フランク・ワイルドホーンundefined59年NY生まれ。独学でピアノを学び、作曲を始める。大学在学中にポップスの作曲家としてデビューし、全米チャート1位となったホイットニー・ヒューストンの「Where do broken hearts go」等を作曲。『ジキル&ハイド』(90年初演)以降、多数のミュージカルを発表している。?Marino Matsushima

フランク・ワイルドホーン 59年NY生まれ。独学でピアノを学び、作曲を始める。大学在学中にポップスの作曲家としてデビューし、全米チャート1位となったホイットニー・ヒューストンの「Where do broken hearts go」等を作曲。『ジキル&ハイド』(90年初演)以降、多数のミュージカルを発表している。(C)Marino Matsushima

*4ページ目に『デスノートTHE MUSICAL』観劇レポートを掲載しました!*

ポップスのソングライターとしてホイットニー・ヒューストンら数々のアーティストに楽曲を提供した後、『ジキル&ハイド』(90年初演)でミュージカルに進出。その後は『南北戦争』『スカーレット・ピンパーネル』『ボニー&クライド』『アリス・イン・ワンダーランド』等、あまたの作品を生み出してきたフランク・ワイルドホーンさんの最新作が、間もなく日本で初演される『デスノートThe Musical』です。

原作は現代が舞台のダークな犯罪コミック。死神が落としたデスノートを拾ったことで、自らが犯罪者を裁き、理想の世界を創ろうとする秀才、夜神月(ライト)と、名探偵Lの攻防はおよそミュージカル化にはにつかわしくない物語ですが、開幕約2週間前の稽古では、フランクによるヴィヴィッドな音楽と、栗山民也さんの演出で引き出された役者たちの迫真の演技が完全に合致。裸舞台であることを忘れさせるほど、リアルでスリリングな芝居が展開していました。インタビュー前日に再来日し、この日初めて通し稽古を観たというフランクさんも、この仕上がりには大喜び。興奮を隠せない表情で、インタビュー会場に現れました。
立ち稽古より。(C)デスノートTHE MUSICAL

立ち稽古より。(C)デスノートTHE MUSICAL

“現代の壮大な悲劇”をリアルなポップス&ロックで表現

――稽古をどうご覧になりましたか?

「素晴らしかった。“産みの苦しみ”が報われた気分だよ。演出の栗山さんはよくぞ普遍的な叙事詩を作り上げて下さったと思う。ある意味、ギリシャ悲劇のような物語だが、非常に今日的に、若々しく、なおかつ結末はシェイクスピア劇のように仕上げて下さっている」

――最初に『DEATH NOTE』を舞台化するというアイディアを聞いた際には、どう思われましたか?

「(前妻との間の)息子が、この漫画はとてもヒップで面白い、絶対受けるべきだと、3年前にホリプロさんからオファーをいただいた時に勧めてくれたんだ。それに、この原作にはミュージカルを書く上で僕の好きな要素が全て含まれていた。僕のこれまでの作品を振り返ってもらえば共通項がわかると思うけれど、僕は“際立ったキャラクターが一か八かという状況にある”物語が好きなんだ。本作ではライト、エル、ポップスターのミサミサ、警視庁刑事局局長であるライトの父ら、誰もが際立った人物で、みなぎりぎりの、命を賭すような状況にある。オペラ的で、実に興味をそそるんだ」
立ち稽古より。(C)デスノートTHE MUSICAL

立ち稽古より。(C)デスノートTHE MUSICAL

――作曲のインスピレーションも、そこから次々に得られたのですか?

「そうだね。今回は若者たちが主人公の現代ドラマなので、すぐに“ポップソングが使える”と思った。こういう機会はそうそうないから、楽しかったよ。リズム的にもハーモニー的にもフレージング的にも、非常に現代的なスコアが書ける機会になった」

――はじめにどの曲から手をつけたのでしょう?

