)」で悩みました。どっちを良明さんでどっちをハヤシ君に弾いてもらうか。もちろん二人とも様々なスキルをもっているということは分かっているんですけど、陽性なギタリストが二人っていう印象だったんですよね。

岸田君と写楽君に関しては、バンドではギターも弾くヴォーカリストみたいなポジションじゃない?その二人に今回は、純然たるギタリストとして参加してもらう。声は一切入れない。写楽君はギタリストとして何ができるのか未知の部分もあったけど、この曲(「ポピーズ」)なら色々なアプローチが可能なのかなと思って。岸田君も、くるりで色々なタイプの音楽をやっているじゃない? だからこういうギタリストっていう(固定された)イメージがあんまりないんですよね。去年ワーハピで会った時に「ギタリストとして参加してほしいんだけど」って頼んだらとても喜んでくれて。岸田君はミュージシャンとして非常に面白いと思いますね、もがいてるさまも。

フラワー・ムーブメントから

ガイド:
歌詞に「枯れた花」が何度も出てきますが、これはどういうところから?

KERA:
サイケ・ミュージックをヒントにしたアルバムを創ろうと思いついた時点で、短絡的なんですけど、フラワー・ムーブメントから「花」というモチーフがありました。まだレコーディングに三浦が参加していた時期に「散り行く花」っていうタイトルでコンセプト・シートみたいなものを手書きして、枯れた花のイラストを描いたんです。リリアン・ギッシュって女優さん主演のサイレント映画の名作で『散り行く花(原題:Broken Blossoms)』ってのがあるんですね。それと、ジム・ジャームッシュの『ブロークン・フラワーズ』。意味は同じなんで、英タイトルと和タイトル、どっちがいいかね、みたいな話をしたの覚えてますけどね。

ガイド:
ジャームッシュの『ブロークン・フラワーズ』にイメージを重ねたところがあったのかなと思ったのですが。

KERA:
世界感は無関係ですね。「枯れた花」がなんのメタファーなのかを言っちゃうのは野暮なので言いませんけど、今の世の中、枯れた花だらけだと思うんですよ。僕の目から見て。どこか劇作家的な目線ですね。僕にとってフル・アルバムを作るってそういうことなんですよね。1曲1曲が演劇におけるシーンみたいな。

今の時代、恥ずかしがってるほうが恥ずかしい

ガイド:
こういうシーンが足りないからそれにあった曲を作って配していく、みたいなところがあると。

KERA:
そうですね。「問題アリ」とかは意図がすごく見え見えだから分かりやすいと思うんですよね。敵側の目線に立っている。「BROKEN FLOWERS」とかも、ちょっと具象的過ぎて以前だったら気恥ずかしさを感じていたと思うんですけど、今の時代、恥ずかしがってるほうが恥ずかしいような気がして。シンセサイザーズはポリティカルなバンドではないし、社会派な詩を書こうとも思ってないんだけど、普通に今の日本に生きてれば誰でも息が詰まる。やばいぞって感じあるでしょ?出来る歌も自然そうした歌になるんですよ。

BROKEN FLOWERS (YouTube)

『Body and Song』も震災後に聴いたら非常にリアルだったりして、予見していたかのような歌も何曲かある。こんな今の世の中に生きていくしかない自分たちへのエールっていう意味で、あのアルバムはポジションを見つけたと思うんです。でも今回のは、いよいよ浮かれてる場合じゃないぞっていうひっ迫感がありますね。

ある程度のニューウェイヴ感

ガイド:
今作は60年代後半のサイケデリック・ミュージックの要素が取り入れられるなど、今までのシンセサイザーズにはなかったアプローチが随所で見られるため、戸惑う人も多いと思われます。でもそういう中で、モロにニューウェイヴなノリの「ロケット・ソング」みたいな曲が出てくると…

