将棋/将棋のすすめ

認知症対策としても注目が集まる将棋を指す効果とは

長寿という宝を手に入れた日本。一方で問題点も浮き上がってきた。その一つに認知症がある。その予防は重要な課題になり、様々な方法が研究されているが、その中でも重要な役目を担っているのが「将棋」である。今回は、ガイド自身の介護体験も交えながら認知症に対する将棋の効果をガイドしていきたい。

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド

認知症と将棋

「お前百までわしゃ九十九まで」

かなわぬ夢として口にのぼったことわざが、手の届く現実となった現代日本。長寿という宝を手に入れたが、一方で問題点も浮き上がってきた。その一つに認知症がある。認知症予防は重要な課題になり、その方法も研究されているが、その中でも重要な役目を担っているのが「将棋」である。試しに「認知症予防 将棋」で検索をかけていただきたい。無論、私もやってみた。約56万件万件のグーグルヒットである。
認知症と将棋

認知症と将棋


医師をはじめ、研究者やケアマネージャー、老人施設の現場スタッフなど、多くの関係者が「将棋」が有効と考え、実践されている。今回は、ガイド自身の介護体験も交えながら認知症に対する将棋の効果をガイドしていきたい。
 

縁台将棋が地域のシンボルだった時代

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親から子へ伝わる将棋


私に将棋を教えてくれたのは父である。私の故郷である大分県別府市は、皆さんご存じの「湯の町」。地域ごとに銭湯があり、脱衣所でのおじさん達の縁台将棋は昭和中期までのありふれた景色であった。大ヒットとなったNHK朝ドラの「マッサン」にもそんな場面が随所に出てくる(参考「朝ドラ「マッサン」の将棋は日本人の底力だ」)。

おじさん達は息子や近所の子に将棋を教え、格好の練習相手にしていた。父もその一人だった。だが、経済発展に伴う地域消失の流れは縁台将棋をも押し流し、おじさん達は、もちろん父も、将棋から遠ざかっていく。
 

父の介護生活

世は平成に移り、数十年が経った。おめでたいはずの喜寿を迎えた父が倒れた。長期の入院となり、その療養生活は老齢の父から思考力や記憶力を奪っていった。無理もない。コールボタン一つで看護師さんが身の回りの全てをやってくれる入院を、父は治療生活から無気力生活へと変換してしまったのだ。本来持っていた能力はおしなべて低くなる。

余談になるが、入院中はその低下に周囲が気付きにくいようだ。私たちは、いざ退院となって、やっとその兆候に気付いた。具体的に言おう。入院着から普段着に着替える時、父はズボンとモモヒキのどちらを先にはいて良いのかわからなかったのだ。入院前はごく普通にやってきたことだ。仮に初めてモモヒキを目にした人でも、ズボンの上からそれを身につけようとはしないだろう。ずっと同居をしてきた私と妻は、そんな父を見て愕然としたことを覚えている。

介護保険の適用を受けるようになったそれからの父にとって、「それまでの日常」はもはや過去のものとなり、喜怒哀楽さえも多くの記憶とともに失われていった感じがした。介護生活の中で、父の思考や感情は、粗い目のふるいから、ぽろぽろと落ちていった。そんな中、かろうじてひっかっていたものも、いくつかはある。大好きだった力士の決まり手。力道山。上海帰りのリル。いろんな人の電話番号。そして……。
 

ふるいに残ったもの

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孫とともに


ある日、父は、孫、つまり僕の子にこう言った。

「じいじいと指そうや。教えてやるよ」

小学1年生の男の子は単純に喜んだ。しかし、私は、転ばぬ先の杖を息子に渡した。

「じいじいは、きっと将棋のことを忘れているはずだよ。もし、間違って教えたら、後で、おとうちゃんが直してあげるから」

驚くべきことに、否。これは表現が違う。多いに喜ぶべきことに、転ばぬ先の杖は不要だったのだ。モモヒキとズボンの区別に窮した父は、数十年のブランクをあけながらも、あの複雑な将棋のルールを全て覚えていた。

「桂馬はこんな動き方だぞ。早く動くと取られるぞ」

孫に教えるその姿は、もちろん家族の欲目もあるだろうが、青年のようでもあった。それから天寿を全うするまでの数年間、父は孫のライバルとして将棋を楽しんだ。まさに亡くなる、その前日まで、父はデイケアに通っていた。小雪が舞う日、父はきちんとモモヒキの上にズボンをはき、デイケアのバスに乗り込んでいた。
 

認知症効果に将棋の特筆すべき点

知の競技であるがゆえに思考力を高める。勝負であるがゆえに刺激になる。対人競技であるがゆえに交流によるコミュニケーションがとれる。認知症予防の分野で、将棋に期待される効果はたくさんある。もちろん囲碁やチェスも同様な力を発揮するだろう。そして、ガイドは、その体験から、認知症の改善についても、その効果を確信している。

ここで、将棋ガイドとして、囲碁やチェスにはない将棋の長所を述べておこう。これも、父が長いブランクを経てもなお将棋を忘れず、楽しめたことに関係するが、駒に個性があり再活用できるということだ。
 
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個性ある駒達


8種類の駒がそれぞれ独特の動きをする。取った相手の駒を自分の手駒とし、場面に応じた活躍をさせることができる。だから、好きな駒ができる。好きな駒があれば、あんまり好きじゃない駒もできてくる。これって人生に共通するものじゃないか。だから、父のふるいに残ったんじゃないだろうか。いいですよ、将棋は。

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