「序曲かな。“キ~ラッ”というフレーズが浮かび、それにハーモニーをつけた。これが起点だったと思う。僕はいつも、長年組んでいるコラボレーターたち、たとえばジャック・マーフィーと会って、話をして、その内容をヒントに、その作品の音楽的なボキャブラリーを見つけるようにしているのだけど、今回もそうやって初期段階に書いたのが『愛の正体』。レムという死神が自分の中に人間的な側面を発見する過程を曲で表現するのは、ぞくぞくするような体験だったよ」

――もっとも楽しんで書いたナンバーは?

「『秘密のメッセージ』だね。レコーディングスタジオに持ち込んで発表すれば、間違いなくヒット曲になるよ。保証する。他にも『愛の正体』『デスノート』『恋する覚悟』といった曲では僕のポップスのバックグラウンドを活かすことができ、とても楽しかったよ」
立ち稽古より。(C)デスノートTHE MUSICAL

立ち稽古より。(C)デスノートTHE MUSICAL

――あなたの作品に出演したことのある俳優さんたちがお話されていましたが、あなたは演じる俳優の声質などによって曲を書き直す、珍しい作曲家なのだそうですね。一度作品が完成すると、それ以降は手を入れない作曲家がほとんどですが。

「いつもやっていることだよ。曲の大枠を決めてから、歌い手によってアレンジしていくんだ。ブロードウェイの作曲家から見ればクレイジーにも見えるだろうけど(笑)、僕は楽しんでやっている。僕は純粋にお客様を感動させたいと思って書いているんだ。自分のためではなく、お客様のためにね。

こういうやり方は、僕がアーティストのために曲を書く、ポップス・ライターの出身ゆえだろうね。僕は80年代に世界最高の歌手たち、とりわけブラックアーティストたちと数多く仕事をした。どういうふうにかというと、まず僕が曲を書く。歌手がスタジオにやってくるので、こういう曲だと演奏して見せる。楽譜は無し。なぜなら、彼らがそれを聴いて歌うとき、彼らはその曲を自分流にアレンジして歌ってみせるからね。そのアーティストがいい歌手であれば、曲は必ず、さらに素敵なものになっている。僕とそのアーティストとで一緒に曲を創造していくんだ。ブロードウェイの作曲家とは、全く異なる手法でしょう? こういう経験ができたことは本当に幸運なことだと思うよ。

今回の『デスノートThe Musical』でも、いったん作曲した後に出演者に合わせ、あちこち手をいれたんだ。とりわけ『名誉にかけて』というナンバーは鹿賀丈史さんのために書いたんだ。彼は僕の『シラノ』『ジキル&ハイド』といった作品を演じていらっしゃる方なので、僕は彼の声域も声質もよく知っている。(警視庁刑事局局長という)キャラクター、鹿賀さんらしさ、そしてどこか日本的なテイストを感じてもらえるよう、チャレンジしたつもりだよ。今日の稽古でその成果を確認することができ、とても満足しているんだ」

――本作はブロードウェイでも上演されるべきと思いますか?

「もちろん! 僕が今まで観たどのミュージカルとも異なる、ユニークな作品だと思う。アメリカ人が英語で上演してもいいし、アジア人たちが字幕つきで上演するのもいいんじゃないかな。まずは日本での開幕が待ち遠しいね」
『デスノートTHE MUSICAL』

『デスノートTHE MUSICAL』

*次頁ではフランクさんの“これまで”をうかがいます。30年以上の長きにわたり、ヴィヴィッドなメロディを作り続ける秘訣とは?*


大学在学中に作曲の才能を見込まれ、ポップス・ライターに

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部

――あなたはNYはハーレムの出身とのことですが、音楽一家だったのですか?

「いや、まったく。母はちょっとピアノを弾くけれど、音楽家というわけでは全然なかった」

――では音楽との出会いは……。

「覚えていないけど、気が付いたらそこに音楽があった。一つのジャンルに限らず、いろいろな音楽に貪欲だったね。クラシックならチャイコフスキーとか、ラフマニノフとかドビュッシーに憧れたし、スティービー・ワンダーとかマーヴィン・ゲイのようなブラックミュージック、ドゥービー・ブラザーズも好きだった。

15歳の頃から作曲をするようになったけど、それは僕にとってはみんなが釣りをするような感覚で、ラッキーな日にはピアノの前に座ると大きな魚が釣れたり(素晴らしい曲が書けたり)、大漁だったり(たくさん書けたり)。その正反対の日ももちろんある」

――劇場音楽に興味を持ったのは?

