今世紀になり分かってきたクラシック音楽が脳に与える影響

クラシック音楽はとかく「良い音楽」のイメージが持たれている。クラシック音楽を聴くと頭が良くなる、体に良い、癒し効果がある、胎教に良い、などなど……。過去を振り返ると「モーツァルト効果」や「1/fゆらぎ」などの言葉が話題となってきたことをご記憶の方も多いでしょう。

確かにクラシック音楽を聴くことは「良い」と思うのですが、個人的には「音楽のジャンルの差異による優劣は特にないのでは……?」と思ってきました。

ところが、今世紀に入って音楽が脳に与える影響の研究が急速に進歩。優劣という話ではないですが、クラシック音楽が脳に与える影響は、確かに独特なものがありそうだというのです!

こうした研究に強く関心を持ったのが「ペイン・マネジメント(痛みの管理)」を永らく考えてきた現役医師・医学博士の藤本幸弘先生。

「サン=サーンスの名曲『白鳥』には痛み解消の効果がある」など驚きの説を解き、この度、
・藤本先生の聴くだけで痛みがスッキリ
・藤本先生の聴くだけで悩みがスッキリ
・藤本先生の聴くだけで不眠がスッキリ
という3枚の音楽療法コンピレーション・アルバムを監修し発表。

痛み・悩み・不眠に効くクラシック音楽とは、どういうことでしょう?? 本当に効くのでしょうか? この極めて気になるテーマについて、直接、藤本幸弘先生に尋ねてみました。

ガイド大塚(以下、大):「音楽を聴くと痛みが解消する」というのはどういうことなのでしょうか?
藤本幸弘先生

大のクラシック好きの藤本幸弘先生。レーザーを用いた美容治療を行う「クリニックF」の院長を務めている

藤本先生(以下、藤):音楽が脳の中で何かに影響を与える力があるというのは昔から分かっていたのですが、医学的に判定はできていませんでした。ところが、今世紀に入って『ファンクショナルMRI』といって、脳内の血流などを測れる機械ができ、これにより音楽を聴いた時に脳内で何が起きているかを、血流を見ることによって判断することができるようになってきました。ここ10年でやっと医学的に検証できるようになってきたわけです。

大:本当に最近のことなのですね。

藤:そうなんですよ。そして『痛み』ですが、国際疼痛学会による定義は『実際に何らかの組織損傷が起こったとき、または組織損傷を起こす可能性があるとき、あるいはそのような損傷の際に表現される、不快な感覚や不快な情動体験』。つまり、感覚+情動なんですよ。要は実際に痛い状態だけではなく、その後に起こる脳内での動きも「痛み」なんですよね。

例えば、誰かを仲間外れにして疎外感を与えると「心が痛」みますよね。その時の脳を調べると、実際に何か外的な刺激をして痛い時と、脳の同じ場所が働いているのが分かったりするんです。結局のところ、実際の痛みであれ体験であれ、何かがあった際に脳の中でどこにアウトプットが繋がるか、というだけの問題なんですよ。短い急性痛と、長い慢性痛というのがあって、急性痛というのは実際的な痛みや危険を伝えるシグナルです。当然それは病院に行くべきです。ただ慢性痛は、実際の病気が治っているのに、痛みの記憶だけが残っていたりするんです。

痛みが生じると、交感神経が緊張して血管を収縮する、また、運動神経が興奮して筋肉が緊張し、これらによって血行不良が起こる。すると痛みの物質ブラジキニンなどが発生し、痛みを増強するんです。実際に痛みの原因がなくなっても、この回路だけが残ってしまっている場合があるわけです。

こうした慢性痛は、それを超える情報を与えると「マスク(覆う)」することができます。人間の脳は、脈や心臓を動かす脳幹と、感情を表す大脳辺縁系、食欲や性欲などの視床下部によってなる「旧脳」と、思考や言語をつかさどる大脳新皮質という「新脳」に分かれます。ある種の音楽を聴いたり、心地良い音楽を聴くとエンドルフィンやドーパミンなどの物質が新脳内に出ます。エンドルフィンはモルヒネの6倍の鎮痛効果があり、「快」の感覚を与えるホルモンであるドーパミンの作用を延長させます。なお、聴覚は五感の中で最も原初的な器官であり、脳に直接作用します。

コンサートに行って感動すると痛みをすっかり忘れたりしますが、それは正に「聴覚性痛覚消失」という脳の現象です。エンドルフィンが出て、痛みをマスクしているのです。

大:なるほど! 心地良さが痛みに勝り、痛みを感じない、というわけですね。でもクラシックが特別良い理由はあるのでしょうか?

