舞台『トロイラスとクレシダ』
横田栄司さんにインタビュー!


横田さん

(撮影:演劇ガイド 上村由紀子)


演劇ガイド・上村由紀子が”今、会いたい舞台人”にインタビューする【演劇cafe】。 第15弾は横田栄司さんです。7月15日(水)に世田谷パブリックシアターで開幕する舞台『トロイラスとクレシダ』(演出 鵜山仁)でギリシャの将軍・アキリーズ役に挑む横田さんに、シェイクスピア作品のことやお稽古場の様子、俳優としてのこれまでやこれからについて、じっくりお話を伺いました。

――『トロイラスとクレシダ』お稽古場の雰囲気はいかがですか?

横田
極めて穏やかに合理的に進んでいる感じですね。ときどき鵜山さんの突拍子もない提案で稽古場が笑いに包まれる事もあり、とても良い雰囲気ですよ。

――ギリシャの将軍・アキリーズ役でのご出演ですが、アキリーズはとても多面的なキャラクターだと感じました。

横田
そうですね、哲学モードになってみたり、急に怒り狂ったりちょっとダラダラしてみたり。そういう意味では皆さんがお持ちの”英雄”としてのイメージより、シェイクスピアならではの人間臭い人物像になっていると思います。それを上手く出していけたら良いなあ、と。

――今回は文学座の鵜山仁さん演出ですが、以前蜷川幸雄さんの演出で、アキリーズと敵対するヘクター役を演じていらっしゃいますね。


横田
これはね、面白いです。 劇中でヘクターの名前が呼ばれると一瞬「ん、俺のこと?」って思っちゃいますし(笑)。で、すぐに「あ、今回は違う違う。ヘクターは(吉田)栄作さんだ」って。稽古中もヘクターのことは気になりますね。

昨日の稽古で、ヘクターとアキリーズが対峙する場面があったんですけど「あ、ここ、栄作さん俺のこと見てくれないんだ、寂しいなー」なんて思ったり(笑)。以前演じた役に対して違う役柄で向き合うのは面白い感覚です。

横田さん

(撮影:演劇ガイド 上村由紀子)


吉田鋼太郎さんとの出会いで
シェイクスピアを深く勉強したいと思った


――横田さんはこれまでも多くのシェイクスピア作品に出演していらっしゃいますが、特に印象的だった作品は何でしょう?

横田

僕、こんなにシェイクスピアをやるつもりで演劇界に入った訳ではないんです。でも以前、吉田鋼太郎さんと『タイタス・アンドロニカス』でご一緒して、鋼太郎さんがタイタスを演じられたのを間近で見た時に「ああ、シェイクスピアをもっとまじめに勉強しないと駄目だな」って凄く思ったんですよ。それをきっかけに、鋼太郎さんが主宰している劇団AUNに押しかけまして(笑)、『夏の夜の夢』の打ち上げの席で「もっとシェイクスピアを勉強したいから、ぜひ公演に参加させてくれ!」って。

それで劇団AUNの公演に出させて貰うようになって……何回目かの『終わりよければすべてよし』のペーローレス役が物凄く楽しかったんですね。嘘吐きでいい加減で、自分の身に危険が及ぶとすぐ味方の秘密情報を喋っちゃう、みたいなヤツだったんですけど(笑)。上手く演じられたとか、そういうことではなくて「ああ、シェイクスピアって面白い人間を描くんだなあ」と再認識しました。劇団AUNでシェイクスピア作品に参加出来た事は自分の中でとても大きい経験ですね。

その鋼太郎さんと出会わせてくれたのは蜷川(幸雄)さんで。蜷川さんには文学座でやらせて頂けないような二枚目も演じさせてもらって(笑)感謝してます。

横田さん

(撮影:演劇ガイド 上村由紀子)


――舞台での横田さんを拝見していると、骨太でありながらセクシー……更に、絶対的な安定感があると感じます。

横田

や、やめて下さい(笑)。安定感とか骨太とか、本人は全く意識していないことですので、そう言って頂くと嬉しい反面何だか照れます(笑)。

――シェイクスピア作品で逞しく存在していらっしゃると思ったら、音楽劇『ガラスの仮面』(2008年・蜷川幸雄演出)では、あの速水眞澄さまを演じられたり。

横田

それこそ本当にやめて下さい(笑)!日本中からクレームがきましたから(笑)!従妹からも「あれは……栄司さんじゃない」って怒られたんですよ(笑)。

――大人の眞澄さん、素敵でした!では『ハムレット』のロンドン公演のお話を(笑)。現地での反応はいかがでしたか?