「南カリフォルニアで大学生だったとき、ジョン・ハウズマンという有名な俳優がそこの演劇部門を統括していて、僕は歴史の生徒だったにもかかわらずなぜか彼と親しくなったんだ。彼は僕に大学で劇場音楽を書かせてくれた上に、ショーを上演させてくれた。

ちょうど当時のポップス業界の中心地はLAだったこともあって、たまたま業界人が大学での僕のショーを観に来て“ポップスを書かないか”と誘ってくれたのをきっかけに、在学中にポップソングを書き始めた。自分で売り込むことなく、誰かに“発見”してもらえた点で僕はとてもラッキーだったと思うよ。

そして1988年に素晴らしいことが起こったんだ。リンダ・エダーという歌手に出会い、恋に落ちた。最終的には結婚もしたよ(笑)。そしてレスリー・ブリッカスというミュージカル作家に出会い、彼は僕の師匠、父親のような存在になった。またグレゴリー・ボーイという、テキサスで劇場を運営する人物に出会った。これらの出会いの結果、僕はリンダのために曲を書き、レズリーと『ジキル&ハイド』を書き、そしてグレゴリーがそれを彼の劇場で上演してくれることになったんだ」
『アリス・イン・ワンダーランド』(C) ホリプロ

『アリス・イン・ワンダーランド』(C) ホリプロ

――ずっと好調だったのですか?

「最初のレコーディングにこぎつけるまでにはたくさんの曲がボツになったし(笑)、プロとしてデビューしたのが81年だから……もう34年間か、これだけ長くやっているから、その間にはいい時期もあれば悪い時期もあった。でもそれでいいんだ。それがあったからこそ、今こうしてここにいる。今こうして楽しく世界を飛び回っていられるのはその(経験の)おかげだと思うんだ」

――早くに才能が枯渇してしまう作曲家もいるかと思いますが、長く活躍する秘訣は?

「僕はオープンで、“聴く”人間なんだ。一つの作品に満足してしまうと“聴く”ということや、新たな挑戦をやめてしまう人もいるけど、僕には29歳と15歳の息子がいて、“パパ、これとこれが新しいよ、聴きなよ”と常に言ってくれる人が周りにいるんだ。それで若さを保てるし、チャレンジし続けることができる。キャリアの初期には自分より年長の素晴らしいミュージシャンたちに囲まれていて、彼らが僕の先生だったけれど、今では自分より年下のミュージシャンたちが僕の先生なんだ」
『ボニー&クライド』(C)ホリプロ

『ボニー&クライド』(C)ホリプロ

――“先生”が年長から年下に変わったターニングポイントはいつごろでしたか?

「90年代かな。劇場音楽だと作曲家は一度スタイルを確立すればそのままだけど、ポップスにはいろいろなトレンドがあってどんどん変わっていくから、自分も変わっていくことが求められるんだ。レコード会社から“今日はこのカントリー歌手のために書いて”“次はこのダンサーのために”“今日はこのロックアーティストのために書いて”と日々リクエストを受けてきたので、ジュリー・アンドリュースのためにも、ホイットニー・ヒューストンのためにも書ける人生を切り開けたことをとても幸せに思っている。その結果、『南北戦争』はカントリー的、『ボニー&クライド』はジャズ風、『ジキル&ハイド』『ドラキュラ』はビッグ・ゴシック・ショー、今回の『デスノートThe Musical』では“今”のポップス、と多彩な劇場音楽も書けるようになったんだ」

*次頁ではフランクさんの音楽の特徴に迫ります。パワフルであくの強い曲がお得意な理由はなんと……!*

“頭”では作曲しない。“ハート”から溢れ出るものだけを書く

年末には、彼の名曲の数々を世界的なスターたちが歌う人気コンサートが日本初上陸。25日の記者会見では、婚約者でもある和央ようかさん、ドイツのミュージカル俳優トーマス・ボルヒャートさんが『ドラキュラ』等のナンバーを熱唱した。『フランク・ワイルドホーン&フレンズundefinedジャパンツアー』12月23日=大阪、26~27日=東京?Marino Matsushima