藤:音楽には、リズムとメロディーとハーモニーの3要素がありますが、リズムというのは旧脳系に効きます。興奮してくるとか。ジャズなどはそういう感じですよね。

メロディーを理解するというのは高次脳である新脳じゃないと無理ですね。多分、動物はメロディーが分からないですよ。そして、メロディー以上に複雑なのがハーモニーで、クラシック音楽の特徴はハーモニーを入れ込んで作曲することに尽きるじゃないですか。脳は難しいものを理解したときに喜びを感じるんですよね。

更にクラシック音楽は伏線がたくさんあり、要は聴けば聴くほど理解が進み「あ、こういうことだったのか」と内容をちゃんと把握できたとき、脳内に喜びが出てくるんです。

大:確かにハーモニーや構成の複雑さで言ったらクラシックは別格ですね。

藤:歌謡曲のように1回聴いて気持ちが良いメロディー中心の曲というのは、自覚はなくとも、脳が早々にその旋律に慣れてしまい、ある意味脳が「飽きて」しまうということが起きてしまうように思うんですよね。慣れ親しんでいる曲の良さはもちろんあるわけですが、新しい発見や難しいことに挑戦し、前に進化する喜びを脳は常に求めていますから、そこを満たすことは難しくなります。

また、もう一つクラシック音楽の面白いところは、演奏家によって表現が異なるということですね。僕も1曲に対して30枚くらいCDを持っている曲があったりしますけれど、いろんな表現者がいて、それぞれが良いか悪いか、と聴き比べできる喜びもありますよね。

大:演奏の種類ということでは、今回のコンピレーションは、名門ドイツ・グラモフォンやロンドン・デッカなどを抱えるユニバーサル ミュージックさんの音源なので、名録音ぞろいですね。

藤:そうなんですよね、すごくたくさんの音源から選ばせていただけ、普通にクラシック音楽の入門編として聴いていただくにも結構良いのではないかと思います(笑)。

大:サン=サーンスの『白鳥』も人気チェリスト、ミッシャ・マイスキーの演奏ですものね。

藤:申し分ないですよね(笑)。『白鳥』については「ホンマでっか!?TV」で話をしたのですが、すごく良い音楽なんですよね。さざ波を表す伴奏がタラララララララと心拍に近い音であり、安定しています。メロディーを弾くチェロは、人の声域が全部出せる唯一の楽器なんですよ。ですから口ずさめるんですよね。それって大事ですね。更にどこかで聞いたことがあるだろう曲ということですよね。記憶があって旋律も覚えている。「これこれ」って思い出せるんですよ。あともう一つ、タラタラタラと高く上がっていくようなところがいくつかあります。音が上がる時は人間にとって快楽なんですよ。オペラのハイCをみんなが求めるのと同じで、高い音って良い意味で、気持ち良いんですよね。こうした好条件が揃っていて、脳の中にあるドーパミンとエンドルフィンが出て、痛みがカバーされます。

大:いやぁ、面白いですね。

藤:今回出させていただいた3枚のディスクの中で「痛み」に関しては、自律神経を安定化させるという働きと、キレイな高度なメロディーとハーモニーを覚えることで大脳皮質からドーパミンを出すという経路を意識して選曲しました。

「悩み」に関しては、音楽療法で行う方法ですが、うつ状態のときというのは、いきなり励ますのではなく、まず同調・共感すべきなんですよね。ですので、気持ちを代弁してくれるような暗い音楽からスタートしています。そうして気持ちを落ち着けてから、ちょっとずつ転換していくようなイメージで、最後に明るい曲を入れました。

そして、その転換点に使ったのが、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の第一楽章です。とても重厚な暗い音楽で始まりますけれど、途中で明るく壮大に変わるじゃないですか。ここを転機に元気になってほしいな、というのが意図ですね。演奏も、諏訪内晶子さんによるとても良い演奏です。