KERA:
ホッとする(笑)。だから通して聴いてもらいたいね。ライヴで半分ぐらいのレパート リーが有頂天の曲だった頃のシンセは、とにかくノリを最重要視してたんですよね。決して聴き入るタイプの音楽ではなかった。でも有頂天が再始動てことになると、それは有頂天でやればいいじゃないかっていう。今後どうなっていくか分からないですけど、今はシンセサイザーズでは歌ものをやるという割り切りがあります。僕らがやるとある程度のニューウェイヴ感てのは漂ってくるから、ことさらニューウェイヴ、ニューウェイヴ騒がなくてもいいのかなって。正直、ニューウェイヴに少し飽きてきてるんでしょうね。

ガイド:
そういう意味では、今まで聴いてこなかった人にもぜひ聴いてほしい作品だと思います。

KERA:
今回立て続けに作っている作品群はどれも聴いてほしい。後から振り返ると、あの時期は特殊だったなと思う時期だと思うのね。あんなに音楽創作に集中した事はなかったなっていう。特殊な時期に作ったものには特殊な何かがあると思うんですよね。

同時発売の有頂天の新作

ガイド:
シンセサイザーズの新作と同日には有頂天の新作『lost and found』も発売となりました。2014年に開催された「ケラリーノ・サンドロヴィッチ・ミューヂック・アワー」の後期有頂天セッションにおいて再結成が宣言されたのにはビックリしましたよ。

lost and found (amazon.co.jp)
lostandfound

lost and found


KERA:
僕もです(笑)。同窓会はもういいだろうっていう気持ちがあって。それって一過性のものだと思うし、時間の無駄だと。当時のメンバーと一緒に生産的なことをやるならありだけど、まず不可能だろうと高をくくっていた。ところがメンバーがみんな「とりあえずライヴは新曲やろう」って言い出して。予想外の展開に背中を押されたというのが本当のところです。
uchoten

有頂天


ガイド:

今回収録されている5曲は、各自がデモを持ち寄ってという作り方ですか?

KERA:
「猫が歌う希望の歌」と「進化論」は先行してライヴでやってた曲です。あとの3曲はコンペをやって、一回だけアレンジのリハをやって、あとは現場処理ですね。ワッと形にして、ひっくり返すところは一気にひっくり返す。思いつきはすぐさま形にする。迷わない。「ちょっとジン、今日、娘空いてたら連れてきて」って言って、娘さんに歌ってもらったりとか(笑)。それは「東京麒麟駅」って曲ですね。聴けばすぐ分かります。

ガイド:
ということは、レコーディング自体はそれほど時間がかかっていない?

KERA:
6日間の突貫工事でした。普段の仕事を捨てて再結成したわけではないから、なかなかみんなの時間があわなくて。今再結成するっていうのは、困難な道だとは思います。さほど活発には動けないし。だけどそれでもやる価値があると思うか ら、5人は集まったんだと思う。今回のミニ・アルバムは若干は遊び気分だっていうのもなくはなかったですけど、懐古的なムードは一切ないですね。

これぞ、有頂天!

ガイド:
どれも「これぞ、有頂天!」という曲になっているのには驚きました。

KERA:
「せーの!」で音出した時にまぎれもなくあの面子ならではの音だったのは、感動的でしたよ。それってつまり、自分があるってことですからね。それぞれに。これしかできないとも言えるけど(笑)。次はフル・アルバムを作ろうと決めているんですが、集まった5人で今何を作るかっていうところから始まるから、今回とは全然違ったものになるでしょうね。実際、ポニーキャニオン時代と東芝EMI時代、かなり違いましたからね、やってること。『土俵王子』と『ベジタブル』だって全然違うしね。オーディエンスもそれぞれ違うんじゃないですかね、自分にとっての有頂天って。

今後のシンセサイザーズ

ガイド:
今後シンセサイザーズではギターはどうしていく予定ですか?

KERA:
どうしていくんでしょうねえ。当面正式メンバーは迎えずにやっていくんじゃないかな。まだなんともいえないですけど…。しばらくすると三浦がまた弾いてたりするかもしれないし。でも今の流れでいくと、三浦が弾いてたとしてももう一人ギターが欲しい(笑)。本当は一人、マルチプレイヤーがいてくれるといいんですけどね。曲によってギター弾いたり、キーボード弾いたり、パーカッション叩いたりできる人が。

ケラ&ザ・シンセサイザーズ(公式サイト)
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