年末には、彼の名曲の数々を世界的なスターたちが歌う人気コンサートが日本初上陸。25日の記者会見では、婚約者でもある和央ようかさん、ドイツのミュージカル俳優トーマス・ボルヒャートさんが『ドラキュラ』等のナンバーを熱唱した。『フランク・ワイルドホーン&フレンズ ジャパンツアー』12月23日=大阪、26~27日=東京(C)Marino Matsushima

――あなたの楽曲の特徴の一つに、アグレッシブな曲でのアクの強さが挙げられると思います。『モンテ・クリスト伯』の「地獄におちろ」や『カルメン』のガルシアのナンバーなどですが、こうした曲がお好みなのでしょうか?

「僕のもともとのバックグラウンドから出てくるのではないかな。というのは、僕の夢はもともと劇場とは無縁で、アメリカン・フットボールの選手になろうと思い、8年間やっていたんだ(笑)。アスリートの血がなせるわざだろうね」
『モンテ・クリスト伯』写真提供:東宝演劇部

『モンテ・クリスト伯』写真提供:東宝演劇部

――もう一つ、『ドラキュラ』のミナのナンバーや『デスノートThe Musical』の「残酷な夢」のように、“情念”のこもった歌も印象的です。なぜか日本の「演歌」を思い出させるのですが。

「なぜだろうね(笑)。婚約者のタカコ(注・和央ようかさん)が一緒にテレビを観ていてよく“これが演歌よ”と教えてくれるから、演歌がどういうものかは知っているけど、影響を受けているわけではないかな。

――情熱的なメロディを書く方はたくさんいらっしゃるけれど、あなたのメロディには他の作曲家とは違う何かがあるんですよね。内に向かう情念というか…。

「僕の音楽が人と違うのは、たぶん僕が、“頭では書かない”からではないかな。ハートから溢れ出てくるものを書いているし、それをセクシーに保とうとしている。音楽って官能的なものだと思うんだ。曲を書いているとき、僕はとても官能的な気分になっている」

――作曲はどんな手順でなさっていますか? 一日8時間ピアノの前に座ってとか、頭の中にメロディを貯めていって一気に書くとか……。

「両方だね。大量のプロジェクトが同時進行しているから、何時間もピアノの前に座り続けることもあれば、近年は頭の中にメロディをストックしておいてということも増えてきた。頭の中で何回も歌ってみて、一晩寝てそれでもまだ自分の中に残っていれば書くと言う感じだ」

――新作リストの中に、スイスで上演の『アーサー王』という作品を見つけましたが。

「既にオープンしているよ。この作品は僕の子供たちのアーサー王物語好きがきっかけで書いたんだ。僕の多くの作品はこういうところから出発している。クラシックストーリーを、若い世代も受け入れられるような言語で書き直すということは、非常に楽しい作業だね」
『カルメン』(C)ホリプロ

『カルメン』(C)ホリプロ

――今の夢は?

「今、まさに夢の中を生きているようなものだけど(笑)、オペラを書いてみたいね。実は、とあるオペラハウスとそういう話はしているところだ。それとバレエ音楽も書きたいな。

昔の僕はゴールを設定するタイプで、30歳までにナンバーワン・ソングを書こうとか、40歳までにブロードウェイで自分の作品を上演しようとか設定して実現してきたけど、今は“学生の気持ちで取り組む”ことを大切にしている。どのショーをやるときも学びがある。今回の『デスノートThe Musical』でも多くを学んだよ。今回、僕は“偽のポップミュージック”は書くまいと思って臨んだんだ。僕は今回、“劇場でも通用する本当のポップミュージック”を書こうと思った。だからここで書いている作品のコード・チェンジなどは、今のアメリカのポップチャートに登場するようなものだよ」