気持ちを変えるというのはすごく大事なんですよ。今回のCDで病気が治るわけではありません。病気はやはり病院に行かなきゃ治らないんですよね。ただ、病気になりかかっている気持ちやストレスを発散すると、病気になりづらくなると思いますね。ストレスを感じると、腎臓の裏にある副腎からコルチゾールが大量に出ることになり、これによって免疫力が下がり、病気になりやすくなるんです。そして、音楽は確実にストレスを発散してあげることができるんですよね。

「不眠」に関しては、音のバランスや、曲のつなぎに注意しました。バッハのゴルトベルク変奏曲から始まっていますが、これは不眠の貴族のために睡眠薬代わりに弾かれたとも言われていますよね。という感じで、どこで寝落ちしても良いような選曲にしました(笑)。

大:なるほど、練られてますね(笑)。なお、特に「痛み」ですが、これはBGMのように聴くのでも効果はあるのでしょうか?

藤:症状を実際に変えていきたいときには、BGM的と言うより、集中して聴いてもらった方が良いですね。大脳を一つでも多く使った方が良いです。


とのことでした。
痛みをマスクする、というのも確かに自分の経験からも分かりますし、悩みと不眠の考え方も非常に納得がいくものでした。そして先生がインタビュー中でおっしゃっているとおり、普通にコンピレーションとしても素晴らしい演奏と選曲になっていますので、ぜひ処方(?)を試してみてください。

藤本先生の聴くだけで痛みがスッキリ
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1 組曲《動物の謝肉祭》から 白鳥 (サン=サーンス)
2 歌劇《ホフマン物語》から ホフマンの舟歌 (オッフェンバック)
3 交響曲 第5番 嬰ハ短調 ~ 第4楽章:アダージェット (マーラー)
4 ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》 ~ 第2楽章: Adagio Cantabile (ベートーヴェン)
5 組曲《くるみ割り人形》作品71aから 花のワルツ (チャイコフスキー)
6 弦楽セレナード ハ長調 作品49 ~ 第2楽章:ワルツ (チャイコフスキー)
7 パガニーニの主題による狂詩曲 作品43から 第18変奏 (ラフマニノフ)
8 クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581 ~ 第1楽章: Allegro (モーツァルト)
9 劇音楽《真夏の夜の夢》 序曲 作品21 (メンデルスゾーン)
10 組曲《惑星》 作品32 ~ 第4曲:木星 - 快楽をもたらすもの (ホルスト)


藤本先生の聴くだけで悩みがスッキリ
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1 弦楽のためのアダージョ 作品11 (バーバー)
2 即興曲 変ト長調 D899の3 ~ 第3番 変ト長調: Andante(シューベルト)
3 レクイエム 作品48 第7曲:楽園にて(フォーレ)
4 前奏曲 嬰ハ短調 作品3の2 《鐘》(ラフマニノフ)
5 ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64 ~ 第1楽章(メンデルスゾーン)
6 バラード 第1番 ト短調 作品23(ショパン)
7 ピアノ協奏曲 イ短調 作品54 ~ 第1楽章(シューマン)
8 幻想小曲集 作品12 ~ 第2曲:飛翔(シューマン)
9 愛の挨拶 作品12(エルガー)
10 歌劇《ジャンニ・スキッキ》から 私のお父さん(プッチーニ)


藤本先生の聴くだけで不眠がスッキリ
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1 ゴルトベルク変奏曲 BWV988から アリア(J.S.バッハ)
2 パッヘルベルのカノン(カノンとジーグ ニ長調から)(パッヘルベル)
3 G線上のアリア(管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068 から)(J.S.バッハ)
4 夜想曲 第2番 変ホ長調 作品9の2(ショパン)
5 アンダンテ・カンタービレ(弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 作品11 第2楽章)(チャイコフスキー)
6 ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466 ~ 第2楽章: ロマンス(モーツァルト)
7 亜麻色の髪の乙女 (前奏曲集 第1巻から)(ドビュッシー)
8 ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 作品21 ~ 第2楽章:Larghetto (ショパン)
9 月の光 (《ベルガマスク組曲》から)(ドビュッシー)
10 タイスの瞑想曲 (マスネ)
11 ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 《皇帝》 作品73 ~ 第2楽章 (ベートーヴェン)
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