次のページでは『ハムレット』イギリス、台湾公演の裏話も!


本場イギリス
そして台湾での『ハムレット』


横田さん

(撮影:演劇ガイド 上村由紀子)


横田

シェイクスピアの本場である英国公演。お客様の反応はとても良かったと思います。(藤原)竜也君が凄く背負って……極限まで”背負った”エネルギーを全部放出する姿が……もう、ね。竜也がそれまで背負ってきたものを解き放った姿が一番印象に残っていますね。そのエネルギーをイギリスのお客様もしっかり受け止めて下さっていました。

――『ハムレット』のカンパニーは台湾公演にも行かれています。

横田

台湾は最初から凄くウェルカムな状態でした。お客様から”待っていた!”という空気もしっかり伝わってきましたね。国民性もあるのでしょうが、楽しむということにとても積極的だと感じました。

僕はホレイシオ役を演じていたのですが、台詞で「ホレイシオ、どうしたのだ、何故ここにいる、何故」と問われて「授業をさぼるのが性分でして、殿下」と返すと客席からどっと笑い声が聞こえるんです。一瞬戸惑いつつも「そ、そうか、これはホレイシオ流のギャグだもんな……うん」と納得してみたりして(笑)。

そういう場面が劇中にいくつかあって、オイオイ!とこちらもちょっと笑っていた所で、平(幹二郎)さんが「もしかして、シェイクスピアの時代の観客たちもこうやって舞台を愉しんでいたのかもしれないな」って仰ったんです。それを聞いてなるほどなあ、と思いました。

横田さん

(撮影:演劇ガイド 上村由紀子)


――『トロイラスとクレシダ』の製作発表でも「シェイクスピア作品だということで変に構えないで欲しい」という言葉がいろいろな方から出ていましたね。

横田
ここ数年、シェイクスピア作品に対しての”壁”みたいなものは大分なくなったと思うんです……蜷川さんや鋼太郎さんの仕事の素晴らしさもあって。本当はもっともっとハードルが下がって、若いお客さんがどんどん劇場に来て下さると嬉しいんですが。

『トロイラスとクレシダ』に関しては、演劇ファンもキャストを楽しみに観にいらっしゃる方もどちらにも楽しんで頂けるような舞台になればと思っています。

――アキリーズは観客から見て頷ける部分が多い人物だと思いました。とても人間的で。

横田

確かに。楽しい事が好きだったり、ツラい事が嫌いだったり、好きな人と嫌いな人に対しての態度が全然違ったり。普段、日本人である僕たちが何となく隠しているような事が全部毛穴から出て来ちゃうような人物ですよね。ちょっと残念な部分もありつつ(笑)、そういうところがまた可愛かったり、憎らしかったり。

演出の鵜山さんからは「横田は以前どの役をやったの?」と聞かれて「僕、ヘクターをやりました」と答えたら「えええーっ!」って(笑)。蜷川さんはヘクターで僕のことを使ってくれて、鵜山さんはアキリーズ。両方のイメージがあるということは……いい役者だっていうことですよね(笑)。アキリーズは難しいですが本当に面白い役だと思います。

空白の二年間は
まさかの○○通い!?


横田さん

(撮影:演劇ガイド 上村由紀子)


――横田さんは文学座にお入りになる前に桐朋の演劇科をお出になっていますが、ストレートでの入学ではないんですよね?

横田
そうです、2年間空白の時がありますね。最初は浪人して大学受験の準備をしていたんですが、途中で麻雀に目覚めまして、代々木の雀荘にめちゃめちゃ通いました(笑)。

――そんな青春背負い投げの状態からどうして俳優の道を?

横田

2年目に、流石に働かないとまずいと思って、高校の時の同級生のアパートに居候しながら、池袋の百貨店の家具売り場で販売の仕事を始めたんです。僕が通っていた高校は文化祭がとても盛んで、教室で演劇をやったり、映画製作やミュージカルの上演をしたりといろいろあったんですね。その頃経験した楽しさがどうしても忘れられなくって、家具を売りながら「俳優ってどうやったらなれるんだろう」と調べていく内にやっぱり舞台だろうと。

それで、日本で舞台の老舗劇団と言えば俳優座、俳優座に入るには桐朋からが良いんじゃないかと桐朋の演劇科を受験した訳です。

――桐朋をご卒業後、文学座の研究所に入られますが、ここからどう蜷川さんと出会って行かれたのか気になります。

次のページでは、蜷川さんとの出会いや今後についてのお話が!