――確かに、本作の楽曲を聴いていて(ラジオ番組の)「アメリカン・トップ40」を聴いているような気分になりました。

「よかった。それでなおかつ芝居にはまっていたとしたら最高だね」

――日本のみならず、ヨーロッパからもしばしば新作の依頼を受けていらっしゃいますが、ブロードウェイにはこだわらないのですね。

「演劇界はずいぶん変化してきていて、世界各地のプロデューサーたちはこれまで、多くの作品を輸入上演してきたけれど、近年“自分たちで作って輸出しよう”という気風が生まれてきている。ウィーン、プラハ、東京、ソウル、どこでもそういう機運が盛り上がってきて、それはとてもいいことだと思う。“ブロードウェイ・ミュージカル”というラベルが付くことは素晴らしいけれど、それがすべてではない。『ジキル&ハイド』はこれまで900のプロダクションが生まれているけれど、もはや“ブロードウェイ・ミュージカル”であるかどうかなんて、誰も気に留めなくなった。『モンテ・クリスト伯』はスイスで初演した作品だけど、来年ブロードウェイで開幕する予定だよ。逆輸入という形だね」
『シラノ』写真提供:東宝演劇部

『シラノ』写真提供:東宝演劇部

――日本の演劇人はブロードウェイとは異なりますか?

「ヨーロッパ的なテイストというか、メロディを愛する人々だね。ブロードウェイではエッジイなものが好まれる傾向がある。同じアジアのなかでも、国ごとで文化は異なっていて、日本のお客様はおとなしいけど、韓国では一曲終わるごとにお祭りのようになる。そういった違いは実に興味深いし、僕は理解しているつもりだ。『デスノートThe Musical』以降も日本絡みのプロジェクトはいろいろ進行中で、日本のプロデューサーたちと信頼関係が築けていることをとても幸せに思っている。すべてを楽しんでいるよ」

*****
彼の作品に出演したことのある俳優さんたちが「体力がないと歌えない」と口を揃える、ワイルドホーン音楽。その“タフさ”はご本人の“アスリート”というバックグラウンドに由来し、その“情念の濃さ”は彼が作曲を“官能的な行為”ととらえているが故……という説明は、新鮮かつ納得のゆくものでした。ご自身的には「ミュージカル界の異端児」を自認しているようですが、ミュージカル界を世界的な視点で観、仕事をしている彼は、実は最も“先端”に居る人なのかも。『デスノートThe Musical』の開幕後も、ますます目の離せないクリエイターであることは間違いありません。

*公演情報*デスノートThe Musical』4月6~29日=日生劇場

*次頁に観劇レポートを掲載しました!*


『デスノート THE MUSICAL』ゲネプロ(最終舞台稽古)観劇レポート
人間の愚かしさ、愛おしさを描く
現代の“神話”ミュージカル

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

本作のミュージカル化が発表された時、それがいったいどのような舞台になるのか、想像のつかなかった人がほとんどではないでしょうか。もっと言えば「ミュージカル化などということが可能なのか」と疑問に思った方もいるかもしれません。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

「人は“神”になりうるのか?」「“正義”は何によって決められるのか」といったシリアスなテーマを、夜神月(ライト)とL(エル)という二人の若者たちの攻防を通して描くダークな原作は、およそミュージカルという表現には似つかわしくないものだったからです。しかしこの春『デスノート THE MUSICAL』は、そうした大方の予想を裏切る形で、その全貌をあらわしました。間違いなく、ミュージカルの新時代を切り開く作品の誕生です。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

固有の文化を反映していながら、普遍的である。それは近年、世界的に成功している新作ミュージカルの共通項ですが、本作も2.5次元的アイドルやスマホ依存の若者たち、渋谷ハチ公といった“今”の日本のアイコンを取り入れつつ、装飾性を一切そぎ落とし、回り舞台に後方の2階部分、スクリーンといった要素にとどめた二村周作さんのミニマルな舞台美術により、無国籍風の色合いの強いものに。死神のノートを拾った高校生、夜神月がそのパワーに気付き、とまどいながらも社会正義のために行動を起こそうと心に決めるナンバー「デスノート」で、広々とした舞台で孤独に歌うその姿は、文化圏を問わず観る者の共感を呼び、観客は容易に物語世界に引き込まれてゆきます。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

またポップ・ミュージック界の出身で、幅広い音楽的ボキャブラリーを持つ作曲家フランク・ワイルドホーンの起用も、本作にとっては幸運でした。アイドル歌手、ミサミサのナンバーはもちろん、若者たちの心情を反映したナンバーを、ワイルドホーンはどれもシングル・カットできるのではと思われるクオリティで仕上げ、同時にダイナミックなメロディも差し挟んで舞台に壮大なスケール感を加えています。ともすれば彼の力強い音楽に全体が牽引されてゆくところを、緊密で目の離せない芝居部分と音楽が絶妙に絡み合っているのは演出、栗山民也さんのバランス感覚によるものでしょう。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

出演者たちの入魂の演技も本作に大きく寄与しています。この日の夜神月役、柿澤勇人さんはふつうの優秀な高校生がふとしたことから「神になる」という使命に目覚め、迷いながらもやがてダークな側面を持つにいたる様を、瑞々しく体現。ダブルキャストの浦井健治さんが、そののびのびとした持ち味によって、迷いなく行動してゆくように見えるのとは若干異なり、ぜひ見比べたい二バージョンです。月に対抗する天才、L役の小池徹平さんは、原作漫画の世界から抜け出してきたかのようなキャラの作りこみようで、舞台には足を曲げて座り、背は常に丸め、目の周りはクマ(のメイク)。いかにも“異形”の彼が外見的には「正」を体現する月を追及するという一見“逆”のドラマを、背を丸めたままワイルドホーンのパワフルなナンバーを歌いこなすという離れ業をやってのけつつ、独特のオーラで見せてくれます。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

刑事として事件を捜査する夜神総一郎役で、抑えた演技の中に苦悩をにじませる鹿賀丈史さん、純粋で一途なミサミサを体当たりで演じる唯月ふうかさんも好演ですが、本作をとりわけ興味深いものにしているのが、吉田鋼太郎さん演じるリュークと濱田めぐみさん演じるレムという、二人の死神。吉田さん演じるリュークは口では「退屈だ」を連発しますが、落としたノートを月が拾ってからはその一挙手一投足に反応し、面白がったりちゃちゃを入れたりと、死神と言いながら劇中、登場する誰よりも生き生きしています。吉田さんはシェイクスピア劇やギリシャ悲劇を多数演じてこられた方で、ミュージカル俳優のような歌唱スタイルではありませんが、言葉の立たせ方、台詞から“音符”への移行が絶妙。唯一無二の存在感で、リュークのスピン・オフドラマは作られないのかな?などという期待さえよぎります。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

この“動”のリュークに対して、濱田さん演じるレムは徹底的な“静”。ごくスロウな、最小限の動きで体温さえ無いように見えますが、その彼女がミサミサに出会うことで、徐々に“愛”を知り、人間的な情を得てゆく様を丁寧に演じています。“愛とは人間と愚か者が抱くもの”とレムとミサミサが歌うナンバー「残酷な夢」はしみじみとした憂いと情感が漂い、本作で一、二を争う聴きどころ。“正義の味方”の登場に熱狂する人々、スマホを通して目先の現象にしか反応しない若者たち等を演じるアンサンブルも終始緊張感を持続し、手堅い演技です。彼らが時折見せるやはりミニマルなダンス(振付・田井中智子さん)も効果的。

人間の愚かしさ卑小さ、そして愛おしさを、今日的な設定のもと描く本作には、二人の死神とは別に何か俯瞰的な視点が感じられ、そのため舞台には「神話」的なダイナミズムがあらわれています。スリリングでドラマティック、そしてメロディアスな現代の神話。ワイルドホーンも期待している“ブロードウェイ版の上演”は、思いのほか間近なのではないでしょうか。

(本作ご出演者の過去のインタビューはこちら。浦井健治さん柿澤勇人さん濱田めぐみさん鹿賀丈史さん



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