蜷川幸雄氏に言われた一言
「俺の時間を返せ!」

横田
文学座に入って2年目か3年目に、桐朋の演劇科で同期だった松本君から誘われてNINAGAWAスタジオの稽古場に行き、エチュードをやったのが蜷川さんとの出会いですね。

それで、スタジオの発表会があるという話になり、ハロルド・ピンターの『ダム・ウェイター』という男性二人の戯曲を稽古場で上演したんです……確か30分から40分くらいの内容だったと思うんですが。その時に蜷川さんにボロクソに言われまして……「俺の時間を返せ!」と(笑)。

横田さん

(撮影:演劇ガイド 上村由紀子)


――外部の人にボロクソに言ったということは、蜷川さんのスイッチが入ったということかと。

横田

かなり本気でやりましたから。小さい稽古場に料理昇降機を実際に作って、暗幕を張り、照明も吊って、後輩に音響も手伝って貰ったりして。

――インパクトのある出会いだったんですね。

横田

それから1年半くらい経って、真田広之さん主演で蜷川さんが『ハムレット』を演出することになったんですが、前回レアティーズを演じた俳優さんがスケジュールの都合で出演が難しいと。それでレアティーズを出来る俳優を探しているという話を聞いた文学座のマネージャーに蜷川さんの所に連れて行かれたんです。

僕としては、稽古場でボロクソに言われたことを思い出して「やべえ」と思ったんですが(笑)、まあ、覚えてないだろうと蜷川さんの前に出たらしっかり覚えて下さっていて、マネージャーに「コイツ、図々しいんだよ。人の稽古場に勝手に来て装置建てて長い芝居やりやがって(笑)。俺の時間返せ!でも俺、図々しい奴好きなんだよ。だからコイツに決まり」って。

――比べることではないのかもしれませんが、鵜山さんと蜷川さんの演出の一番の違いって何でしょう?

横田

シェイクスピア作品は、整合性のないところをどう繋げていくのかが難しいと思うのですが、鵜山さんはご自分なりのロジックを大切にされる方だと思います。蜷川さんは直感を大切にする……演出席で芝居を観ていて「なんか面白くねえ」って違和感みたいなものを持ったらそこを突き詰めて行く感じでしょうか。

お二人とも、最初の登り口は全く違うんですが、最終的に頂上で見ている風景は同じ……そんな気がします。

――今後、横田さんが挑戦してみたい事がありましたら教えて下さい。

横田

シェイクスピア作品に関しては、勿論これからも続けていきたいと思っています。あとは最近Barや居酒屋さん、カフェで朗読をさせて頂いているのですが、その時に井上ひさしさんの小説を良く読むんですね。本当は井上さんがお元気な時に作品に出させて頂きたかったのですが、それが叶わない今、井上戯曲にしっかり向き合い、演じる機会があればと思います。

(長塚)圭史ともまた一緒に何か作りたいですね。最初は役者同士として出会って、その後彼の演出作品にも出たりしましたが、本当に面白い奴です。吉田鋼太郎さんの劇団AUNの舞台にも立ちたいですし、うん、やりたいことの話になると止まりません(笑)。

横田さん

(撮影:演劇ガイド 上村由紀子)


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舞台『トロイラスとクレシダ』で、ギリシャの将軍・アキリーズを演じられる横田栄司さんにお話を伺いました。

ご自身は照れて否定していらっしゃいましたが、横田さんが舞台に現れると、それだけで作品世界がぐっと深まるような気がします……圧倒的な存在感と安定感。そのオーラのせいか、シェイクスピアをはじめとした古典の世界観がぴったりハマるのは勿論ですが、個人的には、普通のビジネスマンが通勤電車の中でふと恋に落ちてしまう……そんな恋愛物語もいつか拝見したいと思うのです。


トロイラス

『トロイラスとクレシダ』(撮影:細野晋司)


世田谷パブリックシアター+文学座+兵庫県立芸術文化センター
◆『トロイラスとクレシダ
7月15日~8月2日 世田谷パブリックシアター
作 ウィリアム・シェイクスピア 翻訳 小田島雄志  演出 鵜山仁

浦井健治 ソニン 岡本健一 渡辺徹 今井朋彦 横田栄司 吉田栄作 江守徹 他
※東京公演終了後は石川・兵庫・岐阜・滋賀での公演有 → 公式HP

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